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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第一部 第一章 亜衣音の生い立ち

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第2部 不思議な事件……コロポックル

 垣根の上を飛ぶ女という意味は、魔法使い(カニングクラフト)です。ウイッチクラフト=悪魔的妖術使いではありません。

(カニングクラフト=賢者のわざ)


人狼夫婦と妖精 ツインズの旅、 第6部 垣根の上を飛ぶ女 を参照して下さい。



 1956年6月8日(昭和31年)北海道・苫小牧


*)亜依音……私の誕生日


 六月八日の金曜日。白鳥一家は瀬戸家の隣に新築・引っ越しをした。殆どの家財道具は明日から搬入する予定なので、今日は全員で私の誕生祝いと新築の記念祝いを兼ねてのパーティーだ。智治お爺ちゃんも招待されている。


 それ以外にも大きな理由があってそれは、明さんが騎士を引退して瀬戸牧場を正式に継いだのだった。でも騎士を引退したのは二ヶ月くらい前だったのでここでは取り立てて騒がれてはいない。これだから男は存在感がないのだろう残念だ。



 今日は私の三歳の誕生日で、私に内緒にされてきた仔馬がいる。そう、あのクロの三代目になる黒い牝の仔馬だ。名前はまだ無い、私に付けてもらう予定であるとか。この仔馬は生後六週ほどになるという。


 それもこれも私の為にであるが、白鳥家の子供の三人も新しい大きな家になって喜んでいる。私とホロお婆さまは麻美お母さんの実家の瀬戸家に引っ越しをした。子供たちに遠慮しての判断だった。


 瀬戸家も老夫婦の二人だけで部屋も余っているし、麻美お母さんにしたら家も横であるから不便でもない。逆に両親の面倒も見られるし牧場の手伝いも出来るのだった。


 両親はとても喜んでいて、麻美お母さんの夫の明さんも今では騎士を引退して瀬戸家の牧場を継ぐという。本当にめでたいと言っていいだろう。


 夕食は外での焼肉パーティーで祝いの言葉を述べてから、


「さ、亜依音には素敵なプレゼントを贈るとしようか。」


 ホロお婆さまがそう言って厩舎に歩いて行き、そして子共の馬が引かれてきた。ホロお婆さまは私に、


「亜依音ちゃん、この仔馬はクロの三代目だよ可愛がっておやりね!」

「わー嬉しい。ね! ね! 名前は?」

「まだ無いよ。亜依音ちゃんが付けてやってね!」

「ホンと? ………う~ん、なににしようか………な~。」



 智治お爺ちゃんは、


「亜依音! 良かったね大事にするんだよ。」

「うん大事にする。やっぱり………クロがいい!」

 

 私は夕食を放り出してクロに駆け寄るも、クロは驚いて逃げ出した。残った家族は全員でお腹を抱えて……笑い過ぎてはいないよね、ね~ってば。


「クロ! 戻っておいで、クロ~。」


 私はは叫んでクロを追いかけた。


「クロ! 戻っておいで~。髪black!」

「ブヒ! ヒヒン? ン!」


 全身が黒い馬で髪も当然の黒だが………。冗談が通じたかクロは立ち止まりゆっくりと私に歩み寄ってきてくれた。(髪black!はうそです)


「クロ! 掴まえた!」



 過去のお話し。


 初代のクロはシベリアから連れられて来た。麻美お母さんが面倒を見たから逃げ出す事は無かったが、たびたび巫女が呼び出すものだからその都度捜索されていた。


 これが脱走でなく召喚だという事が分ったのはクロの手綱に手紙が縫い込まれていたからであって、これで麻美お母さんは桜子お婆さまたちがまだ戦っているのだと知らされた。


 クロを登録して競馬で走らせると必ず優勝するのだが、時々雲隠れするものだから予定が立たずに種馬にされてしまう。仔馬は直ぐに生まれなくて四年後に初産となった。


 二代目は順調に優勝を勝ち取っていた。出産させる為にと引退させてこの仔馬は三頭目になる。この子は走らせるではなく予備の馬として育てられる予定なのだが、そうは問屋が卸してくれないのだ。


 だからいつもこの牧場にいるし、世話係は当然だろうが私だ。


 学校へ行くまでは本当に一日中過ごすのであって、小学校に上がれば帰宅後は全部がクロと過ごす時間となった。真冬はとある事情で別だが………。



 私は毎日クロを走らせた。競走馬との練習でも遅れるどころか速く走るのだから競走馬としての才能は秀でている。


 私も馬と同じく日焼けで肌が黒くなっていると思ったが色白のままだ。それから私に変化が出てきたのは大凡その二年後で、私は少しずつだが風魔法が使えるようになっていた。最初は誰も気が付かないので二年後というのも当てにはならないか。



 とても高い柵を飛び越えるようになってきた。柵を飛び越える時には付近の草が風でなびくし、もし、近くに物があれば飛んで行く。近年に柵が緩んだり傷んでいたのはこの所為だったのだ。


 風は馬のクロではなくて私が無意識に起こしているようなのだ。


「クロ! 高く飛べるね! 気持ちいい!」


「ほんと……桜子の気持ちが良く分かったわ!」


 これは先々の私が九歳になった時の、麻美お母さんの深~い溜息だ。何せ暴れ馬みたいな娘も含め、それも四人も育て上げたのだから。


 何処からともなく声が聞こえる。


「私たちは違うよね、」x3




 1958年7月5日(昭和33年)北海道・苫小牧



*)コロポックル


 私は五歳になった。もう身体も大きくなっているので家族は私独りででも遠出を許したし、もう自由奔放でとにかく目につく所には居ないのだ。


 牧場の柵の外になるが、クロ専用の高い障害物の丈夫な柵が造られた。この柵を毎日飛び越えてはどこかへ消えてしまう。三つの柵の高さは違えてあり、今は二つ目に高い柵を飛び越えている。一番高い柵に私は挑戦するがクロは拒否している。


 クロは跳べないのか、私の落馬を心配して跳ばないのかは不明だ。私は後者だと言い張った。


 私には風使いの自覚が無い。だからクロが判断していると思われた。


 七月五日は十七度と寒い雨の日となっていたのだが、私とクロにとってはお天気や気温は関係が無い。気が向くままに何処へでも行った。


 今日は支笏湖だ。


 ここ最近、コロポックルの噂が囁かれる事が多くなている。


 牧場と言わずに森でも畑地でも見られるという。目撃されるのは決まって雨の日だったりするのだ。


***********************************************************


 アキタブキというとても大きくなる蕗がある。エゾブキ、オオブキの別名があるのだが、北海道ではラワンブキと呼ばれている。高さが2~3mに達し茎の直径が十センチにもなる、とても大きい野菜なのだ。昔は高さが4mにも達したというから家の二階の床以上の高さになる。


 コロポックルという民族はアイヌ人の以前から北海道に住んでいて、日本人の先住民族という定説になっている。


 アイヌ人の伝承に登場する小人であるが、コロポックルはアイヌ語で、「蕗の葉の下の人」という意味である。ラワンブキの葉は大きく、大人ひとりが傘の代りに使用する事が出来る。


 十勝地方に残る伝説に、アイヌに迫害されたためにコロボックルは今まで暮らしてきた土地を捨てて北に逃げた。それも、呪いの言葉を残していったという。


 十勝の地名の由来となった「トカップチ」だ。(水は枯れろ、魚は腐れの意)


 和人(今の日本人)からの迫害を受けて北に移住していくアイヌ人。そのアイヌ人に迫害を受けて、さらに北へ移住していくコロポックル。行きつく先はアメリカ大陸だったりする。今でも日本語とアメリカの原住民の言葉が似ているのはそういう理由だと推測している。


 円盤の街に住んでいるノエルが、このラワンブキの葉を傘の代りにして、向日葵の畑を走っているシーンがエンディングで見られる。


************************************************************


 コロポックルがラワンブキの葉を持って、いろんな場所で目撃されるという噂であるが本当らしい。村でも街でも噂が多く囁かれるようになっていた。


その一・

 支笏湖の湖畔でも数回の目撃情報がある。

その二・

 沢へ渓流釣りに来た人がたびたび目撃した。

その三・

 苫小牧の牧場近くが一番多く目撃される。

その四・

 十勝岳の山麓の林でも多いという。

その五・

 近くで黒くて大きな馬を見かける。


 私は小さい身体ででも奇妙に? 大きい黒い馬を乗りこなしている。白鳥夫妻(今現在の養父母・両親だ)も脱帽する程の腕前で高い柵でも軽く飛び越えてしまう。



「クロ、今日はどこへ行こうか。西の湖がいいかな。」

「ブヒヒヒンン!」


 西の湖は支笏湖になる。畑のあぜ道を走り林の白樺しらかんばを抜けて走ればすぐに着いた。


「ブヒヒヒンン!」

「クロ! 今日はラモップ山に登ろうね。」

「わ~水がキラキラと光って綺麗だよ~、ねぇクロ!」

「ブヒヒヒンン!」

「クロ、虹が綺麗だよ。湖の上全部が虹だよ、すごいね!」


 支笏湖はとても水が綺麗でボート(カヤック)で釣りに出れば、それはもうまるで空をボートに乗って飛んでいるようにも見える。


「水が綺麗なんだね! あれ? 水面みなもが白くなっている?」


 そう見えた瞬間に大粒の雨が落ちてきた。


「きゃ~、クロ! 雨だよ、雨宿りが出来る所はないかな。」

「クロ! 何を持って来たの? その葉っぱを食べたいの?」

「ブヒヒヒンン!」

「クロ、それは何なの?」

「ブヒヒヒンン!」

「あ、傘になるんだね。ありがとうクロ……降りて使うね。」


 私はラワンブキの葉を傘代わりにして歩いた。時々飛び跳ねたりもした。私の身体は小さいからラワンブキの葉一枚で十分に身体を覆い隠せる。


 コロポックルの噂がたった瞬間である。


「さ、雨が上がったよ。クロ、お家までお願いね!」

「ブヒヒヒンン!」


 私の背中のリュックはコロポックルを形容した形だった。時には雪だるま? もあった。麻美お母さんとホロお婆ちゃんの手作りで二つともとても可愛いのだ。




 1958年7月10日(昭和33年)北海道・十勝岳の山麓



「おじちゃ~ん、お魚が釣れるの?」

「おやおや、こげな山の中までなんばしょるな?」

「うん、クロとお散歩なの。」

「そうかい、嬢ちゃん一人かい?」

「うん。」

「そりゃあぶなかばい! ここは熊も出るしな。はよう帰りんしゃい。」

「うんそうする。でも、まだ先に行ってからね!」


 私は釣り人のお爺さんにそう言ってクロに跨って行ってしまう。


 今日もお天気は良くなくてまたしても雨が降ってきた。この川の沢地には沢山のラワンブキが自生している。


「クロ! また持って来て。」

「ブヒヒヒンン!」

「うんありがとう。もう帰ろうか。」


 私はクロに乗ったままラワンブキの葉を頭からかぶった。


「わ! コロポックルが居る。これは大変だ、珍しか。」


 釣り人はラワンブキの葉が沢沿いに動いているのを目撃した。当然この事はお爺さんが村に下りてから目撃情報として話して回った。


「俺も先月の……?日に見ただよ。じんべえ爺さんも見たと言うてましたわ!」

「そげなかこつ、多かとな!」

「はいです。あすこら辺はあの大きい蕗があばかん自生しちょるけんね!」



 麻美お母さんの牧場近くでも度々目撃された。


 ホロお婆ちゃんは私がラワンブキの葉を傘にして帰って来るのを見つけて、


「ほんと亜依音は懲りないね~。こんなに噂されるなんてねぇ~。」

「ブヒヒヒンン!」

「お婆ちゃん~ただいま~。」

「はいお帰り、今日は雨だったね。濡れたがよ、はよう家に上がりなされ。」

「うん大丈夫だよ。クロがね、大きな葉っぱを持ってきてくれるの。だからね雨でも平気だよ!」

「おうおう、可愛いコロポックルが居るもんだね。」


「コロポックル?」

「ブヒヒヒンン!」「ブヒヒヒンン!」

「そうかい、クロもそう思うんだね? 明日も仲よく遊んでおくれよ。」

 

「ブヒヒヒンン!」

「ブヒヒヒンン!」


 そう啼きながらクロはラワンブキの葉を食べていた。口の回りは蕗のアクで真っ黒になるがどのみち判断はできない。


「クロ! 歯が真っ黒だよ?」 


 もうすぐ雪の季節になる。



 コロポックルは検索してみて下さい、面白いと思います。

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