第十四話
「え、エミール? エミール!!」
雷撃と落下のショックによって気を失ったエミールを見てアーヴァイン殿下は血相を変えました。
真実の愛とか言っていた割には婚約者を戦場に出した上に、倒れても駆け寄りもしないとは薄情ではありませんか。
まだ800近い雷光の矢を浮遊させているので、無理もないかもしれませんけど、腰を抜かしている暇があったら身を呈して彼女を守る姿くらい見たいものです。
「あ、アレインは初級魔法しか使えない雑魚聖女じゃ無かったのか」
全く、皇太子のクセに……一時は私の婚約者だったクセに、私のこと全然知らないのですね。
私は自分のことを不器用だと思っていますが、エミールよりも弱いと思ったことはありません。
初級魔法しか使えない雑魚ではないのです。初級魔法しか使えないのにも関わらず聖女であったという意味を考えて欲しいものです。
「見縊りますね。これを見て私を侮るようなことが言えるなんて」
私は800程の雷光の矢の照準をアーヴァイン殿下に合わせます。
そろそろ、この人の顔を見るのも疲れてきました。決着をつけましょう。
「お、落ち着け! 落ち着くんだ、アレイン!」
「私はずーっと、落ち着いてますけど?」
「わ、わかった。わかった。せ、千億エルドで手を打とう! そちらが千億エルド払えば何も言わん! んぎゃあああああっ!」
この期に及んで戯けたことを仰る殿下の頬を雷光の矢が掠め、彼は絶叫します。
この人は馬鹿なのでしょうか? 妥協案で何でこちらがお金を払うことになるのですか?
意味がわかりません。もはや、まともに交渉出来ないのかもしれないです。
しかし、千億エルド……ですか。いい線は突いてます。
「良いでしょう。千億エルドで手を打ちましょう」
「……はぁ、はぁ、本当か? い、いつ支払ってくれる?」
「何を呆けたことを仰っているのです? あなたが私に払うんですよ。千億エルドを。そうしてくれたら、エデルタとジルベータの国境沿い、全ての魔物の駆除を引き受けますわ」
「はぁあああああっ!?」
こうして軍を差し向けたことにも目を瞑って、千億で話を終わらせてあげようと提案したのですが、どうやら殿下はご不満のようです。
そりゃあ、国王陛下に黙って軍を率いた上に面子を潰されるのですから仕方ありませんが。
「千億エルドもの大金があるもんか! 冗談も大概にしろ!」
「ならば、それ相応の領地でも結構です。早く王都に帰りなさい。そしてお父様に相談なさい。さすれば、結論も早いと思いますよ。それとも……、死にますか? 今、ここで……」
「ひぃぃぃぃ! そ、それは止めてくれ! ぼ、僕が悪かったからぁああああっ! 謝る、謝るから、アレイン!」
2本程の雷光の矢をアーヴァイン殿下の顔の左右を掠めそうになるくらいの至近距離に飛ばすと、彼は再び尻もちをついて、涙目になって頭を下げました。
どうやら、先ほど頬を掠めた痛みが余程のトラウマになっているみたいです。
「このことを近日中に陛下に伝えないと、本当にアーヴァイン殿下にこれを放ちます。何百本でも、何千本でも、あなたに当たるまで。いいですね?」
「は、はい! 失礼しました! て、撤退だ! 早う、早う逃げるぞ!」
アーヴァイン殿下は情けない声を上げながら、軍隊を急いで撤退させました。
はぁ、疲れました。国王陛下がもうちょっとマシな交渉をしてくれると助かります――。




