第189部 家族との……再会
*)家族との……再会
「ソフィア、付き合ってくれてありがとう。ここが私が通っていた高校なんだよ。」
「へ~そうなんですね、私は急に大きくなりましたから中学止まりですが、今からででも通学は出来るでしょうか。」
「そうね、日本語が出来ないと無理だよ。ただのお遊びでいいのならば私も賛成するよね。帰国子女……聞こえは良いけれども。」
「え~私は語学留学ですよ、だから遊びだとは考えていません。」
「そうだったわね、ごめんなさい。」
「ほら、先に歩いて下さいな、私は直ぐ後ろで付いてまいります。」
「うん、ありがとう、」
桜三丁目、両サイドには桜の木が在って春には見事に咲いてくれる。しかも入学式に合わせて咲いていたのを思い出す。
「ねぇソフィア……もう奥さまなんて呼ばなくていいからね。何だか他人行儀な気がするから。ソフィアも家族と同じだからさ、ありすと呼んでいいわよ。」
「はい、……無理です。私は年下ですのでお姉さんと呼びましょうか、それが私に譲歩出来る選択肢です。」
「う~ん、私には赤ん坊の妹たちしか居ないから、お姉さんと呼ばれたいとか思わないわ。ありすがいいわね。」
「では、ありすお姉さん……どうでしょうか?」
「ありすお姉さん、う~ん何だかシックリこないな。外国では呼び捨てが普通だと聞いたから、呼び捨てでいいわ、それでお願いよ。」
「はい、」
「私……寂しいのかもしれない……。」
「……。」
私たちは高校の校門前まで来た。今は授業中だから生徒たちの姿は無いが、グラウンドでは体育の授業が行われていて、ふら~っと校門に入りかけていたらソフィアに制止される。
「ほら、奥、あ、ありす。入るのはどうかと思います。以前と顔形は成長していますから名乗ってもどうでしょうか。」
「うん、そうだね。やっぱり……、」
「そうでしょうね、寂しく感じられますか!」
それから引き返して馬事公苑に向かった。この道は女の子で揃って歩いていたらとても懐かしく感じる。汗ばむ陽気に二人がむずがる。
「奥さま、休憩しませんか?」
「ありす……!」
「ありす……こう暑いと二人とも汗でビッショリでしょうか。」
「そうですね、馬事公苑で休ませてもらいましょうか。そして馬を見せたら喜ぶかな。」
「はい、ありす。」
ソフィアはどうにか私を呼び捨てに出来るようになったかな。亜衣音……私の母が付けてくれた名前だ。子供たちを戸籍登録すればおのずと自分の名前も前の亜衣音と名乗るしかない。それまではありすでいたい。
「だから、そういう理由だからね、遠慮は無しだよ。」
「分りました、時限立法でありすと呼ばせて頂きます。」
笑いながら馬事公苑に着いた。今は徹兄さんもここで働いているのかな、と少し気になった。
「ディスマス、お出で。」
「ディスマス、お母さんに行きましょうね、お乳かもしれないよ?」
「先にオムツを確認して……汗でオシッコが出なかったみたい。ソフィア、ジュースをお願い。」
「は~い、了解であります。」
「あ~ソフィア、先に私の胸をはだけさせて頂戴。」
「ウフフフ……良いのですか?」
私は周りを見て胸の乳房を惜しげも無く二つを出させて、その乳房に二人を吸い付かせる。蝉みたいになって必死にお乳を飲む姿は本当に愛おしい。公園の木々ではうるさく蝉が鳴くが、これが日本の風景だと思うとうるさいよりも懐かしさがこみ上げてきた。
「あら~良かったね。お乳を貰えて。」
「ソフィア、私にも。」
「私にもって……?」
「そのジュースを飲ませて。」
「うわ~……お母さんにもお乳ですか。これは牛乳と言うらしいです。」
「……!?」
私はおちょくられた気分で、少し怒った顔を作った。ソフィアは笑って紙パックにストローを差して私の口元に持ってきてくれた。
「三人揃ってお乳だよ~美味しいね~。」
「……ボッホ、」「キャッ!」
「なんで笑わせるのよ、お陰で牛乳を噴き出したじゃない。」
「アハハ……すみません、つい面白くて、アハハ……。」
初老の男性が近づいてくる。
「これはこれはお珍しい。どうですか、中でお休みになられませんか。ここだと少し目の保養には過ぎますでしょうか。」
私を正面から見ればそうだろう、ワイシャツのボタンを外して二つの乳房を出してはいるのだが、肝心の乳房は乳飲み子が隠してはくれる。だが、紛れもなくはだけた胸はそこにあるのだから、世の男性としては「そりゃ~気になる。」わな。
「えぇありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。マリアさまの様に見えるのでしたら嬉しいです。」
「第一農大高のご出身ですね、そう言われてみましたらマリア様に見えてきますが、やはりここは日本ですので応接間でお休み下さい。」
「ありす……。」
「うん、お願いしますか。ソフィア、ディスマスをお願い。」
「はい、ありす。」
この年配の男性は見た事がないかも。応接室を貸し与える事が出来るのならば理事長とかになるのだろうか。もしかして事務員さんあたりが私に気がついてくれて、理事長に声を掛けてくれたとか。ここの事務員さんは昔から優しい人ばかりだったからきっとそうだろ。
「うわ~……涼しいわ~、」
「良かったですね。続きしますか?」
「勿論よ、また二人を抱っこさせたら私にもお乳を下さい。」
「まぁ、可笑しい大きな赤ちゃん。」
お乳の催促の仕草が可愛い……三人。
「ありす、この部屋は馬の写真が多いわよ。それにこの黄色いのはトロフィーというのよね。」
「あ、……クロ、それと雷神!」
「これが以前乗ってあった馬さんですね、何だか大きいようですね。」
「少しは大きかったかな。その写真立てを持ってきて! ズズッズー、」
「はいはい、もうお乳の時間は終わりました。音を立てて飲むのははしたないですよ。」
「お代わりの催促なのよね。」
「コンコンコン。」
「はい、どうぞ。」
「あら~可愛い……、本当に双子さんでしたか。お茶を淹れて来ました。」
「ありがとうございます。それに大きな水差しまで。職員さんの分を取上げてしまいましたかしら。」
「いいえ、沸かせば直ぐに出来ますからいいのですよ。……馬が好きなのですか?」
「はい、私もここでお世話になって乗らせて頂いておりました。とても懐かしいですよ。」
「?……えぇっ~と、ここでは一般の方は乗馬が出来ないはずですが、何時位にご利用されたのでしょうか?」
「あ、いえ、子供の時に騎士の叔父から一度乗せて貰っただけです。紛らわしい事を言いました。」
「そうでしたか、その馬は勝ち気で本当に優勝ばかりでした。」
「この馬は今でもここに?」
「いえ、地方に出ています。黒川騎士さんだけが乗りこなすという、とても気難しい馬なんですがご存じですか?」
「はい、名前だけはですね。馬は……私が道産子でしたから小さい時には友達として一頭を頂いていました。」
「ま~それは素晴らしい。どうして女騎士にならなかったのですか。国体とかレコード保持されたのではないですか?」
「夫と出場して優勝は頂きましたよ、高校生でしたがあれもとても懐かしく思い出されます。」
「そうですか~、今日はお里帰りで寄られたのですか?」
「はい、昨日帰国しましたが懐かしさのあまり、自宅に向かう途中で寄ってしまいました。」
「……私、仕事がありまして、これで失礼させて頂きます。お昼休みまでここで自由にされていて下さい。」
「ありがとうございます。ですが?」
「私がまたお話を、続きをしたいだけなのです。絶対に帰らないで下さい。あ、姉妹の雷神は居ますから見学されて下さい。お二人の赤ちゃんもきっと喜んでくれますよ。」
「雷神が居るのですか、是非会いに行きます。」
その事務員さんはいそいそと出て行く。そこが問題なのだが私は懐かしさのあまりに気がつかないのだった。
そのあと……直ぐだが事務所では、
「ねぇ大変よ、あの有名人が帰って来たわよ。みちのく国体の優勝者で……、」
「白川さんよね、高校生の夫婦で出場されたという。」
「あ、それよそれ。少し顔が変わって見えるのだけれども、夫婦で高校生で出場とか、他には無いよね。」
「そうよ、これは大変、直ぐに黒川さんに連絡しましょうよ。」
「私、サイン貰おうかな。」
「ダメよ、悟られたら逃がしてしまうから。ここは一つ大きな楔を打って逃がさないように、、、直ぐに霧さんに電話よ!」
「は~い、」
裏でこんな事が起こっていたなんて、思いも出来なかったわよ。常日頃から、「もし私がこの馬事公苑に寄ったのならば直ぐに連絡を頂戴。」と、言われていたのだろう。
二人にお乳をあげて、汗も掻いただろうからゆったりとしてオムツを交換していた。それから二人に雷神を紹介して喜んでいたのだよ。
*)家族との再会と……ディスマスとリサ
「ほら、急いで!」
何処かで聞き覚えのある声が聞こえてきた。確かに澪お姉さんの声だよ。
霧お姉さまだけではなくて、明子さんも来たし遅れて両親も来てしまった。思わぬ再会に逃げ出す事が出来なくなった私だ。ソフィアに至ってはただオロオロとするしかなかったし、マイケルは……居ない。
「亜衣音ちゃん!!」
「亜衣音……?」
「え?……明子さん……**霧おね……?」
「そうよ。……本当に亜衣音なのね、少し身体がふっくらしてるけど、そうなんだ、亜衣音も双子を産んだんだね。」
「はい、澪お姉さん。」
「見違えたかと思ったじゃん!」
私は驚いて澪霧お姉さまの名前を、みおと発音出来なかった。心臓は飛び出さんばかりに脈を打つ。少し呆けたように立ち竦む私を、澪お姉さんはリサごと私を抱き寄せてくれた。
それでも実感が湧かない。気が動転しているばかりであって、私はどうしたらいいのかさえ判断が出来なかった。
ソフィアが声を掛けてくれて自分を取り戻した。
「ありす……いえ、亜衣音? ほら、二人を紹介しなさいよ。」
動けずに立ち竦む私にソフィアが勇気を与えてくれた。
「あ、そうね、私、生きて戻れたのよね。」
「そうよ亜衣音ちゃん。帰宅をどれ程待ち望んでいたのか、分らないでしょうが沙霧だって諦めずに待っていたのよ。」
「ひかる、ひかるが私に化けているのよね?」
「ひかるちゃんと大地くんね、もう出て行ったわ。昨日になるのだけ……、」
「澪さん、それは後にしましょうよ。今は再会を喜んで、それに両親も直ぐに着くはずですよ。」
「そうね明子さん。会議室にお世話になりましょうか。」
明子さんは事務員の方にお礼を言っている。ソフィアはディスマスを抱いて立ち竦むのは同じか。
「私は、私は……エ~ン 澪 お姉さま、私は……、」
「いいのよ、何も言わなくていいのよ。このまま泣いていなさい。」
「うん、グシュン、ヒック、グシュン……。」
私は澪お姉さんの胸に顔を押しつけて泣く。リサは今は明子さんに抱かれているだろうか。そんな気持ちが一瞬頭を過ぎるが、私は直ぐに泣きだしてしまう。
そんな私を優しく受け止めてくれて、背中を、子供をあやすように軽く叩いてくれている澪お姉さん。
「あの~……この子は、ディスマスくん。男の子なんですよ。」
「え”……それはほんとうですか。」
「はい本当です。それとそちらがリサちゃん。女のお子さんです。双子で丈夫に産まれきましたのよ。」
「あな……たは?」
「私はソフィアと言います。亜衣音さんの付き添いですが、夫さんは今は……ご自宅の様子を見に行かれてあります。マイケル・城南と言われます。」
「そうですか、それはありがとう存じます。それで亜衣音は何処に居たのでしょうか。」
「はい、ギリシアですね。何でも飛行機が墜落してとかなんとか。あれからかなり苦労されたようですが、途中からしか存じません。」
「うわ~あれは本当だったんですね、ありがとうございました。」
あれは本当、とは……恐らく麻美お義母さんからの報告だろう。
沢山のタクシーが馬事公苑の駐車場に入るなり、ドドドっと人が押し寄せて来たのが分らなかった。その中には敢えなく見付かって御用となったマイケルの姿もあった。どちらかと言うと出頭した方かもしれないな。
「亜衣音~~~!!」
「亜衣音!」
「あい・・・ね。」
お母さんの声が聞こえる、続いてお父さんの声だ。それからホロお婆さまでその後はもう分らない。歪んだ顔をソロリと上げてお母さんに視線を送る。そこには私と同じであろう……崩れた顔があった。
「お母さん……私、帰ってきて良かったのかな、居ない方が良かったかな。」
「バカ!」
「亜衣音、帰る場所は一カ所だけだよ、帰って来きてくれてありがとう。父さんも嬉しいよ。」
「う~お母さん!……私、死んだと思うんだ。どうして生きているのかが分らないのだけれども、マイケルに助けられてそれで、それで、私、私は……、」
「うんうん、いいのよ。お母さんだってどれだけ会いたかったか後で話して上げます。それにね、私たちは一度だって亜衣音が死んだとは考えても居ないのだから、もう安心していいのよ。どれだけ寂しい思いをさせたかと考えたらもう親も失格だよ。」
「違うよ、それは違う。私が、私が悪かったんだよ、本当に帰ってきて良かったんだよね。」
「そうだよ、どれだけ帰宅を待ち望んでいたか。それにこんな可愛い孫まで連れてきてくれて、嬉しいに決まっているよ。」
「あり……いや、亜衣音。俺、捕まったよ。」
「ドジ、マイケルも面食らったかな。こんな大勢の家族がいて。」
「いいや、とても楽しい家族だよ、俺だって亜衣音を妻に出来て嬉しいよ。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
「あ、新しい家族出来たんだよ、勝手に結婚してそれに子供まで……報告もせずにごめんなさい。でも、私、は、とても幸せなんだよ、それだけは信じて欲しい。」
「うん、うん、亜衣音、大丈夫だから、家族みんなで新しい家族は迎え入れるから心配はないよ。」
「亜衣音さん、お子さんの紹介をされたらどうでしょうか?」
「そうね、ソフィア、また置き去りにしたようでごめんなさい。そして……ありがとう。」
「いいえ、いいのですよ。私だって嬉しいに決まっていますから、それにほら、皆さんお待ちかねのようですよ?」
「う~……何だか恥ずかしい、マイケル。」
「あぁ俺は横に居るから、ここは妻の実家だよ、亜衣音が紹介しなくてどうするよ。俺は家で散々に質問攻めに遭ったからさ、」
「うん、こちらが夫にしたマイケルで、ソフィア……はいこの子がディスマス。そしてこの子がリサ、え~~と、二ヶ月になるのかな。八月十日に産まれました。ウソのようだけれどもディスマスは長男です。」
「うっ、」「そ!」x?
「ホントだってば、ほら、こんなに可愛くて男の子です。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」
「ほら、私のお母さん、ディスマスのお婆さまですよ。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」
「ほんと、めんこいわ~。」
「お父さん。リサと言います。エーゲ海の真珠という意味です。」
「うぉ~~~~~~リサ! お爺ちゃんですよ~。」
「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「お父さん、近いってば!」
「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「リサ、驚いたかな~お爺ちゃんだよ、分るよね~。」
「うわ~リサ、止めて、ストップよもう部屋をメチャクチャにしないでくれるかな。」
「亜衣音、これはディスマスの方だろう、どうしてか怒ったのかな。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
「んもう~……ま~たお母さんを揶揄うつもりなのね、困ったちゃんよ。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
「お母さん、お父さん、それに澪お姉さん、明子さん。万事こんな調子なのですよ。これ位では済めば御の字なのでしょうが、兎に角家が大変だとは思いますが、こんな四人とソフィアも入れて五人をよろしくお願いします。」
「うんうん、いいよいいよ。五人でも十人でもね。」
「麻美お義母さんは来ているのかな、ホテルで他人行儀して怒っていないかな。少し心配。」
「あれは大丈夫、亜衣音ちゃんだと見抜いて家に来たからね。それからが信じる信じないで大いに揉めてね、家でふて腐れています。」
「うん謝らないいけないな。ウソが通らないのだとは薄々感じてはいたんだ。」
この場には澪お姉さんが残ってお部屋の掃除と、理事長さんやらにお礼を言うそうだ。ホロお婆さまはキビキビとしてタクシーを集めている。
二人の子供を両親に抱かせて、私はマイケルに寄り添って駐車場へと歩いた。マイケルは優しく肩を抱いてくれている。やっぱり嬉しい。ふとソフィアに視線を送ったら、涙を流していたのかハンカチで目を拭いている。
「ごら~亜衣音!!」
「ヤ! 桜子お婆さま!」
「あまりにも遅いので迎えに来た。早うこの車に乗れ!」
「はい、マイケル。」
「男はいい、亜衣音? 顔が変わったか、そうだろう無理もないか。」
「はい、急に私とそこのソフィアと言うのですが、二人とも急に大きくなってしまいました。顔……変でしょうか?」
「大丈夫、麻美よりも遙かにましさ、さ、麻美も会いたくて待っているよ。」
「はい、お邪魔いたします。」
「ほれ、急いでもどれ、スタンコナス!」
「奥さん、スタータクシーですよ。いつも酔ってあるのですね?」
「ばぁ~ろう、孫とひ孫が帰って来たんだ、黙って運転しろ!」
「へいへい、お嬢さん、そちらのタヌキの口は手で押えて下さいよ。」
「はい、いつも祖母が乱暴で申し訳ありません。言い聞かせても無理でしょうがもう少し丸くなるよう躾けますから。」
「お嬢さんが一番真面のようで安心ですよ。いつも呼ばれるので文句も言えやしませんがね。」
「お婆ちゃん!……メ!」
「そうかえ亜衣音がね~、ウ・・・赤ん坊を連れてくるとはね~、麻美にはなんと言って謝るかな~。」
「すみません、私が代わりに謝っておきますから、普通でよろしいでしょう。」
「任せる……。」
桜子お婆さまは私の左手を握ったまま、目を瞑っている。寝てはないだろうとは思うが、こんな事は初めてだ。
「自宅着きましたよ。会計は纏めて頂きますのでこのまま降りて下さい。」
「はい、それで……お婆ちゃん、着いたから降りるよ。あら彩香ちゃん……?」
自宅の玄関の前で一人の女性が立っている。少し風貌が藍に似てると感じたが、どことなく違和感がある。
「ほら、降りて!」
「あいよ、藍、手を貸して。」
「はい、お婆さま。ま~た酔っ払ってタクシーに乗って……いつもすみません。次回はきっと阻止してみせますから。」
「いいですよ、俺はうちの配車掛かりに文句を言うだけですから。」
「はい、…………………………亜衣音ちゃん?」
「う~うん、藍ちゃんかな。少し大きくなったの?」
「亜衣音ちゃんこそなによ、随分と老けているわね。」
「わ~それは無いわよ、藍……、」
「うん、お帰りなさい、亜衣音ちゃん、」
「ただいま、やっと帰れました。あとね、子供とゴツイ旦那も着くからよろしく。双子だからね。」
「うん知ってる。亜衣音ちゃん、うん、うん、任せていいわよ。」
麻美お義母さんが玄関まで出て来てくれた。
「亜衣音ちゃん、……、」
「はい、昨日は申し訳ありませんでした。帰宅する勇気が出なくてウジウジとしていまして、すみません。」
「いいわよ、私も直ぐではなかったけれどもね、亜衣音ちゃんだと思っていましたよ。でもね、この家の者はとても頑固でね私の話をね、全否定してくれてさ、悔しいやら歯がゆいやらで。それから小山で旦那を見つけたから、とっ捕まえてしまったが、すまないね。」
「いいですよ、ドジマイケルなのですから。抵抗は無かったでしょう?」
「それもさ、あっさりと御用になって酒を飲まされていたよ。」
「うん、そうなんだ。私の行き先は訊かなかったのかな。」
「訊いたわよ、それもしつこくね。でもね、頑として白状しなくてね、困っていた処に電話でしょう? 私は嬉しくなってって、さ、家に入って。」
「あ、はい、お邪魔し、」
「違うでしょう?」
「はい、ただいま帰りました。」
「お帰り、亜衣音。」
「亜衣音ちゃん、お帰りなさ~い。あら、ホントだわ、私たちよりも老けていたわね。」
「え~高校生ですよ。まだ卒業してないし。」
1971年9月9日に飛行機が不時着して、今日は1972年9月9日、丁度一年が過ぎていた事になる。それにみんなは高校を卒業して大学生になっているのよ。驚いてしまう。
「大地は……いないの?」
「それがね、居なくなってしまってね、私たちも困っていたんだよ。」
「え?……どうしてだろうね。私は通告無しで戻ってきたから私の所為ではないよね。」
「当たり前よ、でもね、亜利沙ちゃんの葬儀が済んで出て行ったようなのよ。」
「え”・・・そんな、どうして死んだのですか、なぜ死ななければならなかったその理由は、これも私の所為なのですね。」
失言だと思った麻美お義母さんに、帰ったばかりのお父さんが助け船を出している。お母さんは麻美お義母さんの肩を叩いて奥に入って行った。
「亜衣音、多分だが違うと考えている。ま、これは追々と話してあげるから、今日はゆっくりと身体を休めるといいさ。」
「はい、お父さん。」
マイケルが玄関に入ると、奥からは災難が押し寄せてくる。先ほど帰って来たというカムイコロさんだ。
「亜衣音~……おかえ……?」
「イヤ、ダメ~~~~~!!」
「ウホホ……俺へのお土産や!」
「うぎゃ~……うぎゃ~……うぎゃ~……うぎゃ~……ヒ、ひ、ヒ!
うぎゃ~……うぎゃ~……うぎゃ~……うぎゃ~……グマ~!!」
「亜衣音、この男、俺が頂く!」
「イヤ~……カム・バ~ック! 離れて~……!!」
目に♥のマークを点したカムイコロさんが、マイケルを見初めて抱きつく。それを必死になって引き剥がそうとするが、二人とも力自慢の巨体がゆえ不可能なのだ。マイケルの泣きそうな顔に焦る私はどうすることもできない。
「う~~……ディスマス、」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
大きく開け放たれている玄関から大きくて黒い影が明後日の方角、裏山の方角へ飛んで行った。マイケルまで飛ばさなくてもいいのにな!




