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 久しぶりに日記を更新しようと思う。まずは日記更新が途絶えていた理由について書きたい。

端的に言えばプライドが問題だった。この日記のタイトルを読んで分かる通り、僕は異世界転生モノの主人公であるわけなのだが、まさにその、居世界転生モノの主人公であることへのプライドこそが、僕の日記更新を邪魔するのだった。

このプライドとは一体何のことなのか。実は僕も転生したばかりのころは、このプライドなんてのは知る由もなかった。異世界へと転生したのならば、ただ何も気にせず好き勝手に生きてやろうと思っていた。

 しかし僕が日記を書きだしてからはそうもいかなくなった。

最近の出来事について感想を交えながら文字に書き起こす、それが日記というものである。しかし転生してきた僕が日記を書いて、それを自分で読み返してみると、普通の居世界転生モノのラノベと変わらないように思った。これに気が付いたときは、ただ日記を書くだけでファンタジー小説風な文章ができあがるのだと面白がったが、これについて一つの疑問点も湧いた。僕は日常を文字に書き起こしただけであるのに、それをラノベとして読むことができた。つまりは物語と日常の境界線についてである。

 この疑問に対して僕の結論をだすと、過去や未来が決まりきっているかどうか、というつまらない話になる。しかしこの、僕の日常がラノベとして読めてしまったという事実を胸に生活をしていると、不気味なことに、僕自身や街に住む人々、野良猫や港の柱に貼りついた貝一匹に至るまで、すべての生き物に筋書きがあるような気がしてくるのだった。

とは言いつつ、この不気味さを味わい続けるほどの純情を、僕は持ち合わせていない。不気味さ僕の心から体へ染みわたり、とっくに日常の一部になってしまった。つまり僕は物語の主人公であることを認めたということだ。そしてこの主人公の自覚こそが、初めに挙げたプライドを生んだのだった。

僕は主人公であり続けるために、居世界転生モノの主人公はどうあるべきかを考えた。なるべく表情を表に出さない、女からの好意に鈍感であるなど。もちろん例外や僕の知識不足もあるだろうが、主人公の条件はだいたい理解したつもりだ。

 ところで、なぜ僕が主人公であるのに固執するのか分からない方へ説明すると、簡単に言えば「オタクでありたい」と思っている人の心情と同じである。オタクでありたいと願う人は、自分からオタクを抜けば何も残らないことを知っているので、オタクであり続けるために必死になってアニメやマンガを推すわけなのだが、僕も自分が主人公であると気が付いてやっとその地位を手放すまいと努力をしはじめたのだ。この両者に違いがあるとするならば、オタクは人間関係に影響を良くも悪くも影響を及ぼし、それが地位を保持する理由にもなるが、僕の主人公はこちらの世界では何の役にも立たない自己満に過ぎないということくらいだろう。要するに、人は何かであり続けないと死にたくなる病気であるということだ。

 さて、その努力の一環、主人公の条件の一部にあった、「感情を表に出さない」という項を思い出してほしい。これをクリアするのに、僕は日記を書いていいものかと考え詰めてしまった。つまり、僕が日記更新をできなかったのは、この主人公の条件のせいだったのだ。

感情を表に出さない。これを生活の中で実行することは容易である。だが僕が日記を書いて文字に感情がこぼれた瞬間、それまでの努力は全部無駄になってしまう。物語の登場人物にだけ無表情でいても仕方がない。やはり読者の方の目線も、僕の主人公という地位には必要不可欠だ。

 日記を書くと、僕は主人公失格になってしまう。そのため僕は日記をやめたのだが、やはりどこへ行っても感情をあらわにできないというのは窒息してしまいそうで、今回は泣く泣く日記に戻ってきた次第だ。この一回だけ主人公をやめるが、またしばらくは主人公として頑張っていこうと思う。

 もしかしたら、読んでくださっている方の中には、日記以外のところでは感情を出してもいいのではないかと思っている方がいるかもしれない。しかしそれは、たぶん僕とは創作物の捉え方が違うせいであり、小説やアニメというものは、進行し続ける物語の一部を切り取ったものであり、小説やアニメそのものが物語であるというわけではないと僕は思っている。つまり、この日記こそが物語なのではなく、僕の日常すなわち物語を、僕自身が日記でもって切り取っているというわけだ。だから僕は日記の前でなくても、感情を表に出してはいけない。


 よし、やっと本題に入れる。久しぶりだから何を書こうか迷ってしまう。そういえばリズィは無事帰ってきた。宇宙旅行は楽しかったみたいだった。もうずいぶん前のことだ。

 そういえば最近、漫画を読んだ。それも気に入らない漫画だった。というのも世相を切る漫画なのだが、それに集中するあまりお話が疎かになっていて、全く読む気がしないものだった。お話の面白みは、自分の思想に目を向けてもらうための、いわばファッションみたいなものなのに、まさか服も着ずに全裸で社会に出て誰かと仲良くなれると思ったのだろうか。

 ちなみに、こちらの世界では小説よりも漫画の方が、社会的地位が高い。つまりお母様方や学校の先生に推薦される図書はもっぱら漫画ばかりだ。理由としてよく言われるのは、漫画家の方が何種類もの伝達方法(文章、絵など)を習得するのによく努力している人物であるのに対し、小説家は文章という非常に手ごろな伝達方法しか使用しない怠け者ばかりであるからというものだ。幼いころから努力家の創作物を享受していれば人格が豊かになり、逆に怠け者の創作物は新たな怠け者を生み出すそうだ。全くしょうもない話だ。

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