第74部 文化祭だよ……でもまだ計画中なの……
1970年10月9日
*)文化祭だよ……なにをしようか!
大地はちまちまと休む理由から学級委員長は交替して貰っている。これは大地の自らの要求であって決して担任の先生の指導では無かった。私のクラスには校長先生より特別な配慮がなされてあるから、基本、私たちの意見は通るのよ。校長先生の好きな馬術部の部員がこのクラスに揃っているからだよね。私たち馬術部の皆は乗馬に夢中なのだから校長先生がたま~に見学されてあっても気が付くことは無かった。
九月の中頃より、ホームルームで文化祭の催し物の討議? いや協議が何度となく繰り返されてきた。何処のクラスも同じだろうか、特に強い指導者や出たがり屋が居なければ何処のクラスも同じ道を辿るものだろう。
「大地、私は台風体験教室を開きたい。」
「お前が……巫女の力を使って扇風機になりたいのかな。」
「そうなるね、どうだろ。」
「アホか却下だ、巫女の力がバレたらどうする。」
「どうしようか……。」
「俺たちは馬術部で曳き馬をしようぜ。二頭の馬が居るからさ、これならば子供でも楽しく乗ってくれるよ。」
「大地、今はクラスの出し物だよね。」
「あ~そうだね~……。」
「関東農業大学の野菜と果物の販売がいいで~す。」
「賛成~。」
「パチパチパチ。」と、すんなりと決まった。
これは経緯の描写が面倒だからと独断で決められたが、大学ではろくな野菜は栽培されていなかった。考えたら分るよね、狭い関東農業大学には思うに一二年生には植物等の基礎教育と、社会に出る為の一般教養科目の課程しか無いはず。実地の基礎学習は……北海道だったりするからだ。林業の演習とか東京のど真ん中では出来る訳が無いのは明白だし田植えもか?
ま~九州大学のフランス語の授業を闇で受けてはみたが面白い事は無かったのだ。友人が遅刻はするは、クラスの生徒は少ないわ……遅れて授業に入るにはそれなりの度胸は必要だった……。もちろん、二度と行かなかった。
「誰だ、こんなバカな案を出した奴は!」
「ここには居ませ~ん。どうせ近くの農家から仕入れて売るつもりで~す。」
「あは~……そうなのか。これは楽ちんだね。」
「意義な~し。」
という事で、校庭の高い樹の下でテントを張って開催される予定。勿論、学校には優秀な人材が揃っている。優秀とは頭脳が優秀という意味ではない、某有名な野菜栽培農家が多数、そう……家業が優秀なのだ。将来の家業を継がせる為にボンボンと姫をこの学校に送り込んでいるのだ。農家としてみたら学校で商売が出来るとは考えもしなかったというしね。以後、この催し物は未来永劫引き継がれて行く。野菜の売れ残りは屑として全部馬事公苑へ贈られる。送られるの間違いだろうね。
「亜衣音、これならば俺たちが抜けてもクラスは問題ないさ、な?」
「うん、大地が言い出しっぺなんだね。頭が良い!」
次は馬術部の催し物の件だが、藍ちゃんが一番に意見を言った。実に的を射た一言だった。
「部長!……でしたら最初の仕事ですよ、お分かりですよね。」
「え? なにがよ。」
「新たなる敵……生徒会のガリ勉さま、立花美歩様よ。」
「うっ……そうだった。校庭を荒らすなと散々言われていたわね。」
生徒会の会長は二年生の玉置玲子なのだが、どうして立花美保が出て来たのか。時期に意味は判るから省くとしてだ、では何故に会長の玉置玲子を介して立花美保が介入してきたのか。共に同じ理由からだと推測された。今年度の主席入学……扱いにされたのだから。こんな事も意味があるのだろうか。
立花美歩は某有名な食品加工メーカーのお姫さまで、この学校は地元でもあるし農業大学の付属高等学校なのだから。食品の素材の勉強をさせたい親が勝手に選んだ学校だろう。寄付がモノを言う? 大学の研究を支援しているから高校でも無碍には出来ない。性格が多少悪くても卒業までの大学路線は外されない、はず。中には面白くなく思う人物も居るのかな。少なくともあの杉田先生だけは嫌っていたみただが。
「部長、私たちも曳き馬に賛成です。」
「あなたたちは、クラスの役割の担当は決まっていますの?」
「そのう……二人とも問題児ですので追い出されていまして……ハズいです。」
「そう、それはよか、いいえ良くはないですね。」
「いいのです。この馬術部からも追い出されなければ卒業まで生きていられます。」
も、という事は方々から追い出されたという意味なんだが、素直でいい娘っ子と優男なのだがな。他人の恋人に目移りしてチョッカイを出すから嫌われている、とかあり得ない。ある意味、私の性格と似ている?……とも言えるかもね。
「亜衣音、行こうか。ここはお前の役目だからな。」
「うん……副部長、行きますわよ。」
「ケッ……。」
「部長、ガンバ!」
「また戻るから、みんなは部活を頑張っててね。」
と、言って馬事公苑から学校へ。直ぐに生徒会室へ赴き私は挨拶抜きで、
「失礼します、馬術部の方から来ました。」
生徒会室の机には夥しい紙の山が作られている。その山の間から眼窩の黒い瞳が光を出してモノを言う。どうしてか他の役員はお留守のようで、この場には生徒会の副会長の立花美歩の独りだけだった。何か意味があるのかな?
「あ、そう。で、詐欺以外の用件でしょうね。」
私の冗談に対して冗談で返す生徒会副会長……。並みの性格ではないよ途中で考えた私の冗談だったが意図も簡単に返されてとても残念だな。(……いとも簡単をもじって意図も簡単と)
「勿論です。今度の文化祭の馬術部の催し物が子供相手の曳き馬と決まりましたので、決済をお願いします。」
立花美歩は右奥に置いてあった紙を引き寄せて目を通している。しばし無言でその紙を読んでいる様でもあるが、その実は別な意味を含んでいた。……そう、「意を決する……。」だ。口元がほんの僅かに緩んでいたのだが、美歩は下を向いていたから私と大地には気づく事は出来なかった。
何もなかったような顔つきで私を見つめる美歩、素っ気ない言葉が顔の表情を物語るようだ。(こいつ、冷たい性格か!)
「そ、決まりかしたか、ではそこの申請用紙に記入して出しなさい。あ、あ~馬術部にはこの追加二枚の申請用紙を出しておきますので、よろしく。」
「は、はい。許可をありがとうございます。」
「ただし、条件がありますが分りますよね。校庭の修復は必須ですよ。」
「はい勿論でございます、一年にトンボを曳かせて整地する為のローラーは大地に曳かせます。」
「うぎゃ~またも俺かよ。」
と、大声で残念がる大地。立花美歩は、当然よ! と言わんばかりの澄ました顔で少し笑う。大地は大地で私を睨んでは舌打ちする有り様だ……もう可愛くない。だが私は生徒会副会長には負けたくはない。
「他に適任者は居ません。」
「ケッ、」
「クスッ……、ではよろしく。」
「ありがとうございます。」
「でもトンボは貴女がするのですよ?」
「当然だよな?……亜衣音。」
(では一年生には馬のう*この処理をさせますから……。)とは言いかけたが言わないでおいた。
私は頬をプクリと膨らませて大地を睨んで、次は美歩を睨んで、
「は、はい。失礼します。」
副会長の立花美歩はクスリと笑って見せて、自分の思い通りに事が運んだのかと私は察した。その考えは私だけではなくて大地も感じていたらしく、私は美歩に負けたのだと思い知らされた。
「亜衣音、あの女狐は俺らが来るのを待っていたようだぜ。」
「負けたわ、準備して待ってたのは……この用紙を渡したいからに決まってるよね。」
私と大地の二人が生徒会室を出たが受け取った用紙は三枚。うち一枚は文化祭の申請用紙なのだが……、読んだ瞬間に私は固まってしまった。私を見た大地は何事かと案じていた表情は、……何だか憎らしく思えてしまった。
「ねぇ大地。大地は女の子にモテるようね。今度は生徒会の副会長が入部したいとは大地目的以外では考えられないわ。」
「ちげ~だろう目的は分らないよ。」
「ホントにそうかな、部室に戻って相談だね。」
私は馬事公苑の部室に着くまで終始無言で通していた。大地は私の表情から何かを察してか、後から付いてきていた。もちろん面白くないと口に出したいのだが。
女の事情は女の意地で口には出せない、だってかっこ悪い嫉妬だからね……大地。
部室で待っていた立花の双子に私はこれまた無言で、突っ慳貪な態度で渡していた。碧が三枚を受け取り翠に内の二枚を渡していた。碧は目を丸くして、
「部長~もしかしてですね、この二枚はセットではないでしょうか。もし入部を断れば馬術部の存亡が怪しくなるとか。」
「この立花美歩さんの入部申し込みと、文化祭の催し物の許可申請用紙よね。」
「それに三枚目はどう見たって入部の許可書だもんね。丁寧に文書を要求するあたりは流石にラクーンですよね……部長?」
「私は前の事件があったから馬術部の廃部を申し出たのよね、でも不問に付されたままですし。授業料免除の美味しい条件も無くしたくは無いし、あ~どうしよう。」
私は国体の練習の時を思い出して溜息をついていた。
「ですよね~私たち双子にすればとてもいい条件です。部長~ありがとうございます。」
「うん、これ位は何ともないわよ。うちだって助かっているハズよね、大地。」
「だろうね、なにせ入院に次ぐ入院で、出産に次ぐ出産だしよ。亜衣音も子共が出来ただろう。」
「え~~!!」x7+1
「爆弾発言です。亜衣音さま、本当でしょうか。」
「だ、だ~いち、な、な~にを、言うのかな、わ~たしが妊娠なんて、あ~りえませんよ~。」
「亜衣音ちゃん。おめでとうございます。で、学校はどうするのよ。普通の学校は退学を押し付けて来るのよね。」
「うぐぅ~。」
「押し付けはしなくても体育の時間は強制のランニングは普通に行われるのよね、こうなると学校も人殺しと同じよ。」
「教育委員会がそういう指導をしろと言うらしいわ。」
「で、亜衣音ちゃんは、どうなのよ。」
「うぐぅ~。」
「みんな、どうも本当らしいわね、亜衣音は白状したようなものよ。」
「うぐぅ~。……、やだ、違う。大地、嫌いよ!」
「そう言えば亜衣音さまは母乳が出るとか、これは間違いありません。先輩、白状しましょうね。」
「大丈夫よ、だって大地は種なしだものね!」
「え~~!!」x6
女の子が全員驚いている。勿論、大地も驚いてはいるが、これは亜衣音の逆襲だと直ぐに気づく。岡田眞澄くんはもう私を狙わないよね?
「亜衣音さん? それを言ったら女が寄ってくるから俺は硬く禁止したよね。」
今度は大地からのカウンターが私に殴りかかるようだ。もう返す言葉が見つからない、私は降参するしかないのか。
「うぐぅ~大地の意地悪。もう冗談ででも種なしブドウの秘密は漏しません、許して下さい。」
「ふふふ、俺、勝ったね!」
「大地、浮気したら即、気持ち良くあの世に送ってあげる。」
「うぎゃ~絶対に浮気はいたしません。」
「大地先輩。私とHしましょうよ、子供が出来ても私一人で育てますから~。」
「ごら~智子~。」
「ウヒャ、……ウソですよ、奥様!」
「まぁ、奥様だなんて……。」
「亜衣音ちゃんは、one's first love なのかしら?」
「первая любовь……よ!」
「こんなアホは放っておきましょうか。それでツンデレの副会長を入部させていいと思う人……、」
「は~い異議な~し。」x5
「未来も賛成だから多数決で入部の許可を出します。」
「どうして私の名前が出るのよ~も~。」
ここで部員の全員が私に視線を送る。この意味は直ぐにでも書類を出して来なさいという意味らしい。私としては立花美歩を少しじらしてやりたかったのだが、部員の意向で直ぐに出すと決めた。
一度馬術部は解散になって同好会だったものが再度馬術部へと昇格した、美保が校長へひと言添えるだけで済んでしまうのである。校長先生としては馬術部の解散扱いは全くしていなかったようだがね。
しかし私の腹の虫は収まらない様子だから、大地をからかう事にしたのだ。
「う~分ったわよ。直ぐに催し物の申請用紙を出して来ます。大地、」
「ならば行くとするか。でもな~なんで入部の許可書を要求するのだろうね。」
「大地~私も双子ちゃんを産むのかな~。」
「え”~!」x6+1
「亜衣音、あり得ないよな! ウソだよな。」
「大地、学校辞めて働こうね。」
「うぎゃ~……、」
「部活終了よ! みんな帰ろう……。」
「は~い、」x6
私一人が勝ち誇った笑顔で学校に戻って直ぐに用紙の二枚は提出したわよ、それでツンデレな副会長は喜んでいたわね。
「ガリ勉さまのバカ! 生徒会はどうすのよ。」
「玉置先輩!……誰かを入れて下さいね、よろしく~。」
「席は残しておくから、後で呼び戻してやるからね。」
私は生徒会とか何とか委員会に興味は無いし空中分解しても関係無いよね、大地。
翌日になって馬事公苑の部室に現れた生徒会副会長は真顔で怖い印象を受けた。
「立花美歩……。よろしくお願いします。」
余程の緊張からくる表情なのだろか、部長の私としてもふざけた返事は出来ないものでここはしっかりと返事をしておく。
「美歩さん、よろしくね。」
(大地、あれが本物の立花美歩かな。)
(偽物でもあるようだぜ。底が知れね~な。)
私と大地の念話である。耳と口があれば誰にでも簡単にできる。
「あ、すみません、もう立花の姓が既に二人も居りますので以後、美歩さんとお呼びしますがよろしいでしょうか。」
「はい、後輩ですので構いません。」
「部員の紹介ですね、こちらが立花の双子ちゃん。雨宮藍ちゃん、明神未来ちゃん、こちらは一年E組の山口智子ちゃんと岡田眞澄ちゃんね。あ、ひと言添えると眞澄ちゃんは男か女なのかが不明な存在だから気をつけて。」
「……?」x2
「で、俺はなんだ、」
「クスッ……。存じております。白川大地さんですね。」
「あぁ、よろしくな。」
「……はい、」
「ねぇねぇ副会長さん。部活が出来るほど生徒会は暇なのでしょうか~。」
「あら、私はパーフェクトですわ、何も問題はありません。お二人は一年E組のあの有名なお調子者さんですね。」
「ちょっとあんた達。そんな呼ばれ方しているの、ま~呆れた。」
「はい……どうぞ。十年物の粗茶でございます。」
「へ~初めてお茶が出たのね、ありがとう。岡田さん。」
「後輩ですから当然です、部長もどうぞ。……死なない程度に美味しいのです!」
私の紹介に眞澄が怒ったの? ま~自宅から持って来た八女茶だから大丈夫とは思うけども、耐性のない美保はどうなるだろうか。美保もパーフェクトというからには、何らかの手段は講じているものと信じたい。
学校の掲示板には緊急の募集要綱が貼出されていた。「望む……生徒会役員候補生!」これは美保が勝手に書いて貼出したものらしいと、後日の笑い話になって風聞で聞いたものだった。
「それで美歩さんは馬は初めてですよね。とりあえず曳き馬で試しますか?」
「いいえ行き成りで構いません。田舎に帰省したおりは乗馬で楽しんでおりますから。」
「へ~それは凄いのかも知れない。大地、乗せてみようか。」
「そうだな……それで美歩さんは農耕馬とかと、言わないよな。」
「え?……馬は馬でしょう。どこか違うのでしょうか。」
「う……やはりお嬢さんか。」
「美歩さん。乗馬の服ですが体操着で試した後で購入を決めて下さいな。」
「はい、そう致します。」
美保が言う処の田舎とは何処なのかが気になるが、敢てここはスルーする事にしたんだな。藪蛇だったら部長の私が困るのだしね。麻美お母さんみたいな牧場だったらどうしようか、ね~大地。
「大地、先に行って待っててね。」
「走らせておく。」
簡単に言って出て行く大地。私が大地を目で追っていたらね、その視線が~もう一人も大地を見送っていたんだよね、う~これはやはり大地目的の入部か!
キャッ、キャ言いながら着替えを済ませる一年生、やはりお調子者さんなのかと再確認させられた。
古代の日本には馬は存在していなかったらしい、それで中国から輸入されたのが大和朝廷の頃らしくて何処がどうなって馬が輸入されたのか疑問に思える。大和朝廷のお殿様は大陸のご出身だったりしたのかな。
私たちが馬場に出るとやはり大地は雷神を走らせていた。クロは大人しくしているが二頭の元競走馬はホロお婆さまが手綱を持って待っていてくれた。この二頭の馬は何処かに売られたとは聞いていたがどうして残っているのやらね。
「美歩さん。大きい馬ですが乗れますか? 名前はクロ。大人しいので誰にでも乗るまでは可能です。」
「えぇ、大きいですね。是非乗りたいです。」
「やはり曳き馬から始めますね。……ホロお婆さま、お願い。」
「いいよ、良く見ておくんだよ。」
「はい……美歩さん。乗って!」
「…………・・”。/」
「亜衣音……。」
「うんお婆ちゃん、踏み台を持ってくるから待っててね。」
やはりいきなりのクロへの乗馬はハードルが高いかな。農耕馬は西洋馬よりも大きいのよね、西洋馬とはサラブレッドとかを差すけれどもね。でもクロは農耕馬よりも更に大きいのだ。
だったら美歩が言う馬は、ラバ!
「いえ、いいえ。先に乗って教えて下さい。何とかしますから……。」
「怖い事はないですよ、私が先に乗りますから見ていて下さい。智子、踏み台を持ってきておいて!」
「はい。……眞澄、行って来て。」
「智子、文字数を増やさないでくれるかな。」
「てへへ……。」
「先に未来ちゃんと藍ちゃんが乗るから見て下さい。」
「はい、よろしくお願いします。」
未来も藍も今ではすっかり慣れていて、左足を鐙に掛けて少し腰を落とし、飛び上がるようにして乗馬している。ま、本当の事を申せばだ、無様にしがみつく、という言い方が正解かな。小柄な女性には難しすぎる。ホロお婆さまの提案で左側の鐙だけは……二つあるのだ。腰位の高さの鐙には脚が届くはずはない。だから長めのロープで垂らした別の鐙を装着している。
「二人とも……無様……ですわ。これ、背が高すぎです。」
「美歩さんは私が補助してあげますね。それとも大地がいいかな。」
「白川さん、う~ん、大地さんでお願いします。」
「はい却下ですよ。先に鐙に左の足を掛けて、クロの鞍を引っ張るようにして右足でジャンプするのよ。先にお手本ね。」
私は説明したようにゆっくりとクロに乗ってみた。端から見れば凄く簡単なように見えるだろうが、そういう事はないのだ。元競走馬だけで無くクロにも二つの鐙を着けている。
「え、えぇ、とても簡単です、」
「お尻を持ち上げますので頑張って!」
「はい、……行きます。」「せ~の、はい!」「キャッ、」「ボテ!」
「あ~やっぱりね~踏み台がいるかな。」
「先輩。持ってきました……どうぞ。」
「ありがとう。……美歩さんはこれだと大丈夫ですよ。クロは私が手綱を持っていますからね。」
「は、はい、……よっ……。わ~、乗れた、乗れましたわ。」
「うん中々に上手ですよ。ホロお婆さま曳き馬をお願いします。」
「あいよ、ほれ、手綱を持って両脚で馬を挟むようにするんだよ。」
「はい承知しております。」
「行きますよ……。」
ホロお婆さまは轡、別名が口輪を持ってクロを誘導して歩いた。身体は前後に揺れるから女の身体には堪えるかもしれない。轡と口輪は地方によって呼び方が違うのかもしれないが、自分の地方では口輪と聞いた覚えがある。子供の時だから馬はもの凄く大きく見えて、怖かったのを覚えている。他には、豚、牛、山羊、羊、ニワトリが普通にいたものだ。町には猿もいたな。
「どうだい? 馬の背中は高いから見下ろす世界が違って見えるだろ。」
「はいお婆さま。凄いです、世界観が変りそうですよ。」
「そりゃ~良かったよ普通では味わえないよね。一周したら亜衣音と一緒に乗って走るといいよ。」
「はい、頼んでみます。」
馬場の中央の狭い範囲での一周だから直ぐに元の位置に戻る。
「亜衣音、一緒に乗っておやり。」
「はい、ホロお婆さま。……大地~来て~、」
私は大地を呼んだ。一緒に並んでというか、大地を先に歩かせて美歩さんに乗馬を見せる為だが。
「おう、何だ、見本か。」
「うん、いつものようにお願い。私は左後ろから付いていくよ。」
「分った、ゆっくりな。」
大地は雷神を降りて私の乗馬をサポートしてくれた。勿論、自分一人でも乗れるのだが、美歩さんを不必要に怖がらせる訳にはいかないからね、それでも驚いてくれた?
「亜衣音、いいか、上げるぜ。」
「うん、……はい。」
「キャッ、」
「クロが揺れて怖かったよね、ごめんなさい。」
「え、あ、いいです。いつもの事ですから。」
「へ~強がりなんだ、」
「そ、そんな事はありません。」
「では大地に続いて歩くね。」
「……。」
「大地、走って!」
「え……!・・・・・・きゃ、……キャ~、いや、もういい、やめて、お願い。」
「大地、もっと速くでいいよ。美歩さんは大丈夫だからさ。」
「おう、」
「ギィヤァ~~~~^^^^^^~~~~~!!」
「アハハハ……面白いよね、アハハハ……。」
「あ、亜衣音さんが面白がってどうするのですか。」
「もう降りるね。」
「はい……お願いします。」
「後はお一人でどうぞ……。」
「え?……、」
「いいわよ、このまま私は降りてしまうね。」
「今、走っています……よ、」
「はい手綱を取って、鐙に靴を掛けて……、後は適当に走っていいよ!」
私は身体を捻らせてヒョイとクロから降りたのだった。
「ギュワ~~~!!」
「え!」
「きゃ~速い、速いわよ、わ~楽しい……。」
「亜衣音、ありゃ~たまげたよ、天賦の才能だよ。」
「えぇ……そのようです、私のクロが奪われてしまいそう……。」
美歩の一人乗馬になってからの大地は後を付いて回ってくれていた。
「亜衣音、クロを取られたね。」
「うぐぅ~。大地もだよ、うぐぅ~。」
「ふふふ……。可笑しいな亜衣音。」
「未来、私を慰めて頂戴。」
「ヤダ!」
それから双子ちゃんが上手に付いて走っている。その後、美保は小一時間も戻らなかったのだから驚きだ。
「藍ちゃん、美歩さんは何者かしらね。」
「亜衣音ちゃん、ただの横好きなだけよ。ぐやじ~ぃ……。」
「私も悔しいよ……大地~!」
私は悔しいので憂さ晴らしに雷神に乗せて貰った。
「大地、乗せて!」
「いいぜ、前がいいか!」
「うん、前がいい。降りて!」
私は大地と入れ替わりに雷神に乗った。鐙を大地に譲って大地が私の後ろに飛び乗ると同時に、私は思いっきり身体を右に倒したら大地が抱きついてきた。う~~ん幸せ……の瞬間。私は手綱を大地に渡した。
「大地、奔って!」
「落ちるなよ……。」
「わ~また見せつけてくれちゃって、お姫さまはいいな!」
「藍ちゃん早く誰かを見つけなよ。応援するからさ。」
「未来はいいのかしら。」
「私は間に合っています。でも……大地くんならいいかも!」
「うっわ~横恋慕……。」
この日を境にして美歩さんは学校を休んでしまった。事情を知らない私たちは美保を茶化して話の種にしていたのよ。
「きっと筋肉痛よね、私も最初は動けなかったもん。」
「未来と同じじゃないわよ。」
「アハハハ……。」x6
「新しい快感に目覚めたかも!?」
「えぇぇぇ~~~~!!」x6
「だって……女の子ですもの……。」
「眞澄……強制退部!」




