第206部 幸せな……藍ちゃん
1975年5月6日 東京
*)そう……今は幸せな時間が続いている
そう言えば今年で五歳になる妹たちは幼稚園に通っていたんだ。そんな事聞いていないのですが……お母様!
当初は幼稚園に行かせる、危険だから行かせないと揉めてはいたね。それが私のお産の間に行かせる事に決まったとか。お爺ちゃん用の警備の人を送り迎えに同行させるんだとさ、良かったね我が妹たちよ!
幼稚園では双子が三組も入るからてんやわんやで、名前を特定出来る大きな名札を作ったとか。母屋の保育室は二番目の双子たちが元気に遊ばされている。勿論、夕陽と理沙も混じっているが、泣かされて送られて帰ってくるとはなんと情けない。泣かされても巫女の魔法は遣わないというのが、私たち親は感心しているんだよ。
ただね、マイケルだけには思いっきり飛ばして遊んでいるんだな。マイケルが丈夫で良かった。それに妹たちの登園風景が何だか眩しく見えるよ。
翌日になって藍ちゃんがお母さんを伴って自宅に出て来たのだ。ま~宿泊のお礼と今からお母さんを送っていくからと、挨拶に来たのよね、藍ちゃん。
「亜衣音ちゃん色々とありがとう。これから田所さんを駅まで送って行きます。」
「大家さん、三泊も許して頂きましてありがとうございます。」
暫くお別れの挨拶をしていたのだが、藍ちゃんは何か言いたそうにしてモジモジしていた。でも最後まで言い出せないようだった。私に遠慮なんかは要らないのにね、思いきって話してくれればいいのにな。母娘の問題だから私も口出しはしないと考えているからね。
「いいえ~藍ちゃんも喜ぶでしょうから、何時でもまた此処に寄って下さい。」
「それは是非ともお願いします。」
「じゃぁ行ってくるね。」
「は~い、」
「バイバイ。」x2
可愛い私の子供たちも挨拶している。まだ母屋へ行く時間ではなかったからね。九時過ぎには智子ちゃんが二人を迎えにきてくれる予定だ。急に私の待遇が良くなった気がするが……私だってマイケルズ”bikeの社長だ。益体も無いと言う修飾語が付くのが難点かな、エヘヘ・・・。
お産が済んで無駄に産院で時間を潰したからと家事にいそしむ。まだ身体を労る必要もあると言われたが、なに、若い十代の身体だ、平気だよ。自分で自分に歳をサバ読むには理由があるのね、自分を鼓舞するためだよ。あのキモいと思ったマイケルに突進した時の馬力を思い出す。今考えたらどうしてマイケルに靡いてしまったのか……一生の不覚だわ。二階の窓から外に空き缶を投げ捨てる。
「カ~ン!」
「ゴラ、痛いだろうが……。」
見事に命中した。サバの缶詰のサバ缶だ。マイケルのお酒の肴だから昼過ぎたら二人を智子に押しつけて買い物に行かねばならない。智子ちゃんは子守としてはまだ初日だから、首の据わらない赤ん坊を抱いていられるかが心配。
お母さんや澪お姉さん、それに明子さんや桜子お婆さまらは、買い物に出る時は必ずマイケルズ”bikeの前を通っていく。少し遠回りになるのだから変だと認識していたが、どうもマイケルを餌付けしている風なのだ。私が入院している時の習慣が定着したのだろうか。二階の窓枠に腰掛けて上から見ていてそう思った。
「これではお礼をしなくてはならないな。」
母は子供だからと思っているだろうが、澪お姉さんや杉田家にとっては子供服のお礼だとは私は考えきれていなかった。藍ちゃんの新作が見本として買わされるのだからね。今度から試供品扱いにして貰いたいな。
しかし、一度お母さんに声を掛けたナンパ野郎が、今では娘の夫だというのが許せる母は素晴らしいと思う。逆に考えたら何かを企んでいるのかな? ただ単に親バカなのかは疑問だ。
後ほど店に降りてみたら、それはマイケル用のお昼ご飯だと判明した。
「くそ~私の性格を丸読みしやがって、あんにゃろ~めが!」
「そう言うなよ。お陰で助かっていたんだぜ?」
「そ、そうよね、私の大事な旦那さまが餌付けされたとは、とても良かったわ。」
「まだ家事が出来ない亜衣音をだな、家族が労っているんだよ、有り難いよ。」
「うっ……そうです、ありがとうです。」
ここでマイケルはもっともらしい事を言っている、言っているのよ。家族が私を労るからいいのだと。言い換えると、それはマイケルが私を労る気はないのだと、そういう事らしいのよね。
「智子ちゃん、これで三人分の御弁当と子供たちのお昼になるものを買ってきてくれないかな。あ、あぁ、子供の分は先に母屋に届けてね。」
要は子供二人分の御弁当だ。親が各自で用意するのだとか、それはそうかと認識させられたよ。私の子供だけがスーパーの惣菜だとは可愛そうかしら。
私は入院中、今までマイケルの事は考えていなかった薄情な妻だった。これからは夫を立てて生きていくんだ。……出来るかな~それが問題だよね。放置、これからもそうなるだろう自分でも理解しているから。
二階の自宅だが一応は埃もなくて綺麗にしている。マイケルが掃除……? 笑える……いや違うよね、智子ちゃんがいつも掃除してくれていたのだと分った。
「俺、掃除した事はないぞ。」
「だったら智子ちゃんがしてくれたんだ。マイケルには掃除は出来ないか。」
「当りまえだ、俺を何だと思っている。」
「盆暗よ。智子ちゃんには家事の分もお給与として出さないといけないね。」
「ひで~な~、俺はボンクラかよ。」
「便り屋が来たぜ、北海道のお義母さんからだ。」
便り屋、今では言わない郵便配達の人のことだが、やはりマイケルは古い人間だと考えさせられた。麻美お義母さんからだと言うマイケル。
「へ~……ありがとう。なんだろうね。」
子馬の写真が出て来た。オリジナルのクロのひ孫が産まれたらしい、綺麗な毛並みが写された写真だった。
「マイケル、子馬が産まれたって、初代クロのひ孫らしいわ。」
「どれどれ……俺には馬刺しにしか見えな……、」
「バコ~ン!」
「私が悪かったわ、ごめんなさい。」
そう、馬を怖がり理解も出来ないマイケルに、写真を嬉々として見せた私が悪いのだ。こんな盆暗は嫌いよ、涙ながらに何回もマイケルを叩いた。
「亜~衣音、俺が悪かった、泣かないでくれ!」
「もう……馬鹿バカ馬鹿バカ・・・、」
「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~ウギャ~おんぎゃ~……。」x2
「わ~ごめんなさい、貴女たち言ったのじゃないからね、泣かなくていいのよ。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
「マイケル、もうバカな事は……、マイケル、何処よ。」
「俺は此処だよ、(この二人も)恐ろしいくらいだ。」
「へ~屋根に退避したなんて、も~怖がりなんだから。私はそこまで怖くはないからね、降りてらっしゃいよ。」
「降りて来られない、助けてくれないか。梯子が倉庫に在るから出してくれ。」
「智子ちゃんが帰って来てからでいいよね、……いいわよね。」
「はい~……待っています。」
この子らも既に風魔法を使えている。二人の内のどちらかが巫女の魔法を遣ったと言うマイケルだった。
「陽葵かな、」
「いいや凜かも知れないぞ。」
智子ちゃんがお使いから帰ってきた。
「先輩、私の分もありがとうございました。母屋の保育室はですね、お手製の御弁当は……、」
「はいはい、私だけですよね、スーパーの惣菜は!」
でも智子が言いたかったのは、誰もが同じ菓子パンだったとか!?
二人して娘の魔法詮議している姿を見ては笑っている智子だった。ご飯を吹き出さないでよね。「横目で見ているからね智子ちゃんを、」
私だって周囲は見ているのよ。お店の前で車が一台止まった。
「ここかよ、」
「おぉぉ、此処だ、やっと見つけたぜ。」
強面のお兄ちゃんたちがお店にやってきた。家族の団らんもここまでだ。智子ちゃんさ、怖いお兄ちゃんは大丈夫かな?
「いらっしゃいませ、あら~この間の・・・。」
いやいや大丈夫だった。もうすっかり営業スマイルをマスターしていたんだね、智子ちゃん。
あれから大地の姿は見ないし事件も起きていない、そう……今は幸せな時間が続いている。新しいニュースと言えば藍ちゃんかな、母娘の関係だと認めたらしいのよ。お祝いをしなくてはならないかな、シアハウスでね。
藍ちゃんは私たちに報告した。
「私、田所藍になりました。今後ともどうかよろしく。」
「わ~おめでとうございます。」x?
この場の全員が藍を祝福していた。それから簡単に経緯を話してくれてたが、私が途中で茶化して藍のお話を尻切れトンボにさせてしまった。だから藍は誘拐された子供とは誰も知らないで終わる。
「大家さん、ありがとうございました。」
「いいえ、母娘仲良くされてください。過去なんて他人が知る必要はありませんからね、おめでとうございます。」
「大家さん……、」
「大家とは呼ばなくていいですよ、亜衣音と呼んで下さい。」
「はい亜衣音さん。ところで私もこのシアハウスに住まわせて下さい。」
「はい~~~~~!?」
このシアハウスは私の眷属たちで、私を囲ませる為に建てたアパートだ。そこに何も知らない第三者を迎え入れるのは嫌だと思った。それでしどろもどろしている私に藍が助け船を出してくれた。
「お母さん、言いましたよね。ここはね若い女性しか利用出来ないからとね、だから~お母さんには別に家を建ててあげますと。」
「藍ちゃん、それがいいよ。そこで一緒に住めばいいのよね?」
「でもね~そんな出費は気の毒でとてもではないが……、」
家を建てるには五百万からかかる。目が飛び出す金額に思えるのも納得だ。
「お母さん。藍ちゃんにとっては会社の経費ですから大丈夫ですよ。」
「そうは……言ってもね~。」
「高い税金を払うよりもいいでしょう……ね?」
改めて明美さんは娘の顔を見た。そこにはニコニコとした可愛い愛娘が咲っているではないか、これ程嬉しい事はないはずよ。早くに咲き出した夏の朝顔のように咲う笑顔が素敵だった。咲うとはそう言う意味だよ、お母さん。
会社の実務が面倒だったらしい藍ちゃん。名前を変えなければ良かったとぼやいていたな。そんな藍ちゃんは私たちに秘密を作った。それは田所詩織と名前までも戻していたのだ。ソフィアが税理士さんから、田所詩織さんという名前を聞いたから疑問に思って私に話したから判った事だ。でもこれは藍ちゃんに何も言わないとソフィアと申し合わせをした。何れは全員の知る事にはなるのだが……。
会社の実印の作成に登記簿の変更、それに銀行口座の名前と印鑑の変更等、随分と費用が掛かったと言うではないか。でも五百万に対しては何も言わない。
「わぉ!……すんげぇ~豪邸・・・!」




