表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

第二十一話「目覚め」

『ドガアァァァァァァァァァァァン』

 轟音と共に頭上から、熱風が激しく吹き付ける。


『キィィィィィィン』

 耳鳴りに、音は奪われた。

 眩しさに、目も眩んでいる。

 周囲の魔力(マナ)も激しく乱れ、感じとれていない。


「ちくしょおおおおおおおおおお!!!!」

 何も分からない。僕は憤りを声にして吐き出す。


 ……絶望の淵に居たのだ。


 【境界街】には多くの人々が暮らしていた。

 僕の父さんも、そこに居たんだ!


「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 僕の上に折り重なった複製(コピー)達を、怒りに任せ、全力で払い除ける。


 さっきまでの押さえ付ける圧が無い。

『ドンッ』

 複製(コピー)達はただの重石のように、抵抗無く吹っ飛んでいった。


 薄ら目を開き、

「ジュリアード! 見えるか? 街は、街はどうなっている?」

 と、僕は気配を感じる方に声を投げた。


「少年、街の方を見てみろ!」


 ジュリアードから求めた答えは返ってこなかった。

 僕が聞きたいのはそれじゃない。


『ドクン、ドクン……』

 と、緊張と恐怖で胸が高鳴っている。

 僕は焦点を取り戻した目で、恐る恐る【境界街】の方を見据えた。


 僕の視界に映ったのは、

 ()()()()()【境界街】の姿だった。


「は、はぁ……無事だ……よかった」

 安堵の息が漏れ、半分泣きそうな顔で、両の手を握りこんだ。


 今、何が起こったのだろう。

 集約された破壊的な魔力(マナ)はもう感じない。


『ガガァン』

 突然、大きな音が響き渡った。


 その刹那、辺りが暗闇に包まれて、

『ゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ』

 上空から再び、熱風を伴った重低音の圧が襲ってきた。

 大きな破片が僕達に迫っている。


「駄目だっ! 間に合わない――」



「<重縄束縛(ロープ・バインド)>」


『バチィィィィン』

 突如現れた光条が、その大きな破片を縛り上げて、

『ドォォォォォォォン…………ガァァァァァン』

 軌道をずらし、少し離れた場所に落着せしめたのだ。


「死ぬかと思った……」

 僕は力無く、その場にへたり込んだ。


「何を呆けておる。まだ終わってはいないぞ」


 この声は!


「しかしまあ、何とか間に合ったな。棒立ちのお前にヒヤヒヤしたぞ」

 そこには小高い丘の上で、魔力(マナ)を帯びた縄を(たぐ)師父(しふ)の姿があった。


「す、すみません!」


魔軸戦艦(バトルシップ)の破片に、浮力が残っていたのが幸いだったわ」

 と、縄は手甲の様に前腕へと巻きついて戻っていく。


【紐縄の技巧者】

 師父のスキルで強化した紐縄は、とんでもない強靭さと張力を備える。

 それを師父の魔力(マナ)と豪腕で自由自在に(あやつ)るのだ。……お陰で九死に一生を得た。


 魔軸戦艦(バトルシップ)は、

『ボフンボフン……』

 と、黒い煙と火を吐いて、横に流れながら少しずつ高度を落としている。


「これは一体……」

「あっちの丘の上を良く見てみろ。お前なら分かるだろう」

 師父がクイっと顎をしゃくった方を伺うと、


「<地獄炎熱線(ヘルズ・レイ)>」


 純白のローブを(なび)かせながら、

『カッ』『カッ』『カッ』

 小柄な魔法使い(ダイアさん)が、舞うように、赤い光線を魔法杖(ワンド)から何発も放っていた。

 それは生体魔軸戦艦(バイオバトルシップ)の魔獣装甲を、確実に貫いている。


「だから、我らにはやる事があると、言っただろ?」

 師父の顔を見ると、師父は不敵に、口の端を持ち上げた。


「奴等が焦って魔力(マナ)兵器なんぞ放とうとしたのが運の尽きよ」

 と、師父は丘から跳んで、僕の前に『ドスン』と着地した。


「よくやったマシュー。作戦は成功だ」

「なんだ、僕は囮だったんですね」

「おいおい、人聞きの悪い事を言うな。これも戦術だ」

「ちぇっ。何か上手く纏められた気がする」

「はー。お前は自分を過小評価しすぎだの。ワシは褒めて伸ばすタイプだっただろうが。ふははっ」

 師父は笑みながら、僕の両肩に手を置いた。


「作戦は成功! 結果が全てよ。なぁ?」

 パンっと、師父の手が僕の肩で弾んだ。


「痛っ!」

 やばい……嬉しい。

 何だか泣きそうだ。


「……ありがとうございます」

 涙を堪えた僕の顔は、歪んでいただろう。

 修行に明け暮れた三年半が報われたような……そんな気がした。



「ところで、そこに居るデカイのは誰だ?」

「ああ、実は……」

 僕は手短にジュリアードの事を説明した。



「なるほどのぉ……嫌がる者も多かろうが、一緒に来るのなら、ワシが口を利いてやる。判断は皆に任せよう」


「かたじけない……」

 ジュリアードは、師父に(うやうや)しく(こうべ)を垂れた。



『ガシャァァァァン』

 破片がまた落下している。これ以上、ここに留まっては危険だ。


「移動しましょう!」

「うむ。ダイアと合流するぞ!」


「すまんが、先に行ってくれ」

 ジュリアードが片膝を突いた。その顔は苦痛に歪んでいるようだった。


「少し休んでから合流する。さあ、ここは危ない……」

 ジュリアードは何とか立ち上がったが、その足取りは怪しかった。


「ふざけるな、いくらお前でも置いていけるか!」


「おい、無理をするな」

 師父が心配の声を投げた。


「とりあえず合流が先決だ。お前たちはどこか安全な場所で休んでから来い」

 口早に告げると、師父はダイアさんの居る丘へ、軽やかに駆けていった。



「少年、いいから行け!」

 ジュリアードは何故か焦ったように促してきた。


「おい、一体どうしたんだ? 本当に大丈夫――」


「カハッ!」

 突然、ジュリアードが口から白を吐き出した。


 ジュリアードの身体からは白い液体が流れ出し、

「キサマ……」

 足元に溜まりを作っていた。

 何が起きた? これは血なのか?


 肩越しに透かして見ると、

『ハハハハッ! ざまあ無いぜ!!』

 そこには狂気に満ちた笑顔で、雌型の複製騎士(コピー・ナイト)が立っていた。


「う、やはり……近くに居たのか……」

 ジュリアードは力無く地面へと倒れこんだ。


「ジュリアードっ!」

 突然の惨事に、僕は叫んだ。 

 そうだ、雌型の複製騎士(コピー・ナイト)から感じる、この禍々しい魔力(マナ)……。


 奴は、()()()()()だ!



『ハッハー!! 私の任務をよくも台無しにしてくれたなぁ!!』

 ジュリアンが叫び、それと共に雌型の複製騎士(コピー・ナイト)の身体が、魔力(マナ)光を発しながら、少しずつ変化していく。


『ジュリアード、忌々しいお前の存在が、期せずして新たな発見に繋がった!』

 と、足元の(うめ)くジュリアードを一蹴りする。


「ぐわっ!」

 蹴りの衝撃で、ジュリアードは己が流した白血に塗れながら、ゴロゴロと地面を転がった。


『これが【魔力連携(マナリンク)】の新たな利用法だ。適合者の意識を複製(コピー)体に転送する!』

 と、魔力(マナ)光は徐々に弱くなって、身体の変化が収まった。


『ジュリアード、貴様と同じ遺伝子因子(ファクター)を持つ私には簡単に再現できた……ありがとう、我が兄弟(マイブラザー)!』

 ジュリアンの意識が転送されたという複製(コピー)体は、ジュリアンそのものでは無く、良く似た()()姿()といった感じに成り果てた。


『ふーむ。流石に完全なる変体は無理だったが……』

 と、ジュリアンは、接続(リンク)を確かめるように、空いた手の指を複雑に動かしていた。


『イイねぇ、コレェ! 女の身体も悪くない』

 ジュリアンはナイフを投げ捨てて、しなを作るように、自らの艶かしい肢体を、指でなぞっている。


『折角だ、ジュリアの武器(レイピア)で突き殺してやる』

 と、傍らにあった()()を拾い上げた。


「ふざけるなぁ!」

 僕は拳を握り締め、威勢を吐きつけた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 下から、決死の叫びが響き渡った。


 ジュリアードが、白血塗れの身体で奮い立ち、

「侮辱しおって……貴様は、私が!」

 白い血を垂らしながら、一歩前に踏み出した。


『ザザッ』

 だが、その踏み出した足は、砂となって崩れ、ジュリアードは、重心を失って『ドサッ』と倒れこんだ。


「ジュリアードっ!!」

 駆け寄ろうとする僕を、

「隙を見せるな!!」

 言で制しながら、ジュリアードの身体からは砂塵が剥がれ落ち、風に散っていく。


『ンハハハァ! 時間切れかなぁ?』

 ジュリアンはその様子を、悦に浸ったような(かお)で眺めていた。


 ジュリアードの身体は、ドンドン砂と化して崩れていく。

 これが人体を弄られ、造られたモノの末路だ……何度か目にした光景だ。


「無念……ここまでか…………少年、後を頼む」

 ジュリアードは瞳からボロボロと涙を零し、目を閉じ、天を仰いだ。


『ハアッハハハハハハハハハハハハハ!!!!』

 耳を(つんざ)くような、ジュリアンの笑い声が響いた。


『無茶の代償だ。元から試作型の稼働時間は限られていたしなぁ!!』

 と、ジュリアンは視線を僕に移し、刺突剣(レイピア)の切っ先を向けた。


『さあ、もう助けは居ない。二人で()りあおうか』

 ジュリアンの身体から、凶暴な魔力(マナ)光が輝いた。

 そして、赤く光る目から放たれた、殺意を纏った眼光が僕を突き刺した。



 全身の毛が粟立ち、喉がゴクリと鳴った。

 これが純粋に()()()()()()()()()殺意の重圧(プレッシャー)か。


 嫌な汗が全身から吹き出している。

 受け止めた殺意は、僕の心を削っていく。


 その時、

『カッ』

 雲の切れ目から、僕達に陽光が差した。


 曇天だった空が、いつの間にか青に染まっていく。

 そして青空のキャンバスには、大きな虹が描かれていた。


「美しい……」

 不意に、僕から零れ落ちた。

 戦いの最中だと言うのに。


 なのに……。


 気付けば、身体からは無駄な強張りが抜けて、僕は自然体となって、敵を等身大に見据える事が出来た。

 放たれた殺意の矢は、僕の身体をすり抜けていく。


 何故だろう、さっきよりも魔力(マナ)を鋭敏に感じる事が出来る。

 己の中に存在する魔力(マナ)も、まるで源泉のように勢い良く湧き出してくる。


 この変化は一体……。



『美しい……だと? 戯言を! 私の美貌に見惚れたか!!』

 ジュリアンは自惚れた勘違いを吐き出した。


「そうか、ほんの一瞬だったのか」

 考えを廻らせていた筈が、時間は殆ど経っていないらしい。


『いいだろう。そんなに私の事が好きならば……この手で殺してやるっ!!』

 自惚れをそのままに、ジュリアンは湿った黄土を巻き上げながら、眼前に切っ先が迫った。


『ドンッ!』

 心臓を目掛けた、ジュリアンの刺突剣(レイピア)が、

『グニュッ』

 僕の身体に触れる寸前で、切っ先からまるで飴細工のように潰れた。


「おい、勘違いするなよ。虹が綺麗だって言ったんだ」

「なっ……」

 ジュリアンは目を白黒させている。


 僕は体内で練った魔力(マナ)を、全身に纏っていた。

 魔軸戦艦(バトルシップ)が同じ様にしていたのを真似てみたら、()()()のだ。


『バカな! 魔力(マナ)防御膜(バリアー)を……一体どれ程の魔力(マナ)を生み出せばこんな――』


 ジュリアンが言い終わる前に、

『ドゴッ』

 魔力を纏わせた(その)ままの拳で、横合いから殴りつける。


『ターン、タン、ダン、ゴッ、ガシャン』

 ジュリアンの身体は五回ほど跳ねて、魔軸戦艦(バトルシップ)の破片に(うず)もれた。


「醜いよ」

 僕はジュリアンを見据えて、言い放った。


『ど、どういうことだぁ!! この力、計算と全く違うぞぉ!!!!』

 ジュリアンは瓦礫から這い出ながら、焦りの表情を浮かべていた。


「お前が醜いと言ったんだよ!」

 僕の身体から、激流のように魔力(マナ)が吹き上がった。


『ま、待て! そうだ、私なら、そこのジュリアードを助けてやれるぞ!』


五月蝿(ウルサ)い」

 僕は聞く耳を持たなかった。

 昔の僕なら心を揺さぶられていただろう。


「そうだ、()()をやってみるか」

 僕の魔力(マナ)魔軸戦艦(バトルシップ)と同じ事が出来た。それなら、先刻見た()()も再現出来るはずだ。



 試しに魔力(マナ)を拳の先端に集中すると、

『パチ……バチッバチバチ……バチバチバチッ』

 前に見た【魔力雷(マナライ)】と同じ原理で、拳に電撃が走った。


「よし! 思った通りだ!!」


『ま、魔力(マナ)で電気を!?』

 ジュリアンの顔が激しく歪んだ。


複製(コピー)との接続を切れ! 早くっ!!』


 僕は全身に感じるこの魔力(マナ)が生み出す電流……それを解き放つ形を思い描く。

 電撃、稲妻、烈風、渦巻く雷……技のイメージは固まった。


「<稲妻(ライトニング・)渦巻(ヴォルテックス)>」


 僕は思い描いた通りに拳を引き絞って、前に突き出すと、稲妻を纏った渦巻く風がジュリアン目掛けて放たれた。


『ゴォォォォォォォォォォォォ』

 黄土は砂となって散っていく。


『バチッ……パチパチパチッ……』

 それは静電気のような余韻を残して、彼方に消え去った。



「ハァハァハァ……思ったより、魔力(マナ)を使うんだな、これ」

 途轍もない距離を全力疾走したような疲労感が、僕を襲った。

 呼吸が乱れ、身体の到る所から汗が噴出してくる。


 呼吸を落ち着けて、前を見据えると、もう敵の姿は無かった。

 ジュリアンの居た筈の場所には、砂を被った刺突剣レイピアと軽鎧だけが残っている。


「倒したのか、逃げられたのか……」

 と、そこで僕はハッとして辺りを見回した。


「おい、ジュリアード!!」


 ……返事は返って来ない。奴の魔力(マナ)も感じられない。

 既にジュリアードの姿は、跡形も無く消え去っていた。


 別れの(いとま)も無いうちに、砂となってしまったのか。

 ジュリアードの居た筈の場所には、砂を被った大剣(トゥーハンドソード)と重鎧だけが残っていた。


『ザクッ』

 僕はその大剣(トゥーハンドソード)を墓標として、大地に突き刺した。

 志半ばで散ったジュリアードの遺志は、僕が引き継いで完遂させる。

 そう心の中で誓い、黙祷した。



『ドゴォォォォォォォォン』

 突然の轟音に振り向くと、魔軸戦艦(バトルシップ)が煙を上げながら荒野の端に墜落している。


「終わったのか……」

 思わず安堵の声が零れ出た。


魔軸戦艦(バトルシップ)】対【少数精鋭(ぼくたち)


 異世界の力で宣戦布告をした【教王国】との初戦……この戦いに勝ったのは僕達だった。

 色んな事があったこの戦いだが、これはまだ序章に過ぎない。


 そして、僕の中に訪れた不思議な変化。

 あれは師父の言っていた、()()()()()()()()()()()()()()……その一端なのだろうか。

 僕は、自分の掌を見詰めながら考えていた。





『パカラッ、パカラッ、パカラッ……』

 遠くから馬蹄の音が近付いてくる。


『ヒヒーン!』

「マシュー! 大丈夫なのか?」

 馬上で手綱を握っていたのは、心配そうな顔の父さんだった。


「作戦完了だと、師父から魔道具通信が入ってな。お前も大活躍だったそうじゃないか!」

 父さんは嬉々として僕に語りかけた。


「それにマシュー、タイミングの良い事に、母さんからも連絡があったんだ! 他の者と一緒に無事だそうだ!」

 父さんの喜び様は、僕の活躍だけのものじゃなかった。


「母さんと連絡が取れたんだね。良かった」




「おい、マシューどうしたんだ? 早く合流せねば。行くぞ」

「ううん、何でもない。分かったよ」


 僕は味気無いその墓標に、ジュリアードの面影を探していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ