第71部 とても残念で……とても素晴らしい二人
「うひゃ、いや、うひゃ、もう笑えない、息が出来ないよ、もう許して、お願いします。脇の下は弱いのよ~!」
という、子猫と子犬がじゃれつき私の大きな笑い声が病室に響く。期待された方……すみません。
「うひゃうひゃ」とお母さんが笑っている……。え? 明子姉さんだよね、今笑ったのは。
「大地……待って。今お母さんが笑ったように聞こえたのよ……お母さん……?」
「……。」
「亜衣音、やはり眠っているよな。」
「亜衣音ちゃん。私は(クスッ)……笑っていませんよ。」
「そっか~気のせいだね。早くお母さん起きてくれないかな。」
「俺はこれで帰るな。また明日に来るからさ。」
「うんありがとう。」
「朝になったら藍と未来の見舞いに行けよな。」
「うん行くよ。そしてうんと苦情を聞いてくるからね。」
「出戻りのクマはどうする。」
「またバーガーを買ってきてね、お金は持っているよね。」
「無職で無収入……有るわけないだろう?」
「無収入……って、なによそれ。……あ~私もだね。」
「おやすみ、亜衣音。」
「うん……今日はありがとう。」
大地が帰れば急に静かになるのはいつもの事だけれども、だからと明子姉さんに話し相手に望むのも何だか気が引けるかも。
「おやすみなさい明子姉さん。」
「亜衣音ちゃんもおやすみ。」
翌日の朝、私は大地と約束もしていたから重い足を引きずって藍と未来のお見舞いに行った。既に未来のお母さんが来てあって「未来を助けてくれてありがとう」とお礼の言葉を頂いたのだ。でも藍ちゃんは布団を被って寝ていたんだが、その理由は思い当たるのだから何も言えない。私たちとしたら当事者の娘だからと大いに苦情は言う権利は……あるのかな、離縁されて池に沈められる処だったと聞いては恨めるはずは無し……か。
そんな藍と同室の未来としてみれば横に寝ているだけで居たたまれないのかもしれない。だから面会時間外に未来のお母さんが来ているのだろう。
「未来……藍は寝ていないよね、今回は私の為に迷惑掛けてごめんなさい。許して欲しいけれどもね、少しも許してくれなくていいんだよ。」
「亜衣音ちゃん、気にしなくていいからね。餡蜜やソフトクリームでパッパラパーで直ぐに忘れちゃいますから。」
「未来~ありがとう~。」
「藍ちゃんは私と一緒に……ううん、何でもない。」
「……。」
「亜衣音ちゃんは何時が退院なの?」
「う~ん退屈だし国体の練習も。ほら梅雨が明けたじゃんか練習に励まないといけない。」
「早くクロに乗りたいだけでしょうが~判っているんだぞ!」
「あ、アハハ……、」x2
「あらあら、私は少し散歩でもして来ようかしら。」
「未来ちゃんのお母さん……居て下さい。それでもって未来ちゃんの笑顔を見ていて下さいよ。」
「え~やだやだお母さんはお買い物に行けばいいのよ、それで帰宅してお父さんを宥めておいてよ。お昼になれば来るはずよ、だって声が大きいから藍ちゃんには煩いわよ。」
「あ~そうだね~お友達は大切よね、だったら騒音は家に引き留めておきますね。」
「騒音……なんだ、大きい声だものね。」
「そうなのよね~いつもお隣に聞えてしまって、私はいつも顰蹙ものよ。」
「未来……大きいお屋敷だと聞いたわよ、ウソはよくないと思うぞ。」
「テヘッ、鉄筋コンクリートだから聞えないかもしれない。」
少しだがモゾモゾと動く藍ちゃん、これだと居心地が悪いかもしれないね。私はお母さんが持ち込んだと思われる本を一冊だけ借りて病室へと帰るとするか。私と未来のお母さんが帰ってしまえば未来は読書にふけるから静かになるよ。
「藍……早く元気になってね。」
「う……ん、ありがとう。」
「そ、良かった。未来~戻るね~。」
「また来てよ、」
「そうする、私だって暇だもの。」
翌日には退院してしまう二人だったな。私も追随しようかと考えたがお母さんの胸が恋しくてね、暫くは退院……入院かと思い悩んでいたんだ。だって大地は私を優しくしてくれるからね。
今日は七月十九日、私は主治医を説得して退院させてもらい大地と一緒に帰る。だからカムイコロさんを又しても用心棒にとこの部屋に移ってもうらうの。
「亜衣音。お前は日記書いているのか。」
「うん、そうかもしれない。今日からまたよろしくね。お母さんと明子姉さんと四人の妹たちを守ってね。」
「寝ていていいから楽ちんさ。」
そう言いながら起き上がる時に見えたカムイコロさんの胸に痛々しい程の傷跡が見えた。
「カムちゃん、まだその傷は治らないの?」
「あ、これな、雷神からボコボコにされた傷だから銃創じゃない。ここ……この傷は何だと思う? そこの娘に付けられた傷なんだよ。そしてこの傷はあんたからだね、家の襲撃の時にさ逃げ損ねた……。」
「ご、ごめんなさい母娘で謝るから……大丈夫よね。」
「巫女から受ける傷はたぶんだが一生治らないよ。」
「うん、反省いたします。」
「大地、帰りな!」
「亜衣音、帰るよ。」
「うん……。」
私はお母さんのほっぺを触っておやすみを言って部屋を出た。もう事件は起きないよね。
それと気になるのが藍の事だ。もう完全に親子の縁は切られたものだから生きて行く術が無い。だからお父さんが最低限の支援をしているようで、また夏休みという事も重なって藍ちゃんはバイトに勤しんでいたらしい。私は無責任ながら……部員の学費免除が実行されるように馬術に精を出している。一日中もクロに乗れるからと喜んでいたのだった。オマケに身体の調子はいいものだから藍の事情は……ごめんなさい忘れていました。他にもお父さんは藍を助ける手段を考えてもいたようだったか。お父さんは優しい面が強いので強いて私には話してはくれなかったみたいだね。馬術部の皆は私と大地のことは忘れたように、応援にも来てくれなかったんだよ。きっと藍の事で色々と行動していたのかもと……か、思っていなかった薄情な部長だわ。大地は私といっぱい違うので薄々は感じていた模様。
1970年7月20日
*)馬術競技に向けて、練習風景〜障碍編〜(全く知識は御座いません。)
黒川徹さんが地方巡礼から抜けて帰ってきた。真っ赤な目をして帰って来たのが、奥様の澪お姉さまの無事な姿を見たら、なんとま~馬と同じつぶらで可愛い眼になっていた。それで私と大地にお礼をしたいのだという。
「わ~い夏休みだ~。」
「亜衣音、補修が待っているのだよな。」
「そうなんだけどね、校長先生が物わかりが良くてね解放されたんだ。」
「あ~段々と馬鹿に近づく亜衣音だよ、俺は悲しい。」
「徹さん、今日からお願いします。」
「……なに、スパルタ教育だな!」
いったい何が、スパルタ教育よ! ね。
暑い日が続く梅雨明け、今日からは関東農業大学で乗馬の練習を再開するからで、私はこの日の朝からの練習で心がウキウキの躁の状態だ。クロを馬場に出して驚いたのは馬事公苑での終日の練習は出来ないらしい。校長……寄付を多くして!
「ねぇ大地。クロが黒光りしている!」
「バコ~ン!」
「痛っ! なにすんのよ。」
「お前、今までクロをどんな目で見てきたのだよ。クロは女の子でとても色気が有るのを知らなかったのか!」
「女の子同士だもん気にしないわよ。でもさ、朝日に輝くクロの毛並み……もう、ウットリしてきた。」
「そうだろうさ、亜衣音が休んでいる間も俺がブラシを掛けて、女を磨いて? いたんだからな。」
「大地! 私も大地からたくさん女を磨かれたわ、ありがとう。」
「う~よせやい、気持ち悪い!」
「ブーだ!」
「なぁ、ブーでキモいだろう?。」
「ベーだ!」
よく見てみると朝日が当たる背中や太もも、お腹でも綺麗に光っているのを改めて知らされた。(あ~ここは全て創作でありまして夏の朝日が当るのは五時位からだよ、だからあり得ません。)
「亜衣音、きっとお前が綺麗になったから意識しだしたと俺は思うぜ。」
「う…………大地、いいこと言うようになったわね、照れるよ……。」
「日に照らされてうぬぼれていろ! 日焼けの色黒女!」
「ブーだ、ベーだ!」
私は玉のような色白女の子、どんなに日焼けはしても巫女の魔力で直ぐに元通りになるんだよ?
「朝飯を早く用意しろ。」
「大地は厩舎の掃除でいいのね。」
「あ……いいよ、直ぐに藁を入れ替えるよ。」
「うん。」
これから雷神とクロが大学に通う事に決まった。もう私たちは飛び級よね、夏休み限定なのは仕方ないかも。
ホロお婆さまはこんな若夫婦を微笑ましく思い目を細めて眺めていた。だが黒川徹さんの眼は細くない。
「二人とも、乗馬技能認定と騎乗者資格が必要な事は知っているよな。」
「うんうん、全く……。」
「あちゃ~澪が言っていたのは本当だったか。これが無ければいくら乗馬が上手くても国体には参加が出来ない。」
「え!……うそ。」
「本当だ、だから夏期講習を行ってやる。俺は競馬を休んでここに立った。澪さんの依頼だからどうしても断れない。授業料免除でいいから資格保持者になれ。」
「はい!」x2
「近喫の課題だ!」
「はい!」x2
という訳で乗馬技能認定と騎乗者資格試験に挑む事になった。
「徹さん、何も分りません。」
「いいよ、練習そして受験、それで合格だ。良く頑張った、俺の教える事は何も無い、卒業だ。」
こないな一行が一ヶ月に相当するとか、文字の世界はあり得ない。
「大地、良かったね、これで国体に出場出来るね。」
「……。」
*)垂直障害110~160cm
「こら~ジャンプ地点が遠すぎる、もっと手前。」
「おい、ジャンプして尻を振るな、特に亜衣音はな。」
「ま~た足を畳んでいない、これでは160cmは越えられないぞ。」
「イエッサー。」x2
「大地、お前は合格だ!」
「え~私は、」
「亜衣音は尻が浮き上がるから不合格の減点三十点、いや五十点か。」
「ブ~!」
*)幅障害
「これはできるだけ遠くへ跳ぶ競技だ。」
「う~……悔しいが二人とも合格……。」
「ヤッター!」x2
*)水濠障害
「大地、雷神は強いぞ、でも水だけは弱いみたい。」
「そんな事はない、雷神は優秀なんだぞ。」
「雷神は水もしたたる良い男ですよね~徹さん。」
「分った、減点覚悟で臨め!」
「イエッサー。」
*)コンビネーション障害
「お前ら二人のコンビは最強だ、教える事は何もないから合格だ。」
「ヤッター!」x2
「で、でだ。今後の練習の力点だがな、」
「はい!」x2
「亜衣音、お前は堅実に挑む選手たる人を目指せ!」
「イエッサー。」
「大地、お前はまだまだ経験不足だから身体を安定させる練習に励め、以上だ!」
「イエッサー。」x2
「免許皆伝の卒業証書、焼き肉で引き替えな!」
「う~澪お姉さまにお願いしますから……。」
私たちは海水浴にも行かずに練習を積んだ。残りの部員は暑い所為なのか極希に応援に来るのだが少しも日焼けした痕が見えない。数日後は皮むけの日焼け痕はコンニャロメ~の水着の跡だった。
私と大地には夜の鍛錬、巫女の力の鍛錬もある。だが自宅裏の公園の山は山になってしまった。大地を狙って必殺技を撃てば大地が粉々になって後ろの山に積もっていく。もう築山でこれではもう練習が出来ない。
「大地は粉々だね!」
「あぁ、さっきの夕立でもう水が溜まって池になっているな。」
だから開発前の烏山住宅地で思う存分練習を重ねるも、時期に立て札が立ってここからも追い出されてしまった。
「亜衣音、もう行く所は無くなったから夕陽に向かって撃て!」
「うん。……大地、空飛んで!」
「か、カラスでいいだろう。」
「夜は飛ばないよ?」
もう私の力は漲っていて最初の頃とは段違いに強くなった。
「だったら飛行機がいいぞ。」
「そうだね、でも落としてもいいのかな。」
「お前、……バカだったか。」
*)とても残念で……とても素晴らしい二人
秋田県で開催される「みちのく国体」が九月七日から九月十日まで開催されるので、私と大地の二人が馬術競技で出場して優勝した。九月十日から九月十二日に行われた修学旅行は日本万国博覧会の大阪旅行で行かせて貰えなかった。(*もしかしましたら、十月の秋期国体かも。)
修学旅行は私たち家族が未だ謎の襲撃を受けているから禁止、日程も合わないから禁止、馬術部全員の学費免除の条件の国体優勝、……これらの三点から私と大地の二人はとても美味しい修学旅行は涙を飲むしかない。校長先生は「同じ旅行だ」と言うのだった。バカ校長の護衛の付き添いはお父さんだったし。
ま、高級旅館に泊まれたのは料理が高いみたいで文句無し、だが部屋を別けられたには腹が立つ。クラスメイトとはお土産の交換でトロフィーは校長室に飾られた。
私は有ること無いこと全部をお母さんにぶちまけた。横では恥ずかしくも無く大地が聞き耳を立てていない。
「あり得ない。大地が私の子守唄で眠ってるわ! ふ~ん……。ま、私も聞かれたら若干恥ずかしいかな、バカアホ大地。」
「亜衣音~、」
「ウヒャ!……なんだ寝言か! 黙って私の夢を見ていなさいね大地。」
「ねぇねぇ聞いてよ、私と大地は奥の細道国体でね馬術競技で二人とも優勝したんだよ、ねぇお母さん凄いでしょう。……でも修学旅行とは期間が被ってね、私と大地の二人は外されたんだよ、」
(みちのく国体ですよ、)
「え?……お母さん何か言いましたか?」
「……、」
「そうよね私のお母さん。ようやく会えたのに残念だな。お父さんも寂しいよねお母さん。」
「お母さん。澪お姉さまはお嫁に行ってね、もう双子ちゃんを産んだのよ、ねぇ聞いてる?」
その後、私たちは襲撃を受ける事無く澪お姉さまの出産日を迎えた。私は元気だから澪お姉さまの双子は順調に育って真っ白な霊の子が産まれた。
「澪お姉さま! 二人は巫女の霊力が強すぎるよ……。」




