第55部 なぁお前……痩せたのか!
1969年5月11日
*)赤い瞳の亜衣音、再び
この夜……事件が起きた。私が……起こした。家が浮き上がっ……たのだ。
「ゲ・ド・ラ”・ギュ・ギョ~ェ!……ラ~!!亜衣音……亜衣得ない……!」
寝静まった白川家に意味不明な叫び声で部屋から飛び出した大地は、ここでようやく私の洗礼を受ける事になった大地。
時間は澪お姉さまと私達の結婚式から家族で帰宅した時間にまで遡る。北海道の田舎の家族を祖父の家と分担して宿泊させたのだが、麻美さんと明さんは私の家で泊まるからと言い張った。
今日の私は不意打ちの私達の結婚式で私は兎に角舞い上がっていた。横にいる大地を見るだけで顔が紅くなる。いや最初から顔は紅いのだが、頬に感じる熱で冷や汗も流れる感じすら受けるのだ。耳が熱くなるのはどうしてかな。
この日は特に麻美さんが気に掛けてくれた。私を「ヨイショ」してくれるの。
「亜衣音ちゃん今日は可愛かったよね。旦那さんも来てくれたから、もうお母さんも用済みになったかな。」
「いや~お母さん。……そうだね~。」
「亜衣音ちゃん。今日は初夜よね!」
「いや~お母さん。……そうだね~。」
「沙霧さ~ん。貴女の指輪を大地くん経由で譲られたどうです~?」
「そうですね今は一人娘ですしね、大地くんに渡してプロポーズをさせましょうか。」
「いや~お母さん。……そうだね~。」
「大地くん、後で二人きりになった時に渡してね。」
「何と言って渡せばよろしいでしょうか。」
「そうですね~『俺を選んでくれてありがとう。』とか、『俺がお前を一生守ってやりたい。』とか、後は~そうだ! 『亜衣音、俺を守ってくれ!』うん、これが一番ストレートかしら。」
「なんですか『俺が一番幸せになりたい』ではいけないでしょうか。」
ホワ~ッ! となった麻美さんだった。耳が紅くなるのを明さんは見逃さない。
「お前若いな~今は幾つだ! それにお前がプロポーズを受けてはいないよな……どうなんだ?」
「明の意地悪!」
「いや~お母さん。……そうだね~。」
私が居る前でみんなは好き勝っての言い放題。私は幸せを感じてポッとなっているから何も聞こえない。常に上の空だ。
「亜衣音ちゃん。」
「いや~お母さん。……そうだね~。」
「亜衣音、結婚指輪だ!」
「うん、大地、着けて!」
「?……亜衣音ちゃんは正気だったのか!」
全員が寝静まる丑三つ時に私の意識は飛んだ。大きな強い風が起きて家も浮いてしまって同時に二階から大地の泣き叫ぶ声が家中に響いたから大変。
「ゲ・ド・ラ”・ギュ・ギョ~ェ!……ラ~!!」
「おい、おい……亜衣音……亜衣得ない……! 俺に噛みついて、俺が逃げなければいったい、俺のなにが!、、、どうなっていたことか!」
「だ い ち~ 逃げるな~、」
この時の私は髪を逆立てて真っ赤眼をして、口には牙を、頭にはお団子を通り越して耳が……。それにパジャマの右足をとあるもので倍ほどと異様に膨らませてもいた。いったい何がどうなって膨らんだ?
階下へ逃げた大地を追って私は階段の下に転げ落ちたら、
「ほら全員で亜衣音ちゃんを押さえるのよ、バケツに氷水はあるよね、」
「はい、熱いお湯も用意してますわ。」
私は見事に押さえつけられて、氷水の次からお湯を掛けられて、ようやく正気を取り戻していた。
「ファ~!」
「お前は今晩から大地くんとは別々だからな、いいか!」
「クシュン、……はいお父さん。」
「それから、指輪も没収致します。」
「最初からそういうつもりでしたのよね、お母さま!」
「あら、なんの事でしょうか、亜衣音ちゃん?」
頭から湯気を立ち上らせて言うのだから皆は笑ってしまう。
「うぐぅ~。大地、 続きしよう!」
「バコ~ン!」
夜中に起きたつむじ風は隣家を半壊にさせたもよう……。お爺ちゃんはこの機を見逃さずに隣さんを訪問し、そして札束でちゃぶ台を叩いたそうだ。この家の家族はお札を部屋に撒き上げてとても喜んだとか?
「おい、これで隣の奇声から解放されるぞ!」
「あなた、良かったですね!」
両親は、
「これで亜衣音の隔離が出来る、……いいことだわい!」
私のお団子のコブの意味が分りました。人狼の耳を覆って隠していたのですね。今は亡き霧お婆さまの遺伝なのかしら……。(二年と半年後にお団子頭が解決した。素晴らしい!!)
1969年5月12日
*)久しぶりだね
私は翌日の登校で友人の四人の顔を見る事が出来なかった。そう、しおらしい私なのだから。でも強引に迫る女の力には弱くて流されて、既に白い歯を出して笑っていた。大地もそんな私を見て笑ってくれている、嬉しい。
私の瞳が微妙に動くのを見逃さない四人だ。恐ろしい限り。
「ねぇ、家ではいつもなにしているのよ、教えなさいよ。」
「え~っ普通よ、テレビ見て、お勉強して、そ……それだけです。藍にはかなり水を空けられたよね、挽回してやるのだからね。」
「そうなんですか……落ちた亜衣音には興味はありません。早く這い上がって来なさい。でも……この落ちた亜衣音には興味は尽きませんよね~。」
「い・や・だ。もうからかわないでよ、お願いよウグ~。」
「中間考査はもうすぐだよね。出来るかな~。」
私は窓側の壁を背もたれ代わりにして教室の方を向いていて、未来は私の右側で後ろの席に軽くお尻を乗せて座るのが好き。藍は私の左側に来て椅子にお尻を乗せている。双子は未来と藍を正面にして、これまた横の机に座ったり椅子を借りては座ったりしている。
大地はこれを正したいのだとか。
大地はそんな彼女たちの踊るお尻を眺めるのが好きみたいで、私がキツい顔して睨むとプイっと右を向くのだな。問題はこちらかな~二次元が好きな未来、女の子の主人公はミニのスタイルが可愛いからと殆どがミニスカートなのよ。影響を受けてこれを再現したかのような未来、するとどだろうか机に座る未来の太ももは白い部分が沢山見えてしまうから大地の視線を一身に集めるの、フン、なにさバ~カ!
クラス委員長は……誰? 名前も分らないが私たち女ギャングには注意さえしてくれない、とても有り難い委員長だった。
だから席替えが希望された。女の尻弾力は恐ろしいらしい、大地の前の席と前々の席の女子が居たたまれなくて、この二人の協議により立花の双子に席を譲られたのだ。それから暫くして私の前後の席が、明神さんと雨宮さんに譲られる事に決まったが、決まらなかった。二人とも私の前の席を欲しいと言い出したが、鶴の一声の天啓が下りた。
「いいか俺が翠と代わる。碧は亜衣音の後ろだ。未来、お前は俺の前で藍は亜衣音の前でいい。これで万事解決。」
「へ~……私、大地を見直したかも……。」
「大地くん、私のお尻を好きだものね、知ってるよ!」
「馬鹿! 五月蠅い、黙れ、煩いのは嫌いだ。バカ!」
「田中くん随分と言ってくれるわね、私、後ろ向いてお弁当を食べたいな。」
「いいぜ、俺は亜衣音にくっつくよ。」
「おっ、これはどう言う意味でしょうか、はい亜衣音ちゃん。」
「もう知らないよ。好きにすれば!」
「大地も普通の男の子だよね、可愛い未来には弱いのかな?」
「……。」
こうしてお昼のお弁当を囲んだ机の並びは私と大地が向き合って、教室の後ろ側の双子が私と大地の机に付ける。そうなると教室の前の方には同じように藍と未来が机を寄せるかたちで収まる。
「亜衣音ちゃん。私達六人は完全にクラスから浮いたかな。」
「未来そうだと思う。それでもいいのかな。」
「大地くんを守りたいのでしょう?」
「いや、それは~そうだよ。」
「だいたいな、お昼に教室で弁当を喰らう男は俺一人だよな。この時点で異様だとは思わないのか。」
「ウンウン、」x5
クラスに残ってお弁当を食べるのは男が一人か二人で、たまにはゼロ。女子に至っては三分の二が真面目にお弁当を食べている。席を合わせて食べる連中は皆無に等しい。大概の男は部活の連中と食べるし、パン組も居るが中には喰うに困る時の男も居る。授業中に早弁とか朝来て弁当とか、三限目の休み時間にはご馳走さまだったり。高校の男子は昼休みにはいったい何処に行くのだろうか。
家庭の貧富でお弁当の中身は変るのが普通か。春先になるとおかずは竹の煮物もあったりする。タケノコの硬くて捨てる部分だな。川の近くに住んでいる者はフナの煮付けだったり、農家の跡取りは兎の肉だったり。
教室の風景はこれ位にして、部活を済ませて自宅に戻れば若夫婦にはもう食事の用意も出来ている。上げ膳据え膳だな。だからお母さんの口癖は、
「あんた達しっかり勉強しなさいよ、大学には行ってもらうからね。」
と言うのだが、巫女の力をフルに使って試験勉強して勝ち取った成績で、推薦入学を果たした母の姉妹には言われたくはない。この情報はもちろんホロお婆さま。お婆ちゃんは若い娘には弱いしまた、あり得ないのが大地という若い男の存在だ。子供として男を産めない巫女には扱いづらいだろうか、大地にはとても甘いようだ。
夜になっていつものように大地と勉強をしていたら、大地が話しかけてきた。
「俺、藍が苦手なんだ、あいつはいつも亜衣音を狙っているというか、兎に角さ苦手だな。」
「そういう意味ね。でも、未来は可愛いよね美人だし……。」
「……。」
「だ~いち!」
「それから双子ちゃんには気を許すなよ、あれも俺は理解出来なくなった。事実六人が集まればさ、話して来ないだろうが意味判んない。それでいて俺らにはくっついてきやがる。なぁそうだろう?」
「そうなのかな~私には判らない。大地が私を守ってよ。」
「いいぜ全力全開で守るよ。」
「ありがとう~。」
「お前……痩せたのか!」
「え? なんで、」
「身体が細くなった。腹が引っ込んだようだよ。」
そう言えば私、最近は身体が軽い感じがしてきたし気力も増してきた。これはもしかしてもしかするかも……しれない。
「ねぇ大地。裸になって身体を見せて、お願い。」
「なんだよそれ全部脱ぐのかよ。俺を襲うのはよせよ。」
大地は恥ずかしいと言いながらも全部を脱いでくれた。私だってまじまじと大地を見るのは恥ずかしいよ。
「襲わないよ、もしかして私達は繋がっているのかも知れない。ほらここんとこと、ここかな。大地には筋肉が付きだしているね。私は~、」
私も素直にするすると服を脱いだ。鏡台に身体を写して見ると、
「そうね、大地と同じように筋肉が付いているよ。」
「触るぞ、……ツンツン……同じだ、どうしてかな。」
「うん、このままHしよう!」
「いいぜ、」
即答だった。いつもは逃げるのだがどうしてだろうか。そう思ってホロお婆さまに尋ねたら「大地が人狼の身体により近づいた」のだと答えて貰った。大地はよりワイルドな身体と性格に変っていくらしいと。だから私は大地の虜になって溺れていくのかな。
でも私たちにはお母さんたちが戦った東北の事とか、未だに封印されているのか教えて貰っていない。お母さんたちも薄々は気が付いているのだとは思うが、どうして教えて貰えないのかな。
私には人狼の巫女の常識とは逸脱した存在だったと誰もが知らなかった。知る人物は一人いるのだがまだ先の事だ。この人物に対しては家族の全員が知識さえ持ち合わせていなくて、私はこの男により崩壊していく未来が待っていたとは。
ポル=バジンの儀式さえ無ければ私は幸せに暮らせた……はず。人狼の巫女の糾える縄のような運命に私は翻弄され続ける。
「亜衣音、一言だけ言っておく。赤ん坊は作るなよ。作れば亜衣音は巫女の力を失うからね。そうなったらこれから産まれる巫女の双子たちを守れなくなるからだよ。新しい巫女の六人が産まれたらきっと何かが起こるのだと思う。なに、これはババァの戯言だよ気にしなくてもいいがね。」
「それは私が、何かの中心になるって事かしら。」
「そうだとも言えるがワシには判らない。また悪夢が再会されるやもしれないと思わんでもないよ。ワシも全力で亜衣音を応援するからね。」
「うんお願いします。もし大地が居なければどうなだろう。」
「これだけは言える。綾香と彩香が人体実験で殺されていたよ。次は沙霧の双子を守らねばならないね~。」
私は言い知れない恐怖を感じた。そんな私を大地は優しく抱いてくれたのだ。
「大地、私を抱いて。そして私から力を受け取ってね、これからも強くなって欲しい。大地、愛している。もっともっと強くなって、大地。」
「うん俺も……強くなりたい。……守るよ。」




