元祖日本嘘昔話
むか~し、むかしのことじゃった。
まだ、東洋と西洋の間に境がない時のお話。
「そこの金髪碧眼のメスザメ! わたくしの縄張りで、何を好き放題泳いでいるのです!」
太平洋のど真ん中、煌びやかな竜宮城から飛び出してきた東洋の乙姫は、波間に浮かぶ西洋の人魚姫に、三味線をかき鳴らしながら怒鳴った。
「なんですって、この小柄なコイ女! ここは私のテリトリーよ! そもそも、アンタの竜宮城、ちょっと古くない?」
人魚姫は、サンゴ礁に座り、髪をブラシでとかしながら、乙姫を嘲笑った。彼女は、西洋の流行を取り入れた、最新のビキニを着ていた。
「なにがコイ女ですか! わたくしは、鯛やヒラメの舞い踊る竜宮城の主! 東洋の海の女王、乙姫様です! それに、この竜宮城は、歴史と伝統を重んじた、わたくしの美学の結晶なのです!」
乙姫は、そう言いながら、三味線の弦を激しくかき鳴らした。すると、どこからともなく、巨大な大蛸が現れ、人魚姫に襲いかかった。
「きゃっ! 何よこのタコ!」
人魚姫は、悲鳴をあげながら、海中に潜った。しかし、大蛸は、人魚姫を追って、海中深くまで潜っていく。
「ふん! 見たことか!」
乙姫は、得意げに笑った。しかし、その笑いは、すぐに凍りついた。
「このタコ、何よ! 私のクラーケンを呼んでやるわ!」
人魚姫は、海底に沈んだ沈没船の残骸に隠れながら、クラーケンを呼び出した。クラーケンは、大蛸よりもはるかに巨大で、触手が八本あるだけでなく、一本一本が船の帆柱ほどの太さがある。
「な、なんですって! クラーケンですって!」
乙姫は、驚きのあまり、三味線の弦を弾くのをやめてしまった。
クラーケンは、大蛸に襲いかかった。二匹の巨大な生き物が、海中で激しくぶつかり合う。海底のサンゴ礁は、粉々に砕け散り、海の生き物たちは、恐怖に震えながら逃げ惑った。
「ふん! これが西洋の海の力よ!」
人魚姫は、クラーケンの勝利を確信し、得意げに笑った。しかし、乙姫も、ただでは終わらない。
「なにを言いますか! わたくしの大蛸は、粘り腰にかけては、誰にも負けません!」
乙姫は、再び三味線をかき鳴らした。すると、どこからともなく、無数の小蛸が現れ、クラーケンにまとわりついた。
「な、なんですって! ラーケンが!」
クラーケンは、小蛸たちにまとわりつかれ、身動きが取れなくなってしまった。
「ふん! どうです! これが東洋の海の力!」
乙姫は、再び得意げに笑った。
乙姫と人魚姫の縄張り争いは、ますます激しさを増していった。大蛸とクラーケン、小蛸とウニ、ヒラメとカレイ、そして、竜宮城と沈没船。海中の生き物たちは、東洋と西洋のどちらにつくかで、大騒ぎになった。
この東西大決戦は、海の底だけでなく、地上にも影響を及ぼし始めた。海流が乱れ、漁獲量が激減。津波や高潮が頻発し、人々は、海の神様の怒りを恐れた。
「やれやれ、困ったものだ」
天界から、この騒動を見ていた神様は、頭を抱えていた。
「乙姫と人魚姫、どちらも一歩も引く気はない。このままでは、地球が滅んでしまう」
神様は、そう言うと、あることを思いついた。それは、乙姫と人魚姫を、物理的に引き離すという、極めて単純な解決策だった。
「よし! 決めた! 太平洋と大西洋を、分断してしまおう!」
神様は、そう言うと、巨大な土を、太平洋と大西洋の間に、落とし始めた。
ドゴォン!
巨大な土が、海に落ちるたびに、大音響が響き渡る。乙姫と人魚姫は、あまりの出来事に、喧嘩をするのをやめて、空を見上げた。
「な、なんですの、あれは!」
「何よあれ、新しい大陸?」
乙姫と人魚姫は、呆然と、新しい大陸が形作られていく様子を見ていた。
こうして、太平洋と大西洋は、アメリカ大陸によって分断された。乙姫は、太平洋の海の女王として、竜宮城に引きこもり、人魚姫は、大西洋の海の女王として、沈没船に引きこもることになった。
しかし、乙姫と人魚姫の縄張り争いは、これで終わったわけではない。彼女たちの戦いは、今もなお、海底で続いている。ただ、物理的に離れただけなので、お互いの存在は、しっかりと認識している。
「あいつ、またサンゴ礁を派手に飾り付けてるわね……センス悪いわぁ」
人魚姫は、大西洋の沈没船から、太平洋の様子を窺っていた。
「なんですって! この人魚姫、また胸をはだけたビキニを着てる! けしからん!」
乙姫は、太平洋の竜宮城から、大西洋の様子を窺っていた。
こうしてアメリカ大陸ができたことにより、彼女たちの抗争は次第に収まっていったそうな……
おしまい、おしまい
日本嘘昔話より




