第97部 私の巫女の力が無くなる日……その二
1970年12月29日
*)泣き崩れた家族に私は……
「沙霧……どうした、亜衣音が戻ったのか!」
私は元気になって退院したかったのだが、予想に反してより重篤になった気分に陥ってしまう。家族を泣かせてばかりだとういう自覚が余計にあるので、私の心もより動いてしまう。肝心の大地は事の重大性に気づいてオロオロとするばかりだが誰も大地を責めようとはしなかった。家族としては、事前に連絡をくれても良いはず、という思いは喉まで出ていたかもしれない。
「ごりゃ~、白川のボンクラども……、どいつもこいつも、可愛い娘の事は放置して正月を迎える準備かえ、……なんとも嘆かわしい。」
カムイコロさんの第一声である。とても大きな声だから家族一同には心にまで届いたに違いなかったはず。
「大地も大地だが、ここの親は娘の入院にも拘わらずに見舞いにも来やしない。だから娘がこんなにも細ってしまったんだろうが、おいこら!……少しは自覚しろ。なんで見舞いに来なかった。」
「カムイコロさん。ごめんなさい。つい先日も行きました。でも、とても元気そうに見えまして……ホンと、母親失格で御座います。」
「カムイコロさん。それは私が悪いのです。両親を責めないで下さい。だって私、大地でさえごまかしが出来たのですのも。」
「亜衣音、それとこれは別モンだ。親が子の状態を見抜けないとは、言語道断。横断歩道も皆で渡れば……赤信号かい!」
「え?……意味が違うと思う。でも、本当に親失格で御座います。」
「だったら早う、せんかい。」
「はい……?」
「亜衣音は俺に背負われて帰ってきたのだけれども、ベッドから下りるのもやっとだ。直ぐにでも休ませるべきだろうが……もう、バカチンが~!」
「ヒェ~!!」x2
すぐさま母は座敷に行き部屋を片付ける。父は私の部屋から布団を持って……いや、二階から階下に投げ落として時間の節約に努めていた。これは実際に行った者にしか考えつかない情景だろうか!?
「直ぐお座敷に用意いたします。」
こんなバタバタ劇を玄関の上がり框で見ている私と大地。カムイコロさんはと私は視線を送ったが、
「おっと、学校で大根を引き抜くを忘れていた。白菜とキャベツもこの家には在るといいのだが……。」
「虫入りのブロッコリーならばたくさんあると思うよ。」
「……もつ鍋にすればいいのか、」
「いいえ、なんこ鍋という名前ですが?」
という事はカムイコロさん。もう夕食の宴会を考えているらしい。お座敷と仏間の続き部屋だからという理由からか、私の床を考えたらしい。もっとも、常に監視出来る部屋としてのお座敷が選ばれた理由だろう。これも実際に病人になった者にしか考えつかない情景だろうか!? そう言えば、俺なんかは二度ほど経験したか。
そうこうしている内に姉夫婦も赤ん坊を抱いてやってきた。いち早く母に事情を聞いて、それで血相変えてきたらしい。智治お爺ちゃんもそうだ。生憎と桜子お婆さまは外出だったようだ。私のお布団の横には、三組の布団がすぐさま用意されたのだった。双子の三組の布団……。何とも形容しがたい。
とても気が重かった私への気遣い?……否、断じて否だ。きっと親たちの都合に決まっている。でも、可愛い寝顔を見ていて心は段々と落ち着いてきたな。
「うん、可愛いね、大地。」
「そうかぁ?」
「また私からぶたれたいのね、大地は子供が嫌いなの?」
「いや、なんというか、気持ちがわからないよ。」
「大地、私と大地の子供だったら嬉しいよね、きっと。」
「う……ん、そうだね。」
「あ~、一呼吸あった。大地は子供が嫌いかもしれない。でも産まれたら叩いて怒ったらだめだよ。」
「そ、そんなことはしないし出来ないよ。俺も赤ん坊になって亜衣音に甘える。」
「こら! 大地、お乳は娘にしかやらないからね。」
「え~、やだよ、俺の必需品だ。だから娘にはやれない。」
「カムちゃん。お願い、大地をぶったたいて!」
「オーケー、東京まで飛ばせてもいいか!」
「うん、いいよ。でも庭の畑まででいい。」
「あいよ、……大地、覚悟。」
「ビェ~!! 野菜採ってきます。」
「アハハ~……。」x2
でも双子らが元気に育っていて安心した。こうやって再会が出来たのは何ヶ月ぶりだろうか。大地を見送ったカムイコロさんが私に、
「亜衣音、添い寝させてやろうか。」
「うん、お願い。私の両脇に寝かせて下さい。寝息も聞きたい。」
「なんなら、腹の上にも寝かせるか?」
「だめだよ、息が出来なくなる。それでさ、後で順繰りにお願いします。」
そっと双子を私のお布団に入れてくれる。温かい体温が伝わってきたのを感じていたらカムイコロさんが笑い出してしまった。
「アハハ、こりゃ~、何処から見ても母娘だね~。」
「カムちゃんの、バカ!」
遠くから見ていた母も思わず笑っているようだった。お台所から複数の可愛い笑い声が聞えてきたので、私もつい笑い出して、えぇ~と、この子は……誰? 名前を思い出せない。
「え”~、カムちゃん。この子の名前を思い出せない。私、どうしたんだろ。なんかおかしいよね。」
「……いや、久しぶりで見分けがつかないだけ?……とか。ほら、前回よりも、こ~んなに大きく育ってるからとか!」
「ううん、違うと思う。……わ、私の巫女の力が無くなった……!?」
「……。」
黙ったままのカムイコロさんは、そう……無言で私に相づちを打ったようなものだ。
「私、巫女の力が奪われた……!?」
「いや、無くなっただけだろう。若しくはいずれ戻ると思うよ。」
カムイコロさんも幾ばくかの不安な顔を見せていた。私の眼を見ないのだからきっとそうなんだろう。
「カムイコロさん。お母さんを呼んできて。理由は独りになりたいだけ。二階の自室で静かにしていたいだけ。それだけだから心配しないでいいよ。」
「あぁ、それだけだよな、だったらそうさせてやるよ。待っていろ。」
「うん、ありがとう……。」
カムイコロさんは無言で立ち上がり、ゆっくりとした足取りで台所へ歩いて行くと、直ぐに声が聞えてきた。母の声なのだが、心配した感じの声ではなかったので良かったと思う。きっとカムイコロさんは上手に言ってくれたのだろう。
「ありがとうございます。カムちゃん。」
それから大地と母がお布団を二階へ運んでくれた。私はカムちゃんからお姫さま抱っこされて運ばれていく。う~ん、気持ちいい。だがこの時は私の体調が少しだが戻っていたのに気づかなかった。
私は母に我が儘を言った事にお詫びを添えて、三人には出て行ってもらった。次に声が掛ったのが夕食の時だった。昼はきっと私に気遣ったものだと思う。お陰で今はお腹はぐ~ぐと鳴いている。
「きっと大地から浣腸を受けたせいだろうか。やけにお腹が空いてきたよ。」
「カムイコロさん、入って下さい。」
「あいよ、で、具合はどうだい。」
「え、はい、だいぶんと良くなりました。これならば蟹も食べられそうです。」
「あ……わり~。毛蟹はもう無いんだ。蟹雑炊で頼む!」
「え、そんな。カニは無いのですか?」
「豚肉はたんまりと残してある。先に肉を付けるのがいいだろうよ。」
「えぇ我慢。もしかして大地が蟹を食べてしまったとか?」
「実は……そうなんだ。甲羅しか残っていなかったよ。だけども出汁は十分に出て美味かったよ。」
「へ~そうなんだ。大地に弁償させる。明日から北海道へ行かせる。」
「だったら俺が極めつけの穴場に案内してやる。期待していてもいいぞ。」
「キャ~、ウソっぽいな。」
「じゃかましい、百匹は捕まえてやる。この部屋中に放してやるよ。」
「ホンと! わ~嬉しい。」
「う~……そ。」
私はカムイコロさんに手を引かれて起き上がると、
「おい、亜衣音。脚が着いている。」
「そりゃ~生きていますもの、幽霊ではないよ。」
「マジ……脚が大きくなっているよ、左脚だけだがよ。こりゃ~さっきの双子の添い寝で力が戻ったかもよ?」
「え、あ、ホンとだ。脚が生えた気分。」
「おいおい、もっとマシな言い方は無いのかよ。こりゃ~残りの二組にも是非に でも添い寝させるか。」
「そ、そうかな。あり得ないよ。そんな事!」
「ま、先に飯食ってけろ。」
「はい!」
私はカムイコロさんに抱かれてお座敷に下りていく。お爺ちゃんとお婆ちゃんも来ていて、大声で迎えてくれて喜んでいる。
「お爺ちゃん元気だよ。心配かけてごめんなさい。」
「おい婆さん。あれを出せや。」
「あ?……れ?……あれはやめたがいいですよ。マムシに泡盛を漬けたのは!」
はたしてそれは、言葉通りであった。切り身のマムシの肉が……在った。
「ビェ~・・・イヤ~~~~ン!!」
七月から九月まで、頭の中に温存していた案を一気に書き上げて……とうとう
案が切れてしまいました。途中で零した案も多々あったような?
すみません……。




