第72部 澪お姉さまの出産……
1970年9月23日
*)澪お姉さまの出産……
その後、私たちは襲撃を受ける事無く澪お姉さまの出産日を迎えた。私は元気だから澪お姉さまの双子は順調に育って真っ白な霊の子が産まれた。前の様に寝込む事は無くて良かったと産まれるまではそう思ってたのに……。
「おんぎゃ~、おんぎゃ~、」x2
「お母さん。大きな双子さんですよ~。」
「あ、ありがとうございます。……白子の様に随分と色白ですね。」
「お母さん。大丈夫ですよ。とても綺麗なお嬢さんに成長しますかね。」
「はい、先生……。」
分娩室からいつもの病室へ移された。ここにはまだ目覚めないお母さんが居て姉妹で入院となった。明子姉さんは随分と前に退院して今では杉田家の養女として家族揃って住んでいる。
お母さんは暫くはカムイコロさんと同居だった訳だ。私と大地の二人は学校が済んでお見舞いに行ったら丁度澪お姉さまが病室へ移送されていた。赤ん坊は二人の看護婦さんが抱いてあって、
(澪お姉さま、二人は巫女の霊力が強すぎるよ……。)私は一目で判った。でもお腹の中では極普通だったと感じていたのだからこれはどうしてだろうか。
私と大地の二人は病室が落ち着くまでの少しの時間だけれども、一階のロビーで待機していたら徹お兄さんが丁度やって来た処で……私は一計を考えてしまった、閃いたのだよね。澪お姉さんをとても喜ばせる魔法をよね。ウフフ~ン……。
私たちの三人は廊下で打ち合わせを済ませていたらね、看護婦さんから入室を促されたんだね。私は前屈みで怖ず怖ずと入ってみた。
「こんにちは~……澪お姉さま! ご出産おめでとうございま~す。」
芝居がかった私の所作、でもそんな状況ではなくてね。この双子ちゃんはとても激しい大きな声で泣き騒ぐと言える位だった。澪お姉さまが乳房を含ませると激しくお乳を飲むのよね。
「亜衣音ちゃん無事に産まれました、ありがとう。」
「うん良かったわ。私、産まれる時は巫女の力を吸われて寝込むのかと覚悟してたんですよ。」
「えぇ、その点は私も安心したわ。」
「それで旦那さんの徹さんはいつ来るのかな、家族でお祝いをしなくちゃね。」
「それがねもう来ているとは思うのよね。亜衣音ちゃんさ、巫女の力で召喚してよ出来るよね。」
「う~ん……どうかな~出来るかな~やってみる!」
私は横の大地にアイコンタクトを送ると大地は、本当にぶっきらぼうな態度で立ち上がり病室のドアを開ける。
私は、
「澪お姉さま! 今から徹さんを召喚いたしますので少し目を閉じていて下さいね。私が声を掛けたら眼を開けて下さい。」
「なんだ、成功の可能性はゼロだね。」
「う~言ってくれるじゃないの。いいわよ直ぐに『キャッ!』と言わせるから見てらっしゃいな。」
「目を閉じていては見られないわ、無理な事言わないでよ。」
「アハ~そうよね。いいわよ目を閉じていて下さいね。」
「私は徹お兄さまをここに召喚いたしま~す。」
私はそう言って澪お姉さまの横を離れて病室から出る。大地はドアボーイであるからドアを少し開けて待っていてくれた。
病室のドアには鍵などの細工がしてあってか開けると音がするのだ。これだと出入りが分る訳だし私は口の前に右手人差し指を立てて……シーっと言った。
「大地。今、徹さんと入れ替わるね。」
「……。」
「さ、徹さん入って下さい。一分後位で澪お姉さまの名前を呼んで下さいね。」
「あぁ分ったありがとう。」
「では親子水入らずで……。」
私はそ~っとドアを閉めた。後は……知~らない。
「行こ、大地。」
「……。」
「親子の初対面だね!」
「亜衣音も悪だな、あんな芝居のどこが必要なんだい。」
私と大地は自宅へ戻るからナースステーションの前を通って直ぐ横の階段を降りようとしていた。するとナースステーションから慌ただしく看護婦さんが出て行く靴の音が聞こえてきて、
「急患だろうな。やっぱエレベーターは使わなくて正解だっただろう?」
「そうね大地は優しいのね…………、」
私の意識はここで途切れてしまう。後は大地から聞いた話だ。
看護婦さんが駆け込んだ先は澪お姉さまとお母さんの部屋だった。澪お姉さまが授乳中に引きつけを起こしたから徹さんが緊急ボタンを押したのだ。駆け込んだ看護婦さんが私を抱いた大地とすれ違う。
「わ~亜衣音ちゃんもなの~?」
「え? 誰か、どうかしたんですか?」
「えぇ、休ませておいて……、」
「はい……、」
大地が踏み込んだ病室は、起きた事はそればかりではなかったのだ。お母さんまで悲痛な叫び声を上げてもいたというからやはり大変だっただろう。私もその一因……一員にもなっていた。
「看護婦さん亜衣音が倒れました。直ぐに先生を呼んで下さい。」
「あ、あ~どうしよう……主治医は銘々が違う~のよね~少し待って下さい。誰か戻りましたら私が呼びに行きます。」
大地は私を優しくベッドに寝かせてくれて、私は本当に死んだような顔をしていたというから、大地の心は穏やかではない。それに輪を掛けるのが澪お姉さまの痙攣する顔と身体。「うわ~亜衣音~」と譫言を大きい声で叫ぶお母さんだったらしい。
「だ、だ、大地くん、これは……な、な、なんだい、みんなどうしたのだ!」
「徹さん、ここは落ち着いて下さい。え~と、そうですね、澪さんの手を取って呼びかけて下さい。」
大地はここで恐ろしい光景を見ていた。澪お姉さまの乳を飲む双子は泣き叫ぶようなお母さんに気にも止めずに一心にお乳を飲んでいたという。その双子の顔が恐ろしく見えたというから少しの間も眼が離せなかったとか。
「お母さんが大変だからね、」
そう言って双子ちゃんを澪お姉さまから引き離すと、また大泣きになって二人の看護婦さんは病室から育児室へ双子を連れていった。
直ぐに集団のように人が雪崩れ込む。最初は澪お姉さまの主治医、次は杉田の祖父母に続いてお父さん。主治医以外の三人は大地を見てそれからベッドの上の私を見て驚いた。杉田の祖父母は泣いてはおれないのだが窓際で澪お姉さまの診察を見ていた。同時に視線はお母さんや私にも注がれている。
「大地くん、亜衣音も倒れたのか、それに沙霧はどうしたんだ。」
「えぇ何も分りませんが恐らく同時に発作が起きたのではないかと思われます。」
「だとしたら、澪の娘か!」
「たぶんそうでしょうか、お母さんのお乳を飲んで一気に覚醒したのかと思います。亜衣音は『恐ろしい程の巫女の力を宿している』と言っていました。」
「う~また一難か~、本当に何という数奇な運命なのだろうか……。」
大地は、わなわなと震えるお義父さんを見て、
「お義父さん、お義母さんの手を握って安心させて下さい。」
「あ、そ、そうだね大地くん。」
「はい、直ぐに落ち着くはずです。」
「そうであって欲しいよ……、」
澪お姉さまは乳房を通して精気を吸われたのだろう、それとお母さんと私は双子の巫女の力で精気をいつものように奪われたのだろうか。逆に考えたら澪お姉さんの命を守る為にと、私とお母さんの巫女の力が作用したのかも知れない。一人が一人に巫女の力を与えたような感じなのだろうか?
「う、う、う~、穣……さん、」
「あ、沙霧さん。起きたか、そうか、良かった……。」
お父さんは泣いて喜んで、続いて澪お姉さまも痙攣は治まり徹お兄さまが泣いて喜んだが、私だけが取り残された。
「亜衣音……、」
そう呼んでくれる大地の声も聞こえない、いつもの闇の世界に私はさまよっていたのだろう、今の瞬間でも精気が流れだしているのを感じていた。
そんな私の手を握る大地は、大地から私へ精気が流れて行くのが感じられたと後に話してくれた。
「亜衣音……俺が付いているからな。」
それから大地は一睡もせずに私の手を握り、見舞いの誰もが居なくなれば抱いてくれていたという。ありがとう……大地。
先生は「このまま休めば大丈夫です」と言ってお父さんと徹さんには帰宅を勧めていて、でも大地は私を診る、と言って頑なに帰宅を拒否してくれていた。
私とお母さんと澪お姉さまには点滴の処置だけで夜が過ぎていった。双子はその後ミルクを飲んで落ち着いていたし、同時に色白が普通に戻ってもいた。これはもしかして、私が産まれた時と同じなのかもしれないな。
翌朝になれば病室の二人と育児室の双子ちゃんは元気になっていて、私は翌日の昼前には目が覚めてたみたいだ。
私は通常食では足りないからと、カムイコロさんにバーガーの買い出しを頼む位になった。
お母さんは嬉しそうにして、穣さんからおかゆを食べさせて貰っていたな。両親が可愛く見えていた。
澪お姉さまは通常食であったが、私のバーガーを見ていたので五個から二個を澪お姉さまにお譲りした。
夕方には高校の姦しの五人と一匹がお見舞いに来てくれた。一匹とは唯一の優男の岡田眞澄だよ。こいつは女の子のような名前だから時々は女の子の扱いで書かれていたりしている。
それにね、明子姉さんも双子ちゃんを抱いて私のベッドで座っていたから、双子が三組も揃っていてその六人の赤ん坊は同じような顔をしていているからと、この姦しには見分けが付かないと零していた。これに祖父母も見舞いに来たから病室には入れないと、祖父母は部活の六人を追い出してしまった。その言い方は、
「大地くん、このお嬢さま方にアンミツをご馳走してやってくれ。」
と、言って二千円札を出していた。う~あり得ない千円札を二枚だよね。大地は喜んで出て行ったが女の子の六人の接待が終わって病室へ戻ると、
「お爺ちゃんお金が足りませんでした、追加で五千円払って下さい。」
と言って大地は五千円を貰っていたが、夕食後に冷えたハンバーガーをこそっと出してくれたのだった。勿論、澪お姉さまにも渡していたのよね、それをお母さんは嬉しそうにして見ていたがついに、
「大地くん、私にも頂戴?」
「え……! 直ぐに買って来ます。」
「だったらジュースもお願いね。」
「はいー、喜んで~。」
と、ニコニコしながら買い出しに行った。
「亜衣音ちゃん。いつも身体を拭いていてくれたね、ありがとう。」
「お母さんはやっぱり分っていたんだね。」
「うん、それに小百合と水脈のお乳もありがとうね、母の私に娘への授乳を説得してくれた。み~んなみ~んな聞こえていたからね。」
「へ~そうなんだ……? ヤダ! もしかして私と大地のHも聞いていたとか?」
「亜衣音……そうなのね~母の私が赤くなるような。もう、……まだ高校生でしょうが~。」
「お母さん、それ全部ウソなのね、引っ掛けは……ず・る・い、よね。」
「亜衣音ちゃんだって、ウソ言ってるよね。同じでしょう?」
「えへへ……本当だよ、いっぱい大地に抱かれていたよ、私はね。」
「ふ~ん、穣さんは来ないのかな……。」
「お母さん、明日からはリハビリに付き合うよ。良くなったら私の代わりに学校をお願いね!」
「いいわよ、とても楽しみだわ、うん。」
「アハハハ……もう耐えられない、ごめんなさいアハハハ……。」
澪お姉さまが私たちの会話を聞いていて大声で笑った。
「うぐぅ~。」
「澪、亜衣音ちゃんに悪いでしょうが。」
「う、はい、ワハハ……だって、まだダメ……アハハハ……。」
澪お姉さまはお腹を抱えて笑うからか、
「う~笑い過ぎてお腹が痛くなったわ、三人目が産まれる~。」
「え~大変、食べ過ぎたのね……。」
澪お姉さまはそれでも笑いながら、ヒョコヒョコと歩いておトイレに駆け込む。
翌朝、澪お姉さまの元へ双子ちゃんが連れられてきた。
「うわ~真っ赤な顔、」
「はい、大声で泣いていましたから……すみません。」
「え? あ、謝る必要はありません。一晩でしたが大変でしたでしょう。」
「いいえ、ミルクを飲んでご機嫌でした。朝は空腹で泣いただけだと思います。」
「はい、直ぐにお乳をあげますね。」
「はいは~い、次は小百合ちゃんと水脈ちゃんですよ~。」
「はい、ありがとうございます。」
二人の看護婦さんは、
「一人余りましたが、どうしましょう……。」
「え、本当ですね、誰が二人を抱きますか?」
「無理、むり。私は未婚で産んでおりません。」
「じゃ亜衣音ちゃん、頑張ってお乳をだしてね。」
「うぐぅ~。」
そう言って看護婦さんは私に本当にそれぞれの赤ん坊を預けてくれるのだから参ってしまった。お母さんと澪お姉さまの授乳が交替になるまであやし続けるのは退院になるまでの一週間も続く。
「お母さんって……気持ちいいかも!」
あ、独り言だよ、でも二人のお母さんはクスリと笑っていたな。大地~早く私を助けに来なさいよ~。
「亜衣音も産むのかい。」
「うん、それもいいね。今からだと七月かな、十八歳になるからいいかも。」
「あ~その前に結婚式が必要だね。」
「うん期待しているね。」
「澪、お金貸してね、」
「いやよ、双子の育児費が大変よ。」
「亜衣音、自腹でお願いするわ!」
「うぐぅ~。だって私には無いよ、お金なんて二千円くらいだもん。」
「お爺ちゃんに頼んであげるね、双子で迫れば直ぐに落とせるわよ。」
「双子はお母さんと澪お姉さまですね、応援いたします。」
仲のいい姉妹でもお金の貸し借りは普通でないみたいでね、お互いがお互いを競争でもするかのように牽制しているよ、これでは娘も大変だよね~。
「そう言えば穣さんは、放置されっぱなしだよね亜衣音ちゃん。」
「さぁ~どうだったかな~、お婆ちゃんが居るから大丈夫よ。」




