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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第十四章 亜衣音の幸せな……β世界線

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204/417

第204部 思わぬ展開……誘拐事件その2



 1975年5月3日 東京


 複雑な境地で雨宮藍は田所明美さんを伴って私の実家を訪問した。呼び鈴を押す事さえ失念していた、いやしっかりと動揺していたのだ。


「亜衣音ちゃ~ん、」


 私は藍の声を聞き逃さない。


「は~い……意外と早かったわね、さ、上がって。」

「うん、それとね会社の縫子さんだけれども、お手伝いにいいかな~と思って連れて来ちゃった。病院からの道すがらで会ったんだ、いいかな。」


 そう言いながら近所のスーパーで買い物をした袋を、軽く私の前に差し出してくれたのだ。


「ふ~ん、今晩の献立は~……まさかヒジキではないよね。」

「あったり~、直ぐに用意するから待っていて!」

「うん、凄く楽しみ。だって随分と藍ちゃんのお料理は食べていない、あ、先にあがって頂戴。」

「は~い、お邪魔しま~す。田所さんも靴脱いで。」

「田所です、今日は突然押しかけまして申し訳ありません。」


「ほら亜衣音ちゃん、田所さんの荷物を預かってよ。私はあんたの胃袋に押し込む荷物で手いっぱいなのよ。もう気がつかないんだから~しょうがないな~。」

「わ~ごめんなさい。田所さんですね、初めまして。」

「は、はい。初めまして。これ……お願いします。」


「どうぞ、」


 私はやや重たい手提げバックを受け取った。年期の入ったバックのようだ。何処もかしこも痛んでいるのが見て取れた。私は藍に話の続きを催促するのだ。


「お手伝いさせるのですか? 藍ちゃん。」

「うん、この方はミシンがとてもお上手なのよ。それよりもね手料理がとても上手という評判でね。お願いしちゃった。」

「あ~今日の藍ちゃんはきっと食べに入るつもりなんだ。お寿司が足りなくなるかも! これは大変。」

「やだ~食い意地はあんただけでしょうが、私を一緒にしないでくれる?」


「荷物、お戻し下さい。」

「あ、はい、とても素敵なカバンですね。」

「はい、随分と古ぼけていますが主人からの贈り物ですので大切にしています。」

「わ~そうですか、私もマイケルに催促しなくちゃ。どうぞこちらです。」

「ありがとうございます……。」


 藍は勝手に台所に行くから私はどうすべきか一瞬悩んだ。藍が指示しないという事はだ、私に振っていくのだと考えた。


「田所さん、私たちの家族は多いのですよ。驚かないで下さいね。」

「まぁ~お珍しい。大家族ですね。私は独りですので場違い来た感じで酔ってしまいます。」

「いいからいいから、すみに案内しますから遠慮は要りませんよ。」

「それよりも台所に……、」

「あ、そっちは藍にお任せですからいいのです。そうですね、子供たちの横に案内いたします。」


 私は田所さんが気兼ねしないよう子供たちの傍に連れて行くと言った。だがしかし実は違うのだ。ホロお婆さまの横に連れて行く。ホロお婆さまの横は智治お爺ちゃんだろうから、私のお尻でちょちょいと押せば直ぐに席があく。


「お爺ちゃん。ごめんなさい。」

「亜衣音ちゃ~ん、いつもなんだい。」

「うん、ホロお婆さまの横にこの方を据えたいのよ、お願い!」

「も~またですか。」

「そう、今日もです。ホロお婆さま……田所さんと言います、お願いよ。」

「あいあい、承知した。亜衣音は早くお膳を整えてやれ。」

「うん、直ぐ準備します。ディスマス、今日はお婆ちゃんなんだね。」

「うん、パパを取られた。」

「そっか、またヒグマだよね。」


 私が玄関に出た間に又してもカムイコロさんがマイケルの横に陣取っていた。私は恐ろしい巫女のマガンでヒグマを睨み付ける。効果は……なし。


「あの~すみません、お邪魔いたします。」

「ほれほれ遠慮は要らん。座れや。」

「はい、ありがとうございます。」


 私は智治お爺ちゃんの器を下げていく。それから戻って台拭きでささっと。んで新しいお皿と藍が作った小鉢とお箸を置いて下がる。


「これ、藍ちゃんが作ったものです。最初に食べてあげて下さい。」

「え!……はい、いの一番に頂きます。」


 これで私の推測が繋がったのだ。会社の縫子さんではないのだと。だったら何? 恐らくは警部さんが連れてきた人物で、藍ちゃんの知り合いかな、いいや家族だとしたら……、


「え”~・・・そんな、」

「うるさいぞ、亜衣音。」

「あ、ごめんなさい。つい大声をだしてしまいました。」

「どうかされましたか?」


「いえ、違います、そんなって……、」


 私はそれ以上口走る訳にはいかない。直ぐに退席した。藍ちゃんに確認したいのだけれども藪蛇だよね。


「藍ちゃん。最初に食べるように勧めてきたわ。」

「うんありがとう。次は藍ちゃんのヒジキね。」

「お肉……、」

「ヒジキ……。」


 確かにお鍋の中はヒジキだろう、ヒジキ特有の臭いがしている。藍はおもむろに茶色い何かの根野菜かな、指の大きさ位のものを取り出して摺り下ろしにかかる。


「亜衣音ちゃん、私の眼を塞いでくれないかな。」

「いいわよ、でも手元が狂わないかな。」

「大丈夫だよ、これから亜衣音ちゃんがさ、ワサビで狂うのだから。」

「え~嘘だ~い、」


「いや~藍のバカ!」

「亜衣音ちゃんのステーキ肉のタレにするのよ、きっと美味しいからさ。」

「お肉~……食べる、食べたい・・・。」


 出来たステーキ肉は一口ではワサビの味はなかった。ワサビのいい香りは漂ってくるのだが、二口目う~ん美味しいわ。三口目もお肉は軟らかで美味しい。四口、


「ロシアンステーキね!」

「ぎゃ~舌が痺れる~~~~・・・、」


 台所で藍と二人で食べたステーキ肉、この前は何時だったろうか。随分と月日が流れたようだ。


「亜衣音ちゃん、お願いがあるんだ、いいかな。」

「いいわよ、田所さんね。お部屋も余っているから使っていいわよ。」

「お布団も、お母さんにお願いしてよ。」

「あ、そっちね。勝手に持っていっていいわよ。酔い潰れているから無駄よ。」

「うん、ありがとう。」


 理沙がトコトコと私の傍に歩いてきた。何かなと思えば私の膝によじ登る。きっと寂しかったんだろうね。抱き上げてステーキ肉を食べさせる……が泣かない。


「理沙ちゃんは、七五三はするのかな。」

「あ~何も考えていないわ。今年が七五三になるのかな。」

「来年は四歳じゃないかしら?」

「もう四歳に? 何処かで時間設定が狂ったかな。」

「あんたの頭だからね、とうに狂っているわよ。」


 ディスマスとリサは1972年8月9日に産まれた。今は1975年5月3日だから……、


「ほら、理解出来たようね。明日にでも頭の中身を整理しなさいよ。」

「うわ~……ワイン頂戴。」

「ダメよ、お乳をあげるのよね?」

「そ、そうね。」


 私は1953年6月8日生だ。もうすぐ二十二歳か。


「亜衣音ちゃん。私ね、亜衣音ちゃんよりも一つ下だったみたい。何だか私もおかしくなりそうだわ。」

「え”……一つ下なの、どうしてよ。私もお母さんに尋ねてみる。」


「亜衣音ちゃんさ、自分の三歳の時って覚えているよね。どうかな。」

「そうね、私は親不孝者だったわ。実の母を毛嫌いにしていてね、それで麻美お義母さんのお世話になっていたわ。散々ね、お母さんを泣かせていたのは覚えているわね。」

「そうなんだ。私ね、幼児の時の記憶はないんだ、どうしてだろうね。七五三にも行ったらしいの、でも少しも覚えていなくて……あ、ごめんなさい。」


「いいわよ、今度の七五三は全員で行きましょうよね?」

「そうね、とても行ってみたいな。お母さんと。」

「藍ちゃんも私の子になるんだね、やだな~。」

「違います、なりません。」


「ウッ、アハハ……、」x2


「それと、シアハウスのお部屋は自由に使っていいわよ。田所さんと暫くは一緒に過ごしたいのでしょう?」

「え、嘘がばれていたんだ。少し亜衣音ちゃんは聡過ぎないかな。」

「だって巫女だものね。それ位は分るよ。」

「私も知ってるわ、亜衣音ちゃんは食い意地を張る巫女だってね。」

「ウッ、アハハ……、」x2


「おやおや、楽しい時に邪魔するよ。亜衣音、次がないんだがどうしたや?」

「いっけな~い、次のお料理を運ぶのを忘れた。」

「あんたはヒジキね、田所さんには筑前煮を用意したの。もういいかしらね。」

「どれどれワシが味見をしてやるよ。」

「お婆ちゃんはだめです。ここは藍ちゃんにお任せなんだからね。」

「もういいよ、ワシにも食わせろ。二人分を盛ってくれないか。」

「はい、どうぞ。」


「藍ちゃんさ、自分で持って行けば喜ぶんじゃないかな。ね~藍?」

「ほ、それがいい。藍すぐに持っていけ。」

「え、そ、そうね、私がお盆に載せて運びます。」


「ホロお婆ちゃん、私たちが田所さんと交代しようよ、それが早いわ。」

「ポン!……それがいい!」


 藍は一人台所に置いて私とホロお婆さまはお座敷に戻る。田所さんをお座敷から台所へと追い出した。後の事は知らないわ。


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