第60部 手がかりと……発見
1969年6月12日
*)新しい情報
牧場でのカムイコロさんは山羊を平らげてしまう。それにしても大地の食欲には私も圧倒された。もしかしたら馬術部の馬を襲って食べはしないかと不安になり、私はバイトして家計に幾ばくかのお金を入れて大地の食料の補填をするべきかと悩んでみる。
私たちはカムイコロさんの勢いに気圧されて、本来の情報収集の時間を手放してしまった。「翌日でいいよね」と場が流された。父さんは悲しげだったかな、ごめんなさいお父さん。
カムイコロさんによると自分は何処かの並行世界で目が覚めたというのだ。それからクロともう一頭の馬が現れて揃って現世に出てきたというがこれでは判らない。
「カムイコロさん、名前が長いので……カムちゃん、これでいいかな。」
「……いいよ亜衣音、特別に許してあげる。だって命の恩人だものね。」
こう言う私に呆れた顔をする父と大地。私としてはカムちゃんはもう友達だ。
「クロは直ぐに消えてしまってね残った馬は逃げたさ。あの牧場で飼育されていたのは偶然かもしれないよ。」
事実は逆でカムイコロさんが雷神から逃げてきたのだよ、雷神はカムイコロを嫌っているらしくて直ぐに蹴るのだとか。そうと考えなくては後のカムイコロさんと雷神の関係が合致しなくなるモン。
「それで飼育していた人は誰でしょうか。」
「んなもん知るか、背が低くておでこが広くて光ってた。あれは日本人ではないねロシア人だろう、俺も散々ロシアを旅して来たからね判るよ。」
「父さん、ロシア人に何か心当たりはあるかな。」
「あぁ高校のソフィアとかいうロシア人が居たが直ぐに出て行ったらしい。これは亜衣音も知っているだろう。」
「そうだよね知っているよ。理由は知らない、でも私に関心があったようで少し気味が悪かったな。」
私はお父さんに尋ねた。
「父さん、私は入学前から狙われていたのかな。」
「そこは何とも言えない。此処から東京へ行くのだって表だって公表はしていないし、殆どが家族内での話しだったろうが。」
「そうだよね。でもね仲の良くなった藍ちゃんがここに転校してきて、そしてまた転校して私を追ってきたよね。それにあのキモい妹、お父さん妹の素性は判ったのかな。」
「すまん亜衣音、全く判らないのだよ。戸籍には不備は無いが、もしかして誰かの入れ替えかも知れないと正直疑うしかない。だから手がかりは皆無だ。」
「だったら藍ちゃんの両親を調べてよ。藍ちゃんと両親はどうも仲が悪くて、妹だけが東京と札幌を行き来しているみたいだよ。それに誰か男の人も付いているらしいのよ。」
「雨宮は話してくれないのだろう?」
「えぇそうなのよ。妹に関しては何もね。両親とは喧嘩して~と一度だけ弱音を吐いていたな。」
「その両親も闇の中だった。現状は不可能で今はジジイに投げている。」
「それで私の話しはもう必要ないのだね。」
「あ、カムちゃん。続けて下さいお願いします。」
「以上さ!」
「大地……お願い。」
「バコ~ン!」
「うぎゃ!」
「もうガキのくせに手荒い男だぜ、勿論、女の方が性格が悪いわな。」
「大地……。」
「わ! 言うよ、話すよ、口動かすよ。」
「昨日の串焼きだよね、それ!」
「あ、あぁ。車は札幌ナンバーで普通のトラックに幌付きだったよ。それにあの馬は強烈に我が強い。俺が寄っただけで攻撃はするし、鉄砲は持ってくるし、逃げるのに往生したよ。」
「カムちゃん。それってヒグマでの事よね。」
「そうだね、ヒグマスタイルなら当然か!」
「カムちゃんはそうやって、駄話で考えながら考えているんだ。」
「う~それを言ったらお仕舞いよ、続きは晩飯の後だね。」
「今がその晩飯なんですよ。大地お願い。」
「おう、バケツを被せて叩くか!」
「いや、やめて!……だからさ、その馬に乗れれば何処かに案内してくれるよ。だがね~あんな阿婆擦れ女は初めてだよ、誰も乗れないだろうさ。」
「麻美お母さんお願い出来ますか。」
「そうだね、大地くんを借りて戻るかな。」
「その麻美さんとやら、俺はこの牧場に来た覚えが出て来たが初めてかな、違うよね。もう忘れたのかいな?」
「知りませんあんな無駄に大食らいな女は。……昔、何度も会っていました、これでよろしいでしょうか。」
「あは~強烈に嫌われているな。……それでですね、たまに自家用車も来たから他に拠点も在るかもしれないよ。ま~これ位だろうね。」
「カムちゃん食事代分は働いて貰います。」
「うへっ……はいはい山羊の解体とかお任せ下さいませ、女王さま!」
「穣さん、輸送の大型の飛行機は飛ばせますか!」
「多分……大丈夫です。箱や檻が無ければですね。」
「おいおい、あんなじゃじゃ馬を連れてはこれないよ。だって農場では麻酔を使っていたようだぜ、だから俺も三発は頂いたよ。」
「ダメダメのカムちゃんに同情したくなりました。」
「だったら明日も焼き肉で……。」
「麻美さん。今日の費用は出しますので焼き肉をお願いします。」
「穣さんも甘いね~亜衣音から躾させられたんだかね、」
「いや今は何でもいいから情報が欲しいんですよ。沙霧の命が掛っていますから。」
「桜ならば呪文を覚えているよね……カムイコロさん?」
「もう大人しくいたします。呪文……? あ、桜も戻ったのかいな?」
「はい何度か口にしていますよ今は私の自宅です。一緒に行きますよね?」
「亜衣音~許して下さい。次はなんだい。何でも言っていいよ。」
「その馬はこの大地が乗りこなしています。私は……落とされましたが日本ダービーの新記録も出しました大地が……。」
「?……ほほうこれは驚いた。いやそうだが、あの馬に車を追わせたらいいよ。きっと案内してくれるからさ。」
「お父さん直ぐに飛行機と輸送の手配の連絡をお爺ちゃんにお願いします。」
「任せろ。直ぐに連絡して回る。」
「お願い。……大地もお願いね!」
「任せろ。直ぐに雷神を連れて戻るよ。」
カムイコロさんは私と大地を見て唸っていた。
「ほほう、これはこれはまた立派な騎士さんを見つけられましたね、素晴らしいわね。今度の巫女はね……桜よりも優秀だろうて……。」
「よ~し亜衣音、ワープだ!」
この一言で雷神が現れたから何とも便利な一言だろうか、途中省略という誤訳を付けてやりたい。語訳……誤訳……翻訳だな。語訳という熟語はない。
どうして新しい漢字の熟字が出来ないのだ。熟字=熟れた文字。だから熟れた果実以上の価値はないのだから、漢字は過去が全てで未来はない。熟れた果実はフリーズドライにだって加工出来るのに文字の加工は出来ない。国語が可笑しい国も可笑しい。俺の頭は、脳タリン。女房が常々言っているわな。
「ヒヒ~ン!……ブルル……。」
「もう~ありえね~……。」
「そうだね。雷神が現れたよね。」
「うんうん……。」
「ブフッ!」
出てきた雷神にカムちゃんが近寄ると得意の後ろ足の回し蹴りが炸裂した。
「カムイちゃん、コロ……リだよね。」
「あれはカムイ……神の化身さ。雷神と同じだろう。」
とは麻美お母さんの解説だ。ではコロとはなんだろう。
「梟の名前さ!」「うんうん……。」
「ばぁろう~俺は、コタン・コロ・カムイ……大地創造の梟神だよ。」
「コタンは何処に置いて来たのかな。」
「あれは~俺が生まれた村に置いて来た。だってコタン=村だからよ。」
1969年6月13日
*)雷神、大地を案内して!
私は雷神に一縷の望みを託してに競争臨んだ。
率いるサラブレッドの馬を乗りこなす騎士の方々を大地は競争して全敗にさせてしまったのだから、それに私も久々のお里帰りだ、喜ぶ騎士さんたちが大勢いた。私だって雷神に乗って全勝したのよね、「エッヘン!!」
麻美お母さんは雷神の底力を知ってあるので私にも競争を許してくれたの。口ではそう言われたのだが本当は私を落ち着かせる為だったと思うな、だってとても優しいお母さんだもの。
「大地~ゴメンね、ヤキモチを焼いてもいいよ。」
「シシャモでいい。」「うん、愛してる。」
「それとウソは良くないぞ、亜衣音が雷神に乗っても速く走らないだろうが。」
「テヘ、」
全勝もなにも競争なんてものではなくて併走と言うべきだったかも。誰もが本気で走ってくれないのだからね。危険分子には近づくな~by麻美。
明さんが出発の準備を終えるまでの時間潰しで、私には早朝の軽い運動だったな。
昼前にはもう私と大地は雷神と共にトラックの荷台で揺られていて、こんなに揺れるトラックでは競走馬の足の関節が痛まないのかと心配になった。(実際にはどうなんでしょうか。)
目的地は前回と同じ小さな牧場だった跡地、大地は雷神に乗って小川へ下りて行った。休憩の時間で水も飲ませたいのだから。大地は私以上に優しくブラシを掛けて雷神を労っているから悔しいよ。私にはもうブラシさえも掛けてくれないのよね、私はハッピーウエディングに向けて髪を伸ばしているというのにな。
「私らも昼食にしようか。」
「さんせ~い、私、大地に持って行く!」
「そうね~この特大のお弁当がいいね!」
「麻美お母さんありがとう。」
「あ、……それは、あたいのだったはず。」
「カムちゃん、我慢だよ。」
「はい、夜に頂きます。」
「コロ! 食後の運動……イトウを二十匹、調達を命じる。」
「ワン!……俺は犬かよ。」
午後の日差しを受けて行動開始だ。いよいよだよお父さん。
大地が雷神に乗って私は手綱を持って歩いた。これは馬事公苑で調子こいて巫女の責務を放棄して母を攫われたからだ。だから雷神に乗って揺られたらきっと心が雷神に向いてしまうからだな。
そんな私の心情を察してか、誰かが馬上で笑っていやがりやんす。
北海道の田舎の道は果てしなくて途中で私は大地によって拾い上げられる。もう疲れて歩けないと判断されたからだ。疲れたら巫女の感性は無くなるし、そう判断した大地だった。私は大地の前でもうご機嫌だよ。ず~っと抱かれている気分だよ、大地。
「バコ~ン!」 「う、イテ!」 「図に乗るな!」 「はい冗談です。」
後続の車は雷神からおおよそ二百メートルは離れて付いてくる。これは雷神の感覚を邪魔しないためで、決して私のじゃれつく姿を見たい訳ではない。だって人目が無ければ無節操な私なのだから……。きっと父さんは私がポンポンと大地から頭を叩かれているのを見て笑っているはずよね。いや絶対に見えないよね。
細い農道を通って群生する君影草=スズランの花で気分を休め、私は大地に「強い毒が有るのよ」と教えた。それから暫く山を下って行き三叉路を左に折れてやや峠? みたいな坂を上る。そうして次の道に出たらまた左に折れて山の方へ向けて進んだ。ここまでが約一時間で、大地は雷神を休ませる為に河原に出て水を飲ませるのだ。
私と大地は雷神を放置して大の字になって寝転んだ。優しい風が吹いている、私は大地の腕を枕にして休んだら、「ブフッ!」
「こら、雷神、何をするのよ、いや、いやよ、……私を大地から引き離さないで、大地~!」
「ブフッ!」
「フン! そうやって遊んでろ。」
「ブフッ!」
私は雷神により腕や足を咥えられて引きずられていた。勿論、服だけだよ。
「雷神の意地悪、ヤキモチは嫌いよ!」
これを見たカムちゃんは大笑いしたそうだ。
「ははぁ~、これでは巫女も形無しか~……ギャ~ッハッハッハ~~。」
お腹に力を込めて豪快に笑いやがったよ大地。でも俺は知らないという感じの大地だ。今では大地の横に雷神が立っているのはど~して~なの~よ~!!「ブフッ!」「ブフッ!」「ブフッ!」もう勝利の宣言だ絶対にそうだよね、大地。
それから歩くこと更に一時間余り三叉路を左に曲がる雷神。
「大地、何だか気分が悪くなったかも。」
「おいおい、こんな大事な時にかよ……?」
その先には白い厩舎らしき建物と裏には馬場らしい広い土地が見えたきたのだ。
「大地、此処だね。私を降ろして大地。」
「あぁ今降ろしたる。でも少し戻ろうぜここは目立ってしょうが無い。」
「そうだね大地。父さんに報告に行くよね。」
「まずはそれが最初だろう、知恵も借りなくてはね。」
「作戦会議だね……大地……急いで戻って……、」
「おい、亜衣音……、」
私は雷神の上で大地に抱かれて意識を無くした、今まで以上の最悪な気分に押しつぶされた私。……お母さんと赤ちゃんが危ないよ、大地、……急いで。




