第52部 田中 大地
*)生と死
俺はこれで死ぬのかな。背中が熱い、焼けるようだ。どうして俺は此処にいる、亜衣音が笑っている、……どうして? 俺は亜衣音の手を握った、……どうして? あ~この俺が何か悪い事をしたのか、その報いを受けているとでも言うのか、俺には分らない。背中が痛い、もう限界かな、意識が無いのかな……、
亜衣音、元気でな……、
亜衣音が優しく微笑んでいる。俺に「ありがとう。」と言っている。これは夢だろうか、亜衣音は俺に「死なないよ……」と言ってくれる。俺は死なないさ、どこまででも生き抜いてやる。亜衣音の顔が近いよ、口と口が重なっ……。
「田中、おい田中くん。しっかりしろ……。」
「おじさん、亜衣音を助けて下さい、おねが……、」
「田中~……亜衣音は大丈夫だからな。わぁ~血が背中に……。」
大地、ありがとう。やっと病院に着いたね。でも、大地、ゴメンね! 私にはもう力は残っていないの。大地、どうして寝ているのかしら、そうね、ご褒美が必要よね、でも今はこれしか出来ない。大地、こっちを向いて、そう、それでいいわ、目を瞑ってくれないかな、ううん、私が恥ずかしいのよね、大地……大好きだよ、お礼は口で伝えた……いかな、大地……。もう限界かな、
大地、笑ってね……大地、愛してるよ……。大地……すき……、
「亜衣音、亜衣音~。キャ~血が!……亜衣音~……どうしたのよ……この血はなによ、どうしたのよ、亜衣音~お願い、目を開けて……、」
「お母さん大地をお願い……。」
「亜衣音~!! いいよ、大地くんは任せて、」
「二人をありがと……ね、亜衣音ちゃん。」
「う……ん……、」
「酸素ボンベを此処に……。」
「おい男の子と赤ん坊を集中治療室へ、急げ!」
「女の子はどうするのですか、」
「いつもの部屋に運ぶから大丈夫だ。……直ぐに運んでくれないか。」
「でも、その血の跡は……」
「いいから、運べ!」
「……はい。」
私は全力を出し切ったせいで力尽きて倒れた。それほどに必死だったから。
*)目覚めと……絶望と
朝の目覚め、それはユックリと意識が戻る瞬間なのだが、目覚めたと意識の次に周りの音が耳に聞えてくる。そう目覚めても直ぐには音は聞えないのよね。
私は目を覚ました。周りが私に気づいて声を掛けているようだが、聞こえないのだからまだ目が覚めていない夢の中のよう。そんな私の逢魔が時が長く長く続いているような気分だった。
「大地の声が聞こえないよ、どうして……、」
「白川さん、申し訳ありません。全力は尽くしましたが、その田中くんは脳に大きなダメージが残りました。すみません殆ど絶望かと思います。今は麻酔で眠っていますが恐らくこのままかと……。」
「先生~大地くんを助けて下さい、でないと娘も不憫でなりません。孫も助けてもらっています、このままでは気も収まりません、いいえ大地くんも不憫です。」
「お母さん。ですが……申し訳ありません。」
「そんな~穣さん……、」
「あぁ、そうだな……、」
翌日の夕方過ぎの暗くなりかけた時間にようやく私は目覚めた。
私は目覚めて両親の顔を見られて安心しニコリと微笑んだが、険しい顔の両親は私を許してはくれなかった。直ぐに叱られた。気怠い身体を労れずに追い打ちを掛けられたようなキツい両親のまなざしに私は大いに困惑した。だが田中くんが刺されて意識不明だと聞かされて、
「田中くんは昏睡状態よ、亜衣音はなにをしたの、いくら何でもこれは許すことすら出来ないでしょうね。」
「ウソよ、私を大地に会わせて!」
「いいでしょう、そしてお詫びを言いなさい。」
口からは大きなホースが差し込まれていて点滴もされている。そんな悲惨な姿で眠る大地をベッド確認したらもう私の身体は瓦解してしまった。
ベッドで横たわる大地の姿を見せつけられて泣き崩れる……。それでも両親は私を許さない、私は泣きながら両親から説明を受けたのだった。
「貴女は軽率すぎるのよ田中くんはどうするのよ、亜衣音には手も足も出す事は出来ませんよね。勿論母さんにも無理なのですよ、田中くんのご両親にはなんとお詫びをすればいいのか分りません。」
「お母さんごめんなさい。本当にごめ……わ~……、」
容赦ない母の責めに対して私はもう声も出ない、ただ泣くだけになった。
大地の緊急オペは学校の教頭先生という肩書きで父が保証人になり、すぐさま執り行われたのだが「時、既に遅し、」だったという。
大地の身体に巡る血液は自身が走る事により、脳に充分に送られなかったという説明を私の両親がドクターより受けている。
これらの事は明子姉さんには秘匿されるも、まだ十分に動けない明子姉さんには私が二人を助け出したという事実以外は、全てが秘匿されることに決まった。そうは決まったものの明子さんはきっと気がついていても何も言えなかったものと思う.だって私は明子さんを見舞ってもいないし、泣き崩れた顔をしながら、どの面を下げていけば判らないもの。
それらも私の両親からコンコンと説明を受けたのだが、それは両親が私を怒っている、という雰囲気でしか伝わってこなかった。私はグシャグシャな顔をして四六時中も泣く事しか出来なかったから。
「お嬢さんにはお眠り頂きます、これ以上お嬢さんを責められましても事は進みません。」
「いいえ、」
「お母様でしょうが、お嬢さんの活躍した事にも目を向けられてください。然もないとお嬢さんも立つ瀬を失ってしまいますよ。」
「はい……亜衣音、怒って悪かったわ。」
睡眠薬入りの点滴を受けながら、何時眠ったのかが判らないが翌日の事だ、まだ私が目覚めていない時の午後三時を過ぎた頃だろうか。
両親と澪お姉さまは、
「ねぇ、この田中くんの両親には連絡が出来ないのかしら。」
「学校を通じてというか、俺が直々に行ったが住所はデタラメだったよ。小さな掘っ立て小屋が在るだけでさ、確かに田中くんの些細な荷物は在ったよ、だからなにも判らない。中学校にも聞いたが親戚の家に居たらしいがその人も今では行方が判らないと。どうも両親は居ないらしいので交通遺児としか思えないし一つ上の兄が居たらしいのだが、こちらも行方不明だと聞いたよ。」
父は薄らと田中くんの素性を理解したようで、こんな事はいくら何でも沙霧には言えない。だからあやふやな事実は隠蔽しても、ウソだとはならない。
大地の兄はいつしか死亡していたという証言もあった。だから戸籍を調べたら兄の戸籍はあって今も存命のままで大地は戸籍に載っていなかった。無国籍で住民登録されていなかった気配を感じたという。後はジジイに丸投げをしたということだ。大地は1952年4月1日生の兄の戸籍を踏襲するしかない、大地は年下だった。両親も亡くなっている可能性が大だと父は考えた。その他は全てが憶測になる。
「そんな、余りにも可哀想すぎるわ。本当にそうなのかしら。」
「沙霧、すまない。今はこれくらいしか分らない。もう俺らは祈って田中くんが目覚めるのを待つしかないようだ。」
「そんな~、」
澪お姉さまが父に話しかける。
「何とかなりませんの?」
「澪霧さんにも心配させてすまない。」
「これでは白馬の王子さまの事は、明子さんには話せませんね。」
「そうだな、今は二人の娘が無事に戻って喜んでいるから、地獄に落とすような事は話せない。」
「亜衣音ちゃんはどうするのですか?」
「こんな内容はやはり亜衣音にも話せないだろう。亜衣音には最初からキツく言い過ぎたし、俺が悪いのは理解している。だが、これを何処にもぶつけられない俺も心が折れそうになっている。」
「そうですよね。悪いのは誘拐犯なのでしょうが、二人が戻って犯人が逮捕されてこれで事件が解決したとは、とてもではありませんが納得できません。」
「私は明子さんを看病しに行きますが澪は亜衣音をお願いします。逆だと明子さんに何かしらの不信感を抱かせそうで怖いのです。」
「札幌の両親が居ますが、どういう役を押し付けていますか?」
「穣さんどうしますか、私の両親には。」(杉田夫妻)
「これも教えない方がいいかな。丁度亜衣音達が二人を連れて来たのが夜で幸いだったかな、ジジイの家に追いやってて正解だったよ。」
「そうですわね、それは良かったのでしょうね。」
もう一人の泣き崩れる人物がいる、ホロお婆さまだ。双子の奪還の首謀者なのだが、亜衣音がホロお婆さまの事を一言も話さないのだから誰も首謀者とは思いもしてはいなかった。居たたまれないホロお婆さまは、大地を救う方法を進言すべく私の両親の元に行って、
「どうなされたのでしょうか。」
「穣さん、それに沙霧と澪霧。話しがある。」
「はい、なんでしょう。」x3
「穣さん、何処かで落ち着いて話せる処はないだろうか。こんな人が多く通る処では話せないからね。」
「えぇホロお婆さま。」
父は事務局長にお願いして会議室を借りてきた。
「ホロお婆さま、ここならば安心出来ます。会議室は広いですからドアから一番奥に行けば誰にも聞こえませんよ。」
「そうだね、これだけ広いと大丈夫だね……。」
少し間を空けてホロお婆さまは口を開いた、どうにか泣き声を堪えている。
「すまん、全部ワシが悪かった。亜衣音だけは許して欲しい、ワシには許しを乞う資格がない。この計画はワシが立てて亜衣音と大地くんを巻き込んでしまった。ワシが全部お前達に話しさえしておけば良かったのじゃが巫女の力を遣うので相談が出来なかった。どうか亜衣音だけは許して欲しい、それで……、」
「ホロお婆さん、」
「ホロお婆さま、娘にそんな危険をさせておいて許せと言われるのでしょうか。そうですねもちろん許せませんよ、だってなにも知らずに亜衣音にキツく怒りましたので亜衣音は許します。ですがホロお婆さまは許せません。」
「おいおい沙霧さん。俺も同じだとは思えないがもう少し、そのう……話しをだな聞こうではないか。まだ先がありそうだよ。」
「穣さん、ワシを怒るのは後回しにしてくれ、先ずは大地の命を助けたい。どうか先に大地を助けさせてはくれないか。このまま大地が死んでしまえば亜衣音もどうなるか、ワシには亜衣音を巫女の力を抑える事は出来ない。」
「あ、亜衣音の巫女の力を忘れていました。今はすっかり女子高生らしくなっていましたから、あ~そうです。私が一番悪いのよ。穣さん、直ぐに亜衣音に謝りに行きましょう。あの子は~亜衣音は巫女なのですから。」
「沙霧、待っておくれ。まだ話しは済んでおらぬ。」
「あの子が情緒不安定で巫女の魔力を解放してしまえば、この病院だってどうなることか想像すら出来ませんよ。」
「そうだよ穣さん。それ程に亜衣音の魔力は恐ろしく強いのだよ判ってくれないだろうか。」
「すみません、先走ってしまいました。」
この時点で父は話しに付いていけないのだが。父の疑問は巫女とは……なんだ。
「穣さん、沙霧、澪霧。亜衣音と大地はワシに任せてはくれぬか、最後まで責任を取りたいのじゃ。穣さんは医院長に掛け合ってくれ、亜衣音から大地への直輸血をさせたい。沙霧には双子から輸血用に各一ccでいいから血を抜いてくれ。大地に輸血をさせたい……いいかい。」
「ホロお婆さま。まさか、それは、いきなりに、いやできません。」
「じゃが双子を助けて大地くんを死なせたくはないだろうし、このままでは亜衣音の心が折れて暴走するやもしれん。天秤には掛けられん、どうじゃ。……可愛い娘じゃろう。勿論、大地くんの問題が残るがそれはワシらの家族にしてしまえばいいだろう、それから罪滅ぼしを買ってでようか。」
ホロお婆さまは威圧的になって母を説得している。
「……はい、そうですよね、可愛い、やっとこの両手に収める事ができた娘です。また手放す行為は取りたくはありませんもの。」
「穣さんはどうだい、これでいいかい。」
「穣さん。今の内容は理解出来ないでしょうが、ごめんなさい。私とホロお婆さまに任せて下さい。」
「そうするよ、指示に従う。」
「お願いします。」
「ありがとう。」
「沙霧、私はなにをどうすればいいのかな。」
「澪には……う~ん……判んない、」
「あれま~!」
「亜衣音ちゃんの相談相手になって欲しい。いいわよね。」
「任せて!」
「穣さん、行くわよ、これは戦争よ!」
「お、おう……。」
父は事務局長に頼み込んだ。主治医の説得なのだが多大な○○を提示した。
「どうです、この○○で派閥が作れまっせ!」
「これはすまない。白いキョウトウは落とせないので苦戦していたのだよ。」
「では、OKという事で……。」
「そちも悪だよのぉ。」
私はこんな裏話は知らないし白いキョウトウとは誰? ウソだからね! 思い込みで読んだら白い巨塔になるんだから。
夜の九時になっていた。まだ病院を歩けるのも警察のおかげか。
「わしゃ亜衣音に会いに行くかのう……。」
と、いつものボケた振りのホロお婆さま。
「ここかのう、亜衣音の部屋は……。」
少し緊張してドアをノックするホロお婆ちゃんだ。
「はいどうぞ。」
「亜衣音、ホロだ、入るよ。」
「お婆ちゃん。」
「相談があるのだが、いいかい。」
「こちらへどうぞ、……直ぐお茶を淹れるね。」
私は冷たい急須から湯飲みにお茶を注いだが、ものすご~く黄色いお茶で~お婆ちゃんは顔の目尻を引きつるようだった。(なに、顔面神経痛だよ。)
「……亜衣音、今回はすまんかった。ワシが全部悪い。」
「ううん違うよ、私がしっかりしていなかったからだよ。だから私は大地が刺されたと気づいてやれなかったのよ。ホロお婆さまには責任はありませんよ。」
「じゃがな、大地くんの背中からだったから亜衣音も気づかなかっただろう。」
「うん、そうなのかも知れないね。」
「だがな……、」
「まだ何か……。」
まだもの言いたそうな顔を続けているお婆ちゃん。
「先に大地くんを助けたい。今でも集中治療室だろうが、このままでは寝たきりの廃人になる可能性が高いからのう。」
「や、嫌よそんな。大地は助かります、私が付きっきりで看病して助けます。」
「亜衣音は大地くんを助けたいだろう。だがどうやって……できるのかい?」
「そ、それは~……、」
ホロお婆さまは追い打ちを掛けて、私を従えさせようとしているみたいにして状況説明をしている。後は優しく巫女の血の繋がりを簡単に教えてくれたのだった。
「二人の巫女の血が男の命を助ける事が出来る、どうだ亜衣音も儂にしたがってはくれないだろうか。」
「大地が助かるのならば私はなんでもいたします。だからお婆ちゃん、大地を助けてください。」
「儂は口だけじゃ、大地の治療は亜衣音がする事になる。いいかい、全力で助けるのだよ、亜衣音の輸血で助かるのだ。他にもやって貰わねばならぬ事もあるがの、それは後で説明する。」
「はいお婆ちゃん。私の血は全部抜いてもいいです!」
巫女の血の力、そんな事は伏せられていたのだろうか、麻美お母さんからは聞いた事もない。
「亜衣音、直ぐに準備が出来ると思う。手術室へ向かうよ。」
「大地はまた手術を受けるの?」
「違うよ、亜衣音の血を少しだが直に輸血をしたいのさ。ここは病院さ、ましてや傷口に手を突っ込むような手荒な治療はしないよ。」
「なにそれ、怖いよ。……私の輸血だよね、」
「すまんのう……ババアの戯言が大事になってもうたわ。」
「え?……。」
「独り言じゃが、先にトイレに行っておけ、緊張しているだろうが。」
「そ、そうね、でも大丈夫よ、今日はなにも食べてはいないもの。」
「それはいかん。何か食べないと血が足りぬ。だったら羊羹じゃ食べろ!」
「え、そうね、一口で頂くわ。」
「一口……ねぇ……。」(それは丸ごとだろうね。)
「ほれ美味しいお茶じゃ。」(亜衣音が淹れた……ものすご~く黄色いお茶だよ。)
「うん美味しい!」
「ほぇ~!」
「亜衣音、準備が出来たぞ大丈夫か。」
「うんお父さん。羊羹を頂いたわ、大丈夫。」
「(羊羹?…なにも無かったよな)良かったな。ホロ婆様もよろしいですか。」
「行こうか、なに大丈夫だよ……。」
お婆ちゃんは口は達者なんだから~でも身体が震えているよね。私たちは手術室へ行った。
「亜衣音さんはこちらのベッドの上で横になって下さい、泣くのは後です!」
「は、はい、」
私の横には大地が眠っている、水さえも飲んでいないのに留まっていた涙が溢れ出して止まらない。
「大地。いま私が助けるよ、待っていてね。」
「亜衣音さん、怖い事はありません。彼の腕と貴女の腕と輸血管で結ぶだけですよ。大きい針が少し痛いだけですからね。」
「はい先生、お願いします。」
「輸血の時間はおよそ二分で済みます、直ぐに終わりますからね。」
「え、えぇ、」
「おい君。そこの注射器の輸血を男の子にしてくれ。」
「はい、医院長さま!」
この医院長は軽やかに舞うように輸血を終わらせていた。ものの三分で輸血は終わって私は拍子抜けしたかのように先生に尋ねた。
「先生、これだけで良かったのでしょうか。」
「後は家族に引き継ぐ約束ですが、指示はお婆ちゃんから受けて下さい。」
「はい、分りました。」
「あ、今は血が少なくなっています、ですので眠気が襲うはずだからこのまま休むといい。」
「おい、君。二人を特別室へ送ってくれ。それから点滴な。」
「はい、医院長さま!」x2
紙帽子と大きなマスクの二人の看護婦、顔は見れないのだった。でも声が?
私は大地に続いて病室へ移送された。部屋に着いた覚えは無いが、二人の闘病生活がそれから一週間は続いた。例えればそれは子猫と子犬の戦いの日々だ。
私は横で何かが動く、モゾモゾとした感触を受けて目覚めた。
「うん?……大地。お婆ちゃん? 私はどうして一緒に寝ているのかしら。」
「亜衣音、気が付いたか。今日はなにも考えないでこのまま大地くんと寝ていてはくれないか。事情は明日には話そうか、食事とお風呂は自由でいいよ。」
「はい、でもどうしてかな。」
「夜中だが先に飯を食え、それから水分補給にミルクがいいかのう。風呂は小さいが完備だよ。」
「お婆ぁ……ちゃん先に教えてよね。でないと横で寝ているのは恥ずいだよ。」
「そうだのう、これはワシの娘から聞いた話だが、今の亜衣音と同じじゃ。どうだ、眠りに就くまで聞きたいか。でも飯が先じゃ。さもないと大地くんも目覚めぬぞ。」
「それはいや。多分、巫女の力を大地への生命力に遣うのよね。だったら沢山食べるよ。」
「そうじゃが、亜衣音は今まで沢山の生命力を周りに与え続けてきておる。枯渇してもいいくらいなのだよ。だからお腹いっぱいに食べて元気になってはくれぬか。さもないと明子さんや両親にはこの大地くんを助けられなかったと悔やむことになるだろうて、そう考えてはくれないだろか。」
「はい頂きます……羊羹!」
「いやそれは違う。時期に届くよ。」
ホロお婆さまはナースコールのスイッチを持っていて、何度も何度も押していたらしい。後で散々怒られていたから私、笑っちゃったな。
食事は両親が運んでくれていた。それから両親からも事情を聞かされて、私は嬉しくなり頬に紅が差すほどまでに元気になった。ホロお婆さまの子守唄は聞かずに眠ってしまうのかな。
「お母さん。私が眠るまで横に居てよ。」
「はいはい、お父さんもいいのかい?」
「うん、お願い。」
ここは寝たふりだ……! スーピースーピー……。
「なぁ沙霧さん。亜衣音は嫁に行ったのかな。」
「そうね、本人達は分らないでしょうが、お互いが好きな者どうしで良かったと考えましょうか。」
「するとなんだ。またまた増築するのかいな。」
「いいえ今度は新築ですよ。愛娘ですよ。」
「もう土地は無いよ。」
「あら、でしたら四方のどちらかを追い出しましょうね。」
「いいのかな~、」
「いいのですよ、お爺ちゃんがどうにかしますわ。」
「ジジイにはなんと説明するのだい。」
「あら嫌だ……穣さんがしますでしょう。実父でしょうが……。」
「いや~実はな、俺はもらい子でね、橋の下で拾われて、アハ、アハハハ……。」
「まぁ~ご冗談を!」
「いきなりに息子ができたのかな。」
「はいできました。こんな可愛い寝顔は見た事はありませんよ。」
「どっちだ、」
「二人ともですよ、大地くんは間違いなく助かります。もう紅が差していますよ……ほら。」
「良かったのかな。沙霧が言うところの人狼だろう?」
「きっとこの子でしたら亜衣音と一緒に運命も受け入れてくれますよ。」
「それならばいいのだが、俺もそうなのか!」
「穣さんは違いますが私達の家系は全てが人狼で巫女なのですよ。嫌いになりましたか?」
「解らん。でも好きだ!」
「まぁ嬉しい。解らなくてもいいのです。これは巫女が負う定めなのでしょうが仕方がありません。」
「それが亜衣音の人生、……か~。」
「ホロお婆さまはここでこのままでいいでしょう、任せて帰りますよ。」
「いいのかい、……いいよね、どうせ狸だ……家に帰ろうか。」
「はい。……おやすみなさい、二人と狸さん。」
両親はゆっくりと立ち上がって帰っていった。
「お母さん……お父さん、すみません聞いていました……。」
「うう~ん……大地が夫、私が……大地の嫁、複雑だわ……。でも嬉しい! 結婚が出来るんだね。」
「嬉しいねぇ、説明が省けたよ、」
「え……狸という意味を? ですか。」
「バ~カ、……キスしておやり、」
「うん……だ~いち! 初めてだよね、」
「……二回目だ、」
「ゥキャ~、」




