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親父というもの

「父さん、意地悪で言っているわけじゃないんだよ! 父さんのためにも施設に入った方がいいって言ってるんだ」

「……」


 親父というのは難しいものだ。

 必死に家庭を守っていたと思ったら、あっという間に歳を取っていて、子供たちと適度な距離を取らなければいけなくなる。


「育ててもらったことは感謝しているし、女房も父さんが邪魔で追い出したいわけじゃないんだ!」

「……」


 とかく親父というのは厄介な立場で母親ほど子供たちから慕われるわけでもない。

 特に妻に先立たれた場合、その立ち位置は微妙なものとなる。

 息子も立派な主だし、孫も大きくなれば大して話すこともなくなる。


「俺もそんなに頻繁にこの家に様子を見に来れないし、父さんも施設に入った方が仲間もいるし、きっといいと思うんだよ」

「……」


 息子の言っていることは理解できる。

 かつての自分が通ってきた道だから。


「なんでさっきから無視してんだよ! こっちが追い詰めているみたいじゃないか!」

「……」


 息子が小学生の頃にキャッチボールしてやったのが、昨日のことのように感じる。

 少年野球でレギュラーになりたいというから、プロ野球の試合も何度も見せに連れて行った。


「父さん、さっきから何を黙って書いているんだよ。俺ももう50代だし、いつまでも若くないんだ!」

「……」


 息子も確かに白髪が増えて、いつの間にかかつての自分にそっくりな外見になった。

 声までそっくりでまるでクローンのようにすら感じる。


「おい、お前にこれを渡しておくよ」

「父さん、え、何これ?」

「俺が死んだときに預金や保険のことや、お墓をどうするかとか、先に知らせておかないと困るだろ!」

「……父さん、これをずっと書いていたのか……」


「立つ鳥跡を濁さずというやつだ」


 何歳になっても我が子は可愛い。

 首にしがみ付いて泣いていたのが昨日のことのようだ。


 どこに住むことになろうが、その関係は変わらない。


「たまには施設にも顔を出してくれよな!」

「……ああ」


 息子は泣いているのを隠すように顔を逸らす。

 親父というのは難しいものだ、こんな時、泣きたくても、なだめる側にまわらなきゃいけないのだから……。


 それでもコイツの親父でいれてよかったと思う。


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