第192部 子供の取り違えは、とうの昔から起きていたの?
1972年9月16日
*)二人の名前……マイケルの戸籍は鬼籍なの?
私と同じ臭いがするのだろうか、ディスマスとリサは藍ちゃんや夕霧さんに抱かれても泣かないのよ。
「私、認められたのかな?」
「そうね、そうだと思うよ、でもね、二人とも気難しい性格しているわよ。」
「亜衣音ちゃんそっくり! 私も赤ん坊を欲しくなったかも。」
「へ~そうなんだ、このお乳を飲む姿は可愛いでしょう。」
「マイケルさんを貸して!」
「いいよ、うんと使っていいからね。」
「え”……ありがとう……助かる~。」
藍ちゃんからの返事は意表を突かれたような意味深な言葉であった。まさかまさかマイケルを誘惑するんじゃないよね!? それを成功させて無事に子供を産んでってあり得ないわよ。
しかし藍ちゃんはマイケルを何に使うのだろうか。マイケルは用心棒以外は出来ないのよ! と、言っておくべきだったかな。余りにも不親切過ぎたら問題は起きない。相手が私を「好かん!」と言う位で済む。逆に親切過ぎたら摩擦が生じて人間関係さえも崩れてしまう。
「鬱陶しい……、」と言われて嫌われるのよ、それが私という生き物なのよね。
私って中学までは何でも自分で済ませてきた方だ、所謂、手の掛からない子供と言えた。高校生になってそれが逆転してしまう。父子世帯だった頃は必死で生活してきたが、ま~色んな意味で命を脅かされて自分では何もしない癖が付いたのだと思う。
入院していればやることは少ない、寝ているだけだから。ものぐさ太郎という女の子が出来上がったのよね。一番は藍ちゃんが家に入ってきたからかな。すぐさまズボラな性格にされてしまった。
「亜衣音ちゃんは不器用だからさ、何もしなくていいよ!」
もう公認だからさ、いいっか!
私は塩鯖の目をしているマイケルに、藍の仕事を手伝うように頼んでみた。そうしたら、
「男に女の人形が作れるか!」
「え~単なる荷物持ちの力仕事だけだよ。儲かるって言っていたからさ、ディスマスとリサと、それと私の餌代を稼いできてよね。」
「エサ代を稼いでくるよ、他の仕事を見つけてさ。」
「マイケルは泥棒以外にな~んも出来ないよね?」
「うっ……、いや、探してみせる。」
「初めての東京は大都会だよ、独りでは右左も判らない赤子と同じなのよ。」
「いや、昔だが秋葉原でバイトをしていたよ、何とかなるさ。で、仕事はと言うとバイク屋に勤める。バイクは好きだからね。」
翌々日になってお父さんからお話があるからとお誘いを頂いた。同時にね嫌な顔で嗤うカムイコロさんを見た。背筋が凍る。
そう言えばお父さん。カムイコロさんを伴って青森県は弘前に行っていたんだっけ。何でもマイケルの戸籍を確認しに行って貰っていたんだな。慣れない家の大家族、右も左も子、子、子、・・・で溢れていた。それでお父さんやカムイコロさんを見なくても何も感じていなかったな。
「亜衣音、いいか。」
「うん、いいわよ、覚悟している。寡婦の覚悟よね?」
「ま~そうだね。マイケル君……?」
「いいですよ、お義父さん。今は亜衣音さんの夫で息子になっていますから。」
「すまない、戸籍は抜かれていた。もう戻せない。」
「お父さん。マイケルは百六十歳とか言わないでよ。」
「いや、百七十歳位だそうだ。日本は行方不明の人は百二十歳で鬼籍に入れているからね。」
「マイケル!!!!」
「う~すまん、許してくれ。」
「お父さん。マイケルはその辺に捨ててきていいよ。だって、自分がこんなにも年上だって言わなかったもん!」
「そう怒るな、で、戸籍を作るには出生届けか海外からの移住しかないが、生まれたてでは無理だから、帰化してもらう形しかないね。養子になって貰う。」
「はい、お義父さん、よろしくお願いします。」
「で?……お父さん、マイケルは幾つになるのよ。見た目では三十歳位だと歳が離れすぎかな。」
「沙霧よりも上だと問題かな~。」
「うわ~穣さん、それはあんまりですわ。それで幾つに?」
「お義母さん……幾つになられました?」
「バコ~ン!」「グワ……イテ!」
「あ、あ、あぁぁぁ……思い出した! 穣さんとデートの約束で秋葉原に行って待ち合わせ中に来た……ナンパ野郎!」
「うっへ!……あれは……俺ではありませんよ。」
「そうよね、あんたは大昔に女に打たれて『グワ……イテ!』と言ったよね?」
「இஇஇ……。」
「そうだわ、マイケルは東京の秋葉原でナンパして、女の人から叩かれたって、そうよ、ハッキリと言いましたよね?」
「いや、俺は知らん。亜衣音の記憶違いだよ。」
マイケルは俺では無いと言うところが、もう自分だと認めたのと同じ。違うと言い張れば容疑は晴れると考えているあたり、ある意味不器用だろう。いっその事秋葉原のナンパを認めてお母さんの顔を「昔と少しも変わらない、綺麗だ!」と言って褒めればいいのにな。そうするとお母さんも気を良くして許してくれる筈? ……はないようだ、時期に爆発する。
「グハハハハ……、」
カムイコロさんが大声で笑い出した。
「俺も思い出したよ、三十年前かいな。北海道の山奥でナンパされたよ。」
「え”゜. 。.゜……!」x4
「マイケルも驚いてどうするのよ、このスケベが!」
「お、お~れは知らない、北海道の山奥なんか行くはずはなか!」
「バカヤロウ、今の夫と喧嘩して負けただろうが、俺は強い方が好きだぜ!」
そんなバカな事を言うカムイコロさんを私は、
「ウソ言ってはだめですよ。札幌市には行っていたようですが、日高までは行けるはずがありません。」
「バコ~ン!」「ワッ……イテ!」
マイケルを揶揄うカムイコロさんを、私が思いっきりぶっ叩いてやったわよ。
「俺は独身さ、あれは人を食ったかなんかで、殺されただろうさ。」
「そうね、そう言う事を以前聞きましたよね。でも真実は不明でしょう?」
「まぁな、だって日高には帰っていないしさ。」
「カムイコロさん、帰っていいよ。マイケルは強いからさ、大丈夫だよ。」
「バコ~ン!」「ホワッ?……イテ!」
今度はお母さんが私の頭にゲンコツを落としてくれた。
「この子は~……なんば言よるか!」
「亜衣音~それはないだろう。」
「はい~、ごめんなさい。」
「カムイコロさん、すみませんでした~。」
マイケルまでが頭を下げて謝るのだった。それでカムイコロさんが機嫌を悪くする事はない。気にも掛けてはいないかな、だって今は飲み友達だから!
お父さんとお母さん、お話が逸れに逸れて閉口している様子。言いだしっぺはお母さんなのだから何とも言えないらしい、無口だものね。いやいや……かえって不気味な顔に見えてきたよ、マイケルは殺されるかも!
「へ~お母さん、マイケルにナンパされたんだね!」
「あ~思い出した、私の娘にまで手を出しやがって、殺したる!」
「すみませんでした~……。」
「マイケル、お母さんの顔を見て二十二年前の事を思い出さなかったのかな。」
「いや、亜衣音さんを見てピ~ン! ときたんだが、それでも信じ切れなかった。今はもう似てはいるがあり得ない筈だからとスルーしたよ。」
「そうよね、二十二年前が二十歳だとしたら……今は四十二歳の中年婦人だものねあり得ないよね、今も二十二歳だなんて。」
1916年10月15日がお母さん姉妹の誕生日、ならば今は……五十六歳? 私は不穏な感じがしたのでマイケルの背中に隠れる。マイケルの歯が三本折れた? 急須は大きく割れてカムイコロさんを直撃した。
「プンプンプン!!」
「お母さん。酷~い、マイケルが可愛そうよ。」
「亜衣音、わたしゃ、お前に投げたつもりだったんだがね、あんたが悪い!」
歳の計算をしたばかりに激おこの鬼に変貌した、今でも二十二歳のお母様!?
平謝りのマイケル。悪びれた様子は窺えないから私もこれ以上は何も言わない。でもでもお母さんの顔を見たらコメカミがピクピクとしていた。#のマークが点るお母さん。大事な娘に手を出した事を怒っている訳ではないようだな? まだ他にも隠された事実がありそうな予感。私は……少しも反省してもいない腹黒女だよ。
こんな漫才を見ても笑わないお父さんがしびれを切らす。
「あっ、あ~そろそろいいかね、マイケルくん。」
とても呼びにくそうなお父さん、応援したくなったよ。
「お父さん。マイクと呼べばいいじゃん。ニックネームだよ。」
「そうか、マイク……時間じゃ。」
「うん、ピシャリとお昼になったね。」
「இஇஇ……。」
「マイク、二十八歳。生まれはギリシア。あの偽のパスポートで帰化申請をしに行こうか。亜衣音は二人の名前を変更してくれよ。ディスマスとリサでは通りそうにないな。」
私とマイケルが向き合ってムキになる。
「ディスマス・夕陽・白川。これでいいよね?」
「だったらリサは、リサ・真珠・白川かよ、無理だよ。」
「マイケル。理沙・白川でいいよね。」
「リサ・理沙・白川。これだね。」
「え~やっぱり、理沙・白川だよ。それと、マイケル・白川。いいね~!」
マイケルは他にも色々と言ってきたが最後は折れてしまう。優しいのよね……デヘッ! そう言えば前歯も三本が折れているよね。
「はい、それでいいです。」
「それでいいかい、明日には世田谷区役所に行くよ。二人も連れて?」
「いいです、行きます。それで窓口の人に見せて来ますから。」
(息子、ナンパ野郎!……息子……夫!)割り切れない沙霧お母さんの顔、マジ判る。そんなお母さんにコスモスを一輪渡したらならば、すぐさま花弁は無くなると思われるよね。今でも恋に生きる女なんだな~。
マイケルを飲み友達にするのがホロお婆さまとカムイコロさん。とても扱い憎いと思っているのがお父さん。だったらお母さんはどう思っているのか、今後が凄く楽しみに思えてきたよ。
生態観察は阿部元教授で、智治お爺ちゃんは途中からは近づかないと決めたようだ。では、澪お姉さんはと言うと……判んない!? 母と姉妹だからきっと考えも似ているはず。ならば今後の観察対象に含めてしまいましょう・・・。
1950年9月(昭和25年)頃か、お母さんは東京・秋葉原に良くデートに行っていたらしい。私はそのように聞いている、ホロお婆さまからの情報だが信憑性は高いと思っている。1950-1916=22。もうこの時点でお母さんの歳が可笑しくなってしまっていた。何処で、どうやって変化した……謎である。時間断層・並行世界? だったよね。
こんな事をマイケルに話したらマイケル、目が点になっていたよね。
「俺と同じだ!」
「うそ~……。」x5
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
「うそ……。」x5
マイケルの歯が元に戻ってみんなが驚いてしまった。二人は時間の巻き戻しが出来てしまうのか!
「頼もし……な~。」
沙霧は長女。モンゴルの大地、それは水が無い、乾ききった大地の意。性格は、思い遣りのある優しくて素直な子。干ばつ……怒ると家族崩壊への道標。
澪霧は次女。シベリアの大地、それは沢山の水が、潤い満ちる大地の意。性格は、何処まででも自由で活発な子。水……それは氾濫すると怖い存在の河川。
これでは性格が逆だよ、長女と次女を間違えてはいませんか~麻美お義母さん。途中で入れ替わったと考えるべきだろう。澪お姉さんは怒った試しが無いのよね。で、沙霧お母さんは怒ったら怖い。怒濤の勢いがあるのだとか、by穣。
こうなると私の妹たちもあり得る話であって、将来は成人した時に二人でどちらの名前にするのか、決めて貰う事になりそうだ。
お母さん姉妹のあらぬ事実に感づいてしまった私だ。いやいやあらぬ疑いを抱いたという表現が正しいのかと思う。姉妹の名前がが逆……? これを口に出したら家庭がどうなる事やら想像も出来ない。
あらぬ疑いを抱いた……これも日本語の表現では可笑しいのですよ。気づかれた方は優秀……。あらぬ疑いとは、自分にかけられることであって、他人にかける言葉では使われないのよね。「師匠が作った魔法道具に命を救って貰えた。」という表現も可笑しい。救われただけならばいいが、それに貰ったと書けば、物にから貰ったという意味になる。物が人に与える事は出来ないのだから。
となると、お母さん姉妹のあらぬ事実に感づいてしまった……思いがけない事実に気がついたと解釈されるから、いいのかな。
取り違えは、とうの昔から起きていたのだと。それから今後も起きるのだと。で、お母さんに尋ねるのだった。
「小百合と水脈にほくろとか在るのかな。」
「無いわよ二人とも綺麗な身体をしているわよ。」
「ふ~んそうなんだ。で、お母さんには二人を見分ける事が出来るんだね。」
「当たり前でしょうが、お母さんだものね。」
今度、霧香と霧を入れ替えて見てみたい。先にほくろを確認しておかねばならないかな。で、試した結果、見事に言い当てる母君。
流石に足の裏に名前が書いてあったとは知らなかった。だっていつも靴下をはかされていたんだもの。それにお風呂に入れても足の裏なんて見ないもん!
「亜衣音がバカなだけよ。」だって! それから、
「今日はこれで許してあげる!」やはりお母さんは怖いのよね。
これを二人にお乳を上げながら藍ちゃんに話したらさ、
「亜衣音ちゃんはやっぱしバカなのよ、足の裏に名前を書く理由を考えなさいな。お母さんが見分ける事が出来たらどうよ、だ~から怒るのよ。」
藍ちゃんの強調する意見に、あっ、と思った私だった。お母さんは霧香と霧の二人を見分ける事が出来ないんだね! 足の裏に名前を書く、これは絶対に他の人を考えた処置ではないよね、沙霧ママ!
藍ちゃんは妙な処に気がつく女の子だよね。




