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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第九章 私の……巫女の力が無くなる日

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第96部 私の巫女の力が無くなる日……


 1970年12月29日


*)……自主退院


 お祭り好きなカムイコロさんが朝早く見舞いにきてくれた。その……笑顔が何とも言いがたい、そう表情を表せる言葉が出ない程の……目も口も笑っているのだが薄く横に開いた口元といい、薄く横に伸びた? 目尻といい、それにいつもよりも鼻の穴は微妙に膨らんだ感じも受ける。頬の肉はこれもまたやや膨らんでいて、


「おはよう……。」

「あ!……何のご用でしょうか? 警備なら間に合っていますが!」

「おや、随分な挨拶だね~。見舞いに来たのがそんなに迷惑だったかい?」

「大地……見舞いの品に釣られてるし、もう……バカ!。」


「いいじゃないかい。今日は退院するんだろう?」

「えぇ?……どうしてそれを?」

「地獄耳だってば。それよりもあんた、随分な貧相だね~、ま~胸は辛うじて現役を保っているようだが、こりゃ~問題だね。」

「いいのよ、あ、そうだ。カムちゃん。私を負ぶって逃げて!」

「いいよ、それくらい。随分と軽そうだし問題ないよ。」


「え?……亜衣音、痩せたのか!」

「バコ~ン!」

「痛いだろうが、なにしやがる。」

「お、久しぶりに効いた音が響いたね。」

「大地、いつも私と居て気づいていないとは……なんとも情けない。この薄情モノが、一遍死んでこい。」

「ここの旦那は、嫁の胸にしか目が行かないらしいね。とてもいい旦那だよ。」

「カムちゃん。良くはないわよ。今朝も胸が、スッスッスーで風邪を引くところだったわよ。」


「デヘヘヘ……。」

「もう一遍、いこうか!?」


「……。」


 垣根の山茶花が残り少ない花弁を辛うじて保っている。横にある薮椿は気が早いのか数輪が咲いていた。今年の秋も暖かったからか椿も狂い咲きしたのだろう。大地は今の私よりもカムちゃんがげて来た手土産に視線を向けている。人狼の鼻の嗅覚は優秀過ぎるのも悪いかもしれないな。


「ほれほれ大地。この毛蟹を食べたいのだろう?」

「いや、違う。……そうだけれども。」

「五杯……とても大きいよ?」

「大地、学校の花壇からクロのお野菜を収穫して帰ろうか。今日は退院のお祝いをさせてもらうわよ。」

「五匹だろう?」

「カニはね、湯がいておいたから、杯と数えるのよ。」

「俺、モズク蟹しか捕ってなかったからな。」


 私がお布団をはねてベッドから起き上がる姿を見たカムイコロさんは、今までの上機嫌な顔を引きつらせて、


「お、おい、亜衣音……お前……その姿はどうした。この前のブタの脚はどうしたよ。」

「う……うん、十二月に入ってだんだんとこうなってしまったのよ。だからここの主治医は信用出来ないから帰るのよ。」

「そうだな、それがいいだろうよ。でも、その脚の細さは異常だろうて。」

「カムちゃん。脚だけではないのよ。左の腕も……そのう、細くなっててさ、今では力も入らない。」


「バコン、バコン、バコ~ン!……」 

「やめて~……大地をぶたないで!」

「ぎゃ~、こら、クマ、なにしやがる。」

「大地、てめ~は女房も守れないのかよ。乳ばかり見ているから嫁の異常さにも気が付かないんだよ。……おうおうおう、亜衣音。こんな役立たずはさっさと欣二郎に乗換えてしまえ!」

「え~、なんでだよ。亜衣音は元気だろう?」

「バカ、死ね!……こんな細い嫁にしてもなお、元気だと言えるのかよ!」


「キャッ!」


 カムイコロさんは大地の目の前で私をいきなり裸にしてしまった。胸のブラは大地の為に着けてはいないから、パンツ姿にされてしまった。私を見る大地の顔はみるみる変化した。因みに右腕だけは正常なのだ。だからか大地は何も私の事を疑わなかったのだと思う。だって、右腕しか使わないのだから。


「いや、大地。見ないで!」

「ほら、この前とは大違いに痩せているだろうが。腹はデカイが子供?」

「ち、違います。ただの便秘です。お野菜とミカンを食べればお通じは良くなります。」

「ほ~……これを見ても亜衣音は元気だと言えるのかい?」

「……亜衣音。どうしてこんなに綺麗になったんだい。」

「わ~嬉しい。大地、だ~い好き!」


「バコ~ン!」と、大地がカムちゃんからぶたれてやんの。


「亜衣音、このまま着替えろ。直ぐに家に連れて帰るさかい、あ~途中で豚肉も買ってやるよ。」

「うん、お願い、」

「……?」

「……します!」


「あいよ、任せな!」


 私は大きめのチャンチャンコに包まれて、カムイコロさんの背中に負ぶさって温々として病院から脱走した。バスや電車は……私の料金は払わない、所謂無賃乗車で済ませたカムイコロさん。


「ちょっと、お客さん。」

「この子、大きな赤ん坊です……。」

「இ……いいよ、」


 カッと熱くなった顔の私。心でひたすら謝ってはいたのだが。「すみません」と言いながら大地は後から付いて来ていた。


「ねぇ~カムイコロさん。家には連絡していないから電話を掛けたい。」

「俺が言っておいた、心配は要らないよ。」

「わ~ありがとうございます。」

「いいよ、これくらい。どうせタダだし。(連絡なんかしてないよ、バカ!)」


「バコ~ン!」と、また大地がカムちゃんからぶたれてやんの。


「こら! 大地。カニをつまみ食いするんじゃないよ。」


 なんだ、そういうことか。大地、可愛い!!



*)久しぶりの我が家……


 昔通った通学路。途中からはお父さんの車で通学になったから、それに入院ばかりで本当に懐かしいねこの道は……大地。


 その大地からは「ふん!」と言う感じが帰ってきた。少なからず気落ちする私。


「大地、嫌いよ!」

「なんだい、それ。……それ、それ、それ~。」

「キャッ、キャ!……大地、私のお尻を突かないでくれる?」

「いいじゃん。……面白れ~!」

「バフン!」

「おい、何処に馬糞が在る。」

「大地、亜衣音ちゃんのお尻だよ。これで幾分か腹が小さくなったかもよ?」


「いや~ん、カムイコロさんのスケベ! バカ。」

「ハ~ハッハ~、俺は生涯独身だよ。旦那を紹介してくれ。」

「上野に行けば!……昔、○○でバイトしてたと聞いた覚えがある。」

「亜衣音、重たい。降りれ!」

「やだ!」

「俺は熊本のクマ牧場と聞いたぜ、どっちだい。」

「大地、蟹は持って帰るが、いいかい?」

「ご、ごめんなさい、もう言いません。」

「うむ、よろしい。」


「இஇஇ……。」



 私たちはカムイコロさんに負けたのだった。遠くに見えて来た我が家。その板塀から覗き見る人物は……母だった。タオルを頭に被る、女将さん被りと言うのだろうか。(今では古風なタオルの使い方だ。テレビドラマでは良く見る風景か。)


 遠目に私たちというか、見えるのは図体のでかいカムイコロさん。母は気になって何らかの作業の手を休めて見ているようだった。ハッキリとカムイコロさんを見分けては、駆け寄ってきてくれた。


「おやま~、お山のカムイコロさん。どげんしたとですか~。」

「お届け物です、この背中の荷物を受け取って下さい。」

「そげんか、大きいお歳暮ですか……?」


「お母さん……。」

「え?……亜衣音かい?」

「お義母さん、今戻りました。」

「んまぁ~大地くん、それでは……荷物は亜衣音!」


「お母さん、ただ今……。」


 私のか細い声を聞いた母は、急いでチャンチャンコの綿帽子を撥ね除ける。其処には紅くなった私の顔がある。顔は細ってないので母は安堵したのだが、家の玄関に立った私の姿を見て、わんわんと大泣きをして……いや、私が母を泣かせたと言うのが本当か。


「お父さん、いや、穣さん……亜衣音が、亜衣音が……。」


 文章の一時保管のために編集のボタンを押そうとしたら、亜衣音の裸の姿があった。

小説家になろう、も、広告収入は必要ですね。だって私たちは無料でお世話になって

いますものね、有りがたや有り難や……。

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