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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第五章 動き出しだ陰謀

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第49部 実現したら私、「グッジョブ!」だよね 


1969年4月21日


 母が台所で出迎えると声がだんだんと大きくていく。いつまでも若々しい桜子お婆さまだな、たちまち喧噪の家になったしまった。


「ねぇ桜子お婆さま。」

「え~なんだって!」

「え? あ、明日……、あ、明日はとても楽しみですね。」

「そうさぁ~娘が帰ってくるかも知れないのだよ。ほれ、亜衣音も見てみろ。」


 思い出したかのように大きなバッグから一冊のアルバムを取り出してくれた。私は奪うような勢いで飛びかかるも敵もさるもの、ヒョイと娘の私の母の沙霧に手渡してしまった。私はからかわれて遅れをとってしまった。


「うぐぅ~。」

「ほら亜衣音ちゃんもいらっしゃい。」

「うん、」


 と言って私はテーブルを回って母の後ろに立ち肩に両手を置いたら……「それは催促だよね。」北海道では出来なかった事が……思いもしなかった事、


「あ~そこそこ、気持ちいいわ~。」

「え~……そんな~いいわよ、随分と久しぶりに……って、お母さんにはまだ肩もみすらしていないのよね。」

「麻美さんが羨ましいな、ね? 亜衣音ちゃん。」

「はいはい、今日から肩もみをけっぱる。(初めて…だよね、お母さん。)」

「おや、……ありがとうね。」


「いえいえなんともないですよ。」

「…………。」


「ほれ、ここからが下二人のやんちゃですよ。」

「あ!……似ている、ソックリさんだ!」

「お、お母さん。本当に似ていますよ。まだ皺だらけでしたけれどね。」

「そうかえ、明日が楽しみじゃのう……。」


 桜子お婆ちゃんはアルバムを見て思いだすのだろうね、声もか細くなってしまい感無量かな?



 ここは少し離れた男の世界とホロお婆ちゃんが、十三年前とは違って何だか燥いでいるみたいだよ。


「お父さんも楽しみですね。……それにホロお婆さまも。」

「えぇ? ワシはもう会ってきたわ、よ~似てるだべさ。」

「ほれ、宿はここに在る、飲め智治。」

「はい、喜んで~!」


 お寿司が届いたよ……お母さん。


「お~い、来たぞ~、」

「は~い……お祖父ちゃん……いらっしゃ~い。」




*)杉田夫妻の計略を逆手にとる私……


 私は日常から離れた朝の見送りを受けた。父さんの車は小さい、四人も乗れば後部座席で寝ることが出来ない。いつもはスカートをはだけさせて寝ている方が多くなった私に、父さんは優しいのか恥ずかしいのか、な。何も言わない。


 今朝の見送りに杉田家の二人が加わったのだ、これは少しと言わずに大いに新鮮だった。


 ホロお婆さまは祖父母の家に下宿中で、何時もは祖父母の家から馬事公苑まで歩いていると言う。


「大凡四キロだべ、何来る無い差~!」

「なにそれ!」

「えぇ? 今流行のPC用語だよ。これから流行るよ。」

「いいえあり得ません。(お婆ちゃん、急に若返ってはいませんか!)」


 ホロお婆さまは私の肩に手を回して抱き寄せて頬を寄せている。こんなにも近くでホロお婆さまを感じたのは……、


「ねぇ、ホロお婆さま。何年ぶりになるのでしょうね。」

「あぁ、あれは~九年前だからさ、亜衣音が四歳か五歳の時が最後だべさ。」

「お婆ちゃんっは少しもボケていませんよね。いつも疑問に思っていました。」

「これでは亜衣音は騙せませへんね、これは世渡り術だよ。年寄りが色々と口出ししたらどうなるね。」

「うん、こじれるよね。……へ~そうなんだ。」

「んだべさ。」


 前の席でクスリと笑う澪お姉さまだった。私とホロお婆ちゃんの燥ぐ姿もしっかりと見られていた。


 父は高校の校門で止まってホロお婆さまを降ろした。私も一緒に車を降りる。


「いってらっしゃい~また後で~。」と、私はお婆ちゃんを見送った。澪お姉さんはそのまま父さんの車で駐車場まで乗っていく。



 これから私は朝から夜まで守られる日々が続くはず……。昼の学校では無力かもしれないが、田中くんが力いっぱいで守ってくれている。養護室では澪お姉さまが付きっきりで守って下さるのだから、私は幸せ者だよ。


 そうして待ち遠しい夕方になった。女の四人をホロお婆さまに任せて私は白馬の王子様の護衛付きで、明子姉さんの入院先の大学病院を訪れた。ま~私の入院先は何時もここなのだが。



「俺はもういいか、クロに乗りたい。」

「うん一緒に行ったらまた針の筵だよね。もういやだよね。」

「そうでもないが、亜衣音さんが入院したら毎日来るよ。」

「田中くん。私はね、巫女なんだ。だから澪お姉さまのお産が済むまではまだ何度も入院するのよね。……あ、ごめんなさい。今の忘れて、」

「なんだよそれ、俺はどうしたらいい。」

「う~ん……私が寝ている時にキスして、そうしたら私は頑張れると思う。」

「……いいのかよ俺で……。」

「勿論よ、田中くんがいいの。」

「じゃ……俺は行くよ。」

「したっけ!」


 走る事が出来ない病院のエントランスを全力で駆けていく白馬の王子様だ。


「クロから落ちないでよね~。」


 私は笑って見送る。「だって、クロの子供の時みたいだもん。」その後も笑顔が止まらないから、それを母から指摘されるまで続いた。


 母は時期に来るであろう私を、ナースステーションの前のロビーで待っていたのだ。


「亜衣音ちゃん。親子で対話になっていますから、此処でお呼びがあるまで待ちますよ。」

「え~何かな。」

「それはね…………。」



 これからは聞いた話だから少しだけ脚色をつけて~と。思ったが事はかなり複雑だった。自宅の増築がさらに増築されそうな……勢いだった。ホロお婆さまの気持ちが今更ながらに分った気がしてきた。


「明子さん、どうだい身体は!」

「はい叔父様。」

「明子さん無事に産まれて良かったね、先ほど手を洗って消毒もしたからさ。」

「はい、おば…お姉さま、是非、抱いて下さい。」

「智治、あんたも、」

「俺に赤ん坊が抱けるかな~、」

「手を洗っといで!」

「そっちですか、そうですね~……。」


 智治お爺ちゃんは桜子お婆ちゃんによって病室から追い出されたんだよ?


 桜子お婆さまは手などは洗ってきてはいない、ただ無性に綾香、彩香の生れ変わりであろう双子を抱いて泣きたかったのだ。二人の寝顔は一目でソックリだと見てとれた。それでも挨拶が出来ない程に胸は嗚咽おえつつかえているのでこの詰まりを涙で流す必要があり、そうしないと次の言葉が出ないのである。



「名前……決めてくれたんだね明子さん、ありがとうございます。少しだけ泣かせて下さい。」

「はい抱いてやって下さい。私にはその手持ちのアルバムを見ておりますので私には何も聞こえません……。」


「うん、綾香、彩香……お帰り、母はどんなに会いたかったことか、でもまぁ……こんなに小さくなってくるとは思いもしなかったよ。でもまたお前達を育てる事ができるのだと思ったら、大きい娘よりも良いのかも知れないね。やんちゃなお前らをまた怒鳴ることが出来るのだよ、またお前達の笑顔で私らの心は満たされていくと思うと、もう感無量で……。」


「綾香、彩香。起きてくれるかい、そして笑ってはくれないだろうか……。」


 智治お爺ちゃんはドアの外で桜子お婆さまの声をじっと聞いていた。母は最初から入室は控えていたという。こうなる事が予想されたからだよね。


 智治お爺ちゃんも声に出さずに泣いていた。今すぐにでも笑って入れるように涙を拭いてはいるのだが、昨晩も飲み過ぎたのかアルコールが眼から流れ出るらしい……笑えないよね。


 智治お爺ちゃんは自分の顔を両手でパンパンと弾いて気合いを入れて、中の様子が変るのを待っていたんだと。暫くして桜子お婆さまの大きな声がドアから流れてきた。


「おうよしよし、もう泣かないでおくれ。」

「お母さん。それでは二人とも泣いてしまいます。」


 明子姉さんが桜子お婆ちゃんをお母さんと呼んだ瞬間だった、これで明子姉さんは杉田家の養子になる決意をした。


「おんぎゃ~、おんぎゃ~、おんぎゃ~。」

「おお~起きたか綾香、彩香……。桜子なにを、」

「あぁ? 泣かせているに決まっているだろうが、親の心配を教えている処さ!」

「そんな~両足を持って吊すとか、したらいかんでしょうが……。」

「フフ~ン!!」

「おんぎゃ~、おんぎゃ~、おんぎゃ~。」



「ふん、オムツ替るのにはこれが一番さ!」

「えぇ……そうですよね、オムツは替えますよね。」


 桜子お婆さまはにっこりと笑い、可愛い両足をひょいと持ち上げてオムツを替ている処でした……。


「桜子、話しは出来たのか。」

「明子さんには了解を頂いたが沙霧夫婦にはまだだよ。穣さんが来たら頼んでみる。」


 これは昨晩、酒盛りの後に就寝して思い付いた事を夫婦で相談した事らしい。それは、綾香と彩香を私らの孫にさせてくれと頼み込むことだった。


「智治……先に沙霧を落としてきなさい、至上命令です。」

「おいおい俺がか~?」

「娘は父親に弱いものです。」

「世間一般では逆だぞ、俺が言いくるめられてしまう。沙霧も我は強い方だからね。」

「お父さん……ガンバ!」

「おぉ、いいね~……行ってくる。」



 さてさてこちらはナースステーションの前の待合室、私は依然として母より弄ばれている。もう自分も私に隠れてパパとイチャイチャしているものだからさ、照れ隠しをしているものと思われる。私だってもう立派な大人だ、心は大らかにして母を窘める事は出来なかった。


「亜衣音ちゃん。今日は随分とご機嫌さんですね~何か良いことがありましたね。母には分かるのですよ、キスしましたね。」

「ちょっとお母さん。何を言うのですか、そんな事はありません。」

「ではどんな事なのよ教えなさい。この前は何でもお話します~と言いました、そうよね。」

「う、そ、それは~秘密だもん。な~いしょだよ!」



 智治お爺ちゃんが神妙な顔をしてやってきたが、私には口出しが出来そうもない雰囲気だよね。


「……?」

「沙霧、実はな明子さんを俺らの娘にしたい。沙霧に妹が出来るのだ、な?」


 それから智治お爺ちゃんは実の娘に敬語を使って懇願しているとか、あり得ないんですが。沙霧ママだって嫌がるのは判るが……一計でも浮かんだのかな、とうとう折れてしまったよ。口では色々と言うのは素直じゃないからだね。



「でも綾香ちゃんと彩香ちゃんを持って行くとか、許せません。」

「そうよねいきなりだったし、」


「もう穣さんに相談して決めますから。」

「いや明子さんとはどちらにしてって家族なのだし、な~沙霧さん。」

「今晩は大いに揉めるねみたいだね。」

「そうよね~頭が痛いよね~、」


「だったら、札幌もうちへ呼べば!?」

「え~~!!!……。」x2


 母は何気ない私の一言で天国に行ったような、ぽか~んとした顔になっていた。……ねぇ驚いた声だったのよね……。同じく智治お爺ちゃんも私の真意を測りかねているとは思うのだが、考え込んでしまった。


 今はニッコリだね……お母さん。だって両親とも同じ家で暮らせるのだから嬉しいよね。澪お姉さんも横に家を建てるのだし、昔みたいに同居出来るんだよ……同居よ。


「亜衣音~、」

「わぉ……おぅ~よしよし沙霧さん!」


 母はいきなり私に抱きつくものだからナースステーションからは笑い声が聞こえて来た。実現したら私「グッジョブ!」だよね。


 お父さんと澪お姉さんが病院に来て、あれこれと事情を話す智治お爺ちゃんと沙霧ママの親子。最後は私の意見を聞いた澪お姉さんから愛の鉄槌を頂くのだった。


「あんたはバカなの!」

「イテッ!」


 澪お姉さまが笑って私の頭を叩いて、父さんは何やら考え込んだ……ご様子。澪お姉さんが笑っていると言う事はだよ、澪お姉さんも賛成してくれたものと思いたいな。


 この日の夜。なしてか祖父の家で家族会議が開かれた。


 こんな幸せな今は残念な事に……明日は嵐になってしまうのか。これで私と田中大地との運命が大きく変わってゆくのだった。


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