第215部 サントリーニ島
*)サントリーニ島と若い女
私たちの新婚旅行の目的地のサントリーニ島に着いた。移動は大きなフェリーだったのでこの前のフェリーよりも安心出来て良かった。搭乗の時以外はだがね。
暇だからと言って私は一階のトラックの駐車場に行って遊んでいたんだ、だって海が見えないから怖くないからね。トラックの運転手さんは気前がいいのか、それとも若い外国人女性が珍しいのか、私の話し相手を務めてくれたんだよ。
そんな行方不明の私を必死になっているマイケルに対して、私はトラックに押し込んで……運ちゃんをよ……運転席に隠れてマイケルをやり過ごしていたんだ。ま~隠れんぼだよ、面白かったな~。慌てふためいて私の名前を呼んで回るなんて前世でもお目に掛からない、前代未聞の珍事かな。
なんで私を探していたのか、それはきっと私から飲酒の許可を貰いたい? その一心だからなよね。だって一人ででも酒を飲める人だからさ、フェリーで飲んでいたら私の事なんて忘れて飲んでいたわよね。
そんなこんなで楽しんだ私にサントリーニ島が大きく見えてきたからマイケルの元に行ったんだ。だってもうすぐ上陸だものね。
このサントリーニ島は火山島だと説明を受ける。誰に? それはツマラナイ顔のマイケルにだ。私と離れていてツマラナイ顔ではないね、やはりお酒が無いと顔は締まらないようで何とも情けない。今度からは禁酒させるのを許そうかしら。
近くから見るこのサントリーニ島は何だか「熊襲」発言で有名になった社名に? そっくりだ。島は溶岩島で上の大地が平たくなっている台形の島で、海抜はどれ程かと港に着いて首を上に捻ってよろける。今も身体が揺れている感じが抜けていないらしい。
「アング……!」
「アホか! よろけて尻餅をつく処だったぞ。」
「だって……九十九折りの山道を見ていると自然とこうなるのよ。」
私は頭がより上を向くようにと大きく口を開いていた。ま~自分でもアホ面だという認識はあったかも。お日様の光を喉の奥で感じるとは変態かしら。
「海から見るよりも急斜面に造られた道だな。どれ、頑張って登るか!」
「ギャピ!」
「いいだろう、久しぶりの大地だぜ?」
「ギャボ!」
坂道を上るという表現では追いつかないかも。切り立った山の斜面に在るだろう道は、何処を走っているのはが分からない程だ。もう山の斜面と一体化している。
「ねぇマイケル。あのお店で休んで行きましょうよ。」
「およよ?!」
「お酒……飲んでもいいからさぁ~ね~……マイケル。」
「お! そうか、そうなのか! 喜んで~~~。」
「現金だこと、」
港に船が着けばホテル関係の送迎の人や観光客で賑わい、狭い場所に白い建物のお店が山沿いに接して並んでいるのが理解できる。フェリーが着けば降りる人や大型トラックが勢いよく陸に向かって進んでいき、それが済めば次の島に向かう人や大型トラックが乗り込んでいくのだ。
本土に帰るフェリー便ではないから乗り込む人やトラックは少ないかな。
港、道と駐車場、建物、山。この順で猫の額が構成されていて、建物なんか山肌と家の壁が同じに見えてしまった。崖の上から石が落ちて来ないのが不思議な位にくっいているのだ。いや恐らくは偶に落ちているに違いないわね。
マイケルを酔わせて仕舞えば……登山だ~とはなるまい。これが私の最初の作戦だ。勿論、成功するに決まっているわよ。レンタカーのお店が在るのだが、ここの車がね、日本の小型車が止まっていたのにはついつい笑ってしまった。日本の小型車は狭い島では有効に使えるのだろう、狭い日本と同じか。店員さんらがこの車で島の本店に移動する足なのだな。いやここが本店ならば帰宅の為の足か。
通りに面した喫茶店は表にも座席を沢山並べている辺り、それだけ店内は狭いのかと勘ぐってしまった。お店は意外にも広いのだ。
こんなにもお店が繁盛するとした? 疑問は一つしかないね。フェリーは定刻通りには発着しないから待ち時間が長くなる……これだ!
大勢の観光客が引けたその通りに面したテーブル席に一人の女性が頬杖をついて髪を風に靡かせているのが見えた。
サングラスを掛けて視線は宙……宇宙でも見ているのだろうか。アイスコーヒーは残ったままなのはどうしてかしら。
「歳の頃は十八歳かな、随分とおませさんだ事。」
「あ、あれな……そうだ! 引き返して港の奥の店に行こうか。」
「そうね、」
マイケルの態度が急変した、どうして?
そこはPassenger Terminal、待合室だった。一応の軽飲食が出来る処も在るが、基本待合室なのだから、この島から発つ時は大いに賑わうのだとか。それ以外では無人……。人を見かける事がないそうだ。だが奥の方で巨体を見た。
「この待合室にはお酒が無いようだわ、いいのかしら?」
本日の営業は終わり、実は閉店していた。
「いいよ、ホテルに着くまでは我慢しないと山道は登れない。」
「だったら少し戻ってお酒のあるピザ屋さんに行こうよ。ほら、あそこ!」
「それだったらいいかな、行くか。」
「うん、」
私は大きめのピザを二枚とビールを二杯頼んだ。おつまみは何でもいいからと言ったらアンチョビがお皿に載って出された。嫌な予感がしたのは気のせいだと思いたい。
「焼けたよ、熱いうちに召し上がれ!」
「ぅわ~美味しそう……。」
「なぁありす。そのアンチョビは俺に喰わせてくれないか。俺のピザにはベーコンとピーマンだけなんだぜ、これがアンチョビピザと言うのなら酷いな~。」
「あ……そうなんだ、このアンチョビはピザに載せて焼くモノだったんだね。」
「だったらそれは無料だろう。」
「そうね、そうであって欲しいわね。」
そんな事はなかった。きっとフェリーに乗って行った人たちの残り物だよね?
このお店で幾分かの時間を潰す、マイケルもお酒で潰す……潰れなかった。
帰るからと渡された精算書は、それでも一品は一品の金額を請求されていた。
私が高めの精算書を見ながらお金と口を出した。不満を言いたいのを我慢してであるから、余計な事をつい質問をしてしまう。
「ねぇここは観光客もホテルに行ったはずよね、誰も居ないのに営業する意味はあるのかしら?」
「あぁ~大きなお得意さんが来るのよね、こ~んな大きい女がね家族と一緒に食べにくるからね。」
「あ?……あぁ~あの人ね、納得だわ。」
「他にもね、上で賑わう店を嫌う人も居るんだよ。あの~……、」
「へ~そうなんだ、おつり……要らない。」
「……足りません。」
精算書通りに払ったのに足りないとは失敬な。直ぐにマイケルが事情を察して? 払ってくれた、十ドル札で。こいつ、いったい何枚の十ドル札を持っているのやら。
機嫌が悪い私にマイケルがにこやか~に話しかけてくれている。私の機嫌を直す為ではないのだと私は女の直感で理解した。この島でも仕事をしたいらしい、今はその期待で胸が一杯なのだと。も~あり得ませんわ。
「このサントリーニ島は歴史が古くてな、紀元前から栄えた島だってよ。だったら何処かの土の中にお宝が眠っていそうだよ、ね、ね。」
「そんな事はないわね、街の建設工事で十分に掘り起こされているわよ。???? 何処かの土蔵の中とか言わないでよ。」
「はいはい、重々承知いたしております。」
マイケルに解釈させたら、土蔵も土のうちだと言いそう。穴掘ってお宝をゲットと言いそうで怖いな。なんでも火山灰土だから抜け穴も直ぐに掘れてと、御託を並べて説明してくれるあたり、今宵にも手ぬぐいを頬被りして何処かに行きそうな感じがしてきた。もうドロボウはよしてよね!
たわいの無い会話で時間を潰す。マイケルは酔いが回るはずなのだが、背筋を伸ばしてシャキ~ンとしているのは何故? やはり……だよね。
ならばと次はワインをお店で買い込んでマイケルに飲ませる。
「レンタカーのお店に行くの?」
「それもいいな。バイクは無くなっただろうし、これからどうするか悩む~。」
そう言えばバイクの荷物入れにはお金を入れておいたが、その後はどうなったことか。あんな大金をみすみすエーゲ海に沈めるには勿体ない。
「マイケル~バイクを探そうよ。この島できっと降ろされているわよ。さっきの待合室に戻ろう?」
待合室の前には明日か明後日のフェリーに載る数台の車が並んでいたのを思い出した。バイクの料金がこのサントリーニ島までだから次の島まで運ばれる筈はないかもしれない。
「それにさ、折角誂えた赤と黒の革ジャンに未練があるんだ。」
「そうか、ここで降ろされているか聞きに行くか。」
「うん、行こう。」
ピザ屋の清算を終えて通りに出る。目指すは北北東……? いや西だそうだ。
フェリー会社の旅客ターミナルの受付に声を掛けると、眼鏡を掛けたご婦人が窓口に出て来た。ゆっさゆっさと身体を揺らすあたり、かなりの体重がありそうで私の反面教師と位置づける。ピザばかりを食べたらあ~なるのだろうか。
「何ですか?」
失敬な、いきなり何ですか? はないだろう。ここ居るのは紛れもないフェリー会社の客なんだからね。客は大事にしないと貴女はクビよ! でもここは遠い異国なのだか日本の常識は非常識なのよね。
「はい、前回のフェリーにバイクを載せていましたが、着いていますでしょうか。私たちは都合により途中で降りたものですから、あ、シフノス島です。連絡は届いているはずですが?」
「あ……あ~バイクね、倉庫に仕舞っていたかね~、お待ち。」
「はい、待っていますから。……お姉さん忘れ物ですわ。」
「おや?……ありがとう。」
私はマイケルのポケットに手を突っ込んで幾枚かのお札を握り締めて、眼鏡の奥の小さな眼をした初老の女性に渡してみた。マイケルは「またかよ~」という顔をして私に憐れむのよね。だから敵も然る者……だったわ。
「おい、ありす~……。」
「良いじゃないの、これでバイクが戻って来るならば。」
「来ないときはありす、俺に全額を戻せよ、一千ドルな!」
「ギャピ~……二百ドルでいいわよね?」
「いいや、五百で手を打とうか。」
「いいわよ、バイクが出て来たらマイケルが五百を払うのよ。」
「?……まぁいいか。」
待つ事十五分位、お婆お姉さんは待合室の私たちを見つけて歩いて来た。何が何でも歩けないのだと思うそのお姿……横綱の女将さんになれば貫禄があって良いだろうと考えたりした。まさか木製の椅子に座って仕事をしていないよね?
「待たせたね、在ったよ。今若いのが表に出しているさ。これに受け取りのサインをしとくれ。」
「マイケル?」
「あ、そうか俺だよな。はいはい、何処ですか~。」
「こことここ。それに十ドル札は勘弁してよね。」
「あ! それを言ったらお終いだよ~。」
とマイケルが言って私の横顔に視線を向ける。私はようやく十ドル札がマイケルによって仕組まれたものだと悟った、いや悟されたと言うべきか。諭すとは違う。
「マイケル!!!!」
「はい、後で払います。」
「違うわよ、追加で渡しておいてよ。今日の夜は気持ち良く眠りたいよね?」
「あ、そっちね。ばぁさん百でいいか。」
「お姉さんだよ、若いの!」
「はい、三枚な。世話になった、ありがとう。」
「いいよ、またお出で。」
「私、先に行ってバイク見てくる。」
バイクは何も悪戯はされていなかった。良かったと胸をなで下ろすと、
「私が見張っていたから大丈夫なんだよ。それでなかったらね、バイクも残っていなかったよね。」
「うん、ありがとう……って、誰?」
後ろを振り向いても誰も居ない。この前の夜に聞いた女の子の声に似ていたが、気のせいで済ませる事は出来なくなった。
「う~ん、誰だろうね、妖精さんかな?」
声の主を誰何しながら首を捻って……「アング!」空は青く澄み渡りそよ風すら感じる。
「ありす、どうだい。」
「あ、マイケル。また小さな女の子の声が聞こえたんだよ。私がバイクを守ったとか言っていたわね。」
「そうか精霊のご加護がありすに付いているのだろう。気にしないでいいだろうホテルに行くよ。」
地縛霊で無ければいいのよね、きっと前世で公園で会った精霊さんかな、と過去を思い出してみる。前世が過去とは可笑しいよね。私は一際大きい荷物入れを解いて二着の服を取り出したのだ。
「はい、マイケル……これに着替えたいな~。」
「そうか、先に着替えてこいよ。俺は後で良いからさ。」
「うん、ありがとう。」
「இஇஇ……。」
誰も居ない待合室、私はワンピースの肩紐を解いて床に落とした。白い肌に赤い下着が良く似合う。
先日、サントリーニ島のニュースを読みましたので取り入れてみました。




