魔法の手
衝立の奥に置かれている衣類を手にとった。皺ひとつないのはカルフ手ずから整えたのだろうか。
あちらこちらと忙しくしている姿をみるにそんな事をしている時間などあるのだろうか、と毎回思うのだが、用意される衣服は毎度のことながらアイロンにかけられたように綺麗にのばされている。それとも外注でもしてるのだろうかとも考えたが、懐事情がそれを許すとは思えなかった。
ネイビーと白を基調にした簡素な造りのプリーツスカートとクリーム色のブラウスは小さなボタンが背中側にもついている。これをどう一人で着ろというのか、と一通り悩んでから実際着てみると問題なく一人で着られた。上二つのぼたんを外したままで頭から被ってから後ろに手を伸ばすと辛うじて何とか後ろのボタンを留められる。木製のボタンなどあちらにいれば風情だなと感じたであろうこともこの小さな手では不便さしか感じない。
プリーツスカートは幅広の布で腰を締めるタイプの物で大きなリボンを作ってから背中へとぐるりと回す。なるほどと頷いてからくるりと回るとひらりと裾が広がった。鏡がないからわからないが、なかなかに可愛いのではないだろうか。
なんと今日はカルフが初めて外へ一緒に出かけてくれるというのだ。初めてのお出かけなのである。これに気分が上がらないわけがない。言い渡された数日は浮かれて諌言を何言かカルフに言われたが右から左に流れた。
何でも色々買付の為に出かける必要があるという話だ。もちろんカルフ一人の方が捗るに違いないのだか、私一人を屋敷で留守番させたくないらしい。
先日の事もあり、一人にすると何をするかわからないと、直接そう言われた訳ではないが歯に物挟まった言い方でやんわりとそうカルフに言われた。遺憾の意がないわけではないが、心配させたのは間違いないので神妙な顔を作りつつとりあえずその時は頷いておいた。妙な顔をされたから聞き流したのはバレているだろう。お小言もなかったのでそれはまぁいい。
生活をしていれば消耗品の補充は必要で、いくら屋敷に二人だけとはいえど仕入が必要になってくる。それにこれからもう間もなく冬が来るという。冬支度には遅いくらいらしいから早急に手を付けなければ冬が近づけば近づくほど冬支度に必要な物は物価が上がりに上がって、最悪冬の準備が整わないままに雪が降ってしまうかもしれないとの事だ。カルフはあけすけにも台所事情をかいつまんで教えてくれた。
大きな屋敷で、本来なら出入りの商人もしくは専属がいるのが当然らしいというのはそれとなくカルフが施してくれる教育の中で知った。自ら赴いて自身の手であれこれ揃えるというのはそれこそ労働階級など平民の習慣で、本来であればこの屋敷にも出入りの商人がいたらしいとはあわせて聞いた。
本来ならばお嬢さまに聞かせる話ではないのですが、とはカルフの言だったが、実質屋敷を切り盛りする主人もおらず、それに相当する側仕えも既に辞任してしまっているのだから仕方がない。カルフ自身には決定権がないと言われれば私がそれを聞くのが順当だ。真っ当な判断ができるかどうかは置いてい於いて。
本来がそういう形だというならば何故この屋敷にはそれがないのだろう、とカルフに尋ねれば、何ともない風に伝手がないのだという。
以前ここに出入りしていた専属の者たちは他の従業員の解雇と辞任と共にその繋がりも切れてしまったのだろうとはカルフの言だ。
何とも想像したかのような言に首を傾げたが、カルフは自身の事を下働きだと自称していたから、屋敷の管理の事までは今まで携わっていなかったのかもしれない。
売り込みがないなら、こちらから買付けしなければならないのは当然で、たまに姿を見せない時にはカルフが自身で外へ自ら調達に行っていたのかもしれない。
本当に何から何まで頭が上がらない。全て確認作業から何からゼロからの状態で全て任せてしまっているのだから。
何か謝意を示す為に報奨が必要だとひしひしと感じてはいるのだが、屋敷を運営する財源そのものも私自身が認知できていないからその働きに見返りできる品を準備するのも困難を極める。
再三確認しているが、ここの屋敷はカルフ一人でまわしている。
屋敷の主人が私一人ということもあり、お嬢様が気にすることではございません、とはカルフは言うがそういう訳にもいかないだろう。仮にも雇用関係にあるというなら労働に対する対価を支払うのはこちらの義務でもある。
ただ働きという言葉ほど嫌いなものはない。
こちらの屋敷を管理している大本の家に連絡できる術を早く見つけるのが早道なのだろうけれど、こんな状況に置いて放置している相手なのだから、もし万が一面会がかなったとしてもこちらの言い分を聞き入れてくれるかどうかもわからないからあまり当てにするのはな、と最近はその考えが過る。
いっそのこと自分で何かアクションをおこして稼ぐ方法の方がいいのではないだろうか、とも思っていたが、何を起こすにしてもカルフの手を煩わせることになりそうで二進も三進もいかない。
そもそも幼子に仕事を任せてくれるところなどあるだろうか。
完全に思考の袋小路だが、事が事だけに放り投げるような事もしたくはなかった。
「子どもでもできることかぁ…ネットがあればあれこれできそうなのになぁ」
何て呟くが、ないものねだりだろう。
まぁやるにしても今の私の年齢なら、何をするにも『保護者の同意』が必要にはなるだろうが。
ないものねだりしてもあちらのものが生えてくる訳でもなく、まぁ今日もただ無意味に肩を落として終わるだけだ。
ノックが響く。思わず反射ではいどうぞと返してしまったが、まだ衝立の後ろにいて彼方側からこちらを確認できなかったのだろう。末尾に疑問符を付けたカルフの呼び声が聞こえた。
「お嬢様?」
「こちらです。お待たせしました」
衝立から顔を出すといつもの素っ気ない表情のカルフ。垂れた栗色の髪が今日はくるりと団子結びにされていて、おもわず凝視するとどうかいたしましたか、とカルフに聞かれる。
「いえ、珍しく髪を結いあげているなと思っただけです」
「これ、ですか?」
きょとりとした表情は思っても見なかったことを聞かれたという雰囲気だ。
「外出する時にはいつもこうですが、確かにお嬢様には外出前にお会いしたことはなかったかもしれませんね」
初日以来のお仕着せ以外の姿だ。
団子結びも相まって、なんだか初めましての気分になる。
カルフは私服らしきそれを身にまとい、くすんだ灰色の長外套を上から羽織っていた。お仕着せよりも何倍もグレードダウンしたような布地で、見ただけでごわごわしているのが見て取れる。
こちらの生活水準の規模がわからないからカルフのそれが一般的なのだろうか。いや、でもそれにしても私が着ているものと違いすぎる。
布の草臥れ具合から新品というわけではないだろうが、さらりとした肌ざわりの私の外出着と明らかに解れた所を縫い留めましたといわんばかりのごわごわのカルフの外出着。
やはり満足に給金が支払われていないのでは、という懸念は増々大きくなる。
「カルフ……」
「お嬢様、お話を遮るようで申し訳ないのですが、本日の予定を恙なく終わらせたいのでそろそろ御出でになりましょう。大変ご足労をおかけいたしますが一日お付き合いください」
「それは勿論」
それは予め聞いていたので大した問題ではない。
「ではこちらを」
差し出されたのは先日、魔術だの魔導だので色々説明を受けた時に術を仕込んだであろう灰色のストールだ。なぜと首を傾げると問答無用で頭から被せられた。
おもわずよろけると大きな手で背中を支えられる。安定感はあるが、前が見えない。
「ぶへ」
「お嬢様、はしたのうございます」
「元々はカルフが急に目の前を塞ぐからでは!?」
「お嬢様、言葉遣いにお気をつけください」
あんたは定型文を流すどこぞの公式botかと手探りで掻き分けたストールを退けて見たカルフは相変わらず感情の起伏が薄い面でこちらを見下ろしている。
優男のような容貌に似合わぬその表情にたまにちぐはぐさを感じることはある。
最近はそれも慣れてきたが。愛想笑いは振りまきはするけれど、あまり感情を揺らす性質ではないのだろう。
見上げていた首を正面に戻して、ストールを違和感ない位置に纏いなおそうとすると嫌な音を聞いた。
「わわ、引っかかっちゃった」
かちゃりと耳元で音がして、嫌な予感に顔の横に手を当てると髪と耳飾りが絡んでいる手触りがする。ああ、やってしまったと恐々と耳元を押さえるその手をゆっくりと動かした。
存在感のある耳飾りに気付いた時からいつかやるのではと、嫌な予感はしていたが、見事に髪に絡まっているようだ。
くるくると波打つ髪は自然に波打った赤身がかったブロンドの髪で、おとぎ話にでてくるお姫様のようだななんて他人事のように思ったのも記憶に新しい。ただ、実際なってみるとわかるが、うねうねと波打つ髪は朝には無駄に広がって、見られるようになるまで直すのが面倒だし、むやみやたらと櫛を通すと髪同士で引っかかっている所を巻き込んで大変痛い目を見る。
呆れてカルフが毎朝、髪を整えてくれるようになるまでそう時間はかからなかった。
身だしなみを整えたり、直接触れさせるような事は下働きにさせる事ではないと苦言を呈されたが、私ができないんだから仕方ないのでは、と言うと珍しくおもいっきり渋面をもらった。
私より器用に動く大きな掌は朝のごわごわの髪をしっとりやわやわに変身させてくれる魔法の手だ。それに適材適所というものだある。
ならば私の適所は、と問われそうなものだが、それは未来に期待してほしい。おそらくきっと成人する頃には適所が見つかるのではないだろうか。
初日だけは寝起きのままそこらへんを彷徨っていたから、もしかして最初に出会った頃、このまま爆発した髪型だったのでは、という考えが擡げたが深くは考えないようにした。おはようからおやすみまで見られている相手に今更羞恥も何もない。
くるくるでふわふわの愛らしいお姫様のような髪型は、あれは手入れしてくれる人あってのもので、手入れまで考えると非常に面倒くさい。いっそのこと切ってしまおうかとも思わないでもなかったが、短いのは短いで寝起きがまた大変な事になりそうだなと思うと思い付きのまま切るのも躊躇った。
「そういえばこの耳飾りどうやっても取れないんですが、呪いか何かですか?魔導術のかかったものなのかなともおもったのですが」
「のろい…ですか?」
おっともしかしてこちらの世界にない概念なのだろうか。口を押さえるが言ってしまった言葉は口の中には戻らない。
どうやって誤魔化そうかとあれこれ思考を巡らすが、どう欺いてもあの不思議な色の目に筒抜けにされそうで迂闊な事をいうのも躊躇われる。
うろうろと忙しなく視線を動かしていると、失礼いたします、と言ってカルフが絡まっていた髪と耳飾りを解いてくれた。
装飾が僅かに揺れて、あわせて影が光の彩りに揺れるのが視界の隅に見えた。
この耳飾り、驚くことに外すため継ぎ目が全くない。鏡がないからどういう形状をしているのか詳しく見る事もできないが、触って金属部分らしきものを確かめるとつるりとしていて元々継ぎ目なんてものはなかったといわんばかりのそれであった。
どうやってはめたのか疑問はなくはなかったそれを特に不便もしていなかったので、解決の手もなく棚上げにしていたが、先日のカルフの会話から何となく推察できるところはあった。
何てことはない、魔導やら魔術に関する物なのだろう。
こんな無暗矢鱈と装飾の長い耳飾りを子どもにつけたのかと、着けた人間に問いたい。服を着る時も引っかけないか不安になるし、髪が邪魔になった時に不意に触れてしまうとひやっとする。あられもないところに引っかけて耳が千切れでもしたらどうしてくれるのだろう。取れて一石二鳥なんて思う訳もなく、痛いのは御免こうむる。
姿鏡がないのでその全貌は見れないが、目端にうつる装飾はきらきらと光ってさぞや高いのだろうと予想できる。貧乏屋敷に住むお嬢様には過ぎた一品である。もちろんイミテーションならば話は変わるが、イミテーションだとしてもなぜこんなものを幼子に付けたままにしておくのか理解に苦しむ。
「たしかに魔導か魔術の気配はしますが……お嬢様はそちらを取りたいのでしょうか」
「何故か取れないので疑問だったのです。私は自身で付けた覚えもありませんし、魔導も魔術も先日カルフに習い始めたばかりでしょう?不思議だったのですが、術が施されているなら私の知らないことなのかなと思っただけです」
「今よりも御幼少のみぎりに御母堂様、手ずからお嬢様へ付けられたとは耳にしたことがあります。どのような効果が付与されているのかは分かりかねますが」
「母が、ですか?」
そういう習慣でもあるのだろうか。
「カルフは母に会った事があるのですか?」
「伝え聞いただけでございます。直接拝見した覚えはございません。なによりお言葉を交わせる身分ではありませんので」
暗に私とも身分上、本来ならこんな風に接する立場にないとでも言ってるのだろうか。私は未だにカルフの言う言葉の7割も理解できてないのかもしれない。
カルフが直接そう言う訳ではないが、薄い膜のような一線を画した壁を以て彼は私と話す。何かあったらすぐに身を引けるように、とでも言えばいいのだろうか。
冷たいという訳ではないが、他人事とでも言えばいいのだろうか。私を疎んじているわけでもないが、深入りしないようにしている気配はわかる。ただ嫌われているような気配はないから、それだけは救いだろうか。いくら私でも嫌われているような相手に更に手を伸ばすような面の皮の厚いことはできない。
そう、まるで他人事のようには接しているのだ。それだけなら私はカルフを理解したい、とは思わなかったかもしれない。薄い膜の向こう、確かに深く案じる色が静かに向けられる。言葉にも態度にも表にはでることはなく、ともすれば勘違いだったのかな、と思うほど静かな視線。小さな子どもだと、もの知らずだとばかにすることなく目線を合わせてくれる人、なんだとそう思う。あちらで子どもの頃はあったかもしれないが、大人になってからは感じることのなかったもの。
やや過保護さは感じるが決して義務のようではなく、案じる気配を感じるのはどこか面映ゆい。何も見返りさえ望めないというのに、与えてくれるその手を私は遠慮などもせずに今日も手を取っている。
まぁお人よしなのだろうな、とは思う。そこに付け込む私はさぞや悪人の振る舞いだろうが、いつか恩返しは必ずすると決めていた。
私の育ったあの国は鶴でも雀でも、お地蔵様さえ救われた恩を返すのだ。いつかこの借りはまるっと返すつもりはあるのでとりあえず今はツケておいてほしい。押しつけのようで烏滸がましく、カルフが要るとも言うかわからないものだが。
私は精々その時までにカルフの望むものが準備できればいいと思う。
そうなのですか、と取り合えずわからないふりをして言葉を流した。
耳にぶら下がったままのこの装飾品、この歳になるまで誰も取らずにいたのだから恐らくカルフにもとれないのだろうと思っていたからあまり落胆はない。ただ、うっかり引っかけて耳を引きちぎってしまったら、大変申し訳ないが先日の癒しをかけてくれないかなぁとは思っている。もちろん引きちぎる予定もなく、痛いのも嫌なのでできるだけそうならないようにはしたいが、これだけ大きな耳飾りだからいつかついうっかりひっかけて惨事をまた起こすのではないかという懸念は消えない。
「御髪を整えましょう。そのままでは屋敷の外へ御出でになれないですから」
「これをそのまま被るのだし、大丈夫なのでは。外さないほうがいいのでしょう?」
「そう、ですね。お嬢様のような方がそのまま外に出る事は勧められる事ではございません。窮屈とは存じますが、そのままの姿を隠した方がよろしいかと進言いたします。ですが、さすがにそのままという訳には参りません」
指さすような無粋な真似をカルフはしないが、不躾なまでの視線は呆れを含んでいるのを隠しもしない。ある程度整えたとは思ったが、それでもカルフの目には及第点すらいっていないようだ。
押さえるように手櫛で髪を整えるが、絡んだ髪が手に引っかかって頭皮ごと引っ張られた。痛いと呟くとほらみたことかとカルフの視線が突き刺さる。
「誰に会うとも限りませんが、身だしなみは常に整えておくことに越したことはありません。印象はそれだけでも変わるものですから。持ち得るものは最大限に活かす方がよろしいでしょう」
「それはカルフの経験上のこと?」
「いえ、以前そう導いてくれた方の言です。時と場合と自身の状況にもよりますが、持ち得るものを以て身を整えておけば、付け込まれる理由を一つ消せます」
なぜ付け込まれるが前提なのだろうか。首を傾げて全身でわかりませんを体現したというのに、カルフは答えあわせをしてくれない。自分で考えろということなのだろうか。それとも知っていて当たり前ということなのだろうか。
考えている隙にカルフは失礼しますといって、許可を言う前に体を持ち上げてくる。椅子に座らされた先で抗議を上げようとすると、じっとしていてくださいと頭を固定された。
肩に流れる髪を掬い上げられて、毛先から丁寧に櫛を通される。くるくると波打つ髪は一晩で昨日のことがまるでなかったかのように縦横無尽に絡まってしまっている。
以前の髪質とは全く違うそれに何度も難儀したというのにカルフの手にかかればまるで魔法でもかかったかのように指通りのよい素直な髪になる。どうやればこんなに簡単に解けるのだろうと指先をみたいのに姿見がないのが悔やまれる。
「大きな姿見があればいいのにね」
「……それは随分なおねだりでございますね。すぐ購入というのは難しいかと思いますが」
「あ、いや別に絶対欲しいという訳ではないのよ?」
どんな風にカルフが髪を整えてくれているのか気になっただけだから、と言葉にするのは憚られた。何となくカルフに正直にそういっても理解できない、という顔をされそうだと思ったから。
「本日は外出しますので、こちらでよろしいでしょうか」
赤みがかった金の髪はゆるくみつあみに結われ、左肩に流された。鏡がないからこその配慮なのだろうが、姿がみえないからどちらにしろいいのか悪いのか判断するには難しい。
「カルフはどう思う?」
緩く笑っているように見えるカルフだが、私の言葉を聞いて少し間をとっている。一顧だにしている様子の彼が一体何を考えたのか分からないが、表情のそのままの意味で言葉を留めた訳ではないのだろう。それくらいは何となくわかるようになってきた。
「……問題ないかと存じます」
お世辞でも可愛いとか何とか言うかなと、まさかカルフがいう訳ないか、という二つの予想は後者に軍配があがった。大方予想通りではある。
何となくカルフの言動パターンが読めるようになってきたのはいいのかどうなのか。口調は至極丁寧だというのにやはり慇懃無礼が顔にでかでかと描かれているように感じるのはそう間違いではあるまい。
「カルフが問題ないというなら私も問題ないですね。じゃあ、早く参りましょう。時間は有限ですから」
「その前にこちらをお願いします」
「……折角カルフが整えてくれたのに」
了承を取る前にすかさず先程と同じストールを被せられてしまう。当たり前だが、視界は悪い。
「ここは他の街と違い、それほど治安が悪くはありませんが、それでも幼子を歩かせるほどの安全を確保するのは難しゅうございます。お嬢様ならご理解いただけると思いますが」
わかってますよぉ、と言うとその語尾は如何な事かと思われます、とまた歯に何か挟まったような物言いをされた。
相変わらず遊び心一つないらしい。
次回は7月26日更新を予定しています。
ここまで読んで下さりありがとうございます。