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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第一部 第一章 亜衣音の生い立ち

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第7部 亜依音の日常


 1959年11月9日(昭和34年)北海道・苫小牧


*)朝の通学路


 亜依音は小学校の入学当初から猫かぶりだったから猫の縞が落ちるのに時間が掛った。もう十一月も過ぎてしまえば雪も降ったり積もったりもした。


「寒いな~。」


 亜依音は姉の明来みくと一緒に通学をしていたが運動会以降は一人で通学している。母にはもう自分を卑下しない、なんでも自分で判断してると、宣言したからだ。



「美也ちゃ~ん、」

「……。」


 亜衣音が農道から国道に出た処で美也と会えるのだ。亜衣音が早く来た時はまた農道を少しだけ戻って待機しているとか? 美也の姿を見つけて駆け寄れば不自然には見えてこない。


 美也は声を上げる事はしないで左を向いてニコリとして軽く手を振る。これがおはようの挨拶だった。


 亜依音が声を掛けたのは同級の美也ちゃんだ。あの運動会から仲よくなって今や亜依音の唯一の友達になった。他にはまだ出来ていないからまだまだ一人で居る方が多い。


「おはよう~。」

「亜依音ちゃんのマフラーは赤くて可愛いね!」


 亜依音はホロから赤い手編みのマフラーを誕生日にもらっていた。亜依音はお転婆だから厚めの長ズボンがいつものスタイルで、それは亜依音が足によく切り傷をこさえるからスカートを履かすのは止めていたから。美也としてみれば赤い色に憧れがあるのかもと思われる。美也は全体的に地味な服装が多いことから察せられた。


「美也ちゃんも茶色いコートが短くて可愛いわよ!」


 美也ちゃんのコートはミニスカートみたいに裾が短かくて膝頭が見えるから可愛く見える。


「美也ちゃんはコートがっていいな!」

「亜依音ちゃんだって赤いマフラーが似合ってるわよ?」


 本当は亜依音にも赤いコートが、それもかなり大きめのコートが父のみのるからプレゼントされていた。だが、亜依音は動きにくいという理由で着ないのだ。第一に大きすぎてダサイのだった。亜依音は思った事ははっきり言うタイプだ。



「お父さん服選びのセンスが無いね! ……ごめんね。」


 と、亜衣音ははっきりと言った、


 まぁ父の穣からしたら当然だろうか、ムッ!とはしない。それよりも亜依音の最後の一言がありがとうではない。きっと父が独身を貫いていることへのお詫びなのだろう、そう思えば怒る気も失せるし大きく育ったのだと感心さえもするというもの。



 そのような事は登校時には関係がないのだ、小さな女の子の会話は続く。


「うん亜依音はこのマフラーだけでいいんだ!」

「そお? 寒くないの?」

「うん亜依音は寒くないよ。」

「……?……」


 美也は少し違和感を感じていたのだった。運動会以降に話すようになったが毎日話すようになったのは最近だ。


「え~とね亜依音ちゃん、自分の事を亜依音と名前で呼ぶのね。」

「そうだよ可笑しいの?」


「そうね小さな子供みたい。やっぱり可笑しいよ!」

「そうかな~でも、うちでは誰も可笑しいとは言わないよ?」

「亜依音ちゃんはいつから自分を名前で呼んでいるのさ。」

「分んない! 覚えていないもん。」


「じゃぁさ、もうやめて私と言ったらいいよ。少しは大きく成長したように聞こえる。……だからやっぱりそう呼びなよ。」

「そうかな~今日からは、私! と言うね。」

「?……出来ればいいね!」


 そう話しながら歩いていると学校の予鈴のチャイムが鳴った。


「美也ちゃん走ろう?」

「うん、ゆっくりと走ってね。」


 二人はバタバタと駆けていった。


「亜依音ちゃん待って~教科書が落ちたわよ。」 


 同じく廊下を走っていく二人だった。


「間に合ったね!」


 やや遅れて教室に入った美也ちゃんに声をかけた。


 時々家に教科書を忘れた! と思ったがなぜか翌日の教室の机の中に在った。


「あれ~? ここに教科書を入れていたかな~。」


 美也はまたか! と思ってクスクスと小さく笑う。後ろの席の男の子が、


「またかよ~。」 

「おはよう~。」


 亜依音の席の近くのおはようが少しだけ聞こえる。





 1959年11月16日(昭和34年)北海道・苫小牧



*)いじめ


 教室掃除の時間に男子が美津子をいじめだした。雑巾を美津子に投げつけるのだった。美津子は成績も良くてテストはいつも90点とか100点だった。何かの拍子に男の子が美津子に囃し立てて雑巾を投げだし、美津子は少し悲しい表情をするだけで泣いてはいなかった。


「や~い、や~い、チョベリグー。」


 雑巾を投げては***の連呼だった。亜依音は見かねて美津子の前に立って、


「おまえら! やめろ。」

「お前もチョベリゲー。」

「なにを~?~、この~チョベリバーだ。」


 美也ちゃんは教室の前の方ですくんでいて、他のみんなも止める事も注意をする訳でもなかった。ただ亜依音だけが男子に向かっていった。だが反転して亜依音は美津子の前にある雑巾を全部拾って窓から投げ捨てた。


「あ~ぁ気持ちいい! さ、美津子ちゃん掃き掃除を続けようね!」


「うんそうだね。机を戻すから美也ちゃんは椅子を持ってきて~、」


 美也はにっこりとほほ笑んで美津子と亜依音の傍までやって来るのだった。


「おい雑巾取ってきなよ!」

「や、」


 亜依音は完全に男子を無視した。


 男の子は黙り込んでしまってそれからは美津子をいじめる事はもう無い。当時はいじめというよりも刹那の遊び相手だった。その時その時でいじめは終わるから今のように長くて陰険では無かった。まだまだ六歳だからだろう。


 ただ上級生が下級生をいじめるのは度々あったり、長く続いてもいた。亜依音は同級生がいじめられると上級生にも向かっていった。


 親譲りか!


 決まって泣くのは亜依音であるが……。これは自己防衛の為に早く泣く事にしていた。泣けばいじめが終わるからであった。


終わったらいじめられた子の腕を掴んで「さ! 早く帰ろう。」と言う。けろっとしている。


 この頃には亜依音はかなり利口になっていて力の加減とともに感情的にならないようになった。いつも冷静に状況判断をして、こうして亜依音は女の子の友達が増えていった。


 男の子相手に亜依音は負けはしない。だが、女の子が男の子を負かせていては亜依音自身が孤立すると考えている。


 

 1959年12月22日(昭和34年)北海道・苫小牧


*)冬休み


 小学校の終業式は12月22日。三学期の始業式は1月18日に行われる。二学期の最後は54321が渡されるが亜依音は3ばかり。


 昭和三十年からの成績表は五段階の54321になっているが、自分の記憶では母が自分の通知表を見て甲乙丙丁と言っていたのを覚えている。明治が甲乙丙丁なのに母は昭和の生まれなのだが? 小学一年生が読めない漢字を使うには異議が出ようか。


 昭和十三年からは優良可だと書いてあるが母の通知表は甲乙丙丁だった。もう一回書こうか母は昭和の生まれなのだが?


 自分は田舎の生まれだったから小学3年生でも戦時中の教育みたいな教育を受けていたのを覚えている。女の先生だったがこの先生の専攻は家庭科だった。


 家庭科はオール1、輝かしい成績である。兄姉4人で初めての栄光ある、1 だった。とにかくこの先生がとても嫌いだったからだろう、今でもお顔は思い出す事が出来よう。それにしても仕事柄で裁縫もしているしね。女房はしてくれないの?


 北海道の事は全く判らないで書いています、すみません。事の始まりをここ九州にすれば良かったかもしれないし、ついでに行った事も聴いた事もありません。併せて……すみません。


「じゃぁ……またな。したっけ!」

「したっけ!」


 と言う言葉が校庭のあちこちで聞こえてくる。亜依音はクロに乗りたくてうずうずしていた。


「早く帰ろう。」


 と独り言を言った。


「亜依音ちゃん、したっけ。」

「したっけ!」




 1960年1月12日(昭和35年)北海道・苫小牧


*)骨のスケート靴 木のスケート靴


 先生や男親たちが校庭の雪を何日にも亘って固めて回ってその後は水を全面に散布して回る。この水を散布する作業は寒くて大変だ。それも2~3回では終わらないからで約一週間以上もの時間をかけてスケートリンクを作りあげるのだ。雪を固めるのは身体を動かすからそう寒い事はないが雪を持って来るのには閉口するだろう。


 水を散布する時期は気温がマイナスの十度とかになってからリンクを作るらしい。生徒はこのリンクが出来るのを心待ちにしていた。それがとうとう一月十二日に完成したのだ。



 亜依音にスケート靴は与えられていたが四歳の時は姉らの滑る様子を見て自分でスケートの靴を作ったのだ。これは沢でヤマメ釣りをしていた老人から聞いてから作るとは凄い執念だろうか。


「俺らの若い時はな、今のような氷の上を滑る靴は誰もは持っていなかっただ。」

「そうなの?」

「そうだよ、だからさ自分の靴に骨とか木に穴を空けてさ紐で結んで作ったもんさ。」

「私も作ってみる。」


 亜依音は騎手のお兄さんに羊の骨に穴を空けて貰って、そこに細くて丈夫なたこ糸を通して簡単なスケート靴を作った事があった。転んでは糸を切ってしまうのだが転ばなくなったら糸は切れなくなった。その代わりにある事が起きた。




 1960年1月17日(昭和35年)北海道・苫小牧


*)川に落ちる


 亜衣音の四歳の時に遡る。


 寒い朝からクロと一緒に出掛けた。何時ものように手製のスケートの靴も持っていき大きくはない川でスケートを始めた。美々川という小さな川、悪い言い方だと用水路?


 川岸では滑れたが少しでも岸から離れると氷は薄くなっている。


 そう、氷が割れて川に落ちたのだった。この時は死ぬかと思ったらしい。


「バリッ!」  「キャッ!」 「ボチャ~ン!」

「クロ! 助けて~」 「バチャ、バチャ!」

「ブヒヒ~ン。ブヒン!」


 クロは勢いよく川に飛び込み亜依音の襟を咥えておかに上げた。


「クロありがとう、急いで帰ろう!」


 麻美やホロはてんやわんやの大騒動になったのは当然か。牧場前の白鳥湖でも氷が割れたら戻れないのだと分っているからね、必ず美々川で滑るのだった。


 翌日風邪を引かなかったから麻美からはこっぴどく怒られた。風邪を引いたらきっと怒れらなかっただろに……。ホロお婆ちゃんは子供頃はいつもそうだったよと言う。勿論それはウソに決まっているが小さな亜衣音にしてみればモンゴルの砂漠に川が在るとか無いとか、そういう事は何も知らないから信じてしまうの。


「亜依音。その手提げの中身は何なの?」

「うん……これはね靴だよ。」

「ほほう……靴だと?」

「うん。」

「落ちないでよ、いい近くで滑るのですよ。」

「うん分かった。」


 数日後にはまた川に落ちたのだった。これは小学校に氷が張られるまで続く、毎回続く毎年続く事は流石に無かったかも。


「麻美、未来のスケート靴が押し入れに入ってやしないかい?」

「そうだったかしら、何処かに仕舞っているのでしたら探してみますわ。」


 麻美は二軒分の押し入れを頭を使ってサーチするも思い出す事はなかった。当然だろうか、言い出しっぺの明さんが押し入れにしまったのだら無理もない。


 亜衣音の五歳の時の話しになるのか、このようなお転婆はもう川に落ちる事はなくなった。そう、


「亜依音~ちょっと……いらっしゃ~い。」


 母の麻美の声が家の中から聞こえたから亜依音は、


「は~い……なにママ。」

「はい……これね!」


 麻美が押入れから取り出したのは明来の小さくなって使えないスケート靴だった。亜依音の顔の表情はカメレオンなのだから直ぐに顔色が変わった。


「わ~いスケート靴だ! ママこれ! 亜依音が使っていいの?」

「そうよ古くてごめんね、明来のお下がりだけれども使ってくれるかい?」

「うん大事にする。」

「う~ん……これだと靴下が履けないかも。」

「だったら新聞紙だね、」

「ギャボ!」



 家では自分の事を亜依音と言っていてまだまだ自覚が足りないようだ。



 靴なんて物は一足しか買って貰えない、だから雨が降ったら水浸しになる布靴だった。そこは生活の知恵だろうね新聞紙を切って靴底に入れて登校していた。長靴は大人用しか売ってなかったし……水溜まりには好んで足を突っ込むのだから後先は考えない、性悪な性格だったとも解釈が出来てしまう。



 それからの亜依音のお気に入りのカバンにはこのスケート靴が入るようになった。未来のスケート靴は今では小さくなったから父の穣が買って与えた靴を使っている。


「美也ちゃん……滑りに行こう!」


 校庭にスケートリンクが作られたら毎日の放課後はスケートをするようになった。


「ブヒヒィーン、」「サビヒヒィーン、」

「ブヒ、ヒサーン、」


 クロが毎日のようにおかしな鳴き声を上げる。


「おやおや今度はクロが嫌われたのかい……可哀想にね。亜衣音を迎えに行っといで。」

「お母さんクロを解き放つのはあれ程やめるように言いましたよね、」

「ほぇ、儂は知らんぞ!」


「クロ~迎えに来てくれたんだ、美也ちゃ~ん先に帰るね~。」

「うんしたっけ。」


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