37話 第二ラウンド
「さあ、第二ラウンドだ」
俺はエルーナの姿に変身し、ギルティアと再び対峙する。
エルーナの魔法を使えば、勇者であるギルティアもさすがにダメージを負うだろう。
「さあ、喰らえ! これが俺の怒りだ!」
俺は魔力を適当に込める。
さすがはエルーナの大賢者の身体だ。
なにか呪文を唱えるでもなく、ただ魔力を込めるだけでとてつもないパワーを感じる。
俺はそのまま、魔力を込めた右手で、地面を殴りつけた。
「オラ!」
――ドゴォ……!
「す、すげえ……!」
これでギルティアを殴れば、今度こそ……!
「や、やめてくれ……! ユノン! す、すまなかった……!」
「は……?」
ギルティアは地面に手をついて、俺に許しを乞うた。
今更命乞いなど……!
「お前……。本気で言ってるのか……?」
「ああ……! 本気だ! 許してくれ! 俺が悪かった……!」
「はぁ……俺はお前に殺されたんだぞ……? 俺の言い分も聞かずに……」
「う……それは……」
もうギルティアと話すことはなにもない。
惨めな命乞いの光景も見られたわけだ。
一思いに葬り去ってやろう。
「しねぇ……!」
頭を下げるギルティアの首根っこを掴む。
俺は魔力を込めたパンチをギルティアの腹にお見舞いした。
――ボコォ……!
「ぐぇ……!」
ギルティアの口から、出てはいけない音がする。
そして泡のようなものを噴出した。
「しぶといな……。ゴキブリ野郎……だったか……?」
俺はそう言いながら、倒れたギルティアの頭を蹴る。
ゴキブリ野郎……。
ギルティアが俺を殺すときに放ったセリフだ。
俺は今も忘れていない。
あのとき俺に、コイツが言ったこと、したことを……!
俺の家族を殺すと言った、そしてアンジェに手を上げた。
俺のことを容赦なく殺した。
それらすべて、ギルティアが俺にしたことだ。
「も、もういいよ! ユノン! お願い! もうこんなことやめてよ! 私たち、幼馴染でしょ!?」
ギルティアを足で弄ぶ俺に、レイラが叫んだ。
幼馴染……か。
たしかに、そうだったな。
だが、それがどうした……?
「お前なぁ……その幼馴染を殺したのは誰だ? 裏切ったのは誰だ? 冤罪をかけたのは誰だ?」
「う……そ、それは……」
レイラ……こいつはいつもギルティアにべっとりで、自分で物事を考えない奴だった。
もうすこし主体性を持って生きていれば、こんなことにはならなかっただろう。
「うわああ! ギルティアは私が護るんだ!」
「は……?」
レイラはそういうと、俺に向かってきた。
どうやらまだ切り札を隠していたようだ。
「《ネクロテイム》――!」
レイラがそう言うと、レイラのまわりに複数の狼魔物が現れた。
しかし、どこか身体が透けている。
なるほど……死んだモンスターを再びテイムするスキルか。
「雑魚が……!」
しかしレイラも魔力が残り少なかったようで。
俺が魔力を飛ばすと、狼たちは簡単に消え去った。
「っく……!」
「お前……! 死んだ魂までも無理やりスキルでテイムするなんてな……!」
「え……?」
俺はメタモルスライムという魔物になったことで、魔物の声がある程度わかるようになっていた。
そんな俺に言わせてもらえば、こいつのテイムはなっちゃいない。
本来テイマーとは魔物と心を通わせて、初めて成立するものだ。
それなのに――!
「レイラ……。お前の職業は《神調教師》だったな」
「そ、そうよ……! それがなんだってのよ!」
そう、神調教師のスキルを使えば、心を通わせていない魔物でも、無理やりテイムすることが可能になる。
もちろんその力をどう使うかはその人次第だ。
こいつはそのスキルに胡坐をかいて、心を通わせる努力を怠った。
「レイラ、お前にテイムされていたモンスターたちが、幸せだったとおもうか……?」
「あ、あたりまえよ! 私は勇者パーティーの神調教師なんだから! そんな私にテイムされたほうが、彼らも幸せよ!」
「そうか……どこまでも自己中な奴だ」
「え……?」
俺はさっき、こいつにテイムされていた狼のようすから悟った。
こいつはろくにモンスターのことを考えない、独りよがりなテイマーだ。
「お前に無理やりテイムされたモンスターたちの怒りを知れ……!」
「そ、そんな……! 私はモンスターのことを……!」
俺は今度はレイラに向かって《変身》を使った。
「な……! わ、私の姿に……!?」
これで俺はレイラと同じ、神調教師のスキルを使える。
それを使って俺が無理やりテイムするのは……。
「テイム!」
「え……!?」
俺はレイラが蘇らせたはずの狼たちに、テイムを放った!
すると、彼らは簡単に俺にテイムされてくれた。
レイラによほどひどい扱いを受けたのだろう。
「そ、そんな……!? 私の狼たちが……どうして!?」
「これでわかっただろう! お前はこいつらの気持ちを無視して、無理やり従わせてただけだ!」
俺もレイラも《神調教師》ならば、オオカミは魔物の気持ちをよくわかる俺の側につくというわけだ。
オオカミたちはレイラに怒りをぶつけるようにして、ガルルと威嚇している。
「さあオオカミたち! レイラに攻撃だ!」
「そ、そんな……!? きゃ! いや、なんで!? 私の狼たち!」
オオカミたちはレイラに襲いかかった。
その間に、俺はギルティアにとどめをさそう。
レイラとエルーナにとどめを刺すかはまだ、保留だ。
だが、俺に直接手を下したギルティアだけには、死んでもらう。
こいつが勇者である以上、どっちみちこの世界に未来はない。
この世界のためにも、ギルティアには死んでもらおう。
その時だ。
倒れていたギルティアに意識が戻る。
「うぅ……ゆ、ユノン……。レイラ……」
「ギルティア……!」
「お、おれは……」
さあ、いよいよだ。
ギルティアに復讐をするときが来た……!




