第51部 逆襲……
1969年4月23日
*)私は……無双
「亜衣音、いいから制服に着替えた着替えた。」
「えぇ~っ何でだよ。」
ホロお婆さまは私に制服を着るよう命じる。はてな? と尋ねる私。
「なに大丈夫さ。ワシがあのお転婆たちを追い返すよ。」
「いいのかな~田中くんはどうするのよ。私は手を握られたらもう落ちちゃうからね、120%で無理だよ。」
「彼奴に落ちてもいいが、クロからは落ちないでおくれ。」
「だったらお化粧も……。」
「亜衣音は弱いね~、逆にパンチラで彼奴を落とせないのかい。ほら、いつぞやのスカピラだよ。」
「もう~お婆ちゃん冗談はよしてよね~。その……スカピラって何よ意味は分るけれども……やっちゃうよ!……喜ぶかな、うんうん。」
「?……。」
「で、どうするの!」
「ホ~ッホッホ~なに簡単さ外に出ようか。今は~クロは一人で厩舎だから暫くは誰もこないさ。南を向いてクロを呼んでおくれ。」
「うん試してみる。」
すでに夕方は過ぎて暗くなっている。私の友達は無視されているから帰るしかないのだ。お婆ちゃんは本当は当てにならないのかな、藍たちが可哀想になってきた。
私はお婆ちゃんから言われるままに南を向いてクロに念を送った。
「クロ、聞こえる……クロ。助けてもらいたいのよ。お願い、聞こえたならば直ぐに来て!……お願いだから、綾香ちゃんと彩香ちゃんを探して!」
「ブヒヒ~ン! ブヒヒ!」
「んもうクロ、お願いだからブタにはならないで!」
「ブヒ!」……「ブ!」
「おやおや、これは文字が段々と消えていくのだよね困ったものだ。そうだ亜衣音、私もクロに乗せておくれ。二人で迎えに行くよ。」
「え?……誰を!」
「あの小僧だよ、お前の王子さまと言うたかな。」
「はい今は……まだ馬事公苑だよ。クロの横に居たのかもしれないわ。」
「そうだろうよ、あれはいつもクロにブラシを掛けて帰るからの~。」
「お婆ちゃんは知っていたんだ、意地悪!」
「だって亜衣音には穣さんの迎えが来るだろう、教える義務はないよ。」
「だって~教えてくれても……いいじゃんか!」
「亜衣音、跳べ!」「ブヒヒ~ン!」
「はい。」「ブヒヒ!」
「クロ! 跳んで!」「ブヒ!」
「わ! ……ブ!」
腰を抜かしていた田中くんの前に一瞬で転移して、……更に田中くんには屁をこかさせた。
「亜衣音、これがクロの力だよ。知っているよね。」
「なんだ……あり得ない……亜衣音だよ……。」
私は知っていますよと振り向いてホロお婆さまに眼で合図した。問題は田中くんだよ、私はできるだけ優しい顔を作ってから田中くんを見た。
「田中くん、驚いたよね。そのう……ごめんなさい。」
「亜衣音……さん、その格好は……。」
「ごめんなさい、スカピラスタイルなのよ。お婆ちゃんが、いやいや田中くん。私に手伝って貰いたいんだ、実はね……。」
「ウギャ!」
私は思いっきり右足を振り上げてクロから降りた。大きく跳ね上がる私のスカートは田中くんの前で大きく広がる。すると、ホロお婆さまが悲鳴を……なんだ落馬か。
「シロ……お前、少し破廉恥だぞ!」
「うん、分っているわよ田中くん。実は私の妹達が攫われたのよ。だから田中くんと一緒に取り戻しに行きたいの。手伝って、」
「驚いた……あの可愛い双子だよな。俺も手伝うよ、なにをすればいい。」
私はお婆ちゃんから作戦の内容は聞いていないよね、だけれども私の口は面白いように言葉が出てきていた。
「私は巫女で、このクロはその使い魔と言うのかな、並行世界へ跳べるの。だから一度その過去のパラレルワールドへ跳んで、事件を見て確認するのよ。いい、分るかな。(うそだけど、信じて!)」
「……全然……。」
「だよね~……もう諦めたわ私の指示に従って。そして私を守って、お願い。」
「いいぞ守ったる。それでどうすればいい。」
「私と一緒にクロに乗って……私は前に乗るわ。田中くんは後ろでクロの手綱を握ってくれるかな。」
「俺は歩くだけで、走るとか、跳ぶとかはできないぞ。」
「大丈夫よ、私が付いているもの。勇気を私の為に奮ってちょうだい。」
「……やってみる。俺も双子は助けたい。」
「ありがとう嬉しいな。少し待ってね。今、クロと念話をしてみるから。」
途切れ途切れに発する私の言葉に田中くんは、なにも信じられないと言うような顔つきで私を見やる。私はクロのおでこに私のおでこをくっけた。 すると、
「キャッ!」
……ペロリ! とクロの舌が伸びてきた。
「んもう~。」
「ホッホッホ~……儂は先に行っているからね、待っているよ。」
と言うホロお婆さまの声は聞こえなかった。が、私の意識からはお婆ちゃんは消えていた。この力で遠いロシアから北海道の札幌まで跳んできたのだろう、ほんの僅かな娘の意識を感じて……。
私はまだ巫女の力は未熟だ、だからクロの力を借りる。クロの意識を通してお腹を空かせて泣いている、綾香ちゃんと彩香ちゃんの意識を探した。泣いている確かに何処かで大きな声で泣いているのが判った。
「……何処で、」
病院から順に追っていく。……この馬事公苑の横を通ったの?
「あっ、この道を真っ直ぐに行くと……家の近く……ここは、病院……沢山の赤ちゃんが泣いているわ……この看板は……の・ぶ・く・に……だわ。」
「田中、乗って。直ぐに行くよ、行き先が見つかったわ。」
「お……おう、どこだい。」
「家の近くの信国産婦人科だよ。あの短足ドクターが犯人だな、も~怒ったわ!」
私は田中くんの前で構わずに上昇気流を起こして一瞬にして私は宙に浮く。ほぼ同時に田中くんを浮かせてクロの背中に乗せた。
「わっ!……すげ~! シロ……いやクロだ!」
「クロお願い、跳んで!」
「ブヒヒ~ン! ブヒヒ~ン!」
私達は馬事公苑の厩舎から消えて瞬時に信国産婦人科の中庭に出た。
「お、お、おい、あ、あ、亜衣音さん、こ、こ、ここは、」
「黙って。今、中の様子を探るから……居るよ。他に赤ん坊が三人も……。」
「うゎ~……双子は檻で監禁されて……いるわね。」
私はどうしたらいいのか考える。すると私のスカートの裾を引くホロお婆さまの姿が見えた。
「え?……」
「私が早かったね。これから私が先に入って三人を外に運ぶよ。母親は……きっと子供を追って出てくるはずさ、最後に檻は壊しておくよ。」
「うんお願い。子供は誰でも可愛いですよね、でも三人も運べるの?」
「なに一人ずつだよ。田中、お前は先の空き地、ほらあの電灯の下でいいから待っておれ。」
「亜衣音は……そうだねクロが嘶くまで此処で待っとくれ。声が聞こえたらクロごと家に跳んでくればいいよ、後はクロが判断する。」
「判ったお婆ちゃん。頑張って、」
「あいよ、」
「田中くんもね。」
「はい、直ぐに行きます。」
「では行くよ。いいかい二人とも。」
「はい、」x2
ホロお婆さまは堂々と玄関から入るし、田中くんは多分赤ちゃんの保護だろうがもう電灯の下にいるよ。それからは、あれよあれよとお婆ちゃんは赤ちゃんを抱いて田中くんの前に置いて行く。毛布に包まれて眠っているのが見えたら次に二人目も同じだった。三人目、これはお婆ちゃんがお尻をいつねって泣かせたのだろうか、大いに騒いで母親を扇動して喚かせているみたいで、直ぐに看護婦がホロお婆ちゃんを追って出てきた。
……クロが嘶く、
「今だ。クロ、跳んで、」
「ブヒヒ~ン!」
「あ、綾香ちゃんと彩香ちゃん。」
「ぎゃ~なんだ馬だ……怪獣だ~、」
男が私を引きずり降ろそうとしているがクロの後ろ回し蹴り? で棚まで飛ばされしまう。
「ふん、バ~カ!」
田中くんが私の援護に駆けつけてきてくれたので私は助かった、他にも男は居たのだ。
「大地!」
「亜衣音!」
「誰だ! この野郎……、」
「ウグッ……。」
私は田中くんの援護を確認したら直ぐに二人を抱きかかえてクロに乗ろうとしたのだが、両手が塞がっている……。
「これではクロの背中に乗っても動けないよ~、」
すると田中くんの声が聞こえた。
「亜衣音、大丈夫だ俺がいる。」
「大地……うん、お願い。」
「任せろ、乗るぞ。」
「うん風を起こすよ。……後は任せた。」
私は風を起こして四人をクロの上に飛ばした。部屋中に物が飛び交っていて、これでは誰も私たちを止めることは出来ない。
「クロ、お願い、跳んで!」
「ブヒヒ~ン!」「ブヒヒ~ン!」
「これは私からのお礼だからね、受け取ってよね。」
私は大箱のマッチに火を点けてカーテンに投げつけた。転移先は馬事公苑の厩舎だった。私はへなへなになってしまい、
「大地、二人を降ろしてくれる?」
「いいよ、そ~っとだよ。まだ首が据わっていないよね。」
「そうだね。次は……どっちかな、双子だ判らない。でもお母さんには判るんだよね。」
「よいしょと。……もういいよ亜衣音も降りてこいよ。」
「うん……大地、受け止めて!」
「や、やめろ!……うぎゃ~重たい、重たいよ~、」
「え~私は軽いよ、軽いよね。だって痩せているもん。」
「いや亜衣音は十分に大きくなったよ。もう重いよ。」
「うぐぅ~大地の意地悪!」
「急ぐわよお母さんが二人を待っているわ。大地、綾香ちゃんを任せた。」
「おう、そっちは彩香ちゃんかよ、どうしてだよ。」
「私、お母さんだよ、きっとこの子らのね。」
「あり得ね~、亜衣音~、あり得ね~……。亜衣えね~!……あれ?」
私達は全力で走り十二分で病院の玄関に着いて、息切れを押して警察官に助けを呼んだ。
「お願い、……二人を助けて。」
一瞬にしてざわめく病院のホールは看護婦が駆けつける姿が確認出来た。その警察官は一人の赤ん坊が血まみれだと気づき大声を出していて、それから私達二人は倒れた……。大地は背中を刺されたらしくて倒れたのだ。
二人を託した私は、田中くんから右手を握られて顔面で見下ろされ、うっすらと見える病院の奥から駆けつける母を見つけたら視界が途切れたのだ。大地が何かを言っているが騒がしいホールだから、小さい声では聞き取れない。だがそれは私を呼ぶ声で直ぐに遮られてしまった。
お母さんの声だ、父さんの声も聞こえる。
「亜衣音ちゃん。」
「お母さん、えへへ・・・。」
「亜衣音、亜衣音……。」
「田中くん。しっかりして……田中くん……。」
「おい、田中、田中……。」
大学病院はより以上に騒然となって駆けつけるドクターに母は大地を先に診るように言った。
「先にこの男の子を診てください、多分娘は大丈夫ですから。」
消えゆく意識に中で、母の慌てる声が聞こえるようだった。
「分かった……これは酷い……直ぐにオペの用意だ!」
「はい、」
私にはこれらの声が響くだけで聞き取れていない、薄れ行く意識の中はもう夢だったのだろうか。
信国産婦人科は小火で済んだのだが、お婆ちゃんの所為で人が多く集まり医院長とその妻は逃げる事が出来ずに逮捕されてしまった。同時に三人の女児の赤ちゃんも攫われていたのだと判明した。
これで解決したはず……よね、お母さん。明子姉さん、私と大地は頑張ったよ。
翌日の夜に覚めた私は「私は……無双」では無かった。夢見る乙女だと知らされ、私は泣いてすがるしか無かった……。
警察にはホロお婆さまがこと大まかに説明をしているのだが、細かい事を訊かれたら答える事は出来ないので得意の戦法で警察を躱していく。
「おうおう、ワシは覚えておらんよ。」とか、「ワシが双子をひ孫に託したのだ! 何度言えば分る!」と、大きな声を出していた。
一喝だね、お婆ちゃん。




