第89部 無事だった……藍と碧と翠と……
1970年11月11日
*)乙女の三人も……
私が起きてから未だに見ていない、藍と立花の双子が気になったので未来に尋ねた。
「うん、消えた。それも亜衣音ちゃんが倒れた後には居なかったと思う。」
「そんな、攫われたのかな……イヤだよ、どうしてなのよ。」
「また明日考えようね?」
「うん、そうだね。私には何も出来ないから、仕方ないかな。」
私の質問は未来にとっては都合の悪い、答える事が出来ないのだろうかと、ついつい勘ぐってしまいたくなる。それでいて、「また明日考えようね?」とはどうしてだろうか。明日には明確な答えが貰えるのだろうかとも、考えた。でも私は疑義の質問は投げなかった。
「亜衣音ちゃん。また明日来るからね。」
「うん、ありがとう。美歩も今日は帰ってくれるかな。」
「え~……あ! そうか、夫婦で会話のお時間だよね。だったら帰る!?」
美歩は本当に疲れているのだと感じた。返事も漫ろだし、私と大地への配慮とも受け取れない事を言うし。寝不足でいながら辛うじて正気を保っていると言うのか、見ていて可哀想とも思ってしまった。(美歩、ゴメンね!)
「あ、あ、あ。夕食が来てない。私、大地くんにご飯を食べさせなくてはならないわ。未来は亜衣音ちゃんよね。」
「大地、夕飯はどうしたい?」
「いいさ、自分で腕を挙げて……う…うわ~動かない。どうしてだ。」
「そうなのよ。私だって口を動かせるだけだよ。それにもの凄く怠いね。」
「未来ちゃん。決まりだね。もう少し亜衣音ちゃんで遊んで帰ろうね。」
「え~私で遊ぶんだ。やだな……でもとても嬉しい。」
「俺ヤダよ。口を開けるとか、みっともなぜ。」
ドアをノックするなり、勢いよく入室した看護婦さん。台車で夕飯を運んできてくれた。ニコリと笑った顔の第一声がとても大きな声だった。
「わ~良かったね。ステーションでも皆が心配していたんだよ。いっぱい食べて早く元気になってね。」
「ありがとうございます。早く学校へ行きたいです。」
「ほら、旦那さんも!」
「俺、……、」
「はいはい、身体を起こして~も……ダメかな。」
「俺はまだ動けないようです。何処にも力が入りません。」
この看護婦さんは一目で大地が動けない事を見抜いた。それで身体を起こしてやろうとするも、起こしても上体の維持が出来ない事も直ぐに見抜く。
「そっか、では通い妻のお二人にお願いしました。よろしく。」
また冗談とも思えない冗談を未来と美歩に投げかけるのだ。恐らくだが私と大地の二人が眠っている時の、美歩の献身的な介抱の姿をみていて、この子は大地を好きなのだろうと、判断したものとも思われる。ま、事実だから私としても何も言えない。
からかわれた美歩は眼を細めて喜んでいるのか、冗談に対して冗談で返していた。ならば喜んでいるのだと思う。
「はい、任せて下さい。全部押し込んでおきます。」
「うふふふ、頼もしいわ。」
初めて見る大地のかよわい顔とか細い声は、どことなく甘えたように見えたので、私は、つい二人の付き人の表情も眼で追っていた。そこには優しい? 天使の笑顔があった。イタズラ好きな小さな天使? と言うべきかな。(もう大地で遊ばないで!)
嵐のように過ぎ去って行く看護婦さん。とても元気が良い。私と大地はもう子ツバメのように口を開けていた。私のおかゆの半分は大地に譲る。大地も身体は素直なようだ。私の輸血が効いたのね、良かったわ。
「はい、あ~ん。」と、言いながら自分さえも口を開ける美歩。も~私が妻と言う事を忘れてはいませんかね、美歩さん!
でもでも明るい二人による献身的な看病で、私と大地は楽しい一時を送る事が出来たのはとても嬉しかった。事実だものね……。こんな楽しい時間は直ぐに過ぎ去る。楽しいと思う時間は短かくて苦痛の授業は長い。もう帰ってと私は二人に帰宅を促すと、「うん、」と言ってくれた。
「したっけ!」x2
と、言って二人は帰って行った。ようやく二人だけになった病室は静寂が訪れてくれた。大地は起きているのだが口を開かない。口を固く閉じていた。私は大地の心を考えてみても判らない。ただ、私たちが撃たれたという事実が歯がゆいのだろう。声を掛けてもいいのかと私は思い悩んだ。
「大地、」
「あぁ、判っている。今後はどうしようか。」
「私は普通の女子高生になっただけだから、これでいいのよね。」
と、随分前の言葉を繰り返してみたが、大地にはそう思えないらしい。
「いや、今後も俺らの命を狙ってくるのは間違いないだろうさ。でもな、こんなに身体を動かせないとなると、俺はお前を守れない。そこがなとても悔しいんだ。」
「ありがとう。大地の気持ち……とても嬉しいわ。」
「うん、そういうことだ。」
「でも、騒がしい二人が帰ると何だか寂しいね。」
「俺は……そうでもないかな。」
しんみりとしていた二人の空間に嬉しい一報が入ってきた。
「よ~!…もう……くたばったか!」
「あ! カムちゃん。久しぶりだね、どうしたのよ。」
「ほれ、あの三人を連れてきた。少々臭かったので海で洗濯してやったんだがよ。もう秋も深いらしくて凍えていてさ、お風呂を使わせてくれないか。……おうおう早う入れ入れ……遠慮するな。」
カムイコロさんはノックも無しに笑いながら入ってきて直ぐに用件を言うのだ。それも、悪い冗談を口にしながら。私の了解を受けてドアの外に居る三人に手招きをして誘っている。誰かと思えば、
「あ、藍ちゃん。……良かった~。」
「亜衣音ちゃん大地くん、ごめんなさい。全て私のお父さんなのよ。」
「え? なにがなの?」
「あ、あ~、今回の事件だよ。お父さんが何か毒みたいなモノを作って、それで……、」
「藍ちゃん、大丈夫よ。藍ちゃんには恨みは無いよ。心配しないで。」
「大地くん……。」
「いいぜ、だが俺は亜衣音を守る事が出来なくて悔しいんだ。」
「うん、ごめんなさい。」
「亜衣音さま、ご無事で何よりで御座います。」x2
「双子ちゃんもどうしたのよ。」
「はい、翠がお腹を壊して学校をサボっていたからね、私も……テヘヘ!」
「なによ、碧だって拾い食いしてゲリしてたくせに、フン!」
「ほら亜衣音。いいかい、お風呂。」
「あ、ごめんなさい。つい嬉しくなって、早く入って頂戴。」
「良かったな、お前ら。」
「はい!」x3
「それとだな、三人とも泊まっていけばいい。ベッドなら俺が適当に見つけてくるさ。」
「藍ちゃん、それに双子ちゃんもそうしたら?」
「はい、お邪魔いたします。」
私はカムイコロさんの表情が硬い事を考えた。答えはやはり心配していた事にどうしてもそうなってしまう。攫われてしまい、カムイコロさんに助けられたと。私は心で謝りながら、三人が本当の事を話してくれるのを待つ事に決めた。
「カムちゃん。ありがとうございます。お礼をしたいのですが、大地でいいですか?」
「お!……いいね~、お風呂に入れたいんだろう?」
「はい、その~私も凄く入りたいのですが、身体が動きません。それに三人も居ますので布団とシーツも替えたいのです。」
「そうだな。乙女のままで卒業しただろうが、イヤできないだろうな、もう処女でもないから……アハアハハ…。」
「ベ~だ!」
私は先に大地を差し出したが結果は見えている。当然こうなるよね。
「うん、お願いします。」「もう、ウブなんだから!」
「きゃ~可愛い!!」「ぎゃ~!!」
ぎゃ~!! とは大地の悲鳴で夜は更けていく。すっすっす~と言う大地。
着替えも無い乙女の四人もすっぽんぽんか!
「俺もだぜ、ヒグマになってもいいか……?」




