第46部 お正月から倒れた私は……コウノトリ?
1969年1月1日
*)澪お姉さまと私
それから二人一組になってガラガラを鳴らし、六人が横並びになった時点でお参りをした。
ちなみに朝一でお年玉を貰えたのは未来だけという惨憺たる結果の打ち合わせだった。
立花の双子ちゃんは二人住まいだから当然無し。藍ちゃんは家庭の事情で私達は知らないのだが『貰って無い。』としか答えず。未来はえへへへと笑うから手応えあり。田中くんは目を逸らしてあ~だのう~だのと言うばかりだったから当てが無いのかも。家族が多い私は~……、
「で、亜衣音ちゃんちは家族が多いから沢山だよね。」
「未来、あんたは本当に他人の財布を充てにしているよね。」(充て=狙う。)
「これは……秋葉原で散財するから使えないのよ。」
「ふ~ん、まだまだラノベの本を買い込む積もりだね。」
「だって電車賃も必要だし……。」
私はそ~っと田中くんの後ろに隠れた、でも許しては貰えない。
「それで、亜衣音ちゃんはどうなのよ。」
「朝からお爺ちゃんたちが来たから放られたの。だからスカだよ、え~ん、」
「おうよしよし泣かんでもよろしい。未来ちゃんがどうにかしてくれるよ。」
今度は未来が田中くんの後ろに隠れる。可愛いとこあるのか、と思ったらそれから田中くんの背中を押してくれたのだ。嫌がる田中くん。
「た~中くん。ゴチになります……。」x4
「ダメだよ、田中くんも出費の予定があるんだもん。」
「ほほう……それはどのような出費で御座いましょうか?」
「未来、嫌い。」
「私は田中くんを好きだよね~。」
「や、やめて!」
「ほらほら段々と熟れてきましたよ、紅くなりましたね~。」
「なぁ明神さん。亜衣音で弄ぶのはやめろよ、怒るぞ!」
「なになに騎士さまが……守ってくれるんだぁ~!」
「バコ~ン!」
「いて!」
「未来、大概にしなさいよ。きっとこの子は泣き出すよ。」
藍ちゃんは私の事を良く見ている。私は本当に涙目になっていていつの間にか田中くんの腕にしがみついていた。どうしてこんな行動に出たのかは自分でも分らない。
「あぅ~……ごめんなさい。今度からはもっと強めにから……、」
「バコ~ン!」
「はいはい、私達はお邪魔虫だから帰るよ。」
「面白いのに~残念だわ。」
「では亜衣音ちゃん、私達も夕方から仕込みの手伝いがあるから帰るね。」
「うん今日は会えて楽しかった。また明日ね!」
立花さんの下宿の食堂は夕方から開店するのだろう。きっと『チョンガー』の為に食事を出す優良店かな。
「あいつらの下宿先は明治大学の横だろう?」
「えぇ、そうね。だから帰省が出来ないやもめを肥育しているのよね。」
「酒盛りをする男が多いらしい、だからさ。」
「ふ~ん、よく分っているのね。」
「だって俺の兄貴がそうなんだよ。明治大学でさ、多分立花の双子にはお世話になっているようだ。」
「え~お兄さまが……いてはるん?」
「言わなかったか?……今年から、いや去年か、経済学部に通っている。」
「ふ~ん……そうなんだ。」
「どうして立花の双子だと言えるのよね。」
「兄貴は悪だから時々帰って来ないんだよ。友人の寮とか下宿先だとかに泊まっている。」
「女の人?」
「な、なんでそうなる。ちげ~よ、バンドを組んでいる。」
「だったらボーカルは女の人?」
「あ~そうだ、そうらしいとは聞いたような……、同級生だよな、確か……。あ~そうだ、間違いない。一度並んで歩いていた~あれが女だ!」
大いに頭を悩ませる田中くんを初めて見た。もしかしてお兄ちゃん子だった? でも、顔は引きっているよね、どうしてかな?
「で、田中くんも何が楽器をするの?」
「勉強出来ないからやらないよ。」
「もしかして五月蠅いからと、お兄さまを追い出しているとか……。」
「それだ、俺が妙に成績がいいので親から追い出されるのかも知れない。全部俺が悪いのかな。」
「ふふ~ん、そうかもね。……どうするの?」
「帰ったら訊いてみる。もしそうだったら全力で謝る。」
「もしかしてお兄さまは優等生?」
「俺よりもな。かなり上の方だとは思ってる。」
「ねぇ田中くん。通知表は見せて貰えないよね、もしかしてもしかすると……どうなのよ。」
「お前は妙に感が鋭いな、……すまない期末は四十位だった。」
「十位はウソだった……の?」
「いいわよお汁粉で……がいいわ。」
「狛犬に喰わせる小遣いは持っていない。」
「わ~こんな妖怪の狛犬と一緒にしないで!」
「亜衣音、少し上を向いてみろ、……そうそう……それでいい。やっぱ~ソックリだわ!」
「何よ~、なんでこんな妙ちくりんな狛犬が此処に在るのよ~田中くん嫌いだからね。」
(この狛犬くん、可愛い!! ですよ?)
この時の泣き笑いの顔も激写されていた。
私はお化粧も流れないようにハンカチで押して涙を拭っていて、女ってお化粧をすることで動作も変る生き物だと気が付いた。私が出かける前……、
「ほらほら亜衣音ちゃん、そんな顔で会ったらだめです。まだ時間が早いでしょうが、直ぐに済ませるから、ね?」
「え~一時間前には着いて待っていたのよ。……早くお願い。」
「もうこの子ったら~、はいはい直ぐにお嬢さま! それと、これね!」
お昼前に慌てて出かけようとした私を引き留めて、パッパとファンデーションを塗ってくれた澪姉さん。やはり大人の薫りを感じた瞬間だった。
私は胸の懐に手を入れた。……在ったのだポチ袋が。私は急に顔が火照りだしてしまって、慌てていた私は気にも留めてはいなかったのだと気づく。
「ありがとうございます。」
「え! なにが?」
「あ、いえ、独り言です。あのレストランに行きましょう。」
「亜衣音、あれは高給、いや高級だよ。二人分も出せないよ。」
「うん大丈夫。私が出せると思う。」
「確かか……、」
私がポチ袋を握りしめた感じでは百円札はもう廃盤だからきっと千円札が三枚という手応えがあった。これは一時期でも主婦を担っていた女の感ってやつだよ田中くん。この前のお爺ちゃんに催促していたお給与が貰えたのだよね?
私は後ろを向いて袋の中を覗くと……満面の笑みに早変わり~。
「うん沢山在った、行こ!」
和服姿の多い女性の場? と化していたレストランだ、恥じらいながら冷たいパフェで紅い頬を冷やし続けた私だった。
もう……一生の思い出になったわよ田中くんありがとう。ここで張り詰めていた気が遠くなったのは誰かが身体を無理させたのだろうか。丁度席に座っていたから良かったよ、私はそのまま瞬時に気を失ってしまう。
「田中くん、……ごめんなさい。」
「え?……何が……おい亜衣音、どうした、亜衣……。」
そして私はまた遠い記憶をなぞっていた、ここがあの世だとは思いたくはないのだが平行世界のような感じがしていた。澪お姉さまがハンサムな騎士さまとデートしていたし、きっと馬事公苑で働き出して右も左も判らない時に優しくして貰えたから恋落ちしたんだね。
聖徳太子のように厩で生まれて澪お姉さん、クロに身を包まれて気を失っていた処をシンというパパラッチに保護された。シンさんはニキータさんからは何度も打たれて厩から追い出されたとは思うが、詳細は分らなかった。そんな澪お姉さんの様子を宙から眺めていたと思うのだけれども、ニキータさんから何度も揺すられていた澪お姉さんが、
……目覚めた。
「ここは?」
「ん?……ここは南棟の401号室に入院ね。また無理したのね。」
「はい、澪姉さん、私……、」
「この写真は本当に最高傑作だわ。」
私が目覚めた時に澪霧さんは私を一瞥して、それから手にしている大きな写真に目を落とし、尻も椅子にドカッと落としたままで身動きもしない。が、会話の受け答えはしてくれている。
……私は手を伸ばした。
「ん?……。」
「見せて、」
そこには恥じらう私と笑う田中くんとの一コマの写真だった。写真の出所も気になったがここは素直に喜んだ。だってとても幸せそうな二人が写っていたから。そして私は澪お姉さまの全身を見てピーンときた。これは……だ!
「澪お姉さま、……婚前交渉なのね。」
「え~~!!!……どうしてそれを……!」
「お姉さまのお腹に感じたわ……双子の赤ちゃんだよ……。」
それから私はまた気を失った、驚いた澪お姉さんがショックを起こしたのか。次に二人して目覚めたのは澪お姉さまは翌日で私だけが四日後だった。
澪お姉さんも倒れたからには当然診察アリ、だよね。それで家族が集められて先生が言うには、
「お嬢様は、そうのう……ご懐妊です。」
「え~~!!」x8
同時に白馬の王子さまに視線が移る。札幌のご両親に頻りに頭を下げている光景が澪姉さんには嬉しく思えたと、他には誰も居ない二人同室の部屋で話しをしてくれた。
澪お姉さまの容体が安定したら私も直ぐに元気になった。先に澪お姉さまがさっさと退院する辺り性格が冷たいのだと思ったが、先方のお家へ挨拶に行っていたと報告を受けたんだ。
「澪お姉さま。おめでとうございます。」
面会謝絶が解かれてクラスメイトの訪問を受けて喜んだが、退院したのはまだ先の一月二十日だった。きっと澪お姉さまの気苦労が絶えなかったのだと思う。ガンバ……澪お姉さん♡
1969年1月12日
友人達の訪問を受けた翌日、私が夢から覚めて直ぐに叫んだ。きっと良い夢を見ていたのだろうか。矢継ぎ早に独り言を連発してしまって?
「もう、こんなの、あり得な~い。」
「田中くんには悪い事したな、全力で全快になったらお詫びに行こう!」
「もう私って、産まれてくる赤ちゃんのエネルギータンクかよ~!」
「お前、やっぱ、バカだったな。」
「え!……いつから其処に……田中くん。」
ネグリジェ姿を田中くんの前で晒したから急に恥ずかしくなってさらにだよ、カ~っと熱が出て耳が熱い、直ぐに布団を被って寝た。
「朝からだね今日は日曜日だからな。もう大丈夫なのか。」
「う~……少しも大丈夫じゃないもん。も~恥ずかしい~~。」
私のベッドの足下の方でクスクスと笑い声が聞こえる。席を立って私の目の前に現れたのは澪お姉さまだった。
「あらあら亜衣音ちゃん、起きたね。」
「あ、澪お姉さま……まで居らしたのね。私、ゆだれこいて寝ていませんでしたよね。」
「よだれの跡はクッキリ残っていますよ。亜衣音ちゃんが倒れたのはきっと私の所為だよね、本当にごめんなさい。」
「ううん、巫女の所為だから気にしないでいいよ。それに美味しいパフェが食べられました。二人でお礼申し、ほら田中くんも、上げます。」
「ありがとうございます。」
「へ~……パフェか~。」
今まで蒼い顔をしていた私の頬に紅が差したのは田中くんのお陰かな!
「うふふふ、」と笑う澪お姉さまは幸せそう……。
その後、田中くんからは部活、馬事公苑での出来事を沢山お話して貰って私はご機嫌になった。澪お姉さまが見ていた写真は今は田中くんの手荷物の中にあり、同時に澪お姉さまもご機嫌だ。
「亜衣音ちゃん。私、少し出てくるね。」
「はい、いってらっしゃい。」
私が寝ている間は当然ですよね、田中くんは澪お姉さまから根掘り葉掘りの洗礼を受けたと聞く。
「しめしめ、今日は収穫がてんこ盛りだわ!」
この後、澪お姉さまは未来の旦那さまと一緒になって、馬事公苑に出向いて謝りそして寿退社を伝えたという。退っ引きならぬ入院をしたから先方の家族も心配してか、馬事公苑の退職を勧められたらしい。
「う~ん、新居はまだ先だよね。」
私が退院したら直ぐさま大安吉日に仮の結婚式が行われた。きっと退院しなくても結婚式は行われたに違いない。旦那さんが地方巡礼に行くからと家族だけが集まっての仮の祝言だけどもね。
1969年はフランシーヌの場合がヒットした年。亜衣音の場合は~あまりにも~可哀想……、
私が退院してから朝一に田中くんには謝っておいて、つれづれに登校する四人の女の子にはお見舞いのお礼を言った。
「田中くん、いつもいつも入院ばかりでごめんなさい。決して身体が悪いからではないのです、……私……巫女だから。」
「うん、いいよ。気にしてない。」
「や、そこは気にしててもいいよね。」
「バ~カ!」
「えへへへ……。」
「あ、パフェの代金は俺が払ったぞ。だから無一文になった。」
「いや~そんな事言わないで、それで澪お姉さまにお礼まで言わせたわ。今度埋め合わせいたしますから。」
「またデートか! でも俺はもう金は出せないぞ。」
「うんいいよ、また……お願いします。」
私が学校に戻りだしたら田中くんは朝一番に登校してくれていて、私をあの花瓶の件から守ってくれていた。こうなったら敵は手も足も出なくなったみたい。
それから二年生の新学期になりクラス替えで級友は大きく変更になった。これからの二年間は顔ぶれに変化は無い。




