第201部 思わぬ再会……
1975年4月はサザエさんの放送開始、ベトナム戦争が終わった年。
1975年4月24日 東京
*)入院と……出産
二度目のお産は最初に比較して楽だという。産みの苦しみは男には分らない。とある男には声を大にして言いたいのよね……晃!
「亜衣音ちゃん産着は任せて! 男女区別なく着られるデザインにしているからね、安心して産みなさい。」
「うん、ありがとう。」
「ソフィア……持って来て頂戴。」
「どうです? 可愛いでしょう私が作りましたのよ。」
「わ~ありがとう、こんな可愛いのが着せられるなんて嬉しい!」
ソフィアの自信作だ。ピンクが女の子らしくて落ち着く。マイケルを呼んで理沙を連れてきてもらい、早速……着せにかかる。……嫌がりやがった。小さいなりにもこの服の意味が理解出来ているのだろうか。
「亜衣音ちゃん。小さくて着られないからだよ、ね~理沙ちゃん。」
「ママ、嫌い。」
「ギュワ~……。」
「アハハ……、」x2
「早く産め!」
「ソフィア、家事全般をお願いしてごめんなさいね。」
「いいえ~ご心配にはおよびません。」
「私がしていますのよ、この社長さまが……。」
「わ~ありがとう。」
ソフィアは板紙を切り刻んで子供服のデザインもしているらしい。これはソフィアがギリシアの生まれだからだ。日本には無いデザインが描けるのだと藍が教えてくれた。
今回も双子だ、出産予定日が遅れても予想の範疇だろう。そうだ! 家事もしなくていいのなら、さっさと入院しちまえ! と入院したのだ。
四月の誕生日は誰かいたかな……。家族全員の誕生日を決めたがいいのか。
二日後の夜、私は突然に産気づく。又しても我が子ながら産道を競争しているらしくて、お腹の中が騒がしい……痛くて堪らない。兄弟姉妹で同じ性格だと案外育児も楽かもしれないな。
「イテ~・・・、ぎゃー痛い~!」
夜だから家族は居ない……居た、用心棒のカムイコロさんを私は枕を投げて起こすのだった。枕は宙を飛んでいって当らない、ならばと**を投げつけて起こす事に成功する。
「ごら~花瓶を投げつけるとは、俺が何か悪い事でもしたと言う……?」
「~~~~~ぅ、痛い、呼んできて、」
「お、こりゃ~本物か、直ぐに救急車を呼んでくるからな。」
「ちが……ここは病院よ、せんせ~を早く、」
「あ、そうだったか、直ぐに呼んでくる。」
「ガチャン、ガキ、イテ、ば~ろうが~、」
どたどた……ドテっとしながら病室を出て廊下を走っていくカムイコロさんだ。何と言う迫力だった事か、ただ残念ながら廊下での様子はカムイコロさんの声で判断するしかない。何に躓いてコケたのかな。
直ぐに看護婦さんたちが集まる。血圧測定器や体温計を腕に脇に当てられた。意味は無いだろうにね。最後の看護婦さんが荷車を押して参上した。
「あんた、何を押してきたのよ。移動式寝台ベットが必要でしょうが!」
「あ、そうでした。いつも食事を運ぶだけですので間違えました。」
次に来た看護婦さんが移動式寝台ベットを運んできた。
「早く患者さんを移すわよ、……一、二の三、はい!」
私はフワリと身体が浮いた感触を味わう。いつもの事だと思うが今回は違う。安心感も湧いてきたのだから。
昨日の夕食とは別にお夜食まで食べて、元気にしていたのが嘘のように今は痛みで苦しんでいる。マイケルはまだ産まれないのか、と言いながら帰っていった。最愛の夕陽と理沙もバイバイという言葉を覚えてしまい、帰り際にはいつも何度も言っては私を咲わせてくれた。(咲う……少し違うが笑うに同じ。)
「おんりゃ~・・・!」
「黙らっしゃい!」
「すみません。」
「自分を鼓舞するのはいいのですが、他にも入院された方もお有りですのよ。で、昨日は二人が産まれていますのよ。」
「はい、すみません。そうですか二人もですか。」
これからは女の戦場だ、お化粧をしていないのが残念だとは苦しくて考える暇は無かった。
廊下を長く押されたような時間感覚に陥る。分娩室は直ぐ隣の筈だが違ったか。一階下の部屋の隣室だった。エレベーターに乗ったので違うのだと分ったくらいだ。
ゆっくりと動くエレベーターは大きな機械音がしている。落ちる心配が無い、あの歯車仕掛けのエレベーターだ。動き出す時と止まる時に味わう異様な感触が無いからいい。どうしてこんな古いエレベーターなのだろうか。
荷物扱いだとは気づかなかったのだ。当初は什器備品を階上へあげる荷物用のエレベーターを、病院を増築された時に人用に改造されて大きくされたらしい。だって病院の隅に在ったエレベーターが今では病院の中央に鎮座しているからだろう。
直ぐに分娩室に送り込まれて沢山の看護婦が見守るなか、分娩台に安置される。安置……確かに婦長がそう言ったようだ。私は仏像ましてや遺体でもないからね。この婦長、元は総合病院に勤めていて死人を沢山看取ってきたの? やだよ。
「婦長、前の病院の癖がまだ治りませんか?」
「あ!……そうでしたわ。」
(う~……もう私をバカにして、怒るわよ。)
「あらあら、もう破水しているわね、先生を呼んできて頂戴。」
「はい直ぐに~。」
若い看護婦さんがタタタッと大きな足音を残して走り去る。で、ぶつかる。
「キャッ!」
「あ、すまないね。」
……1975年4月26日、ピンクムーンと言われる満月の日の朝方になって、可愛い双子が産まれた。予定通りの女の子だった。産着もピンクなのは偶然だろうか。これはソフィアに感謝しないといけないな。
日付が変わって分娩室に送り込まれたから大凡が六時間もの長丁場だったのか。我ながら頑張ったものだ、元気な泣き声が聞こえてきた。それに続いて二人目の元気な泣き声も加わり合唱へと変わっていく。うん嬉しいよ~私の赤ちゃん。
「もう少しよ、はい力んで!」
「おんりゃ~・・・!」
「産まれたわよ、亜衣音ちゃん。」
「うん、ありがとうございます。」
「よく、頑張ったわね。」
「はい、……マイケルは何処ですか?」
「……。」
「お母さんは、」
「……。」
「でしたら藍やソフィアは?」
「……。」
「カムイコロさんを呼んで!」
「亜衣音~すまない、今すぐに家に連絡するよ。」
カムイコロさんが居るからと病院の職員さんたちは、誰も自宅へ連絡する事に気づいていなかった。
誰も恨むでは無し、可愛い二人を左右に抱かされて私は顔の汗を拭いて貰う。家族が居ない幸先の悪い出足になった。う~ん、ピンクの産着が可愛いな~。
「このピンクの産着はとても可愛くていいですね、昨日にお産まれになった女児たちにはレモンイエローでしたわ。」
昨日の出産を担当した看護婦が産着を取り違えた、運命が変わった……。
*)思わぬ再会……
カムイコロさんは家まで帰って呼びに行くとか、バカ熊か!
今日は26日の土曜日だから早起きする家族はいないのだ。だから家族が来るのに時間がかかる。そう思っていた矢先に看護婦さんが夫を連れて来た。
「亜衣音ちゃん、旦那さんが見えましたよ。」
「え、早かったですね。」
「はい、どうぞ!」
「亜衣音……元気だったか、心配していたぞ。俺の子でないのが残念だがおめでとうと言わせて貰おうか。」
「あ!……そ、そんな、……大地なの?」
そこには色黒で精悍な顔立ちの男が立っていた。随分と長い間会っていないので顔の変貌に大地だと認識するのに少し時間が掛かった。
「あぁ俺だ分るのか。随分と顔も変わって分らないと考えていたがね。」
「うん少し驚いたわよ。元気そうでなによりだわ。」
「見舞いに来たんだぜ、有り難く思えよな。」
「うんありがとう。でもどうしてなの?」
「そりゃ~そうだよ、逐次見張っていたからね、何でも知っているよ。」
「そ、そんな、あり得ないわ。だって私の周りには警察だって常駐しているわ。それにマイケルにもカムイコロさんにも、いつも注意して周りを見てくれる様頼んでいたのに。」
「バカにするなよ、俺だって大きく成長したさ。」
「そ、そうなんだね。あ、ひかるちゃんと亜利沙ちゃんは元気なのかな。」
「あぁ勿論さ元気にしているよ。でも亜衣音の姿を見たときは驚いたぜ、死んだと聞かされていたからね。よく生きて戻れたものだ。」
「そうね、ギリシアでは確かにひかるから殺されたはずなのよ、その記憶は残っているもの。でもね、どうしてか平行世界に移って生き返ったみたいなんだ。」
「あ~あれね、親父殿も言っていたが信じられない、平行世界だなんてな。」
私は一抹の不安が過ぎる。半泣き状態で大地に懇願した。
「そうよね、……いや、子供たちを連れていかないでお願いよ。私の家族よ、もう母みたいな残酷な事はやめて頂戴!」
「お前、頭いいな。だがもう遅い二人は頂いて帰る。ひかるともう一人が二人の赤ん坊を抱いて出て行った頃か、俺もあのデカ物が来る前に退散するよ。あ、どうしてお前が男を産んだんだ。ギリシア辺りで攫って来たのだろう?」
「ディスマスは私の息子です、あり得ない奇跡が起きたのです。ま、まさか夕陽と理沙にも手を出したの? いや、やめてよね、お願いよ、お願いします。」
嗤う大地に私は半分泣きながら子らに手を出さないように懇願した。母のような二の舞はゴメンだ。それに私も捕まって血を抜かれた事も頭を過ぎっていた。
「まさか、もう二人を連れ出したのかしら?」
「そうさ俺もこれで帰るが悪く思うなよ。」
「大地、大地がいったいどうしてこんな酷い事が出来るようになったのよ、どんな心境の変化が起きたのよ、ねぇ大地、正気に戻って頂戴。」
「俺は真面さ、すまないとは思うが親父の命令なんだ、これで失礼する。」
「いや、大地、二人を連れていかないで、お願いよ。」
「外を見てみろ、黄色い産着が二つ見えるだろう。それにひかるは手を振っている方だが元気そうだろう。」
「ひかる~……お願い、二人を連れて行かないで……ひかる~……お願い、」
最後は消え入るような声しか出なかった。べそ掻いて半泣きから泣き声に変わる。涙はそれ程は出ていないが、鼻水が恐ろしい程流れてきた。
「バカ大地、私は今でも大地を愛しています。」
「……、」
「大地、今まで大地の事は忘れた事はないのよ。大地お願いよ二人を返してよ。」
「俺……だって亜衣音の事が好きだ。でもな、もう遅いよ。すまない時間切れだ。直ぐに引き上げる。」
「そんな~大地……わ~ん私の、私の子供たちが……返して~、」
大地は申し訳ないような、悲しい顔をして部屋から出て行った。私は追いかける事も出来ずにただ泣くことしか出来なかった。
陽葵と凛が攫われてしまった。




