第三話
「……さぁ、遠慮なく受け取るが良い。荷車を何台か用意してやろう。おい、お前。とりあえず、百人ほど集めてこれを運ばせろ」
「畏まりました! しかし、殿下。本当によろしいのですか? 国王陛下に相談したほうが――」
「黙れ! これは僕のモノだ! お前にも父上にも使い道について指図を受ける筋合いがない!」
ナッシュという名前のアーヴァイン殿下直属の護衛は、やんわりと慰謝料の支払いを考え直すように伝えましたが、彼は激高してそれを拒みます。
殿下は自分が正しいと思うと頑なに意見を曲げない御方――。反論すれば、するほど私に慰謝料を与えないと気が済まなくなるでしょう。
荷車に人手ですか……。それは必要が無いのですが――。
「時空間魔法――時の貯蔵庫!」
私は得意の時空間魔法を発現させました。
この時の貯蔵庫はエデルタ皇国の領土よりも広い収納スペースを異空間に作ることが出来る魔法です。
任意で好きな物を出し入れすることが出来るので、大量に物資を運搬するのに便利だったりします。
「おお、何と……。金庫の中の金品が全てその穴の中に――」
「アレイン先輩も聖女ですから、それくらいは出来ますよね。もっとも、わたくしの時の貯蔵庫はこの金庫の2倍の容量はありますけど」
「流石はエデルタ皇国始まって以来の魔法の天才エミールだ。アレインも才能があると言われていたが、君の前では霞んでしまうな!」
私が時空間魔法を見せるとアーヴァイン殿下は最初は驚いていましたが、エミールが対抗心を見せると彼女を持ち上げました。
確かにエミールは天才です。物覚えが良くて、この世に存在するありとあらゆる魔法を殆ど全て習得しています。
私は膨大な魔力のコントロールに苦心しているので、得意な時空間魔法以外は初歩的な魔法しか使えません。
ですから、彼女が聖女となったとき私の出来の悪さが浮き彫りになったりしました。
しかし、使える術は少ないですがその規模自体は彼女を上回っているという自負があります。
魔力の総量自体はエミールよりも多いですから……。
「よしよし、全て受け取ってくれたな。それでは、婚約解消の契約書にサインするのだ。慰謝料2500億エルドを受け取ったという証明にもなるからな」
アーヴァイン殿下はエデルタ皇国の紋章が入った正式な書類を取り出して、私にサインと血判を求めました。
何でも良いですよ。もう、あなたへの気持ちも無くなりましたから。
どうぞ、エミールと二人でお幸せに……。
私は彼の要求通りにサインと自らの血で婚約破棄の証明をして、国家予算の半分に相当する2500億エルドを異空間に収納して、実家に帰りました。
「アーヴァイン殿下との婚約を破棄しただとッ! 金を受け取って!? しかも聖女を辞めて来た!? アレイン、お前は何という親不孝者だ! お前のような娘はこの家には要らん! 勘当だ! 勘当してやる!」
実家に着いた私を待っていたのは激怒する父、アルゼオン侯爵。
私の話をきちんと聞こうとしない父は何度話しても慰謝料の金額を理解してくれません。
それどころか、私を勘当しようと口にしました。
このままでは、私はこの国に居られなくなってしまうのですが、どうしたら良いのでしょうか?




