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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第十四章 亜衣音の幸せな……β世界線

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第198部 あれから……


 1973年2月18日 東京


*)同居人……藍から……雑多へ?


 今日も夜の帳が下りる。マイケルは寒さに耐えながら閉店の準備に忙しい。もう直ぐ風呂に入って酒が飲めると考えているに違いなかった。


「亜衣音、ロシナンテのほだを張ってくれないか。」

「は~い、……絆ってなぁに?」

「クロが来ているだろうが、そのロープなんだがほだと言うのだろう?」

「このクロを繋ぐロープが……ほだなの? この荒縄は干し草のご飯と同じよ。」

「そうだ、知らないのか。ご飯ってなんだ……ロシナンテが食べてしまうのか?」

「知らな~い。今では人との繋がりを絆と言うんだよ。マイケル、あんた!」

「そうか、随分と年月が流れたんだな。」


 昨日から徹兄さんが帰ってきている。どうしてか馬を運搬するトラックで愛馬のクロも運んで来たのだった。その理由が私が会いたがっているから、というのだ。そりゃ~そうだよ。会いたいよ、それに乗馬もしたいしね。


「クロ、明日にはまた遠くへ行くんだね。」

「付いて行きたいだろうな。」

「うん、行きたい。二人を頼めるかな。」

「ば~か、行けるものか。」

「ブヒ!」

「ワッ!……驚かすなよ。少し苦手だな~。」

「マイケルが怖がるからクロが面白がっているだけだからね。可愛い私のクロ、今度馬事公苑に戻ったら遊ぼうね!」

「ブヒヒ~ン!!」


 マイケルの愛バイクを横に押しやって、今ではクロがお店の中央で寝る。これが面白くないマイケルと面白がる二人のやんちゃが可愛い!!


 絆す=ほだす、馬を繋ぎ止める荒縄という意味だ。この言葉を普通に使うマイケルが長生きしている、生きた化石というのだろう。いや既にご先祖様の年齢だよ。


「ブヒ!」

「ワッ!……驚かすなよ。」

「ガッチャ~ン!」


 私じゃないよマイケルがヘマしただけよ。



「お疲れ様、」

「おう、……今日は客が少なかったな。お陰で寒い思いをしたよ。」


 お客さんがいたら達磨ストーブの横に来て話せるからだ。で、お客さんがいないと、店先で、店内で、バイクを磨く作業をしなくてはならないからね。マイケルは休むという事を知らない、働き者だ。



「そうね、クロが睨みを利かせていたからだね、大きい馬だし人は怖いと思うからだよね。」

「俺だって怖いよ。これがお前の馬だとはね~信じられんわい。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2

「あら~ありがとう。明日も朝からお馬さんに乗ろうね!」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2


「さ、お風呂入りましょうね~。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2



 そ、ここ最近に変化が起きたんだ。藍ちゃんがうちに転がり込んで来たのよね。有り難や~……。そういう訳で本家に行かずに自宅で食事をするようになった。ただし、お母さんからは大いに文句を言われた。だって炊事するのが自分になって大変よ~、と。


 で、私は反論する。いつも藍ちゃんの帰宅は遅いよね、それにソフィアが居るからいいよね……って。ただギリシアの産まれだから日本の料理方法には慣れなくて役に立たないらしい。使えないのだとか、可愛い女の子なのにね失礼しちゃう。


 藍ちゃんはお金回りが良くなったようで、縫子さんを雇ったというのよね。拙い碧と翠を雇う以上に働くのだとか。ただし、四十歳ほどのご婦人たちだけれどもね。なんたってミシンがとても上手だとか。そう言う意味で藍ちゃんも縫い子の作業をクビになったと自分で自虐ネタとして笑っていた。


 私はとても良い大家さんだから、十時と十五時にはコーヒーとお菓子を差し入れしているのよ。工房の皆さんはとても喜んでくれている。理由はいつも藍が居るからだとか。きっと社長が一緒だと作業の手を休める事が出来ないんだよね。


 でも今はその藍ちゃんも分っているようで、私の家に遊びに来ていた。コーヒーを薬缶で配達するって、何だかアメリカ的な趣があるかも。



 社長自らの縫い子をしていたら儲からないだろうね。社長は営業あるのみよね? 藍ちゃん。


「は~い、呼んだ~?」

「うん、二人をお風呂に入れたいのよ。ついては、」

「任せて頂戴、大きい子供と小さい子供の三人を面倒見るわよ。」


 マイケルには肴とお酒を出して、それから夕陽と理沙をお風呂から上げてくれるのよ。有り難や~。


 マイケルは烏の行水で入浴時間がとても短い。そんなマイケルに子供のお風呂に付き合わせたらきっとお風呂場でのぼせてしまいそう。それにだ、身体の隅々まで洗うことはないやや不潔だよ。多分汗臭くはないから洗っているよね?……マイク。


 マイケルは忙しそうにしている藍ちゃんを眺めてお酒を飲む。藍ちゃんと子供たちの様子を見てなごんでいるのだよね。


 私がお風呂を上がれば四人でお酒を飲む。母屋みたいに騒がしくないから落ち着くんだな。他に利点としてはカムイコロさんからマイケルを奪われなくなった事かな。妹たちの顔が見られないのは少し寂しいかも!


 藍ちゃんは年末に比べて顔色が良くなった。こんを詰める、働き過ぎで疲れていたのよ。帰りは何時もが二十二時だったりしていた。今では十八時過ぎに家に来て料理を作って自由に過ごしている。工房は九時から十八時までが就業時間と決まったんだって。家内事業が人を採用した事によって、普通の会社の体を作ったのかな。


 私があのバイクの売り上げ全部を藍ちゃんに貸したのが良かったみたいだ。その見返りが藍ちゃんの炊事の奉仕だったりして、でもちゃんと利息は頂きます。その逆は考えていなかったのよ、そう……後日になって藍ちゃんから奪われるのだ。



「亜衣音、ビールを入れるぞ。」

「うん頂戴。藍ちゃんは何がいいかな。」

「マイケルさんと同じお酒でいいわよ、さっきから二人で飲んでいるからね。」

「え~やだ、マイケルは私のよ、藍ちゃんには貸さない。」

「いいでしょう? 二人の面倒も見ているから、ね?」

「ウフフフ……冗談よ。こんな亭主の籍も無いのだから今のうちに自由に使っていいわ。お安くしておきます。」

「おいおい亜衣音さん。そりゃ~あんまりだよ。」

「ふん、早く五年を過ぎなさい。命令よ。」

「出来ない、バ~カ、もうあの事を思い出すから黙ってろ!」

「はいはい……ごめんなさい。」


 マイケルが怖い目つきをしたので、つい謝ってしまった。あれから五ヶ月にはなるのだが今でも根に持っている様子。


 私はご機嫌斜めになったマイケルを避ける為に藍ちゃんに話を振る。


「ねぇ藍ちゃん。さっきマイケルは私にロシナンテとかなんとか言っていたんだよね、意味は分るかな。」

「……? 多分だけれどもね、ドンキ・ホーテの愛馬じゃなかったかな、違ったらごめんなさい。(ウプッ!)」

「あ~なるほど……ドンキーの愛馬なんだ。いいこと聞いたな。」

「あ! ドンキー……ねぇ、言いえてとても良い名前だわ!」

(亜衣音ちゃんロシナンテとはね、ドンキーという意味なんだよ。)


 この時藍からはこれ以上の説明を受けなかった私。藍としたら食卓が嵐になるからと説明を端折っていたのだ。私がドンキーと言って一瞬びくついたという藍。


 私の話題が順調に逸れたから喜ぶ藍、それに対してマイケルは私に、してやったと言わんばかりの笑顔を藍ちゃんに披露していたらしい。あの時にマイケルが笑い転げた意味が理解出来ていなかったんだよね、悔しいわ~。


「藍ちゃん大学には行ってないのよね、学業を疎かにするのはよくないわ。」

「そ、そうね、従業員も入れたからそろそろ戻ろうかしら。」


 藍ちゃんの仕事としては年末から一月までが書き入れ時なのだから、もう十分に休めるはずよね。世の子供たちのお年玉は二月になれば無くなっていてもいい頃だ。


 実家の両親ときたら孫に百円を渡していたが、私にはだよ、逆に母からお金の無心を頼まれる有り様なのだから、


「私、やっと二十歳になるのよ。未成年にお金を要求するとは何なのよ。」

「アハハ……、」


 と、照れ笑いする母。父はやはり男の沽券に関わるというから何も言わない。大したプライドではないと言いたいが、これを言ったら私の方がお終いになる。


 哀れな両親にはマイケルがこそっと裏金を渡していた。流石に今までの半年間にお世話になった食費としての費用と、宿泊費? の名目なのかもしれない。


 今の土地を両親から借りずに隣家から購入したのが良い結果と判断された。もし両親の土地に家や工房を建てたとしたら、毎月にどれ程の土地使用料を請求されたことか……鬼母!


 この家が貧乏になったのは私の所為でもあるのだが、私を産んだのは両親。だからと全部が全部私の所為ではないよね。


 水脈と小百合の古着が一着も私の子らには下りてこない。自分で買いなさいという意味だからこれが普通であろう。


 そんな愚痴を藍ちゃんに話したら……もの凄い悪魔が誕生した。


「亜衣音ちゃん、私の工房で子供たちの服を作らせるからさ、材料費は頂戴よ。」

「うん、いいわよ。沢山作ってね。」


 沢山、このひと言は余計だったか、毎月沢山のベビー服を藍が持ってきた。


「今月の材料費よ、」

「うっ……十万円!」

「そうよ、試作品は全部持ってきているからね。いいわね?」


 藍ちゃんが試作品と言うのがミソだろう。


 今はもう二人に多過ぎよ、三十着はあるようで妹たちに分けている有り様だ。澪お姉さんは大いに喜び、お母さんは仕方ないな~という顔をしながら喜んで受け取っている。



 誕生した悪魔が更に言うのだ。


「今度はね、上の妹たちの子供服を作ったのよ。どうかしら。」


 そう言いながら藍ちゃんが、可愛いフリルの付いた女の子の服を十着は持ってきて私に披露した。これは新しい商売の試作品にも関わらず私に持ってくる意味は、これも買い取れと言うことか。


 藍は私の母の呼び方が「お母さん。」なのだから、その娘たちには妹と呼び可愛がるのだ。藍はもう私の姉妹でお母さんの娘みたいな感じがしてきたな。


「ま~可愛い、この子供服は妹たちにぴったりよ!……可愛いな~。」


 あ~墓穴を掘る私だ。こんな会話をバイクを弄りながら聞いているマイケルはさぞかし私が滑稽に見えた事だろう。


 マイケルズ”bikeの一角に、「アイズ”コレクション」という子供服のコーナーが出来た、出来てしまった。所謂、アンテナショップにされたようだ。


 バイクのお客さんに混じって洋服関係の客が来るようになった。レディース衣装やベビー服販売のオーナーたちだ。


 藍の工房も書き入れ時が済んでおばさんたちも暇になったらしく、子供服の制作に割り振られたそうで、今では色々な子供服が作られるようになった。


 仕事が面白いらしくて、私は気になっていた事を質問したんだ。


「藍ちゃん。大学は辞めたの?」

「ううん留年になるけど最後まで行くわよ。」


 と、言うのである。留年する意味がだよ、ここまで大きな個人商店では納税が半端なく多くなるからと税理士さんから進言を受けたらしい……株式会社を設立しなさいとね。だから大学は二の次にしたらしい。


「亜衣音ちゃんさ、会社を起こすから役員になってよ。八百万は株式に振り替えたからね、ありがとう。」


 藍による藍の為の、私の借金を踏み倒しだ。酷い女社長が誕生したのだ。これは子供たちが大きくなっての大きな意味を持つ。藍社長が誕生していなければ私の妹たちの命は無かった。勿論、私の二人もだろうか。


 そんなこんなで私の家に転がり込んできた藍ちゃん。今では女社長になってしまった八月である。それから半年が過ぎた。藍ちゃんの三月の申告で三百万ほどが国に上納された。勿論お財布亜衣音ちゃん。藍から百万を借りたばかりに私は藍に八百万ものお金を取られた形になった。それもだよ、これが出来るのもマイケルが沢山のバイクを売ってくれたお陰よね、ありがとうございますマイケルさま。


 藍の会社も順調で、株式会社にしてからの最初の八月がきた。決算になるのだ。それが今では納税の金額を税理士さんから聞いても涼しい顔をしていた。


 私の五百万を返せ~……。更に一年が過ぎた。


 私の家は無くなった……。藍ちゃんが買い取ってしまった。都合……八百万、この数字は記憶が残っているな~。


 一階が着せ替え人形の展示場と、人形に混じってマイケルのバイクが並んでいる。これが何とも違和感もないくて、上手い具合にマッチして売り上げも好調だ。二階は子供服関係の展示場兼販売で大いに賑わう。ここに碧と翠が卒業を待たずに就職した。ソフィアも日本語学校を卒業して今では子供服の営業として回っている。


 蒼い眼の綺麗な外国人として注目を浴びているのだった。


「社長を選び放題よ!」


 いくらなんでも枕営業はしていないと思う。だってまだ未成年だし帰化も視野に入れているから、これが見付かればギリシアへ強制送還されるのだからね。本人は笑っているが、何と無情にも私が手玉に取られていた。社長を選び放題……これが意味する処は、ほぼ女性の社長さんだった。男は口出しを許されないとかね!? 後で聞いて判ったことだ。



 私は更にお隣を追い出して土地の買収、そうして大きな自宅とマイケルズ”bikeを新築した。澪お姉さんはクロに小金を掛けて順調に資産を増やしていて、両親は指を咥えて見ている。杉田家もこれといった仕事はしていないが、唯一智治お爺ちゃんが農機具を修理しながら各地を転々としている。もうタフなのよね。



 マイケルズ”bikeのお店は総二階建てで二階が主な倉庫になった。中古のバイクが保管されている、それも高価なバイクたちが。


 私は更にもう一軒の家を建てた。知らなかったがシアハウスというらしい。大きなアパートで、玄関を入れば広いダイニングルームを造って、そこに三カ所のキッチンと大きな食卓も置いた。各部屋には小さな台所も造っている。お風呂は掃除当番を決めるのが面倒だろうと考えて各部屋に造った。各部屋は和室六畳の二部屋だけと小さい。共用のトイレでは女の子ばかりだと戦争状態に陥りかねない。なので各部屋に造ってあげた。でも自分用兼お客さま用にとリビングルームに隣接させて造ったら、こぞって使う悪い女たちに苛立つのは仕方がないか。


 ペーパー代が嵩んで仕方なか~。


 何とお家賃は無料……。ただし、カムイコロさんと我が眷属たちが住まうのだからそれで良かった。こんな変な? シアハウスに他人は入れられないよ。



 総戸数は十二戸で、一応眷属の数を目星にしたのだ。現状、入居者はカムイコロさんに藍ちゃん。碧と翠も居るしソフィアも何だかんだと言いながら入居してくれたのだ。海斗や委員長は呼んでいない、だって用心棒とベビーシッターなのだからね。未来や美保ホ、智子や眞澄は声を掛けただけだが美保以外の反応は良かった。


 美保ホはお父さんの仕事を継ぐのだから、それに欣ちゃんもいるから来るはずはないよね。


 私たち家族も食事がこのシアハウスになってしまう。ちゃらんぽらんな私が楽できて過ごせる場所だから。掃除機くらいは大丈夫、私にも出来るのだから。


 三浦珠子が行方不明になった以外は全員が東京に住んでいる。


 で、このシアハウスの良いところは誰かが食材を買ってきて食事の準備をする事だが、おいおいと各自が各自、他人を当てにしだしたからご飯が足りなくなり、私が食材を買い込む羽目に陥るのだった。私は藍に訊ねながらスーパーを巡り藍が主となって料理を作る。


 大家が使いっぱしりだなんて、これはどうなのよ。


 全員が言うのだ、「主婦は一人よ!」と。私は反撃のひと言!


「食費や掃除代金として、一人一万円徴収よ!」


 すると誰も食材を買ってこないのだ、これは最悪だった。。あったま来ちゃう。実家の台所に行けば私は追い帰される有り様だ。実家に限らず黒川家や杉田家も苦労している。澪お姉さんはそう言うのだが小金を貯める為に節約している。



 まだまだシアハウスの悪いところが出て来たのだ。それは、


「お姉ちゃん、来たよ~……。」


 そう妹たちである。母親たちが飢えさせて追い出す作戦らしい。挙げ句の果てに部屋も余っているから泊まるのだ。母屋に隣接させたのだから予見できたはずだが? とマイケルは言う。分っていたのならば最初に言ってくれれば良かったのにと恨むももう遅い。


 広い筈のダイニングルームは泣き笑いで賑やかに、そして段々と狭くなっていく。


 託児所じゃん、どうしてこうなった!?



 1974年6月8日 東京


 私は二十一歳になった。多感な時代は終わりを告げる。もう私にも次の子宝を授かる頃になったのか、身体がマイケルを欲した。


 私はマイケルズ”bikeの店員として、山口智子を召喚した。嫌がる後輩を騙してまで店員にしてしまう。


 さて、今後の展開は……秘密です!


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