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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第十四章 亜衣音の幸せな……β世界線

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第196部 帰化が出来ない?……マイケル大いに怒る!


 1973年1月10日 東京



*)二人ともお利口さんよ、ジジババの相手をありがとうね。


 お爺ちゃんに大地の行方について訊ねてみた。今まで気にはなっていたんだが心に蓋をしていたから訊けないないでいた。常に事情通なのはお爺ちゃんだけだから。


 お父さんは全部がお爺ちゃんの受け売りだし、元はボンボンの優しい公務員だった。だから自分で調べようという気骨はない、それもからっきしと言う修飾語が付いてくる程にだ。


 私からの不名誉な称号を得たお父さん。少しは尊敬をするべきだろうが、今はもう女の尻に敷かれるばかりだ。大地が去って行きマイケルが家に来たのだがそのマイケルは気骨はあるがやはり私には弱いらしい。だって私は社長だものね。


 そ、お爺ちゃんに大地の行方について訊ねてみたのだった。


「お爺ちゃん、大地は何処に行ったのか見当がついているのでしょう?」

「大地くんだよね、分らん。」

「え~どうしてよ。教えて貰えないとか、お父さんが口止めしているのかな。ね~お爺ちゃんってば。」

「それがな亜衣音ちゃん本当に分らないんだよね。世田谷警察署から乗ったタクシーだが該当無しだったよ。だから追跡が出来なくてそのままになっている。その内に暖かくなれば出てくるだろうさ。」

「え~そんな~。虫じゃないわよ。」

「すまんな、これで終わり。」


 今日はマイケルズ”bikeのお店も定休日だし、クソ寒いのにマイケルはツーリングに行っているわで、三人で寂しくしていたからお爺ちゃんとこに遊びに来たのだ。ひ孫を抱かせて大地の行方を聞き出そうとしたが無理だった。まだまだ秘密が多いお爺ちゃん。


 ヘタに家に居て暇そうにしていたら必ず訪問を受けるのよね、藍ちゃんがね私の様子を見に来るんだ。そうして夕陽を抱いて逃げていくのよね、卑怯よ!


 追いかけると椅子が用意されていて、「今日はこの子がお休みなんで、」とか抜かすのよ。私に家事が出来ない事くらいは知っているのにね、針子も同じよ。


 それが嫌でお爺ちゃんちに来たんだよ。翠と碧は勿論藍の工房へ働きに行くのだが今日は平日だから大学へ行っているのよね。子のお守りから開放されて、ゆた~っとノンビリしていたらさ、帰ってきたよ用心棒が。


「ただいま~……誰?」


 これは玄関にある私の靴を見つけての発言だろう。私、銀座で買ってきた最新のモデルの靴なんだよ。


「お、セレブがお見えだったか。」

「お帰りなさい。今お帰りなのね、私はセレブではありませんよ。」

「だって金持ちになったんだ、セレブでいいだろう。」

「違いますセレブとは有名人を差して言うのです、知らない事はないよね?」

「亜衣音さんはどちらにしてもセレブだろう、金もあるし名前だって昨年の事件でちょ~有名。」

「いや~それを言わないでよ。あの時は本当に帰って来て安堵していたからさ娘の葬式だなんて、」


 ここでいう娘とは、ひかるが私に化けて大地との間で産んだ亜利沙ちゃんの事だ。うやむやながらも誘拐されて殺された事になっている。


「知っていただろうに、誤魔化すなよ。」

「うん、知ってたけど頭に入っていなかったよ。」

「新学期なんだね。どう勉強は楽しいかしら?」

「勿論面白いさ。亜衣音さんにはもう大学は無理だよね。」

「うんとても行きたかったんだよね。少し悔しいけれども諦めた。」

「あ、そうだ。ここのお婆ちゃんをバイクの店で雇ったらどうだい、少しは勉強が出来るかもしれないよ。」

「そうだね~マイケルと相談してみるよ。最も私は売り子さんだけだからさ、お客さんのお話相手はマイケルが行うから楽と言えば楽かな。」


 マイケルズ”bikeは今でも多くの客で賑わっている。これが私の所為だとは考えもしていなかった。何だか強い看板娘がいると評判になっていたらしい。あの族たちに喧嘩を売って、負け知らずの亭主が一目を置いているとの噂が尾ひれを付けて巷で泳いでいる。


 石川海斗、今は日本大学の獣医学研究科へ行く勉強熱心な獣医の卵だ。今は獣医を目指していても途中から目的が変わるのも普通。将来はなんだろう。この男の素性は知れない。悪い男ではないのは理解出来たが、人狼か~? と言えば断言が出来ないでいる。


「俺を観察して面白いことはないだろう。」

「あ、ごめんなさい。つい昔の事を思い出していたのよ。それで委員長とはどうなのよ。」

「あれとは幼なじみというだけさ何もないよ。言っておくが他の女の子には興味はないからな。」

「はいはい、私だけって言いたいのね分っています。でもダ~メ。」

「けっ、知るか。あいつは強いからな、手も足も出せないよ。」

「お~言ってくれるじゃん、夫をあいつ呼ばわりだよ。今度話しておくから。」

「けっ、知るか。」


 海斗の学費はお爺ちゃんから援助されている。他の双子は家族になったとはいえ双子は必死になって学費を稼いでいるのよ。双子は国際短期大学へ行っている。それでいて藍の工房で働くとは勉強できているのかと老婆心が芽生えてきた。若いのに老婆心ってなんだかね~。


 海斗からは馬についての話で盛り上がった。海斗も馬が好きらしい。きっと私が焚き付けたせいだろう。このまま海斗には馬好きでいて貰いたいと思う。


「おやおや、お帰り。……亜衣音ちゃん、ミルクの時間だよ。」

「あ、もうそんな時間なんだ。海斗、付き合ってくれてありがとう。」

「いいよ俺も暇だし。また来いよ。」

「うん海斗こそ遊びにお出でよ。」

「殺される、獣医には人体へ治療が出来ないよ。」

「ま、それもそうね、まだマイケルは何も知らないからね!」

「俺を誘うんじゃないよ、…」


 海斗はそれ以上言ったら藪蛇になるからと黙って自室へ引き上げるのだった。


「へ~お乳、見なくていいんだね、」

「バッキャロ~……。」

「おやおや海斗くんは照れていますね~。」

「亜衣音ちゃん、人を揶揄うのではありませんよ。ご友人ならば大切にしないといけません。」

「は~い、お婆ちゃん。」


「ほ~らおいで~夕陽、理沙。オッパイですよ~。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2

「亜衣音ちゃん、二人にはリンゴを擦って与えていますからね、そのつもりで。」

「ありがとうございます。良かったね理沙、夕陽。」

「もごもご……。」x2


 最近は私自身も満ち足りているのか、二人が怒ったりして巫女の魔法を遣うことは無い。とても良い傾向だよね、私の時と違ってとてもお利口さんに育ってくれているのはありがたい。でも? と言う条件つきなのよね、私の知らない処で巫女の魔法を発動とか出来るのだからね。


 お母さんだって孫を抱きたいのだが、私の妹たちがそれを許さないのだ。兎に角お母さんが夕陽と理沙を抱いていると、妹たちが泣くは泣くはでとても大変な事になる。


 その逆は……少しも関心が無いように静かなんだよ、何だか変な感じがするのよね。良い子いいこは大きくなって大変だと聞いた事があるが、何処にでもいる普通の子供には魅力はない、だからか。その逆は不良になるという事なのかな。


 うん、この子たちは私がしっかりと育てるからねって、高校中退が偉そうに言えないな。


 男女別の双子だが平等に育てるとはいかないだろう。今の着る服はいいとしてももう直ぐ男女に別れてくる。どうしたらいいのかな。


「ごっふ、ごっふ、」

「あらあらどうしたのよ、夕陽。」

「ごっふ、ごっふ、」

「そうなんだ、夕陽はおに……うわ~どうしよう……。」


 この二人はどちらが兄か姉か言い張っているのだ。ここで迂闊に「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」とか言えないのだった。先に出て来たのは夕陽だから弟になる。双子で最初に出て来たのが下の子扱いと言うのが解せない。「ただの迷信よ、」と澪お姉さんから聞いて安心したものだ。


 夕陽が先に産まれたからお兄ちゃんで理沙は妹になる。そう言えば二人のね出生届けを持って行ったら窓口の人は理解不能な事を言ってくれた。


「どちらが先に産まれたのですか?」

「はい、ディ、夕陽になりますが、」

「では、妹……さんですね。この用紙はまた後日に提出して下さい。」

「何でよ、一緒に産まれたから一緒に受理しなさいよ。」

「出来ません、こちらの夕陽さんですね、長男として受理致しました。」

「このバキャ……ウゴウゴ……、」


 この後私はマイケルから押えられて口も封じられた。お父さんがやってきて窓口の人に謝っていたが解せないのよ。


「亜衣音……少し待て、訊ねてくるから。」

「お父さん。どうしてなのよ二人平等に育てたいのに、初っぱなから躓くなんて嫌だからね。」

「あ~分っているよ、ま~待て。」

「うん、早くお願いね。」


 お父さんは全部を理解して私の横に座った。その説明を聞いて私は呆れるのだ。


「出生届けはな、届けを出した方から戸籍が記入されて長男、次男と繰り下げて いくのだとか。それで窓口としては一日に一人だと決められているらしくてね、だから明日以降また出て来て欲しいそうだ。これは狂った制度だな。」

「うそ~一日に一人しか受理しないなんて、あり得んわよ。」


 私は言われて分かりはしないが、意味合いとしては理解した。断腸の思いが甚だしい。んでマイケルをぶっ叩いてやったわよ、大きなお腹をね。


「この、バカ、死ね~・・・。」


 何ともない痛さだろうか、ケロッとしたマイケルは笑っていた。ソフィアも外国人登録で面白くなかったようで怒っていた。


 この後のマイケルに至っては怒り心頭、国籍の取得、帰化許可申請というらしいが、先に法務局へ相談に行けと言われて憤慨していた。何でも法務局へ相談に行って帰化が出来るのか確認しやがれと。これやと怒るのも分るわ~。


 それで法務局へ出向いたらその先が酷いのだった。品行方正、母国で犯罪を犯していないか、またその証明書が必要で日本に五年間滞在の実績とか、他に言われたのだが全く頭に入らなかったとか。


 資産は在るか、職は就いているのか。それよりもギリシアでマフィアたちを壊滅させたりしたから日本国籍は諦めるべきか。どのみち。一度はギリシアに帰国せざるを得ない。あのババァにこの顛末を説明して天誅だよ!


 ま~た役所に戻ってマイケルの外国人登録を行う羽目になった。それでマイケルはとうとう堪忍袋の緒が切れる。


「役所の窓口は何も知らない人物が座るもの、」だと思うべし。



 私たちが役場を出た後で、ニュースになる事件が起きた。


「今日午前十一時ごろ、世田谷区役所で怪事件が発生。役場内の全書類が宙に舞い大騒ぎになって……。」


 ディスマスとリサの報復がなされたようだ。


「だから、どちらが先だという事は大事なんだよ。」


 夕陽と理沙は日本国籍を有する私が産んだので、自動的に日本国籍を取得出来たのだが父親欄が空白になっている。(これは未調査ですので分りません。)


 もう……あんまりだわ!


 後で知った私も激おこになってしまい、家族がいい迷惑を受けてしまった。普通が一番だという意味がよく理解出来たわ。


 この事件以来、夕陽がお兄ちゃんで理沙が妹と決まったが、でも兄妹の二人は今も争う事をやめなかった。私に似て頑固者なんだね。


「二人ともお利口さんよ、ジジババの相手をありがとうね。」


 ついそんな事を思い出してしまった。その間二人は寝てしまう。だって老人の相手をしてとても疲れたのだから。老人の相手はとてもではないが疲れるものだ。


 特に話し相手が居ない家庭では会話に飢えた老人が、通りがかりの人を襲うのだから堪らないし、もし捕まって逃げ切れない時は……一時間でも立ち話に付き合うのだよね。事実、私もアパートの前で一時間も費やした。この時は老婆の家族が帰ってきたので助かったんだよね。それが無かったら更に一時間二時間と……。それまでにも数回は呼び止められていたよ。用事や仕事があったので避ける事が出来ていた。


 で、教訓……。老人が一時間でも立ち話が出来るのならば、電車で席を譲る必要はない。当たり前だろ八十歳でも元気なのだから。



「亜衣音ちゃん、雪が降りそうだからもうお帰り。」

「は~い、また遊びに来ます。……お爺ちゃ~ん、お願~い。」


 辺りは暗くなるのが早い、もう真っ暗だよ。そんな暗闇にも灯りが点るお座敷。


 お爺ちゃんは私のタクシー代わりだよ。嬉々として送ってくれて息子の家でお酒を飲むのが好きなんだ。だって話し相手が豊富にいるのだから。


 大体が老夫婦に会話が無いという事実、でも、ま、二人でご飯食べるだけでいいのかな、ね~お爺ちゃん。


「あ~? 何かゆったか!」


 ひ孫に囲まれてにこやかなお爺ちゃん。でもお婆ちゃんは家で碧と翠の双子の食事を用意して帰宅を待つというから、何処かしら聞いて寂しく思えた。


「ねぇお爺ちゃん。お隣を追い出してこちらに引っ越ししない?」

「お~それはいいな、毎日が楽しくなるよ。」


 お爺ちゃんとお話していたらお父さんから呼ばれた。


「亜衣音亜衣音……。」

「なぁにお父さん。」

「爺さんに余計なことを言うなよ。俺らが迷惑するから。」

「そうよ亜衣音、黙ってなさい。」

「え~いいじゃん、家族が増えて楽しいよ。」

「亜衣音これ以上家族は増やさないでくれないか、家計が苦しい。」

「だってお母さんの雇用主よね、お給与の値上げ申請は出来ないのかな。」

「それな、恐らくだが爺さんは忘れてしまっているようだ。黙っておれば幾らかの昇給つきで給料が出るんだ。」

「へ~そうなんだ、お父さんもワルだよね~。」

「沙霧ほどではないぞ、沙霧は……、」

「バコ~ン!」

「……?」


 夕食時のマイケルは今ではカムイコロさんが占有してしまった。いつも大柄の二人でお酒を飲んでいるよ、私は……寂しいかも。


 で、杉田家は時々家族揃って出てくる。たまに阿部元教授が一人でお世話になります、と言いながらやってくる。今日は家族総出でお出ましよ。


「……あ、家庭教師……見~付けた! これっていいかもしれない。」




*)家庭教師……


 私は気持ち良く飲んでいる大きなカムイコロさんを、お尻で割り込んで追い出す。カムイコロさんは簡単に後ろに転がってしまった。


「わぉ、何しがる。」

「それは私の台詞よ、いつもいつもマイケルを占有しないでもらいたいわ。で、マイケルに相談よ。」


「なんでぃ、ブツブツ・・・。」


「何じゃらホイ! 出来ないことは言うなよ。」

「出来るわよ、簡単にね、……それで、あの阿部元教授を私の家庭教師に呼びたいのよね、いいわよね。」

「あ~……なるほど亜衣音も勉強したいのか。いいんじゃないの?」

「ありがと~嬉しい。早速口説いてみるね。」


 私はそそくさと席を立って今度は智治お爺ちゃんをお尻で追い出していた。


「亜衣音、随分と明るくなったじゃないか。」

「そうですねカムイコロさん。いつも警備をありがとうございます。今宵もお願いします。」

「ケッ、今晩は寒いから寝る。いつもは冬眠するんだぜ。」

「へ~そうなんですか、クマなのか人なのか、どちらになるのですか?」

「人だよ、あの事件以来何も起きてはいなし平和そのものだよ。特にあんたが居る

 から俺も楽が出来ている。こちらこそ礼を言いたいくらいだ。」


「デ……、」

「デ?」

「デスマルクだがこのうるさい処で良く眠れるものだな。」

「ディスマスですよ、夕陽と言います。わんぱくでいいから逞しく育って貰いたいものですよ。」

「ハム食わせておけばいいよ、お前みたいに大きくなるだろう。」

「ハム……? あ、そんなことよりもですよ、俺、北海道の山奥でバイクを走らせたいんですが、一緒に行きませんか?」

「俺を口説いていいのかよ。嫁さんが黙っていないだろう。」

「家族全員で行きますよ、当然でしょう・・・、」


 お話が弾む二人は放置していたがいいよね。そんな後ろ髪を引かれるような仲のいいあの二人にはやはり気になるかな。そう思いなが席を立って阿部元教授の横に滑り込む。


「せんせ~い、理沙ですよ。抱いて下さい。」

「理沙ちゃんか~お~うよしよし、可愛い可愛い。」

「うんぎゃ~うんぎゃ~……。」

「あ~先生……すみません。嫌いなようです。」

「……இஇஇ……。」


 とても失礼な言い方をしたものだから阿部元教授は機嫌が悪いという事はないのだ、とても優しい。


「そうか、俺は嫌われているんだね。」

「はい、そのようですごめんなさい。でもこの子が泣くなんてどうしてかしら。」

「理沙、どうしたのかしら~……。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」

「あら~そうなんだ、ママが悪かった。今度はいいかしら。はい、教授。」

「泣かない?」

「はい、もう大丈夫ですよ、桜子お婆さまが席を立たれましたから。」

「桜さんは曾祖母だろう、直系だろうになんで嫌がるのかね。」

「私にも分りません。多分、鬼夜叉に見えているのでしょう。」

「玄孫だけに? かな。笑える~。」

「ひ孫です、さ、飲んで下さい。ところで先生マイケルの分析は終わりましたか? 分っただけでも教えて頂きたいのですが、構いませんよね?」

「う……いや、疑問だらけだよ。無理を言わないでくれないか。」

「でしたら先生は私の顧問になって頂けませんか? 三時間程度を週に五日でどうでしょうか、専属の家庭教師というお仕事ですが。」

「お、いいね~大体がだね、きみの、」

「はい存じております、私の進学の為に呼ばれたのですよね、それがこんな形の落ちで申し訳ありません。ですので、明日からはその目的で授業をお願いします。」


「あぁ大学で自由になる時間で、俺の都合による時間割ならばいいかもしれない。明日にでも桜ちゃんと大学に申し込んで調整して貰うよ。で、学科は何がいいかな、文化人類学、ロシア語、ドイツ語だって出来るぞ。」

「世間一般の教養学でよろしいのですが、経済とか簿記とか商業科目とか、それに教育心理学!」

「全部却下、専門外だよ。」

「そうですか、無理ですか……。」

「あ、他にないのか、すりあわせしようじゃないかな。」

「教授が呼ばれた意味って……あります?」

「いや、……なにも無いな。札幌に帰るよ。」


 私は阿部元教授をダメだしにして押し出したようだ。すっかり意気消沈したようで背中が丸くなり出した。


 う~私のバカバカバカバカ!


「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」

「教授、理沙が講義を受けたいそうですが、出来ませんか?」

「おう、そうかそうか。だったら何がいいかな、幼児心理学とかあったかな。」


 ここは理沙を教授に押しつけて後は理沙にお任せしようかしら。


「教授、文化人類学、ロシア文化でお願いします。」

「そうか、喜んで講義をしようではないか。」


 とりあえずは私の家庭教師は見付かった。時間は不規則だが私にも時間の融通は出来るだろう。簿記の勉強は誰かに押しつけるとか、出来ないかな~。


「そうだ、藍に相乗りを申し込もうか。経理の費用は折半で!」



 今日も夜遅く帰宅した藍ちゃん。職場は私の家の横にある工房だから直ぐに帰る事は出来る。だからかもしれないが以前よりも帰宅が遅くなったようだ。


 これではいけないと思うが藍ちゃんの仕事に口は挟めない。が、経理の事で相談してみた。


「藍ちゃん。仕事だけれどもね、申告はどうしているのよ。」

「え~申告ってなにかしら。大切なことかしら。」

「そんな、税務署に報告する申告よ。これをしないと後日大変な金額で税金を言ってくるのよ。」

「あ、それね、今年の分からいいわよ。昨年は赤字だったからいいのよ。」

「でも、澪お姉さんに配当金までも払ったじゃい。これって利益が出ないと払えないものなのよね。利益=納税なんだよ。」


「丼!」


 藍は頭がいいはずなのに抜けているらしい。起業のノウハウは知らずに独立してただいまばく進中! 儲かっているのだが次々と資本投入してお金が残らないので赤字だと誤認していそうだね。


「二人して税務署に行こうか、個人の締め切りは十二月だからさ、早いがいいよ。それに私も今年から申告が必要なんだ。」

「そうね亜衣音ちゃん、年末に開業したからまだ間に合うわね。」

「藍ちゃんだって間に合うわよ、行きましょうね。」


 昨年の澪お姉さんの脱税事件で少しは知識が付いたんだよ。徹兄さんは税務署ほど恐ろしい部署はないのだとか話していたしね。喫緊きっきんの問題だよね。


 私って、こんなに現実的だったなんて思いもしなかった。もしマイケルに社長を押しつけていたら私らも脱税で逮捕~とかされたかもしれない。後日、藍ちゃんが集計した処で蒼くなったらしいのよね? 「納税するお金が無い!」と。


 どうしようかな~藍にお金……貸してもいいのだけれどもね。


 私のマネーロンダリングは完璧よ!



 翌日にマイケルから相談があった。何でもバイクのエンジン音がうるさいのだと近所から言われたそうで、だから小さい小屋を建てたいのだとか。店舗でエンジンを吹かす事が出来ないので、防音付きの小さな小屋程度でいいらしい。


「えぇ勿論いいわよ。それでマイケルの仕事が出来ればいいのよ。」

「お、サンキュー。早速頼んでくるから直ぐに出来上がるさ。」


 この家は二ヶ月で出来た豪邸。一階はバイクの展示場だよ、凄く大きい家なんだよ。自宅はウサギ小屋だけれどもね。総二階造りだから二階が自宅となるとやはり二十坪ではとても狭い家である。隣に藍の工房を併設したのが欲を出したのが悪い。さらに小屋を造れる余地はあるのだろうか。十日も掛からずに出来上がった。


「もう一軒、追い出したがいいかもしれない。」


 私は随分と恐ろしい女に成長したようだ。末が恐ろしく思えてきた。極道の妻も元は一介の少女だったのよ。それが環境や男の変化で女の性格が変わっていくなんて、……ステキだわ~。


「バカ言え、いくら人狼が強くても国には敵わない、もうそんな時代なんだよ。極道 がこの先何年生き延びられるのか、三十年、もって四十年位だろうさ。」

「ふ~ん、外国へ逃げるしかないのかな。捕まれば人体実験にされるものね。」

「良くて兵器扱いだろう。あんな人狼対戦はゴメンだ。」

「え~それって何時の頃を言っているのよ。もしかしたら1930年頃とか?」

「そうだよあの時は俺も散々な目に遭った。ロシアに居たからな。」

「だったら桜子お婆さまが活躍していた時かな、何処かで聞かなかったかな、マシンガンをぶっ放す女子高生を。」

「プッ、知らないよ。俺は軍の近くでゲリラに巻き込まれた位だったが、もしかして反政府軍に居たのか!」

「うん家族は居たんだって。それから日本の終戦後に東北での戦いで決着が付けられて戦いが終わったとかなんとか。」

「だったら会っていたかもしれないな、東京から北海道まで嫁探しで放浪していたし。」

「もう忘れたの? お母さんを軟派してたれた事を。帰国した時もお母さんから大きく はたかれていたわよね。」

「あ、あ~そうだったか? もう忘れたよ。」


「随分と便利な頭だね、尊敬に値するわ。」

「俺の目的の為に五年は大人しくしておかねばならないから、分っているよな。」

「勿論よ。空欄のままでは耐えられないもの二人の子の為に。」


 そう、マイケルは帰化するのにも、五年もの日本滞在期間が必要なんだよ。これは当事者にしか判らない悪法だよね。


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