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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第三章 たゆたえ……揺れる心と

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第21部 里帰りと……


 1968年7月19日(昭和43年)東京都   

 

*)立川陸軍飛行場


「ちょっとお爺ちゃん、私は民間機に乗りたいのです。どうして軍用機なのですか。」

「明日は穣と一緒じゃないのだろう?」

「そうだけれども、もう一人で里帰りは出来ます。」

「だったら……分るだろう?……穣は何か言っていたんじゃないか?」

「うっ……うん、お爺ちゃんを付けてやるとかなんとか。でも、藍ちゃんと一緒に帰る約束してるんだよ。明日の朝の二番機で待ち合わせなの。」


「あ~だめだダメだ、ワシの子飼いに送らせる。苫小牧の上空で降ろすように頼んでおいた。穣も渋々了承していたさ。」

「私は飛行機から落とされるんだ、イヤだよ。」



 立川陸軍飛行場とは在日米軍の空軍基地で官公庁のヘリコプターが運用されているらしくて、元検察長の息の掛った空港である。


 アメリカと日本の両方から賞賛された二つのツインズたちと、国外の協力者の巫女の家族らは利用が出来るという事らしい。もちろん亜衣音には伏せてあるしお爺ちゃんの私用でも、自由に乗る事が出来るという説明を受けていた。



 私が学校から帰る時間帯で祖父が自宅前で待機していた。私の家の合鍵は祖父母とも持っているので自由に入る事はできるのだが、お爺ちゃんは庭先で待機していたのだ。


「お爺ちゃん!」

「いや~、暑いから早く家に入れてくれないか。」

「いいけれども、クーラーは無いよ。」

「あたりまえだろう。家の中で待っていようかと考えたがな……。」

「ふ~ん忘れてきたんだ。」

「ま、そうとうも言うな。ほれ! 丸いスイカだ。」

「わ~、ありがとう、とても大きいね。……と言う事は、配達して貰ったんだね。ここに三河屋さんの印が付いている。」

「え! 何処に、」

「ウソだよ。でもねこのシールは三河屋さんしか貼らないんだ。」

「ふ~ん、そうなのか。ワシは知らなかったぞ。」


 カマを掛けた私、お爺ちゃんには通じなかった。このスイカも近所で周り回って来たお中元まがいの贈答品だろうか。


 玄関を開けてお爺ちゃんを招き入れた時に、板塀の向こうから自転車に乗ってお隣のお兄ちゃんが帰って来た。


「亜衣音ちゃん。お爺ちゃんにスイカを預けていたが受け取ってくれたかな。」

「はい、いつも田舎のお土産をありがとうございます。今度私からも道産子のお土産を持ってきますね。」

「馬を?……。」

「やだ~お肉ですよ。燻製にされたお肉です。」

「あぁ、あれか。確かにうまかったな。」


「お爺ちゃん……もう怒るからね。」

「すまん、分らないと考えただけじゃ。」



 これは私が郷から帰って来た翌日のお話だからね。


 燻製の硬い肉だから一度に食べられる量が少ないので、父一人で食すには長持ちする。すると決まって抗議を受ける。今回はただ単に早かっただけだ。


「なぁ亜衣音。この箱は四個在ったんじゃないのかな。」

「ううん、二つだよ。でもどうして?」

「鈴木さんからお礼を言われたんだ。」


「う、あのお兄ちゃんは口が軽いのね。口止めをしたんだがな~。」

「口は堅いよ。でもね、物忘れが人よりもちょ~っとばかし酷いんだな。」

「アハハハ、なにそれ、笑えないよね。」

「そうだな、この前のスイカのお礼かな。」

「多分違うと思う、引っ越しの時の挨拶のお礼だよ。」


「それはどうしてだよ。」

「あのお兄ちゃんは何か言っていたでしょう。」

「そう言えば、えぇっとホタテの紐とか言っていたかもしれないって、え~それって随分と昔の事だよ。」


「ウフフフ……内緒ね!」


 実は昨日渡したのは馬肉の燻製ではなくてホタテの紐の乾物だった。そう、引っ越しの物と同じだったのだ。その乾物でもお中元の品だろう。だって白鳥のお爺ちゃんから頂いたものだから。


『ワシには硬い物が食えないから食べてくれ。』と言われたのだから。しかし食えない乾物をわざわざ買い込むとは思えない。


 田舎のとてもいい風習だ。


 閑話終了っと。


 私と鈴木のお兄ちゃんの会話はきっとお爺ちゃんにも聞こえていたはず。だって私はお爺ちゃんの悪口を挨拶代わりに言ったんだものね。


 年寄りは、悪口がよく、聞こえてる。私も立派な歌人になれるかな。



 さ、お話を始めようね。


 私が遅れて家に入るとお爺ちゃんは物静かだった。やはり聞こえていたに違いなかった。スイカの件は無かったことにしてお爺ちゃんの前に立ち、私は包丁を持って立ち向かう。恐怖するお爺ちゃん……私はね『もう夕飯の準備をします』という意味だからね。



「ねぇお爺ちゃん泊まっていくでしょう、それとお話はお父さんが帰るまで待ってくれるかな。勿論お酒も用意するからさ。」

「いいのかい。だがね~、婆さんが独りで寂しいだろうて。」

「お隣のお爺ちゃんと遊んでいましたよ。帰るときに見えたのよ、だから独りでもいいんじゃないの?」


『お、お、お~れは帰る。バァが心配だ。』という返事を期待したのだがそれはなかった。逆に無視される結果となった。


 へ~私のカマに引っかからないお爺ちゃんはお婆ちゃんを信用しているんだ。まだまだお婆ちゃんは若いよ! 本日二度の私のカマを躱したお爺ちゃんだった。老人ながらもまだボケていないんだね。


 男は仕事を引退したらするこも無くて直ぐにボケるときいたのだがな、特に公務員がとかさ、違ったんだね世の皆さま……ごめんなさい。


「亜衣音はお小遣いは持っているのか。」

「ん~あと一万は欲しいかな。札幌のお爺ちゃんの家にも行きたいし~、」

「そうか、二枚をやるからな。」

「板垣退助……?」

「もうあれは引退助している、今でも流れて使われるのはド田舎だけだ。」

「今でも私は普通に使っていますが……なにか? それに蛇足だよね、助は。」

「ここが東京だという事を忘れるな。」

「あ~そうだね、九州の田舎とはちゃうよね。」


 国は財政危機で大蔵省にもお金が無くて、全国へ回せるだけの百円玉は直ぐには作れなかったらしい。初めて見る百円硬貨……兄の帰省で初めて見るのだったが、こんな田舎では使えないよね?


 私は要件を小出しにしてお爺ちゃんを躱していく。可愛い孫の言うことだ、嫌でも私の要件?……そう条件よ条件を飲むしかない。お小遣いだってお婆ちゃんには内緒だと言って要求の満額+αでくれたのだ。


「私のように皺がないわ!」

「どういう意味だ、皺くちゃの千円札が良かったか!」

「お爺ちゃん大好き!」

「バカ言え、白鳥へ土産を頼むぞ。」


 どうも男は土産を選ぶ能力が欠けているらしかった。きっとお爺ちゃんも現役時代は全てを部下に押しつけていたに違いない、主に沙霧にとか澪霧にとかママとかだったりしたんだよね、お爺ちゃん。


 学校が引けて帰りに買い物をしてきたからもう夕暮れ前になる。夏は暑い官舎なので公務員の人達は自然と帰りが早くなる、そんな季節だ。お父さん曰く「まだ冷房は無いから」だって。


 より早く綺麗な庁舎が建てられた部署は冷房設備がそれだけ遅くなっていた時代だ、なんでも建物が古すぎて冷房設備が後付け出来ないからだとか。1981年当時でも未だに冷房が無かった博多警察署だったか。ここが一番遅かったかもしれない建物だよ。事実だからね。いつ取り付けられたかは覚えていない、ムショではないからね、断じてないから、いい? 分ったかしら。


 方々のお役所には仕事柄良く行っていましたよ、福岡県庁も古い木造だったわさ。亀井さんにも盆暮れの届け物を配達させられたり、お届け物を高級マンションへ届けに行けばだよ、うら若き男の前にだよ、シミチョロ姿で出てくるのか……ご婦人よ? 普通の会社員でしたよ。盆暮れには社長命令で行っていました。今頃だと殺されて全財産は持っていかれているよね。


 閑話終了よ、なろうだから脱線はあってもいいよね……面白ければいいのよね、ね。



「お父さんも時期に帰ってくるよ、ご飯の用意をしなくちゃならないの。だから飛行機のお話は明日ね!」

「ふん、分ったわい。風呂に入りたい。」


「そうね、お父さんも直ぐに入りたいだろうから先に用意する。」


 夏のお風呂は早く沸く。少々ぬるい位でいい。私は早めにお風呂を勧めたのだが父の二人の帰宅が早かった。台所に立っていた私は父の『ただいま』の声が聞こえた。


「お父さんったらまたタクシーなのね。」

「今晩は……お邪魔しますよ。」


 玄関で祖母の声が聞こえたから私は納得だ、予感的中とばかりになって私は『お帰りなさい』と大きな声をだして言うのだ。それから夕飯の手作業を中止して手を洗いエプロンで手を拭いて玄関へ出迎えに行く。


「な~んだ、やはりそうだったんだ。」

「すまないな~。」

「うん大丈夫だよ。夕飯は四人分を用意しているよ。」

「そうか、先に風呂に入ってもいいか!」

「うん早く上がってね。お爺ちゃんが飲みたそうにしていたから。」


「妖怪ジジィも元気だからな、亜衣音も困っているだろう。」

「ほとほとね。今日は冷凍クジラなのよ、解けるから早く!」

「お、おう……。」


 父は急いで二階へ。そして階段を下りる時に一段踏み外して悲鳴を上げていてたから、きっとソックスを脱ぐのを忘れたのだろうか。


「うふふふ・・・。可笑しいの。」



 その晩、私は反対したのよね、でも三対一で負けたわ。祖母が私に付いてくれなかったんだよね。




 翌朝になる。


 く~もう朝一でタクシーのクラクションが鳴らされた……堪らない。私が逃走するのではないかと心配する祖父。


「案の定だわ。」と私は言う。お婆ちゃんが祖父を畳みかけているのだった。いや父も言い出すのだから親子でお爺ちゃんに言い寄るのか。


「お爺ちゃん着替えを用意して来ましたが、それで行くのですか家に帰りますか。」

「お父さんにお願いしてもよろしいでしょうか。それと、お母さんも行かれるのでしたら急ぎ連絡をいたしますが、きっと白鳥のお婆ちゃんも喜びますよ。」


「そうさね~、私も行くとしようかね。」

「おい、婆さん。俺は行くとも言っていないぞ。」

「ではお留守番をよろしく。温泉にも行ってきますから十日は戻りません。」


「お婆ちゃん……それにお父さんまで二人してお爺ちゃんを焚き付けるのはやめてよね。ヘソ曲げるのが見えているから~……。」

「あ、俺な、タクシーを待たせているから行くわ。」


「んもう、お父さん……逃げないでよ~バカ~~!」


 お父さんったら、一体全体何処へ行こうとしていたのか分らない。しかもタクシーでだよ、きっと私をおちょくっているだけだよね。そう思ったら、


「馬鹿か、今日は十九日の金曜日……亜衣音は終業式をサボるのだよな、俺は仕事なんだが?」

「ゥキョ~平日だと言う事を忘れていましたわ。」


 す、すみませんでした~。


 家の前を通る学生も見えなくなった朝、私は制服で移動するという学校の教育方針を無視して母の夏服に着替えた。それについて思わぬ言葉が私の耳に届いた。


「おや、その服は……。」


 祖母が驚いて私を見てくれたのだ。驚いた様子は祖母の背筋が伸びた事で判断ができる。


「はい、母の服です。丁度サイズも合うのですよ。」

「そうかえ、その服は私が沙霧さんへプレゼントしたワンピースですのよ。」

「え~そうなんだ。お婆ちゃんありがとう。」


「なんで娘ががお礼を言うんだい。でもね……。」


 祖母は目頭を押さえだした。私はハッキリと言った。


「お婆ちゃん一緒に行こう。そして母の思い出話しを聞きたい。」

「そう……だね、私もそんなには知らないよ。でもね、そうよね、いいよ。」

「わ~ありがとう。」

「しょうが無い。ワシも行くよ。」

「いっぱい飲めるからいいよね。」


 三人で旅行の準備を済ませた頃に父を駅まで送り届けたタクシーが戻ってきた。そしてまた催促のクラクションが鳴った。それを聞いて祖母は私を呼んだ。


「亜衣音さん、いいかしら。」

「はい、お母さま!」


(え”……。それって今は沙霧なの?) 祖母が驚く。


 私は思わず口を衝いて出てきた言葉に唖然とした。父の時もそうだった。これで何度目になるのだろうか。私には祖母の呼びかけが母の声のように聞こえた。だからだろうか。


 私は二階へ駆け上がって姿見に自分を映す。


 一人の女性としての祖母からの呼びかけに驚いただけかもしれない。初めて祖母から名前を呼ばれたのだから。きっと祖母も照れくさくて、今までは名前を呼べなかったとかするのかな、ねぇ天国のお母さん。


「違うよ亜衣音。」

「え”!……。」


 一瞬だが母の声が聞こえたような気がした。



 それからの祖母ときたら、階段下で私に叫んだのだ。


「亜衣音さ~ん、タクシーを待たせたら悪いわよ。」

「あ、は~い。直ぐに行きま~す。……キャッ!」


 私は階段から落ちた……父と一緒だ。どことなくうわずっていた。私は荷物を膝に抱えてタクシーに乗る。このバックにはまだ数着の母のい洋服が入っているからで、今では私の大切な母の思い出かな。


 お爺ちゃんは腕時計を見ながら呟く。『ちょっと遅れたかな。』と。


 タクシーは立川市へと急いだ。お爺ちゃんは、


「運ちゃん、其処の曲がりを『キキキー』と言わせて回れや。」

「んなこと出来まへん。」




 立川飛行場に着いた。米軍の戦闘機に混じって日本の戦闘機も駐機している。それにヘリコプターも数えたらどれ位が停まっていただろうか。


「え”ぇ、藍ちゃん??」


 藍の声が聞こえた気がしたが、直ぐに飛行機の騒音によってかき消された。だから藍の声かどうかは分らない。


 流石はお爺ちゃんか、搭乗は早く済んだ。


「亜衣音な。この飛行機には沙霧さんも乗った事があるんだぞ。」

「うん、お爺ちゃん。ウソよね!?」


「ウソなもんか。ワシの部下だったんだぞ。」

「アハハハ、鬼上司!」

「穣か! 今度しばいてやらねば。」

「うん、」


「あそこの席だったな。仲のいい姉妹だったよ。とても素直で眩しい位にはしゃいでいたのを思い出したよ。あの席に座るといい。ただしな~、ワシには二人の区別がつかなんだ。」

「ふふふ、可笑しい。でもお父さんは出来たらしいよ。」

「うぬぼれるな、あやつはアイコンタクトで教えて貰っていたのだ。えぇぃきっとそうに違いない。」


「それはどうかな~、両思いになるまえから区別出来ていたと言ってました!」


 私は父を弁護した。男とは歳をとると若い女性の区別が出来なくなるという。

(キャンディーズとピンクレディーの区別が付かない、元総理大臣の言葉だ!)


「ありえない。」

「だってお父さんは沙霧お母さん一筋でしたよ。」

「二人とも好きになったんだよ。きっとそうだ、美人さんだった。」


「あ、もしかして……お爺ちゃんが先に目を付けたんだ、そうよね!?」

「う~嫁に欲しかった……。」

「お爺ちゃんも?」

「いや、穣にだ、茶化すな!」

「ねぇねぇ、お母さまはどんなでした? あ、お爺ちゃんは命令してませんよね。隠れて母の写真をお父さんに見せていたとか……・・・。」


「うるさ~い、向こうへいけ!」


 私は元警視総監を手玉に取る、いや~あり得ないことなのだ。有ること無いこと適当に言葉を並べる事ができる私。とても男としては太刀打ちができない。これをおちょくると言うのだろうか。


 あ~私もあんな四人の女友達の事は言えないな~、有ること無いこと適当に言葉を並べるものね。きっとあの四人に鍛えられたのよね。


 私は祖母を誘って席を移動した。


「亜衣音さんはもうお爺ちゃんをタジタジにさせてから~、総理大臣さえもあの人を追い込む事は出来なかったのですよ。」

「え~私って偉いの?」

「そうでしょうね、妻の私でさえ敵いませんよ。」

「ふ~ん……。」


 私はお爺ちゃんを改めて見つめたのだった。


「ふ~ん私と同じで負けた振りなのかな。」


 ともと考えてみた。事実、お爺ちゃんは若い私に甘いんだよね?


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