7話 俺は絶対、許さない
「《憑依》――――!」
俺の魂は、冒険者パーティーのうちの一人、ダンとやらの身体に憑依した。
さっき俺が変身でコピーした奴だ。
「ふっふっふ、さあ、この可愛い娘を連れ去ろう」
パーティーのもう一人の男が俺に言う。
俺のことをダンだと思っているからだ。
「あんたらも、好きねぇ……」
パーティーの女が呆れた顔でそう言う。
イストワーリアは、不安そうな顔で、抜け殻となった俺の肉体を見つめている。
待っていろ、今俺が助けてやる。
「なあ、ちょっといいか?」
俺は冒険者パーティーの男に話しかける。
「ん? どうした? 先にヤらせろってか? わがまま言うなよ」
「いや、そうじゃなくて……。その……お前たちはいつも、こんなことをやっているのか?」
「は? なに言ってんだよ。毎回お前が率先して、こういうことをやってるじゃないか。お前が冒険者になった理由の一つが、それだろ? 昨日も幼い娘を一人やったよなぁ? へっへっへ、楽しかったよなぁ?」
「そうか……よくわかった……」
なるほど、つまりこいつらは、正真正銘のクズ冒険者だってことだな。
これで遠慮なく殺しても、心が痛まずに済む。
たまにいるのだ、こいつらみたいな、クズ冒険者が。
自分たちが冒険者だからって、何をやってもいいと思っている。
「その娘を離せ――!」
俺はダンの身体を動かして、剣を抜いた。
「おいおいダン、冗談だろ?」
まあ、こいつらからすれば、困惑するのも無理はない。
急に仲間が気を違えて、襲い掛かってくるとは思ってもみないだろう。
「冗談じゃないが?」
俺はその剣を、目の前の男に思い切り突き刺した。
「ぐああああああああああああああああああああ!!」
なに、心はさして痛まないさ。
だってさっきこいつらも、俺のことを刺したじゃないか……。
それに、ダンジョンに潜ろうなんて連中は、大なり小なり死ぬ覚悟くらいできているもんだ。
「いっでえええええええええ! な、なにしやがる! ダン!」
「うるせえ! お前だってさっき俺を刺しただろう! それに、俺はお前らのようなクズを許せないんだッ! 俺にも妹がいる……! お前たちのしてきたことは、決して許されることではない! うおおおおおおおおおお!」
「ぎやああああああああああああああ! 死ぬ! 死ぬ!」
俺は男の首を横一文字に掻っ切った。
すると、パーティーの残された女が騒ぎ出した。
「ちょっとダン! いきなりクレインを殺すなんて! どうかしてるわ! 気でも狂ったの!?」
「そうか……こいつ、クレインって名前だったのか」
「は? なに言ってんの!?」
「お前も馬鹿な奴だな。こんなバカどもとつるんで……」
「馬鹿はあんたでしょ!? せっかくのいい女を見つけたってのに」
「は?」
「だって、高値で売れそうな女だったじゃない! いつもやってることでしょ!?」
「なるほど……そういうことか……じゃあお前もクズってことだ」
「え……?」
俺は僅かな同情とともに、剣を振り下ろした。
もはや人間を殺すことになんのためらいもない。
俺は今、メタモルスライムで、魔物だ。
そしてダンジョンのマスターだ。
「ぎやああああああああああああああ!」
「自分の行いを恥じろ! そして今まで苦しめた人たちに謝れ!」
「うぅ…………」
女はそのまま地面に倒れた。
ギルティアたちといいこいつらといい……。
冒険者ってのはクズしかいないのか?
俺はもう嫌になってきた。
「クソが!」
俺には護らなけらばならない相手がいて……こいつらは侵入者なんだ。
そして俺はこいつらに殺された。
剣を向ける理由としては、十分だ。
それに俺は、魔族扱いされて殺されたんだ……。
もう人間なんか信用しねえ。
いっそ魔族として生きてもいいだろう。
「さて……大丈夫か……? イストワーリア」
イストワーリアは恐怖からか、その場にしゃがみ込んで唖然としていた。
俺はそれに笑顔で優しく手を差し伸べる。
「も、もしかして……マスターですか?」
「ああ、そうだ」
「よかったです! 死んでしまわれたかと思いました……」
イストワーリアはちらと俺の死骸を横目に見る。
俺の死骸は変身のせいで、ダンの見た目をしていたが、時間が経ち、ところどころスライムに戻りかけている。
なんともグロテスクな物体だ。
「まあ、一度は死んだがな。憑依スキルでこいつの身体を乗っ取った」
「そんなことが可能なのですね! さすがマスターです! あれ? でも、そのスキルは、ダンジョン内では使用できないのではありませんでしたか?」
「うむ、どうやらダンジョン内からダンジョン外への発動が出来ないだけで、ダンジョン内の生物に憑依することは可能みたいだ」
一か八かだったが、成功してよかった。
「なるほど! でも、マスターの本体が死んでしまいましたね……」
イストワーリアは悲しそうに俺の残骸をかき集める。
だが俺は、このダンジョンの仕組みを知っている。
なぜならゲーム【ダンジョンズ】で散々やったからな。
「大丈夫だ、イストワーリア。俺は何度でも復活する」
「そ、そうなのですか!?」
「ああ、見ていろ」
俺はダンジョンメニューを開く。
そこから、迷宮主の項目を選ぶ。
「コレだ」
――マスター蘇生 500P。
ダンジョンマスターは、ダンジョンコアが破壊されない限り、何度でも蘇生することが可能だ。
それに、まだ俺のレベルは低いみたいだから、蘇生コストもそれほど多くない。
さっき倒した冒険者たちのおかげで、DPが1500Pまで貯まっていた。
「蘇生っと!」
――しゅわわわわわん。
俺たちの目の前に、紫色のスライムが現れた。
メタモルスライムいっちょ上がり!
よかった、どうやらこの身体からでもダンジョンメニューを開けるみたいだな。
ダンジョンは俺の魂自体に、管理者権限を与えているのかもしれん。
おそらく一度ダンジョンメニューを開いたことで、俺に権限が渡されたのだろうな。
「うわああああん! マスターです! おかえりなさいです!」
イストワーリアがスライムに抱き着く。
それにしても、この娘を護れて本当によかった。
俺は失敗してばかりだったからな……。
「それにしても、マスター……よかったのですか?」
「ん? なにがだ……?」
「マスターはその……もとはニンゲンなのでしょう?」
「……気づいていたか……」
さすがは頭のいいイストワーリアだ。
俺がただのメタモルスライムでないことを、ちゃんと気づいていたんだな。
「あいつらの口ぶりをきいただろう? こいつらはとんだ悪党だよ。それに、自ら俺たちの縄張りであるダンジョンに踏み入ったんだ。文句は言わせないさ」
あとこれはイストワーリアには言わないが……。
ダンの身体を《変身》でコピーしたときに、気づいたことがある。
あいつの身体には、人間の少女の体毛が付着していた。
変身はあいての身体をくまなく写し取るから、俺はそれに気づいた。
「おそらくあいつらは、俺らが考えてたより、悪党だぜ?」
「そうなのですか……。なら、よかったです」
っち……胸糞悪いぜ。
俺は妹がいるから、ああいう連中を許せねぇ。
そうだ、妹だ。
「俺はしばらくこの身体を使おうと思う。スライムのままだと、ダンジョンを出られないしな。妹を助けにいかなくちゃならん。待っていてくれるか?」
「えぇ!? マスター、行っちゃうんですか!?」
イストワーリアは泣きそうな顔をする。
「マスターなら、そこにスライムがいるだろう」
「こ、これはあくまでマスターの入れ物です! ホンモノのマスターではありません!」
いや、もともとはそのスライムがマスターな気がするんだが?
こいつの中ではどういった論理処理が行われているのだろう?
まあいいや……。
俺にダンジョンマスターの権限が完全に移ったということなのかな?
「俺は必ず戻ってくるから、頼む」
「むううう……」
膨らんだイストワーリアも可愛いな。
とにかく俺は、ダンジョンを一度放置して、外にでることを決めた。
だがその前に、ダンジョンの防衛を整えておく必要がある。
イストワーリアとこの抜け殻となったスライムだけでは心配だからな。
俺の留守中にも、イストワーリアを護れるだけのダンジョンが必要だ。
それにまだ、DPも1000ほど残っているし――。
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