第187部 偶然!……麻美お義母さんとの再会
これで私は勇気百倍になったのも同然よ。明日はひかるとの決戦よね!
翌日に変わり、ソフィアは静かにベットに潜り込んでいた。そんなソフィアからはどことなく男の臭いがしている、気のせいかな。ソフィアに寂しい思いをさせた事に私は反省をする。
*)黒服……
ロビーで黒服の女性と夫のマイケルがお話をしている処に出くわした。
「誰、この人は?」
未だに起きてこないソフィアに代ってマイケルには、オムツの洗濯をお願いしていたのだった。そのマイケルの戻りが遅いので気になって降りてきた処であの二人を見つけたのだけれどもね、……怪しいわよ。
オムツや私たちの衣類、主に下着類の洗濯はソフィア任せになっている。マイケルのデカパンですら文句も言わずに洗ってくれるのがとても嬉しい。これは妻の役目のなだからね、それを他人に任せるとは妻失格だよ。
少し離れた処から一人の黒服の男が歩いてきているようだ。同じ黒服だから連れだと判断出来る。私は二人の子供たちが寝ているので、心配しながらも置いて出て来ちゃった! これでは母親失格だよ。次は……いつ人間失格に繋がるのかな。
「マイク、どうしたの?」
「あ、いや、ランドリーで声を掛けられてナンパされていたんだ。」
「なんだナンパか。え!…………?」
うそ! この人は麻美お義母様だよ、うわ~どうしよう。するとあの男性は明さんよね。
「あら……? ……何処かでお会いしましましたかしら。」
「私はそこの優男の妻です。初めてですよ。こんな男をナンパされなくても素敵な旦那さまいらっしゃるではありませんか。」
「いえ、どうして分るのですか薬指にはリングもしていませんが?」
「それは直ぐに分りますわ、ほら後ろに、」
「麻美、どうした。」
「あら、明さん。それがですね、」
「はい、こちらの奥さまから声を掛けられまして、それで立ち話をしていた処ですが。」
あらあら、マイケルに話しかけたのは麻美お義母さんの方だよね、なんで私がと考えるのはやぶさかか、私は思い切りの悪いさまなのか。
「麻美、もしかして?」
「はい、このお二人が私と同じ感じがしたもので、それで引き留めていたのですよ。間違いありません、特にこのご婦人からはとても強い気が伝わってきます。」
私は身を乗り出すマイケルを手で遮って抑える。これからは私の出番に間違いないのだから。でも、どうしてこのホテルに居るのかが問題で、それにこの黒い服は喪服だよね。それを聞き出すのが先決かな。
「私たちの事がお分かりに?」
「はい、私は、いえ夫は違いますよ、私だけですが、ここまで言えばもうお分かりになられましたよね。」
「はい、同族かと。私たち夫婦ともそうですね。でも貴女からはそれらしい気は感じられませんよ?」
「私は~もう開放されましたから、普通に人として生きています。」
「おいありす、」
「黙っていて!」
「いや、子供たちはどうした、それにこんな処で立ち話もなんだかね。」
「寝ていたから置いてきてマイクを迎えに来たのよ。それもそうだわ子供がベッドから落ちてもいけませんわね、どうでしょうかお部屋へ行きますか?」
「殺されるのは勘弁してほしいわね。明さん、娘夫婦には暫く待つように言って下さらないかしら。お話が済みましたら戻りますから。」
殺されるとかって冗談だよね、私ってそんなに大きな口をしたオオカミにでも見えるのかしら。マイケルはともかく私に対して敵意を見せているのだわ、いや観察しているという感じかしらね。
「ありす、落ち着いてくれないだろうか。そうやって敵意を見せるのはどうかと思うぞ?」
「え? マイク、私ってそんなに怖い顔をしていたのかな。」
「俺だって引ける程にな。マフィアではないのだからな。」
「あら、あのマフィアたちは可愛いものでしたよ。それに引き換えこちらのご婦人は強者でしょうかしら?」
「嫌ですよ、もうそんな事はありません。」
「ほら、白状したよ?」
「இஇஇ……。」x2
麻美お義母さん共々閉口してしまうマイケル。私は面白がっていたのだろうか、その後にマイケルから窘められてしまった。これってやはり年の功だよね。
廊下を歩きながらマイケルに説教されて、後ろを歩く麻美お義母さんからは笑われる始末。とても恥ずかしい。懐かしい麻美お義母さんに会えたのにね……。
名乗りたい気は喉まで来ているのに、それは止めたがいいような気がしているのも事実。風貌が変わってしまったのが何らかの意味が隠されているのかもしれないしさ。バレたならそれからでいいのよね。
でも何処かしら変な気もするのよね。私を小さい時に育てて頂いた麻美お義母さんだもの、昔の事は覚えているつもりよ、でも、何処かしら歴史的にも齟齬が感じられるというか、私の記憶と違っているのよね。
「コンコンコン。」
「あら、自室にノックされるのは?」
「あ、そうですね、。連れが一人寝ていますので一応は礼儀としてですわ。少し変に感じさせましてすみません。」
「いえ、こちらこそ口出しを……過ぎました。」
「おんぎゃ~うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「はい、……あ、奥さま。」
「うんぎゃ~おんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「良かった起きてくれていて。お客様を案内しましたので入って頂きますがいいですか?」
「はい、私の顔以外は乱れていますが……よろしいでしょうか?」
「あ!……ディスマスが起きたのですか?」
「はい、お二人ともですよ。泣き止むようにと思いましたが、私の胸には口を付けて頂けません。」
「まぁ……でも無理ですよ。ありがとうね。」
部屋の入り口で立ち話も終わらせて部屋に入り子供に声を掛ける。
「ディスマス?……どうして男の子さんが。」
「はい、自慢の息子ですよ。今紹介致しますが一応は何が飛んでくるのか注意をされて下さい。」
「いえ、それは娘の時に経験済みですので心配は要りませんが。」
「まぁ……娘さんが……さぞや大変でしたでしょうね。」
「はい……、」
「இஇஇ……。」x2
マイケルは私の顔を大きな目をして覗き込むのだから嫌になっちゃう。私は私でややバカにされた気分に陥る。後に事実だと知らされる訳だが、色々と質問されていたのが私という人間を探っていたのだとか。
「ディスマス、リサ、只今~……。」
「ガシャン!!」
「ウキョ~……もうどうしたのよ、」
「うんぎゃ~おんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「おんぎゃ~うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「わ~ごめんなさい。お母さんが悪かったわ、許して泣きやんでよ。」
私の声を聞いて更に大声を出して泣きだした二人。私の顔を見てピタリと泣き止むあたり、これは私への抗議としか思えない。きっと心の中ではあっかんべえ~か。
「リサ、ディスマス、お客様を連れて来たのよ、会ってくれるかな。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
「そう良かった、麻美さんと言うのよ。お婆ちゃんだからね!(あ!……)」
私はつい麻美さんの名前とお婆ちゃんとまで言ってしまい慌てる。不自然にならないようにして麻美お義母さんに視線を戻すと、別に気にしている風でもなくて視線は二人の娘へと向けられていた。……聞こえていなかったのかな。
初対面を気取っていてお婆ちゃんとは言わないよね~……普通は。
「はい、お婆ちゃんですよ、ま~めんこい!」
「ありがとうございます。可愛いのですよね。」
「んだべさ、こりゃ~やんちゃに育つだべさ。」
「そうだべ……そうでしょうか。多分ですが私の夫の血が濃ゆいので心配しています。」
「おいおいありす。それは無いだろう。」
「いいえ、大ありですわよ、そう思われるのでしょう?」
麻美お義母さんは私と同意見のようで安心するも、男の子だと聞いて面食らっているにも拘わらず、興味は既に本当に男の子なのかという顔になっている。
「はい……男の子さんですか、信じられません、ありえませんよ、こんな……、」
「事実ですよ、オムツを替えましょうね~ディスマス、リサ。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
「ほらマイク。」
「あ、そうだった俺が持っていたんだ。」
ぼけ~っと突っ立っているマイケルにオムツを出すように催促をした。本当に私とこのご婦人のやり取りに注意を向けていたのだろう。気もそぞろという間の抜けた顔を普通の顔に戻しながら私にオムツを渡してくれた。
麻美お義母さんはディスマスを注意深く顔を見て確認し、残るは……あそこを見て確認あるのみ。私としては既にマイケルからオムツを受け取っている、準備は万端だよ。
「ありすさん、私に交換させて貰えませんか?」
麻美お義母さんはリサからオムツを交換するらしい。でもこれは問題かも。
「良いですけれども……飛んで来ますよ?」
「いいわよ懐かしいし、だいじょ……いや~~~……。」
「ほら、リサの先制攻撃が始まりました。」
「も~オシッコを飛ばすなんて、ハシタナイ!」
「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「あ、ごめんなさい。私が悪かったわ、直ぐに気持ち良くなるから許して。」
笑いたい……でも笑えないよ。
「すみません、この子は産まれて直ぐに悪さをするのですよ。これはこれで問題かもしれませんが、」
「いいえ~とても素直で可愛いですよ、あの子に比べたら優しいと思います。」
「それってもしかして?」
「はい養女だった子です。でも直ぐに優しくて思いやりのある子に育ちましたですよ。」
「ありがとうございます。」
「なんですか、それは。」
「いえ、娘を褒めて頂きましたから、?(ウヒョ~危ないアブナイな~、)」
ついつい自分が褒められたからつい麻美お義母さんへお礼を言ってしまった。
「で、今度はデ……デ?」
「ディスマスとはギリシア語でして日本語に直しましたら夕陽という意味ですのよ。夕焼けの時に産まれたので、そう名付けました。」
「あら~可愛い、チョンチョンしたら喜んでいます。」
「ディスマス……この浮気者!」
「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「あ~ごめんなさい、お母さんが悪かったわ、謝るから泣き止んでよ。」
「ウフフフ……可笑しなお母さん。さ、これでいいわよね。ヘタなオムツのあてがいだから気持ちが悪かったのよね。」
「おいありす、もしかして!」
「そうですよ、オムツはこうやって、この順序でお尻に巻くのですよ。知らないの? ……誰にも教わらなかったとか?」
「はい妹たちのオムツ交換の様子を見てて、その見よう見まねで、」
「とても小さい妹さんが?……そうでしたか、ご家族とは離れていたのですね。」
「はいそうです。今日はその実家に戻って両親を驚かそうと思っていたのです。」
もう麻美お義母さんはこの時点で、私が亜衣音だと確信していたらしいのよ。
「あらあらあら、もしかして産まれた報告をもしていないと?」
「いえ、……結婚した事さえも報告していません。親不孝過ぎますか?」
「それは……そうでしょうね。ご両親はどれ程心配なさっているのか、娘さんの貴女は気づかないでしょうが、何れは貴女と同じ事をこの子たちが行うのでしょうからその時は怒られませんよ?」
「はい重々承知いたしております。この子らに見捨てられても文句は言いません。」
「あら珍しいですわ、産婆さん以外から抱かれても泣かないなんて。」
私たちを見ていたソフィアが口を挟んだ。そう言われたらそうだわよ、他人に抱かれるだけで泣くのよね。
「ソフィア、そうだわね……どうしてかしら。親孝行かしらね。」
私は物は試しだと考えて麻美お義母さんに二人とも抱かせることにした。
「でしたら二人とも抱いてみますか?」
「いいわよ、私だって双子にお乳をあげていましたからね、簡単です。」
「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2
とても喜ぶ二人。そう言えば麻美お義母さんは、霧お婆さまの子に乳母代わりにお乳をあげていたと聞いている。これはその時の再現になるのかしら、霧お婆さまの子が私のお母さんなのよ。
「懐かし~わ~、今でも二人一緒に抱けるかしら!」
「はい、大丈夫のはずですよ。」
「うわ~とても重たいわ。昔はそれでも抱いてお乳をあげていたのよね。」
「ありがとうございます。」
「え、なんでそこでお礼を言うのかしらね、」
「お茶でございます。奥さま。」
「ソフィア、ありがとう。」
「そう、貴女がソフィアさんと言うのですね。私もロシアの知り合いがいますが少し似ているかも。」
「私はギリシア人ですから違います。」
「ごめんなさい。そうよね、他人の空似ですわ。でも、ありすさんは本当に娘に似ているようですわ。でも、今はまだ高校生で独身ではないですが年齢が合いません。もしかすると……。」
「もしかもあれかもとは、ありえません。あ、それでマイクに声を掛けてどうする予定でしたか?」
私は他の人の前ではマイケルをマイクと愛称で呼ぶようにしているのよ。これだと本名が分らないからいいのよね。
「あ、すみません。つい人狼の方を見つけてそれで好奇心だったのでしょうか。なんだか懐かしく思えたものでしたから。」
「マイク、あんた昔にナンパしたとかしてないわよね。」
「俺が?……してまわったに違いないだろう。でもこの人は覚えがないが、日本ではありすに似た人が一人いたな。秋葉原で声を掛けたが殴られた。」
「あ~ぁそうでしたか、そうでしょうね、このナンパ野郎が、」
「仕方ないだろう、俺の宿命の相手を見つけるのが俺の仕事だからさ。」
「あの~お二人で、後でお願いします。」
「ほら、マイク、言われたじゃありませんか。」
「ありすが振るから悪いのだろうが、妬いているのか?」
「ソフィア~、マイクを連れ出して……お願い。」
「いいですわよ。ホテルに行きましょね? マイクさま。」
「バカ! 行けるか。殺されてしまう。」
「私は平気ですよ、奥さまから殺されても食べられても本望です。」
「俺はディスマスを育てる義務もある。死ねるか!」
「はいはいはい、もう出て行って頂戴。序でに二人のお守りもお願いよ。」
「はい、奥さま。マイケルさまはディスマスお坊ちゃまを抱いて下さいね。」
「ありす、行ってくる。」
「はい、ラブホ以外は何処でも良いですからね。」
「お前と一緒にすんな!」
「バ~カ、」
「仲が良くて羨ましい、」
「あら、貴女ほどではありませんわ。今でも仲はよろしいようで。」
「喧嘩するだけ疲れますから、しませんよ。」
「うわ~旦那さま想いで素晴らしいです。」
「大人を揶揄うものではありません。」
麻美お義母さんが夫婦喧嘩すれば明さんは間違いなく伸されてしまう。それ程に強いのが麻美お義母さんだ。だから夫婦喧嘩はしないと心に決めているのだろう、いやはや良く出来た妻だ。
「え~私にでしたら良いのですか?」
「貴女は、他人には思えないのですよ。何処かしら亜衣音……その子は友人の孫です が、高校に入るまで手元に置いて育てていましたから、とっても、今でもとても愛しているんです。」
「そうですか、私はそれ程その亜衣音さん……という人に似ているのですね。」
「はい、多分ですが成長したらきっとこうなのだろうと思います。」
この人にはウソが付けないだろうな。あまり墓穴を掘らないように……他人のふりそうよ他人行儀で押し通すのよ、ありす!
それはどうでもいいのよ、問題は麻美お義母さんの方だ。なんだか目に涙が見えてきて、言葉が日本語の体をなしていない。動揺しているんだわ。
「ありすさんも北海道の産まれなのですね。」
「はいそうですね。今は東京ですが親不孝者で家出してしまいました。今は子を授かってようやく親心が分ったのだと思います。」
「その亜衣音さんには……もうお子さんがいらっしゃるのですね。」
「そうですね可愛い娘がいます。貴女は帰られたらその分も親に甘えてはいけませんよ。」
「いいえ親には迷惑掛けて甘えるもので、帰宅したら早速に子守して頂きましてよ。これが今時の常識です。」
「それ……非常識というのですよ。親は大事にしないとダメ。」
「は~いそうしますが子守は多分、私から取上げるでしょうね。」
「そうかもしれませんね、それはそれで親、あ、貴女の親としては子育てには浸食されたくはありませんよね?」
「はい、自分でしっかりと育てます。例え嫌われてもですね。」
「親? それともお子さんにですか?」
「両方ともですよ。でも、私も働きに出るのでしたら無理かもしれません。」
「幾つの時に家出を?」
「はい、十七歳になった時でしょうか。それから色々ありましてギリシア人のマイクに助けられてしまって、そのままくっいてしまいました。」
「電撃って、やはりあるのですね。羨ましいですわ。その亜衣音も高校生で結婚までしましたよ、可笑しいでしょう?」
ついつい地が出る処だったが、いやいやもう出していたのかな。慌てて取り繕うのだが……。
「うっ、いいえ、そういう人生もありでしょうから。それで幸せになれればそれでいいのです。」
「そうですね、でも、あの子は今は不幸のどん底です愛娘が殺されてしまって。う~……、」
「そ、そんな~……。それで今日はお葬式なのでしょうか?」
「はいこのホテルに娘夫婦が勤めていますので、お昼からですので今朝の合流予定でした。」
もしかして、ひかると大地の子が殺されたのなんて、あり得ない。だってだってひかるは敵のはず、どうして殺されなけらばならないのよ。私は思案顔になって訊ねていた。
「本当に、その亜衣音さんの子が殺されたのでしょうか?」
「はい、可愛いさかりだというのに、どうしてでしょうか、攫われて戻らず挙げ句は 空き 地 に放られた 処を 発見されて、う~……。」
嗚咽で言葉が詰まる麻美お義母さん。もう聞くに堪えない私だった。これでは私も帰宅することが出来なくなったのも同然よね、どうしようマイケル。どうしようディスマス、リサ。
「その子は幾つになられたのですか?」
「そうですね三ヶ月です。私の子供とは違いますが、本当に目に入れても痛くない程、それ程に可愛がられていたようです。」
え? 私の時間軸がひかるの時間軸とは違うのかしら。私がミコノス島で急に大人びたのは、二人の時間軸が重なって元の世界に戻ったのかしら。う~ん……分らないわ。
「そうでしたか、では遅くならないようにしませんと、お引き留めしてすみませんでした。」
「はい、もう大丈夫です。お見苦しい処を見せてしまいました。そうですね貴女さまの家族も待ってあるでしょうからお暇させて頂きます。貴女も無事にご両親に甘えられますように願って止みません。」
「はい、ありがとうございます。私は……大丈夫ですよ、さ、お早く。」
「えぇ、急いで向かいます。」
私を亜衣音だと確定させて早く戻って家族に知らせたい……のだという思いは私には分らなかった。急いで向かいますとはそういう意味なのだろう。なにも急いで向かう必要は無い、葬儀の時間はお昼からだと決まっているはず。なのに時間の余裕が無いような言い方だった。
私は涙を流す訳にはいかない。だからと早く麻美お義母さんを追い出している。私の方からボロを出す訳にはいかない、だから黙るに限る。
「は……い、お気を……付けて。」
私はもらい泣きしたようで麻美お義母さんが部屋から出て行ってからも涙が止まらないのだ。何とも言えないこの気持ちにとてもいらだつ。
私はルームサービスを頼んでいた。
「ごめんなさい、ブランデーとお昼のルームサービスをお願い。急いで欲しいけど、よろしいでしょうか?」
「はい出来るものですみませんが至急お持ちいたします。」
「そ、ありがとう。」
私はやるせない気持ちをお酒で誤魔化したい。それでルームサービスを頼んでみた。マイケルとソフィも居ないし、二人の子供だって今は居ない。今が泣けるチャンスだよね。お昼の料理なんて序でだもの、お酒を飲む口実だよ。
「う~きっと大地が泣いているよね、家族だってお母さんだって泣いているよね。私……どうしたらいいのよ。私だって泣きたい……、」
マイケルは泣いてロビーから出て行く麻美お義母さんを見ている。それはそうだろう私を心配して、ホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいるしかないのだから。その後になっても自室に戻らなかったのはマイケルの優しい思いやりかな。
ソフィアだってただ事ではないと悟って、
「マイケルさま、あのご婦人は、」
「あぁ泣いているな。ありすいや亜衣音と何かあったのだろうが、どうしたものか。」
「だったら戻りましょうよ、奥さまが心配です。」
「いや、恐らくだが亜衣音としても泣いていると思うよ。何も無ければ俺らを迎えにくるはずさ、だからここに居る。あと三時間して呼びに来なければ帰るとするか。」
「はい、マイケル様がそう言われるのでしたら。お乳の時間までは二人も起きないでしょし、」
「だったらいいな、部屋ではどうなっているか、ありすが心配だよ。」
「はい……マイケル様。」
先ほどの夫婦と若い夫婦、それと男が一人混じってホテルから出て行く様子をマイケルは眺めていたらしい。




