第86部 桜花祭二日目……じゃじゃ馬馴し?……
1970年11月6~8日
*)桜花祭……二日目
「う~、私の新しい敵なのかな。大地はどう思うの?」
「なに寝ぼけた事言っている。ブラとパンの色柄が違っているぞ!」
「ギャボ!……、」という悲鳴が階下まで聞えている。
「今日も大地くんはぶたれているのですね、もう……可哀想すぎるかしら。」
「あれはあれで上手くいっている証しだろうよ、沙霧さん。」
「はい、パパに抱っこされてて頂戴ね、小百合ちゃんと水脈ちゃん。」
「ギャボ!……、」
小百合ちゃんと水脈ちゃんは私の情緒に反応しているのか、今朝はとても機嫌が悪い。だが不思議とパパに抱かれると機嫌は直る。
「ほら、二階でも亜衣音は負けたようだな、もう静かになったよ。」
大地からベッドに押し倒されてブラを剥ぎ取られて、私は大人しくなって大地を受け入れていた。
「うん?……下の方が良かったのか?」
「大地のH。下の方が好みなんだ、」
「うっ…………、」
「亜衣音、早く明子姉さんからお化粧をされて来い。」
「は~い、ちょっくら行ってきやす。」
「巫女の新しい魔法、窓がゲート! エアー・ドライヴ!」
「バカだなぁ、どうして玄関から出て行けないのだろうね。」
「今日も安泰ですね、穣さん。」
私はまた二階から自室へ戻って大地と二人して降りていく。おはようと言いながらも私は澪お姉さまに尋ねた。
「澪お姉さま、馬事公苑へのお願いは通っていますよね。」
「はい、万事が塞翁が馬ですよ。」
「上手い! 座布団を十枚!」
ハハハと笑う澪お姉さま! まだお姉さまの計画は終わっていなかった。
「夫婦喧嘩は終わったか!」
「は~いお父さん。……お母さん、行って来ます。」
「はい、気をつけてね。」
「お義母さん、いつもお弁当ありがとうございます。」
「大地くん、今日もお願いね。」
「お母さん。大事なモノを借りてごめんなさい。」
「いいわよ、二度と遣わないのだしね。」
「亜衣音。未来は写真部を説得出来ているよな。」
「そうね、演劇部は藍ちゃんが協力依頼が出来ているよね。」
「たぶん……今日の演題だもの、共に協力して貰わなくては出来ないね。」
「亜衣音。あの吉田 一美だが、入部の許可を出しておいたが良かったか。」
「いいわよ、来る者拒まず、よ。」
「いいえお義父さん。亜衣音は追い出す方に精力を傾けますので、この先安心はあまり出来ませんよ。」
「ベーだ!」
「そ、そっか、大地くんの言うのが正しいかもしれない。」
「ブーだ!」
「バコ~ン!」
「ゲッ!」
「亜衣音、今日の魂胆はなんだい。」
「それ、難題だからね。」
私は朝から吉田 一美を探した。この子は肩までの黒髪で可愛い。右の耳はどうしてか絶対に見せないという奇妙な癖がある。左の耳は髪を掻き上げる時に良く見せるのだが。そこがとても女の子らしい仕草に見えるから始末に負えない。
「うわ~、小悪魔の登場かしら!」
「網タイツでないだけましだろう。」
「だって、鞭を持っているよ、あの子。」
「あれは大根の荷紐だよ。亜衣音は飛躍しすぎだぜ。」
「でも、昨日よりも断然お化粧が濃ゆいわよ。大地狙いだね。」
そう言うヒソヒソ話を終えて大地と私は吉田 一美に近づいた。
「おはよう、一美。」
呼び捨てである。一美は気にも留めないのか笑顔で返している。……ウギャ。
「おはよう、大地くん。早いね。」
「あぁ、今から馬事公苑に行って馬さんを連れて来なくてはならなくてね。一美、来るか!」
「はい、この大根を持ってお馬さんに挨拶したいです。」
一美は大地との世界をさっさと築いてしまった。
「うぐぅ~。」
「亜衣音、どうした行くぞ。」
「は~い、付いて行きますよ……。」
今日の当番は一年E組の山口 智子と岡田 眞澄のはず。もう来ているだろうか。厩舎で女の子の声が聞えるから居るようだ。
「智子、眞澄、おはよう。」
「あ……先輩。おはようございます。」
「こちらは同じクラスの吉田 一美さん。カスミと呼んでいいわよ。」
「へ~、先輩の新しい恋敵ですね? そう呼ばせて頂きます。」
「亜衣音さん酷い紹介はしないで下さい。私の立場が弱くなりましてよ。」
「吉田先輩は馬が好きなんですか?」
「そうね、小さい子供の時に農耕馬に良く乗せられていたわね。」
「へ~ド田舎なんですね。」
「そうよ高校進学で初めて東京へ出てきた、お上りさんがね。」
「ほほう……先輩、群馬ですね?」
「じゅーくこくな!」(生意気なことを言うな!)
「え”!」と、一同は唖然とした。
「翠、苛めないでよね。どうして貴女は新しモノが好きなのよ。」
「いいえ~部長、私は人間観察が好きになっただけですよ。ね~碧。」
「勝手に言ってなさい。」
「それで碧。もう二頭は出せるのかな。」
「はい、準備は整っております、だいじなの。」
「んまぁ~碧ちゃん。まだ言っているのね。」
「なんもだべさ。」
「ウギュ!」
碧からは北海道弁で私も馬鹿にされた気分だった。これに対して笑うだけの大地。一美は機嫌を直してクスクスと笑っている。
「亜衣音、今日はクロを出そうか。こいつを乗せて行こうぜ。」
「あ、大地。それいいね、賛成だね。私、クロの右側で対処するね。」
「大地くん、何を言って……いますか、こいつとはだれ~~~!!」
「キャッ、スカートが、……あ、お尻に触らないで、いや、いや~ぁ~~~!!」
大地は惜しげも無く一美の脚をさらけ出させてクロに乗せてしまった。そう、大地は一美のスカートを捲って太ももに右手を掛けてから、思いっきりクロの上に放り投げたのだった。私は巫女の風魔法をほんの少しを遣って一美のバランスを取って、右足をすかさず鐙に差し入れる。
「う……ぐぅ~。手荒いです、大地くん。」
「気持ち良かったか? 一美。スカートの上からだと手が滑ったら、おっこちる。」
「はい、不思議な気持ちになりました。もう大地まで私をからかうのですね。」
「キャ~、」x2
双子ちゃんはこの一連の大地と一美の動きを見て歓声を上げたが、私は一美が大地を呼び捨てにした意味を分ったのだが、やはり釈然としない。
「亜衣音さん、ごめんなさい。大地くんを呼び捨てにしませんと、文章が一行に収まりませんでした、もう二度と大地さんを呼び捨てにはいたしません。」
「いいわよ、それよりもクロから落ちて私から踏まれないように気をつけなさい。容赦はしないわ。」
「お~、怖!」
「大地。一美でテストしたい。馬術部のテント小屋に行くわよ。」
「えっ……あ~なる~ほど。理解した。って、俺が相手で良いのかよ。」
「いいわよ、美歩よりも断然薄化粧で可愛いわ!」
「え~なんですか~、私はどうなるのでしょうか。」
「一美、貴女は花嫁衣装を着て貰います。婿は大地。どぉ嬉しいでしょう?」
「はい、喜んでお受けいたします、です!」
今日の馬術部の催し物は「シャンシャン馬!」だ。曳き馬一周に花嫁衣装の記念写真付き、もう最高だろう……。
「亜衣音、ここまで来るのに随分と苦労したようだね。」
「うん大地。三千文字も費やして二日目のお題目をやっと考えられたわ。」
「よしよし、今晩は期待してていいぞ!」
「わ~い大地。大好き!」
「亜衣音さん、私降りたい。最初は亜衣音さんですよ。然もないと卒業まで祟りが残りそうで怖いです。」
「私ではダメよ、もう羞恥心も残っていないもの。シャンシャン馬に乗っても笑えないよ。」
「へ~もう年増したのですね!」
「うぎゃ、」
馬事公苑の騎士さん達により、四方を囲んだテントが張られていた。ここが今日の馬術部の舞台になる。
「え”~澪お姉さまに徹お兄さままで!」
「はい子連れですみませんが、お手伝いに来ましたよ。着付けは任せて下さい。旦那さん候補が居ない女性には漏れなく徹さんをお貸しします。」
「え~澪お姉さまはそれでいいのですか? 私は大地を取られそうで嫌だな。」
「うふふ、亜衣音ちゃんも直ぐに慣れるわよ。」
「おいおい、澪……。もう俺には飽きたのかな。」
「いいえ、これからですものね……ウフッ?」
「あ~朝から胸が支えそうだわ。お化粧担当は美歩でいいかな。」
「はい亜衣音ちゃん。濃ゆいお化粧ならお任せよね!」
「一番心配かもしれないな、……いやダメだったりして。」
「徹お兄さま、馬たちの飾りはよろしいでしょうか。」
「任せておけ。地方巡業で慣れたものさ。クロともう一頭だろう?」
「はい、今日はクロを参加させます。一頭は曳き馬で旦那さんを乗せてもいいですね。あ~、私も乗ってみたいです。」
「あ、亜衣音ちゃん。この花嫁衣装の手直しがあるのよ、こちらで手伝って!」
「はい、お姉さま!」
私は着付けように紅白の横断幕に囲まれた小部屋に移動した。簀の子を地面に並べただけの簡単なお部屋だ。
事の始まりは十一月三日だった。祖父の家に仕舞ってあった母の花嫁衣装を私が偶然に見つけた。そこで初めてお母さんの花嫁衣装を見る事が出来たのだ。「私、着てみたい!」と言ったら、
「いいわよ、亜衣音の結婚式に着せて遣りたかったのだけれどもね、穣さんは新しい衣装を作ってやるからと、言ってくれましたのよ。」
「わ~、お母さんありがとう。そうね、これでクロに乗って……シャンシャン馬になってみたいな。」
「へ~随分とロマンチックなのね。だったら文化祭で乗ったらどうなの?」
「あ、いい、とてもいいわ。私、クロと大地に抱かれて乗ってみたな。」
「うふふ……、だったら自分で頑張りなさい。」
「うん、ママ。」
お母さんに無理言って頼んだのだ。これがあの日の冗談が現実になった。
「徹さんは大地くんをお願いね!」
「おう、直ぐに準備しておく。」
この密約に私は気づいていない。徹さんは大地に三度笠とカツラに草鞋を履かせて待たせていた。曳き馬役は徹お兄さまが引き受けてくれた。これらの衣装は文芸部からお手伝いを頂いている。
「亜衣音ちゃん。ここを持ってくれるかな。」
「はい、これでいいの?」
「うん、いいわよ、……。」
と、私は澪お姉さまの口車に上手に乗せられて、母の花嫁衣装を着てしまっていたのだった。
「文金高島田を載せて……完成したわ。う~ん、亜衣音ちゃん、とても綺麗!」
「ありがとう。でも、着込んでしまったよね。」
「亜衣音ちゃん。大地くんはね、頬紅が好きなのよ。だからもう少し頬紅を付けましょうね。」
「ありがとう。美歩ちゃん。」
「ホンと……より綺麗になったね。もしかしたら白馬の王子さまが迎えに来るか、外に出てみましょうか。」
「え~、なんでよ。一美を一番に笑いものにしたいのよね。」
「まぁ、可笑しな事を言うのね。大事な花嫁衣装を一番に着ないでどうするのよ。さ、行きますわよ、これは戦争よ! 波寄せる多数女から大地くんを守る為、大地くんに悪い虫を寄せ付けない為ですよ。」
「は、はい、そうですね。虫は嫌いです。」
私はお姉さまに手を引かれてテントを出ると、そこは……。
「わ~綺麗。」
「素敵な花嫁さんだね!」
「う、う、う、う、……出し抜かれた気分だわ。」
「美歩、そう落ち込まないで!」
「きゃ~!」
大地が私を抱き上げた瞬間に大きな歓声が上がった。朝礼台を利用して更に小さい台を使って私は大地によって、クロの背中に乗せられる。当然に横を向く姿勢だ。大地は私の横になるのだが、後ろに乗って私を両手で包み込む。そうやって手綱を取った。
はなむけはお父さんだった。これにも私は大変驚いてしまった。無粋だ言って徹お兄さまは曳き馬を辞退した。
「亜衣音、沙霧さんと同じでとても綺麗だぞ。」
「お母さんの名前は余計です!」
「アハハハ……。そうだな、済まない。」
「うん!」
「みなさ~ん、はい、拍手~~!!」
「ウキャ……!」
「写真は任せておけ!」
「あ、パパラッチ!! ……お願いします。」
もう間もなく開始の時間の十一時になろうとしている。十一時には桜花祭開始の花火も上がって、これを合図に校内はより騒がしくなっていく。
私と大地の二人は拍手で送られて、時計回りでグラウンドを三周する予定だ。それは私が進行方向に向かって左側を向くから時計回りになる。
「大地、お願いします。」
「お、おう、照れるな。俺は前を向いているからいいが、亜衣音は左を向くから観客の顔が見えるから恥ずかしいだろう。」
「うん、眼を閉じていたい位よ。でも大丈夫だよ。」
「亜衣音! 行くぞ。」
大地の顔を覗いたら必死になっているのが良く判る。少し顔も蒼いかもしれないね。私はお化粧があるから、赤でも蒼でも関係ないのよね。
一周目、何とかこなせた。大きな歓声があがる度にギャラリーは増えて行く。二周目。クラスメイトがもう容赦なく囃し立てて、冷やかしてくれちゃっている。
十一時となり、数発の音だけ花火が上げられた。
「ドンドンドン!」「うぐっ、……、」 「バンバンバン!」
「ガハッ!」 「ドンドンドン!」
「亜衣音、やられた。大丈夫か!」
「うん、桜花祭を中断させたくないの。後一周をこのまま回れるかな。」
「半周だ、何とか……する。」
お母さんの深紅の花嫁衣装が……。
私たちに桜花祭の三日目は訪れなかった。




