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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第五章 動き出しだ陰謀

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第48部 通学路と明子姉さんの出産


 1969年4月12日


*)久しぶりの通学路


私は四日後に退院が出来た。明日が日曜日だから一日位は自宅でユックリできれば良いからと言う理由でだな。それで澪お姉さまと一緒にタクシーで帰宅すると母は留守で、代わりに祖母が留守番をしていた。


 お婆ちゃんがお留守番をしていたのは、澪お姉さんは今から帰るからと家に連絡をしていたからだね。またお母さんとしては妹の澪お姉さんから電話を受けて私の退院を喜んで、暫くしたら明子姉さんに付き添って病院へ行く旨を話し忘れていた模様。



「亜衣音さん。どうなんだい、もう身体は良いよね?」

「お婆ちゃんご心配をお掛けしました。いつもひ弱な孫ですみません。」

「そんなことはないですよね、小母様。」

「そうだよ、孫だからさ、可愛いのですよ。」

「ありがとうございます。」


 私は着替えに自室へ上がる。いざ着替えを始めてみれば急に紅潮してくるのだった。これがフラッシュバックというものかしら、う~恥ずかしいよ~。


「わ~超~恥ずかしい。いくら熱で浮かされていたとしても、もう田中くんの顔を見られないわ~どうしよう!」


 制服の上着を脱いだ時点で田中くんとの、保健室の出来事をを思い出してしまった。それから鏡で私の顔を覗き込む、むむむ……やはり小皺の跡が……無い?


「あ~……澪お姉さまですね、いつもありがとうございます。寝ている時にして貰っていたのだ嬉しいな。」


 頬を触ると薄く塗られたファンデーションの感じがした。あれだけ泣いていたのに今の私は綺麗で嬉しくなった。これが姉妹が居る温かさというのだろう。北海道では兄妹けいまいと姉妹だった時に私は子供だったし……今は素敵な大人の姉妹。女にお化粧は欠かせないものだと強く思った。


 台所に降りたら。


「お婆ちゃん、お母さんはどこ~。」

「明子さんの付き添いで病院らしいですよ、一緒に出ましたからそうじゃないかしらね。」

「そうかもね、もう来月だよね。順調かな~。」

「重たそうにしていましたね。少し早めに出産かもしれませんよ。」

「ふ~ん、」


 お婆ちゃんがここに居る意味と、お婆ちゃんの言った意味に私は気を払わなかった。私の身体を気遣って帝王切開の選択肢を選ぶなんて……。他にも祖母は随分とあやふやな回答をしていたが、これにも私はスルーしてしまった。


 神秘的な母の胎内、二児が共に大きくなるには狭すぎるだろうとは考えていなかった。もう増築は済んでいる明子姉さんと赤ちゃんの部屋……、でも部屋数が多くはないのかな。


 母娘で妊娠と出産なんて世間ではそうそうに無いだろうな。近くに開院した信国産婦人科に通っているならば……歩きかな。


 私は明子姉さん用のミルクを僅かに残しながら飲んでしまって二階へ上がった。こうしておけば私が飲んだとバレないよ。


「あ~ぁあ……退屈かな~教科書は父さんの車の中だし……散歩! お母さんにも会えるかもしれないな。」


 外に出たら澪お姉さまが居て、新築の我が家を建ててくれる大工さんにお茶とお菓子を出している処だった。そして笑って談笑しているな、とてもいい顔している。


「澪お姉さま、散歩、……行ってきま~す。」

「ラジャー!」

「ふふふ、なんですかそれ!」

「テレビの受け売りですよ、お互いさまでしょう? いってらっしゃい。」

「は~い、」


 テレビ? なんの番組で誰かの真似をしたのかな?


 今では歩くことが無くなった一年前の通学路、目新しい建て物にも気づいた。黒猫に手を出すのもお題目かな。この道を最後に歩いたのは雪の積もるデートの日以来かも知れなかった。そう考えたら無性に田中くんに会いたくなっていた。この前は田中くんと駄菓子屋さんに寄って買い物を楽しくしたんだっけ、懐かしいな~。


「帰ろ、何だかむなしくなった気分だな。」


 私は反転して帰路についた。暫くして後ろで「お~い」と声が聞こえて思わず振り向いたしまった。なぜって男の人の声だったから……。


 オートモードで歩いた所為かいつの間にかあの時に寄った駄菓子屋さんの前に立っていた。


 家に帰る道順であって過去の田中くんと寄り道をしたことを思い出して歩いていたら……な、なんと自分でもビックリ想い出の駄菓子屋さんの前に立っていたんだな。ここに寄り道して帰る予定はしていなかったのにな、田中くん……会いたい。


 私は黙って自室へ上がって寝てしまう。人間は考え事をしていても、前もって考えた道順は間違える事も無くなぞる事が出来る。


 恥ずかしく思ったから、顔が紅いからと誰にも帰宅を知らせずにいたんだよ。


 それだからだろうね、私が帰らないからと少し騒動にもなっていたらしい。「ごめんなさい」と言ったのは翌日の事で、昨日はあのままベッドの上で気を失っていた模様。


 明子姉さんは信国医院で何を言われて驚いたのかしら。お母さんは何を聞かされて驚いたのかしら。でも理由は……不明かな。またしても入院させられたよ。寝ているだけならば自宅で養生してもおなじよね。




*)明子姉さんの出産


 明子姉さんの入院が決まった。信国産婦人科では帝王切開の手術を断られたらしいので、大学病院の産婦人科に転院する事に決まった。一応大学病院と大きいので何かあっても安全だよ。


 今の産婦人科の個人病院は難儀している。初産で母子共々難産で命の危険性がでて急遽帝王切開のお産に切り替えられた。帝王切開の安全性のお話をして手術の承諾書を頂いたと言うのに、


「何ですか、娘に一生残る傷跡を付けて……、」


 妊婦……嫌違うな新米ママの母がナースステーションへ怒鳴り込む世の中になってしまった。とても残念なことだ。高齢出産で帝王切開を選ぶ妊婦さんも居るというのにね、怒鳴り込む母親は莫迦じゃろか。筋違いも甚だしいよね。お産は病気ではないが母子の命の危険も伴うが、隠れて独りでトイレで産み落とせる人もいて、残念だが用水路が産湯だったりしたらもう涙を流すしかないよ。



 手術の日取りの決定がなんともいやはや……。


「お嬢様の手術ですが、今の患者さんの混み具合ですので、暇な来週の水曜日でよろしいでしょうか。」

「そうですね、他の方と出産が重なりまして、何かありましても困りますのでそれでお願いします。」

「大丈夫ですよ、明日から検査入院をお願いします。お腹の中を詳しく調べたいものですから。」

「はぁ、よろしくお願いします。」

「それと、お母さまもこの際ですから転院いたしませんか? 母娘で纏めて診察いたしますよ。」

「良ければ母娘三人で、いや四人で入院いたします。」

「はぁ?……それはどういう意味でしょうか。」

「ちんぷんかんぷんですね、すみません。」


 先生の都合で決められたのは、まぁそうだよね。でも、母は不可解な事を口走って主治医に説明して笑わせたそうだ。こんなおめでたい家庭はここだけだろうし……ね?


 それからの私は気の重い日々を過ごした。私が考えた理由は、


「もしかしたら双子だもん、窮屈で退屈していたんだ!」

「亜衣音ちゃんと同じではありませんよ。でも、病院から通学させて本当にごめんなさい。」


 明子姉さんの手術が済んで見舞いに行った時に、そう言ったから皆から笑われてしまった。私は自分の退院を待たずに明子姉さんの見舞いに行ったんだな。同じ病院だしね、少し遠いのが難点だったか。


「わ~玉のような双子……明子姉さん、妹をありがとう。」

「あげられませんわ、」

「ぅへっ!」


 母に抱かれた鼻ぺっちゃんの双子は本当に可愛いもので、私は不細工な顔で産まれたから赤ん坊の写真ででも不細工だったんだろう。大きな魔力を持って産まれたら不細工になるらしいのは勘弁して貰いたいな。だってお母さんは産まれてくれて可愛いと思うのはいいとして、当の本人が大きくなって写真を見たら可哀想じゃんよね。


「亜衣音ちゃん、抱いてもいいわよ。」

「ホンと! わ~い、でも落としたら怖いのでベッドの上でチューする。」

「だったらお鼻が高くなるようにお鼻にお願いね。」


 私は右左みぎひだりと大回りしながらキスをした。すると母が、


「亜衣音ちゃん。あの時は残念だったわね。」

「お母さん……なんの話し?」

「ほら、あの入院した時よ、でもね亜衣音ちゃんが再入院した時は田中くん。照れていたよね~。」


 母のこの口調……もう完全に私をオチョクリマンボウだわ。マンボウ……ウ~!


「や……ウソよね、お母さん。」

「さぁどうかしらね、今度訊いてみなさいよ。」

「え~恥ずかしいよ。とても訊けないよね、お母さんは私をからかうんだ!」


「あら亜衣音! もうすっかり元気じゃないのかしら。」


 母にからかわれて跳んで騒いでいた。あ、本当だ……。元気になっている喜んだ理由が理由なのだ、当初の見立てどおりだったわよ。


「お母さん。……間違いなく貴女たち妹の双子ですよ!」


 

 1969年4月16日


 時間を少し巻き戻して……。


 日程が決まっていたから既に麻美さんと明さんは見舞いを済ませて帰宅したと聞いた。明日はどうしても競走馬を移動させなければならないらしい。


 私のお見舞いは昨日だったとも聞いた。


「今晩に電話してお礼を言うわ。でも起こしてくれたら良かったのになぁ!」

「……。」


 この時は母も同席していて、あの時の私の様子からして起こせるような顔はしていなかったんだなと考えた。眉間に皺を寄せて汗を流して苦しんでいた思いが残っているし、冷たいタオルで顔も拭って貰ったような、冷たい、いいえ温かい記憶も残っている。


 母にそう言ったら無言で返された。それで追加の質問を投げる。


「澪お姉さまですか?……、」

「えぇそうですよ、今は疲れて家で休んでいる頃だと思います。」


「お母さん。私、いいよね。良くないと言われても帰るからね。だってご飯を作ってあげないと、澪お姉さまのお腹の赤ちゃんが痩せちゃう。」


「まぁ~この子ったら可笑しいわね。いいですよ母さんと帰りましょうね。」

「うんお願い。」


「明子さん、貴女は三人になったから大丈夫よね。私は亜衣音の主治医に退院を頼んできますからね。」

「はいお母さん。」

「夕方には穣さんが来るはずですので思いっきり甘えていいですよ、この際ですから、ね!」

「はい、また来て下さいね。」

「言われなくても明日の朝には来ますよ。」

「私も来る!」

「学校の帰りになるわね、お友達も連れてくるのかしら。」

「そうする。それから父さんには駅まで送って貰う。」

「ふ~ん……。」x2


「亜衣音ちゃんはお勉強が遅れていますでしょう? いいから二人でお勉強してなさいよ。」

「部活中に勉強する、馬術部はもうホロお婆さまに任せっぱなしだものね。」

「なにそれ、貴女は部長よね。」

「はい………一応ですね。」

「でもクロが乗せる田中くんが気になって勉強も手が付かない、これでは留年が決まったものだわ。うわ~学費が払えるかしら、穣さんと相談しなくちゃ。」


「いやみ~……。これでもお母さんなのだからね。」

「ウフフ……。」


 私は久しぶりに北海道の故郷に電話した。だが帰宅していると考えていたのだが留守で、早々にも飛行機は飛ばせなかったのかな? と思った。


 事実は札幌の杉田家を訪問していたと明後日の方角から聞かされて、もう~あり得ない……。麻美お母さんが杉田家を訪問した理由は察しが付くも、札幌の祖父母が明子さんをお見舞いに来なかった理由はなにかな。


「これは雲行きが怪しくなってきたみたいな嵐の予感だわ、これは戦争よ!」

「伊予柑をお土産頂いたのよ、食べる?」

「嫌な予感よ、お母さんは大丈夫かな。」

「はい~?」


 この時期に伊予柑は無い、きっと福岡の特産品の「はるか」に違いないわね。ミカンの保存が切れた頃から出てくる柑橘類、手で皮を剥くのは難しくて包丁で切って食べる。とても甘くて美味しいのだよ。六個で四百円位なのだが……まだこの世に生を受けていない「はるか」。


 とても美味しいのでご賞味あれ。



 1969年4月21日


*)お見舞い


 私が父さんの迎えをを待つ間にと訪れた明子姉さんの病室。あ、個室に固執していたから個室ですよ。


「三人部屋から追い出されたんだね。」

「亜衣音ちゃんはまたバカ言ってからに、いつもありがとうね。まだ起きられないのよ。お腹がこ~……なんというのか。」


 私は明子姉さんのお腹に顔を近づけて言った。


「あ~弛んでいるんだ、きっとそうでしょう、」


 大声で笑う私に笑いたくても笑えない明子姉さんの苦しい顔、澪お姉さまは見かねて、


「バコ~ン!」「イテッ!」


 澪お姉さまに頭を叩かれたのだ。私は笑いながら謝っていたら色紙しきしが目に止まった。私は一瞬固まって話題に持っていっても良いのだろうかと考えたからだ。そんな微妙な私の様子を捉えたのが澪お姉さまだった。


 今は明子姉さんと澪お姉さまといつも一緒だ。良いのだけれども良くない、田中くんと一緒に居れないからと一度は文句を言ったが、逆に田中くんからは諭されてしまった。


「亜衣音さん、そう勝手な事は言うなよな。……可愛いな、双子。」


 今では田中くんは家族公認になっていて、澪お姉さまが無理に言って田中くんを誘って連れてきたのだった。馬事公苑で部活が終わるのを待って呼びに行っていたとか……それだけは止めて貰いたいな。他の女たちは田中くんを止めなかったのかな。


「この名前は私が言った所為かな。」

「まぁ~とてもいいお名前ですわ。これならばこの子たちも大きくなれば、きっと喜んでくれるでしょうか。私も今から名前負けしないように考えます。」

「澪お姉さん、盛りすぎ。」

「あら、そうでもないわよ。娘に名前を考えるのも母としては幸せよ~ね~明子さん。」

「あ、いや、そうですね澪お姉さん。」


 その色紙に書かれた命名が「綾香、彩香」だった。麻美さんから何度か聞かされていた、あの名前だ。


「明子姉さん、どうして教えてくれなかったのですか、うぐぅ~!」


「あら亜衣音ちゃんは予想していたのでしょう?」

「ふふ~んだ、勿論よ!」


 私は鼻高になって「エッヘン!」のポーズを作った。



 この日の夜には、伊予柑……違う嫌な予感よ、雲行きが怪しくなってきたみたいな嵐の予感だわ、これは戦争よ! お母さんは大丈夫かな。



「今晩は~杉田で~す!」

「は~いお待ちしていました。桜子お姉さま、智治お爺ちゃん……。」

「亜衣音、邪魔するよ、」

「はいどうぞ、奥へ……。」


 私が玄関に出てお迎えをする。母は台所で出迎えるとたちまち喧噪の家になったしまった。


(桜子お姉さま、智治お爺ちゃん……。お部屋はいっぱいあるからね! それに明日は個室で良かったと思う日になるのかな。)


 お母さんが手料理を作り終えるまでは、私がホストになって二人を歓待しなくてはならない。


「ねぇ、桜子お婆さま。」

「え~なんだって!」

「え? あ、明日……、あ、はい。桜子お姉さま。」


 声が大きくていつまでも若々しい桜子お婆さまなのだから、私も段々と勢いに呑まれていく。沙霧ママはそんな元気なお母さんを見て目を細めるのだった。


う~、またしても避難警報ですよ……。

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