第93部 藍の気持ちと……私の気持ちと
「藍ちゃんは小学校時代は居なかったよね。」
「あ~わわわ……そうだったかな。居たと思うよ?」
「ウソだ~い、バカ藍!」
藍は、私が中学二年生の春の四月に転校してきた。東京都からの転校と言うだけでクラスの女の子たちは藍に群がった。藍は男の子には興味を注がず来る者は拒まずのスタンスだ。だけども藍本人に関心を示さない女の子には容赦なくイジメの対象にしていた。クラスでは……私がその最たるものだ。どうしても靡かない私が藍の最終目標に据えられて、常に嫌がらせを受け始めた。
「藍ちゃん!……斯く斯く云々だったわよね!」
「亜衣音ちゃん。……斯く斯く云々の意味が解らないのですが、」
「上を読んで貰えば判ります。それで藍はどうして私に突っかかって来たのかしら?」
「え”!……あ……その、もういいじゃないのよ。」
「いいえ、説明を乞うジャン・」
「ギャバン!」
「わ~亜衣音と藍のコンビが羨ましい、ジャン・ギャバンって、なによ。」
「知らないわよ。映画館なんて行けないしね。」
「私……田舎だったわよ。映画館なんて無かったわ。唯一、うら寂しい神社でチャンバラ劇の屋外上映会が有ってね、姉かな、一緒に見に行った。」
「へ~そうなんだ。」
「上映会が終わって神社のとても長い階段を下りていくのだけれども、もう真っ暗。そんな夜道を三キロは歩いて帰ったな。星明かりで歩くなんて今では想像も出来ないよね。」
「田舎だもんね~!」x3
屋外での当時の照明はローソクだけだった。懐中電灯も無い時代だ。近所からの訪問では常に驚かされていた。相手からも私からも暗すぎて見えないのだから、いきなり声を掛けられて驚いていた。
「藍ちゃん。話してよ。」
それまで笑っていた三人は急に静かになった。んまぁ、大地は私の横で狸寝入りしているわ。私は意地悪して大地の背中を人差し指で首から腰まで一筋に撫でてくすぐる。……うん、反応ありだ。でも学校行って疲れたんだね。
藍が重い口を開いた。
「私、お父さんから強制的に北海道へ転校させらたんだ。だから、周りにも反抗していて、それで私に興味が無い人には全てに敵意を向けていて……ごめんなさい。」
「いいわよ、それで未来ちゃんに参考書を送って貰って沢山勉強して、一番になる努力をしたのよね。」
「亜衣音ちゃんのバカ!……でも一番にはなれなかった。」
「藍ちゃんは一番になっていたじゃないのよ。忘れてないよね。」
「それは……そうだけれどもね、二番手が常に僅差で亜衣音ちゃんだったからたぶん、亜衣音ちゃんはわざと二番手になっていたのよね。」
「いや~、私はあれが精一杯だったよね~。」
「バコ~ン!」
「ギャバ!」
「ウソこくな!」
「うぐぅ~。」
「あ~、それで私にもっと参考書を送れって、そういう事だったのね。」
「うん、あの時は未来のお陰で助かりました。お礼を申します。」
「で、未だに参考書代は頂いておりませんが、どうしてでしょうか。」
「今度お支払いします。」
「今度っていつよ、まさか、出世払いなのかしら?」
「は……い、それでお願いします。」
「いいわよ、待っててあげる。……で、藍ちゃん。お話の続きは?」
いよいよ藍の核心が語られるのか!
「そ、それは……、お父さんがいつも口にしていた名前だったから、かな。『この高校には亜衣音という人狼の巫女がいる。成績で抜いてみろ!』と、常に言われていたの。あ、電話でだよ、だって私は一人住まいだったよ。」
「藍、ゴメンね。私は巫女だったから力の暴発が怖かったの。麻美ママから毎日のように言われていて、だから友達への接近は……そのう~友達は作りたかったの。これは本当よ。」
「それで亜衣音はどうして私たちが出来たのかしら。」
「未来ちゃん、意地悪。これはね、藍のお陰かな。卒業喧嘩で私は暴走しなかったでしょう。それと、お父さんと同居が出来て嬉しかったのも事実ね。私の気持ちが穏やかになったのは……やはり藍のお陰かな。」
「うんうん、そうだろうそうだろう。大いに私に感謝したまえ。何なら未来への付けを払ってくれてもいいのだぞ。」
「ぶっぶ~、私にもお金はありません。家計も大変なのだからね。」
「そうね、双子が三組の六人も居るのよね。それぞれお財布は違うのだけれども、こうも入院が続いていたらお小遣いは無理だよね。」
「うん、未来は判っているのね、ありがとう。」
「お父さんから強制的に、未来ちゃんと別れさせられた恨みが大きかったの。だから周りにも反抗して敵意を向けた先に亜衣音ちゃんが居たのね。」
「私は藍の恨みを晴らせる処だったんかい。……あの度重なる嫌がらせ……懐かしいわね。私が怒ったらもう藍も判るよね。」
「うん、判るよ。今は手も足も舌すらも出ないとね。」
「舌は出します。だってご飯食べたいし。あ~あ、私も早く良くならないかな。」
部屋にはベッドが二つ置いてある。大地は出て行ったから一つは空きだ。その空いたベッドの上には藍と未来がちょこんと座っている。大地はお布団を被って寝たふりで、私は綿入れを着込んで起きて二人と話している。
「へ、へ、は~クション!!……ぐび~、」
「亜衣音ちゃん。もう~汚いんだから~。」
「うん、大地がお布団を使ってるからね。」
「もう十二月だから寒いよね。……これ借りるね。」
「へ、へ~クション!!……ぐび~、」
「へ、~クション!! ズボ……ビュ~ン!!、」
と、未来は呟きながら台拭きで私の鼻を拭いてくれた。鼻紙は貴重品? なのか、未来は使ってくれない。二回目のくしゃみで未来はようやく鼻紙を丸めて鼻の穴にねじ込んでくれるが、三回目は突風となって二発の弾丸が遠くのドアまで飛んでいった。
「それじゃ、私たちは帰るね。一年生は大人しく馬術部で頑張っているわ。」
「そうね、さっきは大地が追い返したのよね。私もクロに乗りたいな~。」
「美歩はね、クロにも雷神にも乗れるようになっているわ。」
「え?……雷神が美歩を乗せるって、どうしてかな。」
「馬が合うんでしょう?」
「ギャハハ……そうだよね、馬が合うんだよね、アハハハ……。」x3
「あ~、煩い。俺も帰る。亜衣音は一人で寝ていろ。」
「うん、皆、今日もありがとう。」
「亜衣音。明日は一年生を寄越すからな。」
「はい、待ってます。」
これは私たち家族への一般開放という意味になる。最後の母も一昨日には退院している。昨日が大地だった。残るは私一人だから警護は少なくて済むと解釈出来る。だからといっていつ危険が訪れるのかが判らない以上、赤ちゃんとうは面会謝絶扱いだ。早く妹たちとも会いたい……な。
藍と未来と入れ替わりにお父さんが来た。
「大地くん、居るか!」
「あ、お父さん。」
「はい……。」
「大地くんにはやはり亜衣音を護衛して貰いたい。よってまた入院してくれ。今度の敵は……関東八州連合……の欣ちゃんだ。」
「え”~~!!」
「お父さん。どうしてなのよ。あれは安全だと思うけど危険なの?」
「あぁ、それがな、あの欣ちゃんが亜衣音の部下になりたいとしつこくてな、弱っている。夜に来られたらこちらも困るからね。どちらかと言うと、危険だね。ウブで真っ直ぐで、どうも美歩ちゃんには抑える事が出来ないらしいんだよ。」
「鍵だけでは無理なんだね。」
「錠というのが本当だろうよ。俺の田舎は鍵も錠も同じ意味合いで、カギ、と言うのだよ。」
「そうだね、田舎特有の考え方だもの。」
柿も牡蠣もその他カキも同じ発音なのだから。ボウブラ……お分かりになる方は居られるか!




