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第一話「異世界転生のリンカネーション」

「レン! 早く隠れて!! 魔軸戦艦(バトルシップ)が降りてきた!」

『ゴゴゴゴゴ……植民星の……警告する……大規模な……』

「レン、早く隠れなきゃ!」

『ウーウーウー……警告……住民は……退避……破壊……まもなく……』

「ヤバイ! 広範囲破壊術式(フレア・ボム)が来る、早く――」




「ピピピピ……ピピピピ……」

 狭い部屋に鳴り響く、デジタルアラームの音で目を覚ます。

 夢……これは子供の頃の夢、か。

 久しぶりに見たな。姉さんとけたたましいサイレンの中を、魔軸戦艦(バトルシップ)の攻撃から逃げ回っていた、あの頃だ。

 ずっと忘れていた記憶だが、今更思い出すとは。俺はまだ、この世界に未練があるのか。


「いや、そんなはずない」

 俺は起き上がり、枕元に置いてあった、ボトルの水を飲み干した。


 ……思えば、俺達、姉弟の人生は、ろくでもないものだった。


 貧困と迫害、差別、怪我の耐えない、血と涙にまみれた路上生活。

 特に目立つ、額に残る()()()()……なんでついたんだったか。

 ……今はもう、思い出せない。

 ずっと俺を守ってくれていた姉は、俺と一緒に軍に入ったが、戦場で行方不明になって戻ってこなかった。

 俺は姉の分までと、必死に軍務に励んだ。そして新しい人生を得るチャンスが廻って来た。

 軍は俺を、最重要(シークレット)秘匿任務(ミッション)に選んだ。



「レン軍曹、出頭いたしました」

「うむ。軍曹、楽にしてくれたまえ」

「はっ!」

「そう緊張するな、軍曹。情けのない話だが、今の資源量では一人送るのに、この惑星全体の【魔力(マナ)】を利用しなければならない。その様な任務に、君のような優秀な兵士が志願してくれて、喜ばしい限りだ」


「ありがとうございます、タイラー少佐」


「いや、礼はいい。君の払う代償は大きいからな。任務完了の暁には、連邦市民権の獲得など、大きな恩賞を期待してくれてかまわない」


「ありがとうございます、少佐。私も覚悟は、出来ております……」


「そうか、流石だな。こちらも君を転生させる(派遣する)準備は完了している。まかせたまえ」



 ……そう、俺は異世界へと転生する。この世界の存亡と、俺自身の未来をかけて。


 この世界では、エネルギー資源【魔力(マナ)】が枯渇し始めている。

 中世、剣と魔法の時代より、【魔力(マナ)】を様々な形で利用し続け、人類はいくつかの技術革新を経て、星をも行き来する程に文明を発達させた。


 ……だが、その代償に人類は【魔力(マナ)】を使いすぎた。

 このままでは、この文明は()()()()で崩壊する。


 それを防ぐために、俺は異世界で新しい人間に生まれ変わり、転生兵士(リンカネーター)として、()()()側を制圧し、植民地とする。世界を繋ぎ、未発達の世界では未利用の、豊富な【魔力(マナ)】を手に入れる作戦(ミッション)だ。


 詳しい原理はわからないが、魔法を更に効率化させた【術式(コード)】を使って、様々な強化を受けた、生まれ変わりの俺は、異世界では()()になるらしい。その一騎当千とも言える力で、侵略任務を遂行するというわけだ。



 たった一人の家族を失った俺は、別れの言葉を残す相手もいない。

 異世界転生による、たった一人の侵略計画は、明日、実行される。




 ……無感情な音声ガイドが、俺に語りかける。


 《IFP(情報粒子)デコード……スタンバイ》

 《DWIW(異世界侵略兵器)……稼動シークエンス……承認》


 《これより転生兵士(リンカネーター):レン・ハイドライト軍曹】の

 異世界転生プロセスを実行します》


 《大規模MS(魔方陣)展開……トランスプロトコル実行……》

 《惑星住民への警告完了――第1から、第16発電所までのフル稼働を承認》

 《一般施設への送電停止を承認――DWIW(異世界侵略兵器)への全電力供給確認》


 《ゲートオープン……スタンバイ》

 《機関臨界、異世界転生まで30秒》



「レン軍曹、最期に言い残したいことはないか?」

 オペレーターが、半粒子化した俺に告げる。

 遺言ってわけか? 今更だが……そうだな、


「さらば、我が人生。来世こそは幸せに――」



 9、8、7――――


 《完全粒子化確認……異世界転生実行》


「レン軍曹……君の新たな人生に、祝福あれ」


 3、2、1――




 ……俺のこちら側の記憶は、ここで終わりだ。






 ▼ ▼ ▼





『チュンチュン……チュンチュン……』

 鳥の声で目を覚ます。いつもの穏やかな朝。

 今日は14歳の誕生日。【成人の儀】で人生が決まる、運命の日だ。


 僕の名前は【マシュー・エンセント】

 王都から少し離れた村に住む、農場を営む両親の元に産まれた一人息子。

 周りの友達いわく、何をやらせても平均点。特別悪くはないが、逆に秀でた才能もない。いかにも平凡な人生を送りそうだって言われてる。

 このまま普通に農場を継ぐのも悪くないけど、僕には胸に秘めていた夢がある。誰もが憧れる、世界を旅して周る、【冒険者】になってみたいんだ。

 だからこそ、成人の儀で授かる【スキル】での、一発逆転に期待していた。



『バンッ!』

 と、勢い良く、部屋のドアが開いた。


「マシュー! まだ寝てるの? 寝ぼすけ~? おっきろ~!!」


『ドンッ』

「ぐはっ!」


 幼馴染のレベッカからのボディープレス。毎朝の恒例ともいえる暴力(レクリエーション)だ。

「ほら、早く支度しなさいってば! 今日は大事な日なんだから」


「もう! 今起きるとこだったのに……」

「それじゃ遅いのよ! 5分前行動って、知ってる?」

「はいはい。レベッカさぁ、そのボディプレスも今日までな。お前がスキルを授かったら、タダじゃすまなくなるんだから」


「え? どういう事よ?」

「いや、お前はきっと、体術系スキルを授かるからな」

「何言ってるの? 私みたいな美少女は、魔法系スキル持ちって、相場が決まってるの!」


「いやいや、毎日のように、お前の暴力を受けている身からするとさ……」

「マシューぅぅぅ」


「お前は、()()()()()()()()()()で確定だよ~!」


「はぁ? バカなの? しぬの? そんなわけないでしょ!」

『バサッ!』

「うわっ!」

「ほら、さっさと顔洗う!!」

 レベッカは、僕の顔に向かってタオルを投げつけて、慌しく出て行った。

「絶対、体術スキルだよ、こりゃ……」



 【レベッカ・ハグニズム】

 僕と同じ年の同じ日に産まれて、双子みたいに、同じ村でずっと一緒に育ってきた、幼馴染の女の子。昔から、勝手に家に上がりこんできて、何かにつけて世話を焼いてくる。


 簡単に束ねた朱色の長髪に緑の瞳。整った顔立ちとスタイル。背丈は僕と同じ位だ。

 その整った外見で、村一番の美少女っておだてられているから、少し調子に乗ってるんだよな。

 まあ確かに、僕からみても可憐な美少女ではあると思うけど、それとは裏腹に、とにかく気が強いんだ。


 こないだも、僕とこんなやり取りがあった……。


「ねぇ、いつも、お姉さんぶるなってば。同じ年、同じ日の生まれだろ?」

「い・い・え! 私の方が少し早く産まれたの。あんたのママが言ってたもの!」

「なんだそりゃ?」

「つまり、アンタは、私の言う事を聞いときゃいいのよ!」

 ……ってな感じで、いつもその調子だ。


 レベッカの家は宿屋で、そこに泊まる冒険者に技でも習ってるのか、いつも僕が実験台にされて泣かされている。

 でも、最近はあいつも身体が成長してきて、たわわに実った()( ・)が身体に当たってさ、不可抗力とはいえ、思春期の僕としては、対応に困ってしまう。むふふ。


 そんなこんなで、急ぎ支度を終えて、村の広場から出る乗合馬車に乗り込んだ。村から馬車で半日かかる王城で儀式に望む。儀式当日は終わるまで、家族とも顔を合わさないように務めなければならないという伝統に則って、今日は王都まで、レベッカとの二人旅となる。


 その【成人の儀】とは……14歳で成人を迎える子供達が城に集められ、王国の持つ【天鏡】により啓示を受け、スキルを授かる儀式だ。そこで授かったスキルによって、今後の人生が決まってくる。


 例えば、僕の父【アルス・エンセント】は使い勝手の良い、高階位スキル【天からの恵み】を授かって、村一番の農業家として、農場を成功させていた。


 スキルは希少なものほど、高階位の扱いになるが、必ずしも高階位スキルが有用とは限らない。

 だけど、高階位スキルには、冒険者や騎士に適した戦闘者向きなスキルが多いと言う。


「【聖なる剣技を携えし猛者】とか【暁の賢者】とかだといいな~」

 と、僕は揺れる馬車の中で、高階位のスキルを授かったらどうしようか、なんて夢想して、独り言をこぼしていた。


「そんなスキル、私はまっぴら御免だわ」

 レベッカが、その言葉に反応した。


「え~? なんでだよ? 高階位のスキルって、凄いじゃんか」

「はぁ~。バカなの? しぬの? あんな特別な力、日常でどう生すのよ?」

「えっ、まぁ……」

「そもそも、そんなの授かったら、一生、国に飼い殺しにされるに決まっているじゃない!」

「確かに……」


 父もスキルのせいで、国から偶に召集され、忙しそうに王都に出張していたっけ。農業系スキルだったので、まだその程度だったけど、これが戦闘系の高階位スキルだったら……大変だろうな。


「大きな力には、大きな責任が伴うのよ?」


 レベッカは時々、宿屋の娘だからか、聡い女の子だからか、大人びた事を言ってくる。


 そんなレベッカに僕は、

「そりゃね、そんなスキルなんか持ったら、実際は思い通りの人生なんて送れないだろうさ」

「でしょ?」

「でもね、男はそんな大きな力をもった英雄や勇者に、憧れちゃうんだよ!」

 ついつい、他の乗客がこっちを向いてしまう程の声量で、言い返した。

「もう、ほんとおこちゃまね、マシューってば」

「えへへ……」

「……でもね、大きな力を持つなんて、不幸でしかないと思うわ」

 レベッカは、何だか少し悲しそうな顔をして、そう言った。


 そんなレベッカの反応は、意外だった。日頃の態度から、冒険者志向だと勝手に思っていたからだ。

 そんな彼女の本心を知りたくて、

「そうかな? でも、冒険者だったら、ギルドの名の下に、自由に生きれると思わない?」

 質問を投げかけた。

「ホント、調子いいわね。でも、なんだかマシューらしいわ」

「そうかな? 僕の夢は、ギルド所属の冒険者だからね」

「最近いつも言ってるわね。でも、夢を持つ事はいい事よ」

「だろ? レベッカこそ、なんか夢はないの?」

「私の夢は……叶ったら教えてあげる」

「なんだよ、それ! ずっるいなぁ!」


 はぁ……結局、何も教えてくれなかったな。


 そんな感じで、二人して、期待と不安をぶつけ合いながら、馬車は進み、王都へと到着した。

 門の前では文官が待機していて、そのまま僕達は王城へと案内された。


 男女に分かれ、控え室で白いローブに着替える。天鏡からの啓示を受ける際には、鏡に額を押し付けるため、僕は用意されたグリースで前髪を掻き上げた。


 僕の額には、生まれたときから()()()()がある。変な形ってわけでもないけど、前髪は下ろしていつも隠してた。

 なんだか見られたくなかったんだよな。でも、今日だけは仕方ない。




「我が国の未来を担う、若人達よ! この晴れの舞台に……」


 王様のお言葉を賜って、謁見の間にて【成人の儀】が執り行われる。父の仕事で何度か拝謁したことがあったので、そこまで緊張はしなかった。レベッカはどうだろうか? どうやら今日、儀式を受けるのは僕らを含め、6人らしい。王都近くの者だけだから、こんなもんか。


 儀式は進み、いよいよスキル伝授が行われる。


「シルム・プレス、天鏡より天啓を賜ります」


【天鏡】の前で口上を述べ、額を鏡に押し付ける。鏡が光を放つと、そこにはスキルが浮かび上がっていた。


【鍛冶】【火炎魔法】【打撃】……


 おっ、あの子は鍛冶屋になれそうな、良いスキルの組み合わせだ。


【強剣技】【料理】【速読】【算術】などなど……


 天啓を受けた子供たちが、色んなスキルを授かっていく。喜ぶ人、ガッカリする人、人それぞれだ。

 僕はというと、段々と自分の番が近づいてきて、今までにない位、緊張していた。

 それはレベッカも同じみたいで、何度も視線が交差した。あんなに緊張したレベッカは見たこと無い。


 ……そして、とうとう僕らの番が回ってきた。


「マシュー、行って来るわ」

 レベッカは小さく呟いた。

 その声の小ささとは裏腹に、僕に向けた眼差しは、力強く感じた。



「……レベッカ・ハグニズム、天鏡より天啓を賜ります」


 レベッカが額を【天鏡】に押し付けた。その刹那……


『カッ』

 と、今までに無く【天鏡】が輝く。


「おお! これは……高階位スキル保持者(ハイランカー)の輝きだ!」

 文官たちがざわめき立つ。


 光が徐々に弱まる。

【天鏡】にはスキルが浮かび上がっている。


【炎を極めし者】【体術を極めし者】【魔法付与】


「す、すごい! こんなに、凄いよレベッカ!!」

 文官が読み上げたスキルを聞いて、僕は思わず叫んでしまった。

 高階位スキルが2つ、それに加えて、使い勝手の良さそうな中階位スキルも授かるなんて。


 ずっと静かだった謁見の間、全体が騒がしくなる。


「おおお、レベッカと申したか?」


「は、はい……」


「そなた、久方ぶりの……凄いスキルの持ち主であるぞ! いやはや、素晴らしい!」

 そう言いながら、王様が興奮気味にレベッカの元へと歩み寄る。


「……」

 レベッカは衝撃の反動か、それ以上、何も言葉を発せない。


「王様、儀式はまだ終わってはおりません。最後に、エンセント家のマシューが控えております」

 大臣が沸き立つ王様を制し、そう告げた。


 そうだよ! 忘れないでくれ。僕がまだいるんだからさ。


「そうであったか。エンセント家……おお、あのアルスの息子であったな。そちにも期待しておるぞ」

 王様は、さっきの興奮が冷めやらぬ様子で、僕にも期待を込めた視線を向けている。


「マシュー、あなたの番よ。私が馬車の中で言った事、思い出して」

【天鏡】の座から降りて来たレベッカが僕に言った。


「馬車の中で……なんだっけ?」


「もう、アナタってホント……お気楽なヤツね」


「はは、ありがとう。おかげで、緊張が和らいだ」

 僕は【天鏡】の座へと、階段を登っていった。


 僕だって……レベッカを前座にする位の、凄いスキルを授かってみせる!

 そう意気込んで、


「マシュー・エンセント、天鏡より天啓を賜ります!」


 儀式に則って、【天鏡】に額を近づけた。

 その時、


『バチバチバチッ!!!!』


 尋常じゃない位の、白い光に目が眩む。

 そして、そのまま鏡面から発生した衝撃で、僕は後ろに吹っ飛ばされた。



 衝撃の影響か、薄れ行く意識の中で、文官達のざわつきが聞こえてきた。


「そんな……ありえない!! こんな事が起こるなんて……」


「一体、何が起きたのだ!!」




 僕のスキル、何だったんだろう……。気になるなぁ、レベッカ――



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