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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第九章 私の……巫女の力が無くなる日

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第99部 大地と餅搗きと……


 1970年12月30日


*)大地が餅搗きを?……母は恐怖……


 今朝は良く晴れたとても寒い朝を迎えた私。でも大地はというと、やはり寒い朝を独りで迎えていた。なのに私よりも早起きをしていた。私? お母さんと一緒で温々だったから少し寝坊したな。だから朝の冷え込みも一入ひとしおなのだ。「エヘン!」


「バカ言え! 昔の俺に戻っただけだ。寒いことは無い。」


 と言う大地。もう強がっていても私へ向ける視線は・・・胸ばかり。最近の大地は私のお尻を触りにくる事が多くなった。入院中は胸目指して「一直線!」が、家族の目が増えた所為でそれが叶わなくなったのが本音だろう? 大地、可愛い。


 そんな私も大地のお尻を叩いて喜んでいる。


「御幸じゃないだろう。俺を叩いても子供は出来ないぞ。」

「だったら大地は私に子供を早く産んでもらいたいの?」

「い、いや、そうじゃないよ。御幸とは……、」


 大地が言う「御幸」とは、どうも「祝い棒」の事らしいのだが、中学校で読んだ本を間違った意味で覚えたようだ。


「大地、もしかして「祝い棒」の事を言っているのかな?」

「あ、いや、俺は知らない……。」


 「祝い棒」とは、新婚の家を訪問して嫁の尻を叩く風習であり、早く子だねを授かるような意味だったか。


「大地って、どんだけド田舎で産まれたのよ。」

「俺も喜んで女の尻を叩いていたのを……そのう思い出しただけだよ。」

「もう……煩い、黙れ!」


 そうなのかな、きっと元気になった私を抱きたい一心なのが、良く伝わってきて可笑しく思えた。これは小正月の十五日は覚悟しておくべきか……!


 庭に急ごしらえで作られた竈。大地は火の番を買って出た。もう餅搗きが待ち遠しいのだろう。こう言っては悪いのだが、大地の幼少の時の近所の餅搗きがとても羨ましかったんだと考えた。だから、大地の背にしがみついて心で謝っておいたのだが、大地には通じないよね。それから私は大地の顔が見える位置にしゃがみ込んで、


「私たちの新婚って、去年よね。」


 と、言った何気ない私の独り言。それに返ってきた言葉が、


「今でもそうだよ。」

「ふ~ん、そうなんだ。」


 大地はうちわで竈を扇いでわざと煙りを私に流してきた。


「もう~大地の意地悪~!」

「ふ~んだ、其処に座るお前が悪いんだぜ。」


 私は急いで立ち上がって大地の後ろへ行って、


「このこの、この~。」

「アハハハ……。」


 と、大地を殴りだしていた。大地はカラカラと笑うだけで反抗もしなかった。「今晩いいよ!」と、言いかけて急に辺りの視線に気が付き、とうとう言えなかった。母や姉の視線を集中砲火並みに受けていた。遠くは父やお爺さまらだ。


「もう、馬鹿野郎……。」


 お昼前に始まった餅搗き。初心者の杵を受ける強者~は、やはり場数の多い? 桜子お婆さまだった。もっとも杉田家の餅搗きだから当然なのかもしれないが、私はお母さんに言ったら、


「無理無理むり、指が潰れてしまうから勘弁。」


 と、言うありさまだ。臼の上で餅を均等にさせる必要があるから、二人の息が合わないと……悲惨な目に遭う。ここはかけ声か!


「ホイさ」と桜子お婆さまは言って手を出している。大地は無言で臼と水の入った手桶を往復する白い腕にも集中して杵を振り下ろしている。


「大地、ガンバ!」

「ホイさ。」「カッポ~ン。」「ホイさ。」「カッポ~ン。」「ホイさ。」

「カッポ~ン。」とコミカルに続く二人だけの餅搗き。


「わ~可笑しい。桜子お婆さまのお顔が引きつっているわ。」

「カッポ~ン。」


 と、私の頭を叩いた怖い顔のお母さん……。う~ん、見ていても楽しい。


「亜衣音、餅を丸めるのは出来るかな? こうやって餅を千切って片栗粉をまぶして作るのよ。」

「なんだ、簡単そうね。うん出来るよ。」


 そう言った私をあざ笑う母。目も口も笑っていやがるか、……このう。私は餅を握り力を込めた。


「うぎゃ~、アチチだよ、お母さん。」

「ほら、やっぱり亜衣音には出来ない。」

「お母さんの手の皮が厚いのよ。私は繊細ですぅ~から。」

「バカを……お言いでない。早く冷えない内に丸めるのよ。」

「でや~~~~・・・。」


 私は熱い餅を掴んで丸めた。形が不揃い……のは愛嬌よね。お父さんなんかは私を「バカ、下手!」と、罵るばかりで、もう口しか出さないのだから。


「なんだ、綺麗な円形には出来ないのか。これはまるでおにぎりだな。」


 今度は大地が搗きあげたばかりの餅を、器用に両手で運んで来た。


「うっそ、その餅はとても熱いよね。」

「なに平気だよ。」


 片栗粉を薄く引いた台に、ドスンと置いてくれた。もちろん、丁寧に置く余裕が無かったとは思うが、私の目の前だったから大量の片栗粉が舞い上がり、


「ゴホゴホ、だいじ~私に恨みでもあるのかな~。」

「なに、陣中見舞いだ。受け取れ。早く丸めろ。」


 大地を見上げたら、其処には何とも言えないいい笑顔があった。大地、満足出来て良かったね。そんな大地に私は、


「なに誇らしげに言っているのよ。」


 あらあらあらら……私はなんという言葉を言ったのかしら! もうどうしよう。


「亜衣音、ここはウソでもいいから大地くんをねぎらいなさいよ。」

「そうだぜ、亜衣音。」

「う~お母さんから言われた~、大地、満足した?」

「あぁ、餅論……?」

「大地の顔が餅に見えてきた。白粉おしろいの片栗粉を付けてやる!」


 大きな声で言ったのが悪かったらしい。私は大地からの反撃を受けて、自分が丸めた餅を口に入れられて苦しい思いをさせられた。皆で私の顔を見て笑っているのが判ったら、餅と一緒に片栗粉も顔に付けられていた。


「大地~、もう酷~い……。」

「バ~カ、亜衣音がとろいんだよ。」

「エアー・ショット!」

「இ……。」

 

 と、言った瞬間大地は身を構えた。だが、其処には餅が一つ飛んだだけで巫女の魔法は発動しなかった。


「イテ!」

「バカ、なに餅で遊ぶのよ。」


 と、母から頭を小突かれた。ケケケッと笑う大地は、やはりまだあどけなさが残る高校生だ。


 お昼は餅論? 餅づくし。お醤油をつけて食べたし、海苔巻きも美味しい。あんころ餅なんか大地が五個は食べたか。十分に堪能した大地と私。


「亜衣音、そろそろ部屋で休もうか。」

「うん、だいぶん燥ぎ過ぎた。疲れたよ。大地は?」

「元気だぜ、まだまだ餅搗きは出来る。」


 夜になりそのまま熱を出してしまった私。夜ご飯は抜こうかな。巫女の力が無くなった想いが、殊の外強く私のメンタルを押しつぶしてくれた。


「ヒヒ~ン!……ブルル……。」 


 気のせいだとは思うが、一瞬クロの泣き声が聞えた。


「お休み、クロ……。そして大地も、」


 未来みくお姉さまは、お爺さんが寝てお酒臭い私のお布団を丁寧に広げてお日様に当ててくれた。……まるでお餅を焼くように? そう言えば、薄く平たくした最後の餅のようだ。これは切り餅にするのだという。でも疑問。どうして柔らかいうちに切ってしまわないのだろうか。母はいつも固い餅を包丁で切っていたな。


「ん~ん、お日様のいい匂い……嬉しい!」


 早く休んだせいか、夜中に目が覚めた私。横に寝ている大地を引っぱたいて起こして外に連れ出した。火照った頬に夜風は気持ち良かった。


「おい亜衣音。風邪を引くだろうが。早く家に戻れよ。」

「うん少しだけ。今晩も『しぶんぎ座流星群』が流れるんだよ、知ってた?」

「バ~カ、そんなの知らないよ。」

「入院で、おうし座北流星群を見逃していたんだ。」


 私のチャンチャンコの袖から大胆にも、大地は腕を伸ばしてきたのだった。クマの見張りがあるとも知らずに……。


「ケッ、バ~カ。今晩も熱いね~? なんだ、この不揃いの餅はよ。胸焼けしそうだよ、でも美味しいかも!」


 今日の更新分は、昨日と本日の二日で書き上げたものです。内容は充実して

おりませんで、すみません。


 100話目は少しお時間を頂きます。

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