第42部 アッパカパーな私
1968年10月21日 東京都 世田谷
*)私は風を操りクロに乗馬するのだが、これを見逃す連中はいなかった
私はいつもマイペースだ、他人を巻き込むのも厭わない性格ともいう。
澪霧さんがどこからともなく産まれてきた。この騒ぎはホロお婆さまが一番に悪い。どうしてクラスの悪友が五人も居るところに連れて来たのだろうか。
わぁ~私は明日からどのツラを下げて高校へ行けばいいのだろう……。
クロを軽く乗りこなして考えていたら……又しても落馬してそれを見て慌てる悪友たち、ここはまた入院して同情を引く手段が有効か!
だが今回は、打ち身、捻挫、打撲、切り傷、裂傷、火傷に凍傷……どれでもなくてとても残念である。私は起き上がって埃を払って来るであろう悪友を迎え撃つ心構えをする。笑顔、笑顔っと。
「お前、……バカか!」
「でへへへ……、落っこちたよ、」
「亜衣音ちゃんもう今日は帰ろうよ、家族水入らずになるのよね。」
「んもう~いつもいつも心配ばかり押し付けて、少しは自重しなさい。」
「あんた、落馬しても怖くはないのかしら。」
「うん、何とも思わないよ。」
「うんうん亜衣音は馬から産まれた馬姫だね……。」
「お~馬姫……通り名が命名されたぞ、お前は今から馬姫と呼ばれる事に決定したからな~。」
「藍ちゃん孤高のお姫様ではいけないの?」
「うん今回は明神さんの発案で任命は田中くん、もうこれは決定だね。私と双子は追認といたしま~した。」
「キャハー……さんせ~い!」x2
「これではお小遣いが飛んでしまうかしら……これは一大事だわ。」
「ふ~ん……自覚があるんだ。」
「ウグゥ~……、」
「みんな~荷物を持って街に繰り出すわよ~、」
「さんせ~い、」x4
「はんた~い、します。」
「却下。今日はアイスで許してあげるね?」
「ウグゥ~!」
これではホロお婆さまから悪友への買収資金を頂かないといけませんわ。
「亜衣音ちゃん仲良くしようね。」
「うんこれからもよろしくです。」
部室としてあてがわれた部屋の荷物は、断りも入れずにホロお婆さまに全部をお願いしたかっこうになるが、なに大丈夫だろ。後で気づいたのが学生カバンだよ、明日の通学は遠回りして学校へ行く羽目になったから……みんなごめんなさい。私は……燕尾服で家に帰るは恥ずかしいからタクシーを未来ちゃんから借りたのよね。
「亜衣音ちゃんさ、先走ったら損するかもしれないよね、だから馬事公苑に寄ってからどうするのかを考えたがええよ。」
「そうよね、荷物があるし私なんかはこの服を着て帰るとは恥ずかしいよ。」
「でしょでしょ、さ、部室へ行きますわよ。」
「オー!」
こちらが心配しなくてもお父さんとお母さんは大丈夫だろうが、北海道の田舎は今頃はてんやわんやの大騒動だろな。特に智治お爺ちゃんと桜子お婆さまはね……、心臓を家に忘れて来なければいいな!
もう既にジェット機に乗っているかも知れないね。
事実、札幌飛行場に向かった杉田の祖父と祖母。本当にジェット機に乗っていて既に立川飛行場に着陸する寸前だった。それから馬事公苑の目と鼻の先に鎮座する、陸上自衛隊 用賀駐屯地へとヘリが飛ぶ。それからは罵声が飛ぶ。
私達がアイスを喫茶店で食べ終わって学生カバンを取りに馬事公苑に戻ると、何処かで聞いたような声が遠くから聞こえてきた。
「亜衣音~~~!!!」
「ウゲッ!……、」
「誰ですの?」
「札幌の?……。」
「はい、」
「亜衣音ちゃん~着いたわよ~早く~!」
「かぁ~~~母の札幌の両親ですわ……。」
「だったら亜衣音ちゃんは行かなくては。」
「うんごめんなさい。それで今日の事は内密にお願いね。」
「明日は明日の風が吹く、だね。」
「いや~もう勘弁して~、」
「ダ~メ。ねぇみんな?」
「うんそだね、」x4
「今日はしたっけ!」
「したっけ!」
「バイバイ、」x4
私は祖父母の前に立ったら、
「あんた、誰な!」
「え~亜衣音ですよ~。」
「……そうなのね、その格好……可愛いわよ。」
「あ! 乗馬の制服のまま……。」
桜子お婆さまはクスリと笑ってくれた。
「杉田のお婆ちゃんは随分と早かったようですね。あの智治お爺ちゃんを見たら想像出来ました、またジェット機に乗っていらしたのですね。」
「そうね、智治さんは車でこき使ったし、速くてスリル満点でしたわ。」
「もしかして、ジェット機のパイロットさんをも嗾けたとか?」
「ん?……ふふ~ん。」
桜子お婆さまは声にならない嗤いを浮かべたのだから私は直ぐに想像が出来てしまっていた。それから、
「それで私は誰ですか。」
「誰と言われましても、桜子お婆さま。」
「いいえ、私は、あ、あぁん?」
「はい、桜子お姉さま!」
「合格でいいわ、私はまだ四十歳よね。それでババァ呼ばわりは嫌よね、そう思うわよね、ねぇ亜衣音ちゃん??」
「はい、まだとてもお若いです。セーラー服を着ますか?」
「機関銃が在れば……着たいかも!」
「うプ!」
私は蒼いお顔の智治お爺ちゃんの横に立ったら想像通りの飛行機酔いだ。あのパイロットは禁止された三百六十度回転を三回はしたに違いない、誰かの所為で。
「ねぇお爺ちゃん、気分は大丈夫ですか?」
「ウッ、グッ……まだ胃袋が驚いているよ。亜衣音ちゃんの部屋で休ませてくれると嬉しい。」
「今晩からは宴会だよね、いいの?」
智治お爺ちゃんは人狼だと聞いてはいるのだが、どうもあまり強くはないらしい。普通は「身体は大丈夫ですか?」なのだろうが私は気分は大丈夫かと訊いてしまった。これは気分の問題よ、それに私のお部屋で……休みたい? なんでや。
「いや~良くない。それで澪は何処に、」
「うん、これから案内いたします。」
「ウ~~~プッ……。」
「バコ~ン!」
「澪霧~、」
「澪霧さん、」
「お母さん。お父さん。……、」
「うんうん……、」
三人は抱き合って泣き出すから私は、……どうしようか。
「私は場違いみたい。クロに家まで送ってもらおうかな。」
「ブヒヒ~ン!」
「いいかな。」
「ブヒ……。」
厩舎から転移してきたのか、ごく自然にクロが現れた。
「転移、自宅!」
「ブヒ……。」
私の目の前がぼんやりと暗くなり転移は完了した。
私が目を覚ましたのは……見覚えのある天井だった。そして澪霧さんは……母と同じ顔をしているのに、対応も考え方も完全に母と違っていてとても新鮮だった。普通、愛娘が目を覚ましたら喜ぶよね、そうよね母さん。
「私は沙霧ではありませんよ、目が覚めたのね、良かった。」
「ここは?」
「ん?……ここは南棟の402号室に入院ね、また無理したのね。」
「はい澪霧さん、私……、」
「この写真は本当に最高傑作だわ。」
私が目覚めた時に澪霧さんは私を一瞥して、それから手にしている大きな写真に目を落として、尻も椅子にドッカと落としたままで身動きもしない。でも会話の受け答えはしてくれている。
……私は手を伸ばした。
「……ん?」
「見せて、」
それは十三枚目の写真だった。私が疾風を纏ってクロと走る千分の一のコマの超……瞬間的な写真だった。活き活きとした私の表情とブレてもいないクロの足の刹那、それは完全に宙に停止しているが如くの写真だった。少しも恥ずかしいような写真ではなくて安心した。
「これは……?」
「これね、隣の病室に入院していた時に置かれていたのよ。私……これを見た瞬間に直ぐにピンときてね、亜衣音さんを思い出して泣いちゃったな。」
「え?……では澪霧さんはずっとこの隣に入院していたのですか。」
「そうなのよ記憶喪失で眠り姫……だったわ。でも誰かに保証人になってもらっていてね、オマケに病室もね隣が指定されていたんだって、驚きよ。つい先日まで隣に入院していたのよね。これは内緒よ、女と女のお約束よ。」
「もしかして……洋服も?」
「そうよ、二人とも裸だったのよね、考えたら恥ずかしい。」
「お母さんは自宅だったから良かったけれども、澪お姉さんは何処に?」
「聞いてないわ、費用の支払いと馬事公苑への仕事も用意されてあったのよね。」
「そうなんだね、」
「きっと身内に近い人がいるのよね、誰だろうね。」
「もしかすると何処かの記者さんだと友達が言ってた、その老紳士と奥さんかも。」
「名前は、教えていないよね。」
「そうだね。ねぇ起こして!」
「どこも痛くないはずよね、もう自分で……はいはい今起こします。」
「うんありがとう。次は手を貸して下さい。」
「歩けるかな~そ~っと、そっとね……。」
「大丈夫みたい、ちょっと行ってくる。」
「あ、点滴の器具を使えば楽に移動出来るよ。お供いたします馬姫!」
「え~やだ。それを何処で?」
「昨日、教えて貰ったのよ。……あ、今日で三日目だよ。」
「え……そんな……。」
「もう来る時間かしら、だから急いで、」
「はいはい。」
その後、私は五人からお弁当の残り物を口に押し込まれるハプニングと、歓喜に満ちた笑い声に癒やされていた。……五人は帰った。これはきっと未来の発案で御弁当が残されていたのよね、私を餌付けしたいと考えるのは未来だけだしね。これでは反対給付が重く私のお財布に負担が掛るのよね。
この日、明子姉さんは危機を脱して退院したと聞いた。先日までは、いやいや倒れてしまう前日だから何時かな、それまでは白川の祖父母の家に行っていたと聞かされていたのにな。そう言えば澪霧さんが産まれた時には明子姉さん抜きで、バラバラに居たはずの家族が纏まって直ぐに来たのはどう考えても不自然すぎるだろうか。あ~私の馬鹿バカ莫迦……。
私の気力が抜けて倒れた意味が何となくだけど、何となく理解が出来た。そうこの日久しぶりに明子姉さんを見たからだ。そして明子姉さんは私にお礼を言ってくれたのだから。家族の皆は私にウソを、いいえ心配掛けまいとしていたのだね。明子姉さんの退院の帰りに全員で私を見舞ってくれたのだった。
私は目の前に大きく突き出された明子姉さんのお腹を見ていた。
「明子姉さん。太ったの?……もう産まれそう。」
「冗談キツいな~まだまだよ亜衣音ちゃん。三ヶ月が過ぎたからもうお腹の赤ちゃんも安定するから心配はいらくなったよ。」
「うん良かったね。元気な女の子だよ、それも二つ……。」
「ふ~ん……判るんだ!」
私には薄らとした巫女の魔力が感じられる。でも今は何故かな、とても穏やかな心が明子お姉さんのお腹から伝わってきたんだ。だとしたらやはり……答えは、桜子お婆ちゃんだよ。綾香と彩香ちゃんだったりするのかな。
「元気そうだよ、良かったね。」
「診断頂きました……何だか廊下が煩いわね?」
「そうだね、さっき病院に来たのがもう目の前だよね。」
ここに台風が飛び込んで来たのは麻美さんと明さんだ。抱きつかれたのは私……ではなくて明子姉さんの方だった。序でに老馬を二頭も手土産に持って来たというからいやはや何とも……。
「亜衣音、お前はこれから強制退院だ。お前が入院した所為で澪霧さんの歓迎会が出来なかったからな。」
「そうね、澪が遠慮したのよね。」
「わ~ごめんなさい、許して、直ぐに起きて退院いたします。」
「よろしい、行くわよ。」
「待って、みんな待ってよ、私が一番悪いのよ。急にお腹を痛めたから入院までして心配掛けたから……。」
最後の方は消え入るような声になった明子姉さんは結構な責任を感じている。私と違って意識はあったんだもの当然こうなるよね、だったらここは私だけが悪役でいいわ。
「わ、わ、わ~、ごめんなさい、許してください。私が退院いたしまして深くお詫び申し上げます。」
「亜衣音さん。貴女が退院したのがどうして私達へのお詫びになるのよ。」
白川の祖母の突っ込みが入る。こうやって祖父を黙らせていたのだろうと想像してみた。
「そうだぞ亜衣音。起きれるのか。」
「はい、お父さん。」
カウンターを考えた私は、
「でも麻美お母さんにしてみたら流れていたから、そのう……都合が良かったんじゃないのかな。」
「……言ったな~、亜衣音には馬が待っているからね。」
「今度の馬は……どんな子?」
「凄いぞ~元サラブレッドでね………………、」
「早く会いたい!」
お寿司屋さんで宴会が開かれて当然ニコニコのご夫婦と閉店の紙の案内が風に揺れていた。元気な鯛やヒラメに鰺が次々に上げられて生け簀の水槽が空になって……わ~高そう。暇だからと魚河岸で仕入れをきっとサボっていたんだわ。
翌日の早朝、高校の私の机には牛乳瓶に花が生けられていたの、でも田中くんが処理してくれた。この二件目の出来事は最後まで私には隠されたが。
*)アッパカパーとは、なんぞや
退院した翌朝は私は父の車で登校して教室に入った。
「オハー、」
「おはよう田中くん。」
「え?……、」x2
いつもの二人の女子が小さな声で驚いていた。だからか、私へのおはようの言葉は最後まで無かった。あの二人が驚いた理由は私だ「田中くん」と名字を呼んだから。
「お前、どうしてこうも病院が好きなんだ。ま~た入院する予定はあるのかよ。」
「どうだろうね、判んない。」
「……。」
それからは会話が続いていない。田中くんの様子は少し違うようだった。なので私は捜し物を思い出して捜索開始。ここでようやく立花の双子ちゃんが登校してきた。
「碧ちゃんと翠ちゃん。おはよう!」
「亜衣音。」「おはよう。」「もう身体はいいのかしら。」x2
「もう大丈夫だよ、昨日のお見舞いありがとうね。」
「いいよ友達だもん。で、今日から復帰するのかな。」
「もちろんだよ。ねぇ、今日からは貴女たち用のお馬さんが来ているんだ。紹介するからさ乗りに行こう!」
「え~そうなんだ。背の小っこいラバではないよね。」
「もち違うよ。現役を引退した名馬だと聞いている。私もまだ顔合わせは済んでないのよ。」
「うんうん行く行く!」x2
次の電車通学組の二人が登校してきた。
「オハー、」
「あら亜衣音ちゃん。」x2
私は席を離れて教室の出入り口に急いだ、そして抱きつく。
「こらこら亜衣音ちゃん。……もう発情して、」
「そうね、困ったちゃんかしら。」
「いいもん、とても会いたかったんだからね。」
「馬姫さまは退屈していたので?」
「へ~、田中くんに無視されたとか?……あ、図星だな!」
「いやよ違うよ。だって彼奴は勉強の虫だもん。」
「?……無視……虫、ね! やっぱ無視されたな。」
「や!」
「貴女、倒れたら困るから席に着いて下さいな。」
「うんありがとう。」
そうして私は自席に着いたらいつもの風景になって、田中くんからしたら自分の目の前に可愛いお尻が確実に二つは躍りだすのだから。
もう目のやり場に困るからか英語の豆短で勉強するしかないのだ。私は少しも気づいていなかったのね、これが私のマイペースで他人を巻き込むのも厭わない性格だな。
(私の顔が見られないのよね、ゴメンね!)
(いいよ、気にしてない。)
(え”!……。)
一瞬だが田中くんの声が聞こえたような……気がした。
女の子の四人に愛想を振りまくのだから田中くんからは「アッパカパー」と言われてしまった。朝から照れ隠しの躁の状態だった。
それはどういう意味なのよ~も~……、
だって私の秘密と母さんの秘密を漏されないように日々頑張るんだ。それから四人は自席に戻った。田中くんが声を掛けてくれたのだが、
「お前、一限目は体育だよ、どうする。」
「見学かな~……。」
田中くんは薄々感じていたのだ私が体操着を探していたから。自宅に無いのなら学校よね、と、探し回っていたのだから。
私は体育の先生には「保健室で休んでいます。」と嘯いて無くなった体操着を探して回ったが、やはり何処にも無かったのだ。
「う~どうしよう……。お父さんに何と言おうかな、困ったな~。」
放課後に……、
「お父さん。実は馬事公苑に体操着を忘れて無くしたみたい。」
「そうか、手配しておくよ。靴もかな。」
「うん……はい、お願い。」
「何文だ!」(靴のサイズ、もん)
「え~と……22,5cm÷2,4=9文半。」
「お前も古いな。」
「もう、文とかは言わないよね。」
お前も古いとかなによ、父さんが言わせたのだからね。もんからセンチに変わった時はやはり計算していたんだよね。最初はもんで覚えていても足は段々と大きくなるから、そうなると計算するしかなくてね。
校庭の焼却炉の中に在るのだが誰にも気に掛けられずに煙りとなってしまう。あの後から父に買って貰った新しい体操着はすんでの所で田中くんから助けてもらった。ここで前の前の退院の日に私の机には花瓶と花が生けられていたと報告を受けたのには、さすがにこのショックは大きいか。
「どうしたんだよ。」
「私は苛められているのかしら……いったい誰に……。」
「お前、誰かに恨まれているのか!」
「ううん、思い当たる節は無いのだけれども、何でかな。」
「気をつけろよ、次は防御出来ないかも知れないぜ。」
「?……あ、うん、気をつけるね。」
「持ち物は全部、親父の車に置いておけよ。」
「そ、そうだね、ご忠告をありがとう。」
「いいよ別に……。」
体育の時間や移動教室の科目の時はできるだけ持ち運びしていたから、女四人からは不思議がられていた。今度は通学の靴が無くなった……。
「亜衣音、靴はどうした、上履きだぞ。」
「あ、慌てて間違えちゃった、……てへ!」
こうなったら今度はお母さんに靴を頼むしかないのか、もうお小遣いは空なのよね。
放課後、私達は馬事公苑に立つ。ホロお婆さまから二頭の馬を紹介されたら、今居る騎士の皆さんがゾロゾロと出てくる出てくる、事務員さんも騒がしいからと出てきた。
「わ~すげ~、これはあの優勝した名馬じゃんか!」
ホロお婆さまの株が一気に値上がりした。
私とホロお婆さまの二人で一人ずつ乗せての曳き馬からのスタートで、途中からは若い騎士の男性に代わって頂き私は救われた。
今日も楽しく老夫婦が遠くから私達を見ている事はまだ気づいていない私。
「ねぇシン。私もクロに乗りたい。」
「無理言うなよ。裏方でいいだろう? さもないと桜子さんが機関銃を持って駆けつけるだろうさ。俺は苦手なんだよな、あれは昔のまんまの顔だからさ、それで『これは戦争よ!』と言われたら俺は気絶しそうだぜ。」
「ふん、ば~か!」
「それでいいよ、あの子たちが無事ならばさ。」
「そうだね、そうだ! 東京競馬場へ行くよ。」
「え~? またかいな。」
「財布だしてよね。」
「勝ってよね~酒は飲みたいよ。」
「今日はお開きのようだな。」
「ん? うん……、」
私は馬場の中央を抜けて建物に帰ろうとしていた。この時の女の子の四人は手ぶらで歩いているから速いのだが、私は馬二頭を引き連れていて遅れを取っていた。田中くんは私というよりも馬の後ろを歩いていたようでその田中くんから声を掛けられたから立ち止まる。
「なぁ、亜衣音。」
「え?」
「お前は孤高のお姫様というらしいじゃないか。だったらもう俺らに卑下諂うのはやめろよな、見ていて涙が出てくる……。」
「うん。そうなんだ、ありがとう。」
私は以前田中くんから「アッパカパー」と言われたのを思い出した。田中くんは前から私を見ていてくれていたのだと考えた。アッパカパー……意味不明のまま私は忘れてしまった。
「まだ……体調は優れないのか、この前の勢いはどうした。」
「うん、身体は随分と軽くなった気がする。え~と、この前っていつの事?」
「最初にこの馬場でクロに乗って、……そのう白い足を出してだな……、」
「あの時ね、あれは久しぶりにクロに乗れたから、つい我を忘れたのかな。あ~あの時は楽しくて思いっきり走れたな。(私の足を見てたんだ)」
「だったらその時の気持ちを忘れるなよ。俺は今の亜衣音を見ていて痛ましく思えてならないんだよ。」
「ありがとう田中くん。うん、私、頑張る。」
「勉強もな、早くTOPに返り咲けよ、待ってる……。」
「田中くんには私の大切なモノをあげるね。……あ~赤くなった。」
「バカ言え、夕陽だろうが。」
「うん、そうだね。(夕陽は後ろからなんだがな~)」
私は自分のカバンからあの恥ずかしい「なま足」の写真を取り出して、別室にて一人着替え中で留守の田中くんのカバンに写真を忍ばせるのだった。あの四人には気づかれないように……と。
きっと明日の朝は田中くん、私を見れないよね……。
だが違って、即、追加の写真を要求されてしまった。だから私の一番可愛いと思う写真の中から二枚を手渡したのだ。どうしてよ~も~……。
その後は……予想どおりだね? 田中くん。
「俺は、今日帰る。」
「え~部活は休むの?」
「……。」
私はクスクスと笑って田中くんを見送っていた。勿論、私は同じように四人から見られていてクスクスと笑われていたのを感じながらね。
「行くよ~亜衣音ちゃん。」
「……うん、」




