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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第七章 激情から狂気へ

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第61部 遭遇……それから奪還……


 1970年6月13日


*)最悪で最高な日……


「大地、此処だね。私を降ろして大地。」

「今降ろしたる、でも少し戻ろうぜここは目立ってしょうが無い。」

「そうだね大地、父さんに報告に行くよね。」

「まずはそれが最初だろう、知恵も借りなくてはね。」

「作戦会議だね、……大地……急いで戻って……இஇஇ、」

「おい亜衣音……、」


 私は雷神の上で大地に抱かれて意識を無くした。今まで以上の最悪な気分に押しつぶされた私。……お母さんと赤ちゃんが危ないよ、大地、急いで……。


 大地が私をお姫さま抱っこで戻って来るのを見た父さんがいの一番に駆けつけるのだ。


「お義父さん、救急車を呼びに行って下さい。」

「そ、そんなに亜衣音は悪いのか……大地くん。」

「落ち着いて下さい、ここからもう少し下った処で今日は休みましょう。そうすれば亜衣音は起きることが出来ます。今は気を失っていますが恐らくはここにはお義母さまが居ます。ですがこの亜衣音の様子だとお腹の赤ん坊が一番危険なのかもしれません。」

「沙霧……赤ん坊が、か。どうする……。」

「お義父さん出来ればドクターも手配が必要でしょう。産科と内科の先生の二人は必要ですから亜衣音の為にもお願いします。救急車は二台で亜衣音は先に戻してやりたいのです。後は……僕が何とかいたします。」


「大地……なんで俺様を見るんだい、いいよ俺も手伝うよ。なに麻酔銃も効かない鋼鉄の身体だからよ、何でも言ってくれ。」

「カ~ムイコロさん、ありがとうございます。」

「いいよそれ位。晩飯のチャラでいいよ。」


「大地くん、今からだと救急車は夜になるがいいのかい。」

「それは仕方がありませんが、同じく急襲するにしても夜になるでしょうか。先に偵察は欠かせません。」

「そういう意味か。そうだね。だとすると……。」


「土地勘があって自由になるのは……私ってことですね。良いですよ、私が急いで引っ張って来ますから。応援も呼んで来ます、私が一番最適ですね、穣さん。」

「すみません麻美さん。」

「急ぐからトラックでは無理よ乗用車を使うわね。それに応援も乗せる必要もありますから。」


「おう麻美。頑張れや。」

「コロ! しくじるなよ。」「ワン!」

「ブッフッ!」


 と、麻美さんは笑って急ぎ車を走らせる。


「僕は徒歩で周辺から探りを入れますが、お義父さんは亜衣音を診ていて下さい。……、…………。」

「なんだいその視線はよ、」

「いえ、雷神をどうしようかと考えておりまして。」

「その辺に放っておけば!……。」

「そうなりますよね、怖いですよね後ろ足の回し蹴り。」

「五月蠅い、黙れ。」

「大地くん先に下がろうか。すまないが大地くんはそれから偵察に行ってくれないかな。」

「そうしますお義父さん。」

「なぁ亜衣音は麻美に送らせれば良かったんじゃないのかい?」

「いいえ大丈夫と思います。もし気が付けば大きな戦力になりますから、少しは期待を残しておきたいのです。」

「ケッ、ただ単に離れたくないだけだろう?」


「お義父さん、お山の金太郎のお話は知っていますよね。」

「あの坂田金時さかたのきんときだろう? お菓子の卸販売の商店なら記憶があるが、それがここから名付けられていたといは知らなんだ。」

「いや、それではなのですが、まさかりの方です。」

「ほぅ~金太郎、クマを倒せ!」

「ハイ、許可頂きました……ラジャー。」


「大地、俺をクマに変身させるのなら服を持って来いよ、俺は蛮人には裸体を晒したくないよ。」

「はい、お任せ下さい………………。で、僕はいいのですか!」

「なんだいその視線。期待しやがって……。」

「脱がないのですか、服を預けて下さいよ。」

「嫁さんに言いつけるからな、後で泣くなよ。」

「大丈夫です、あれも今晩には裸にいたします。」

「ホェ~!」


「では行きますよ、服はこうやって背中に括り付けておきます。」

「いいよ、俺様は奥の象麒麟から行くよ。」

「雑木林でしょう?」

「そ、それ、ぞうきばやし、な!」

「ブッフッ!」


 カムイコロさんは大地の指示で奥の方の林から偵察に行ってもらい、大地は?……堂々と道を歩いて行くのだという。凄いよ大地。


「違いますよイトウを腰に提げて川を上っていきイトウ漁をしている振りで近づきますよ。カムちゃんの今晩のゴチ預かります。」

「いいよ、そんな小さい魚はくれてやるよ。焼かせて食べればいいよ。」

「あ~亜衣音は生憎とシシャモしか焼けませんよ。」

「フン、知るか!」



 大地とカムちゃんが偵察に出る。


 大地だけは建屋(たてや)に近づいて内部を観察出来たという。だが所詮内部には侵入していないので判断は出来ない。最後の手段を考えて戻ってきたのだ、イトウをぶら提げて……は無い。


「今宵、救急車が来まして俺が単身乗り込みますので合図が有れば突入して下さい。麻美さんは警察を呼びますかね。」

「あ~どうだろうね、気が利くのは確かだがな……。」

「万が一の時はお願いします。」

「いいよ、骨は亜衣音と一緒がいいよな。」

「もう違いますよ、何かの時の保証人ですよ。」

「そうか、」


 カムちゃんが偵察より戻る。


「大地、服返せ。」

「はいどうぞ。向こうを向きますね。」

「いいよ減るもんでもないよ。腹の脂肪が減るなら何度でも見せたる。」


 どうだろうかこのふてぶてしい態度のクマは。本当に堂々と着替えてくれるから男の方が根負けしてしまった。



「居たよ間違いない、あの気は沙霧だよ良かったな大地。」

「え~本当ですか!」

「なんならヒグマスタイルになって直ぐに行くか!」

「はい、ですが援軍を待って突入します。」

「そうか、それなら先に腹ごしらえな、さっきのイトウを返せ!」

「あ、あぁ~今は川で泳いでいますね~、」



「あ、あんた。可哀想だとは思うがもう暫くの辛抱さ、気を落とすなよ。」

「はい山羊一頭を進呈いたし、感謝いたします。」

「安いな、牛でもいいよ……。」












 三人の長い沈黙が続いた。これはなんというのか焦れったい、いや待ち遠しい、いやいやもどかしいかな。


「亜衣音は起きないよな。これならば……このままでいいのかな、なぁ亜衣音。」


「大地、いいか。」

「はい、もしかして作戦でしょうか。」

「そうだ俺がヒグマになって厩舎の馬を襲って、それから痛いが銃で打たれてやるから大騒ぎになったら突入な。場所は一番奥の管理棟だよ。男が数人は居るが夕方には帰るかもしれない。」


「あ!……それはまずいですよ。途中で救急車とすれ違いましたら何かしら考えるやもしれません。」

「そうか、そうかもしれないね。車は一台にトラックが一台だよ。これをどう判断するね。」

「二台ともパンクさせましょう、そうすれば逃がさずに逮捕とか出来ます。」

「流石に二台ともパンクが起きたら不自然だろう、ここは人数が減る方が安全に救出が出来るはず。だからもし救急車で感づかれたら俺らが戻れない様に阻止してやる。なんなら橋から落としてやるから車には細工無しがいい。」

「はい……そう致します。」


 実際は救急車とすれ違うことは無かった。麻美さんは近道に気づかずに遠回りしていて、この間に犯人の車は私たちの居る方には来なかったのだ。


 千秋の思いで救急車を待つ父さん、それに引き替え私は暢気に寝ていた。お父さんの焦る気持ちと私の夢とでは全く価値が釣り合わないから、引き替えだよ。


 眉間に皺を寄せて冷や汗を流しながら寝ている私だったらしい。


「お義父さん来ました。……ではカムちゃんお願いしましたよ。」

「もう暗いから道を通って急ぐがいいか。」

「十分後に態勢を整えますのでお願いします。」

「任せな!」


 麻美お母さんが明さんと牧場の人達を連れてきて応援は全部で五人、麻美お母さんには私の看病で救急車に残って頂いて、大地は、


「では車で移動しましょう、救急車はこのままでいいでしょうか。」

「大地、待って……、」

「亜衣音、気が付いたか。」

「うん起きたよまた気を失ってごめんなさい。」

「もう動けるのか。」

「私も行きたいの連れていって、この車でいいからお願い。」

「お義父さん、どうでしょうか。」

「どうせクマで騒動が起きるのだ、車が三台くらい近づいても問題は無かろう。だったら一気に押し込むか。」

「父……さん、それでいい、お願い、母さんを早く助けて。」

「先生、娘を残していきます。……麻美さんもお願いします。」

「は、はい、任せて下さい。」


 大地たちは白い屋根の牧場に向かった。到着前には厩舎に明かりが点き大きなヒグマの声が聞こえる。同時に人の叫ぶ声も聞こえてきた。


「発砲音……お義父さん行きます。……叔父さんもお願いします。」

「おう行くぞ……。」x2


 大地を筆頭に父さんたちは管理棟へ急いだら誰も居ない……。


「あ! 沙霧……。」

「お義父さん。」

「あ!……すまん。いいぞ。」

「はい皆さん行きます。」


 それから大地は見張りについて、父さんはお母さんの元に行って明さんはお父さんの援護に回った。


「さぎり……、」

「み、穣さん、……ですか、」

「そうだ、直ぐに出るよ、今まで待たせたな。」

「は……い、嬉しい……。」


 カムイコロさんは私たちの行動を感じて幾分か雑木林に下がり男たちを引きつけていて、男達は銃を撃ちながらヒグマを追いやるのが判った。


「今です急いで下がりましょう、俺は後ほど雷神で戻りますので先に行って下さい。」

「大地くん後は任せる。」

「はい……、あ、車に戻られましたクラクションを鳴らして下さい。」


 大地は潜んで男が戻るのを待った。一人が来て、


「ごめんなさいゴ~ン! 痛かったですね、」


 大地は一人の男の脳天をぶち割る。直ぐにクラクションが鳴って大地とヒグマは必死で国道の方に逃げるのだった。


「雷神……お出で!」

「ヒヒ~ン!……ブルル……。」 「ブフッ!」 

「ガォォーン!」「がうぅぅ~」「ヒヒ~ン!……ブルル……。」「ブフッ!」 

「キャンキャン!!キャイ~ン?」

「あ、ヒグマが蹴られた……。」

「雷神急いで、道は見えているよね。」

「ブフッ!」 「ヒヒ~ン!……ブルル……。」 

「よし行くよ。」

「ヒヒ~ン!……ブルル……。」 


「お義父さん。」

「おお大地くん無事だったか。」

「相手はまだ銃を持っていますから逃げて下さい。それとカムイコロさんは多分重傷です、至急救護をお願いします。」

「大地はどうする。」

「トラックはパンクさせました、僕は念の為にもう少し残りますが直ぐに追いつきます。」

「判った、気をつけてくれ!」


「大地お母さんを助けてくれてありがとう。待っているから……。」

「任せろ亜衣音。」


 ドクターの計らいでお母さんと私と大地にお父さんは、陸上自衛隊島松駐屯地の分屯地である日高分屯地司令へと送られた。そこにはヘリコプターが真夜中にも拘わらずに待機させられていたのだった。


「これより札幌市の総合病院へとお運びいたします。病院では緊急と伝えてありますのでドクターも待機されてあります。」

「よろしくお願いします。亜衣音……良かったな!」

「あ、あ、あ、お父さん……カムちゃんが居ません。」

「すみません、大きかったので吊してお運びいたしております。」

「う……そ!」


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