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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第十三章 番外編  人狼と少女 亜衣音……β世界線

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第191部 「It was a calamity.」


 1972年9月16日


*)私たち家族は……こんな家、あり得ないわ!


「私はこれで帰ります。」

「はい、ありがとうございました。今日は赤ちゃんまで押しつけてしまって、」

「いいのですよ、これがお仕事ですから。明日も何時もの時間に出て来ます。」


 保育のお手伝いさんが帰宅されたようだった。それからだよね、


 続々と食卓に集まりだした家族たち。チビたちの顔は久しぶりなのだから顔と名前が一致しない。それぞれを夕霧さんから教えて貰うのだが、


「う~ん、無理。もう判らないよ~。」

「亜衣音ちゃん、前は産まれた時から判別が出来ていたよね、どうしてかな。」

「藍ちゃん、もう随分と会っていないんだもの、無理に決まっていますから。ほらマイケルだって私にお助けの視線を送って……あ、マイケルが大変。」


 ほんわかとした食卓だと思っていたら、そこには、そこだけは修羅場が出来ていた。マイケルが左右と前からビールとお銚子を掴んだ腕が三本も伸びてきているのだから、これでは大変だろう。マイケルの右横にはカムイコロさんが居着いてしまっていて、右手でビールビンを向けている。


 カムイコロさんがどうしてマイケルの右側に座ったのか、それはカムイコロさんの右手が動かし安いようにだ。


「How was your honeymoon?」

「It was a calamity.」「惨憺たるものでした。」


 カラミティ……絡む……そんな単語が飛んでいた。マイケルの変な返事の意味は、今の心境を表しているのだろうか。だって私たちの新婚旅行なんて、帰国がその新婚旅行みたいなものだから。苦痛に満ちた搭乗だったから。


「亜衣音さんは、『手鍋を提げて俺に付いて行きます!』と言ってくれました。」

 

 これを聞いた両親は、ほんのりと目に涙が浮かんだのが私には見えなかった。これは数日後にマイケルから聞かされた。

(私はそんな学のある言葉は言えない、だって知らないんだもの。)


「う~……あの子がそんな事を言うなんて、なんて言うのか、あり得ません。」

「沙霧……亜衣音も大人になったということだ、目出度いよ。」


「(ケッ、亜衣音が自炊とは笑わせるぜ!)だって亜衣音は……、」

「カムちゃん、余計な事は言わない方がえぇよ!」

「うぇっ、麻美には敵わないか!」


 両親の感想よりもカムイコロさんの感想が本当だよ。だって、自炊なんて殆どがマイケルがしていたよね。そもそもがレストランを半日でクビになった私が台所に立つなんて、できっこないよ。


 手鍋を提げても……、好きな男との生活ならば苦労を厭わないという意味だ。日本語を理解するのは難しいと思うが、これをマイケルが知っていた方が? 驚きだろうか。伊達に東北で生活はしていなかったのだと感心してしまった。



「うわ~マイケルが大変そう~。」


 マイケルの左側には桜子お婆さまが陣取っているし、その横には麻美お義母さんが暑い眼差しをマイケルに向けている。カムイコロさんに遅れをとったためだろうか。


 それとマイケルの正面がお父さんとお母さん。しっかりと品定めが行われていたりしてね。いやいやもっと凄い人物が居た! あの人間ウオッチが趣味の阿部元教授、今は客員教授のお爺ちゃんだ。今はなりを潜めているのだろうか、その内に本性を表して……マイケルを質問攻めにするよね。


 外はとっくに夕闇に覆われているから、この食卓は扇風機も回っている事だし暑くはないはずだが、マイケルにはもの凄い汗が流れている。歳の割にはウブな処が可愛いとは思うが、あれでは脱水症状に陥るのがみえている。じきに酔いが酷くなって目が回り出すに決まっている。


 マイケルの片言の日本語が、的外れな回答がみんなの笑いを誘っている。もしかしたらワザとだったりするのかもしれない。


「藍ちゃん、小百合をお願い。」

「あら旦那さまなんて、とても楽しくお酒を飲んでいますよ?」

「いやいやいや、あの顔は笑っていても心では泣いているのよ、直ぐに助けに行かなくては、」

「藪蛇ですよ、今度は夫婦でつまみにされるだけです。」


「ほら亜衣音、行くだけ野暮というものです。海斗も居ますから!」

「夕霧さんまで、今はマイケルが大事ですよ~!」


 海斗だって沢山ものビールを黙って飲んでいる。相手にされていない証拠だろうか。それに反してせわしなく立ち働くのが明子さん。ホロお婆さまもそんな明子さんのお手伝いに汗を掻いている姿が目に入る。


 こんな時の男って、酒を飲むばかりで「オレ様が主役だ!」という顔をしているのよね、女ってつくづく損な生き物だと思うわ。


 子供らはお茶碗に卵ご飯を宛がわれて、スプーンを持って食べているが、誰もが零す、お茶碗は横倒しにする、はたまた横の子のご飯を突いているわで、見ているだけでもハラハラドキドキ……。


「で、私のディスマスとリサは何処かしら……?」


 縁側にお布団が敷かれていて、その上でコロコロとしている。


「んま、放置……。確かお婆ちゃんが抱いていたと思っていたんだよね。」

「お婆ちゃんは翠と碧を連れて出て行きました。野暮用でしょう?」

「そっか、あの二人はお婆ちゃんに頭が上がんないのか。」

「そうよ、海斗はまだいい方。でも海斗が同居してくれているから雑用に重宝してあるみたいよ。」

「へ~海斗がね~、役に立っているんだ。」


「白川のお婆ちゃんは車で出かけたよ。」

「明子さん、どうもすみません。」

「ありがとうって言ってよね、こんだけお世話していますもの。」

「はい……ありがとうございます。お姉さま。」


「あんたもやるわね~、いきなり男連れてきてさ、それも双子まで産んで、凄いな~。」

「い、いえ、とんでもございません。」

「とんでもあるわよ、いい男だし、一目惚れっていうやつかしら。」


 明子さん、どうもワインが好きなようだ。お父さんが飲んでいるラベルのワインのボトルまで持って来て、私の正面に腰を据えた。


 明子さんにも麻美お義母さんの人狼の血が流れているのか、もう立派な酒豪になったらしい。それもこれも娘たちにお乳を上げなくてよくなった辺り? かららしいのよね。


 冷えても知るもんか! という態度の明子さんはご飯もおかずも全てを飯台に出してしまっていた。もう私の仕事は終わったのよ! ということか。これからは私も飲むのよ~……っていう事か!


 こん家の酒代は月に幾らを消費していることやら。これに私は自重するのだが夫のマイケルが加わると、一割増し、いやいや相乗効果がでて三割増しになったりしてね。


「ただいま~、」x2

「今帰ったよ。」


「あら、お酒が着いたようだよ!」

「明子さん、もしかしてお婆ちゃんは、」

「たぶんね、お酒の配達を頼んでいたようだけれども、夜遅いので断られたの。さっきの電話がね、怒ってた。」


「へ~そうなんだ、明子さん……凄~い。」


 電話が怒ると言われても不自然と感じない。電話で怒っていたという意味なのだろうが、どうも私たちがいきなり帰宅したのもだから、テンパっているのかな。うん、ありがたや!


「明子さん……明子さん、」

「は~い、今行きま~す。少し行ってくるね。」


 明子さんはお婆ちゃんに呼ばれて玄関まで行った。恐らくお酒の収納を頼まれたんだろう。


 碧と翠は用件が終わったら……あらま~海斗の横に座ってしまった。両手に花となった海斗。これが予想されたから誰もが横に座らなかったのかな、いいな海斗は。


 明子さんが席を立ったら今度はホロお婆さまが、これまた好きな一升瓶を手に持って来て、


「亜衣音ちゃんさ、飲むかえ。」

「いいえ、子供にアルコールを飲ませる事になりますので遠慮します。」

「おや残念。」

「藍ちゃん……?」

「藍は逃げたわよ。ホロお婆さまは好きではないようよ、どうしてかしらね。」

「ホ~ッホッホ。あんな事、気にする事もないだべさ。」

「お婆ちゃん、藍ちゃんを苛めないでよね。私の大事なお友達なんだから。」

「あら、私はどうなのよ。」

「委員長……も!」

「わ~適当に言わないでよ。友人ですわよね?」

「はい、マブダチですよ。」


 ホロお婆さまは藍ちゃんの秘密でも握って居るのだろう、気になる処だよ。夕霧さんに対しては特に親しいとは思っていないが、逆に夕霧さんは私と親しい関係なのだと思っているようだ。ならばこれから親しくなればいいや。気難しい性格には翻弄させられる、と思う。


「ホロお婆さま、ディスマス、長男が産まれました。これってどう言う意味かご存じありませんか?」

「無いの~初耳じゃて。人狼のプリンスが産まれたとなると、プリンセスも何処かで生を受けたと考えてもいいじゃろ。」

「それがね、マイケルが言うには、自分は何百年と人狼の姫を探していたと言うのよ、何百年ですよ! それで見つけたのが私なんだって!」

「それはウソじゃろて。あれはそう歳ではないぞ。そうだべな……百二十歳とまだ若造よ。」

「お婆ちゃんと一緒!」

「ギャフン……!」


 澪お姉さんが私の斜め前の席に座ってきた。明子さんのいた席にはホロお婆さまが腰を据えてしまっている。自分の役目を奪われたとでも思ったのか、


「亜衣音ちゃん飲んでいいわよ。ホロお婆ちゃんが寂しがっていましたから、今夜は相手をされて下さい。」


「だって後で子供たちにはお乳が、」

「哺乳瓶が在りますよ。ね!」

「はい、飲んでくれたらいいかな。」

「沙霧だって飲ませていますわよ?」

「そうですね、お母さんも飲んでいるものね。澪お姉さんも飲むんでしょう?」

「はい、今夜ばかりは夜が長そう……。」

「うわ~……嫌な予感しか無い、どうしよう。」

「誰も助けてはくれないわよ。ソフィアちゃんは子守に逃げてしまったけれどもね、亜衣音ちゃんは逃がさないから。」

「今は俺が先だわ。」

「ホロお婆ちゃん、大概にして下さいよ。もう充分に飲んでいるでしょうが。」

「まだ十分じゃ、足りん。」


 ホロお婆さまが自分の事を、俺と言うのがとても懐かしく思える。お酒を飲むとお調子者になってしまうのは今も同じなんだね。


 十分とは飲んだ量を覚えているという事か。充分とはもう飲めなくなったという意味だろうとは察しが付く。ホロお婆さまには台所での調理が負わされていたからこれからがお酒タイムなのだろう。だったら可愛い二人には我慢して貰って私も飲んじゃお!



 人狼としての牙城がこうやって作られていった。本丸の主将とは誰が該当するのだろうか。主上……日本の天皇を表す言葉だが、人狼の主上を考えたらここはやはり長男のディスマスしかいないだろう。絶対に私ではないよね?


 私も飲み過ぎた。


「マイケル~……。」

「あ~……何か呼んだか!」


 夫婦して子供の横に寝てしまった、とても残念な夫婦が出来上がっている。それでも宴会は私たち抜きで続いていたという。


「こんな家、あり得ないわ!」




 翌朝になり、保母さんが何時もの時間に家に来た。


「おはようございます……今日はお休みを頂を言いに来ました、帰ります。」


 家中がお酒臭くて、子供たちは放られて泣き叫ぶ。こんなん酷い家庭で保母さんが独りで子供の世話なんて何が出来ようか。これならば休んでも一緒だよ。


 今日は土曜日、大学生らも学校をサボるのだった。


 畳に零して染み込んだ日本酒やビールは拭けばいいという訳では無い。これでは明日も明後日もお酒の臭いが残るだろうに。


「亜衣音ちゃん、今日も明日もね、プチ宴会だと思うよ?」

「藍~……。」

「ほらほら一人、寄越しなさいよ。」

「うん、……ディスマス、」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2

「そう、良かった。」


「私、認められたのかな?」

「そうだと思うよ、」 

「私も赤ん坊を欲しくなったかも。」

「可愛いでしょう。」


「マイケルさんを貸して!」

「いいよ、うんと使っていいからね。」

「え”……ありがとう……助かる~。」


 私と藍の意味が違っていたらどうしよう……。まだ帰宅して一日も過ぎてはいないのだから。これからが私のポジションを見つけて行かねばね~。他人任せではねいかないよね。


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