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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第十三章 番外編  人狼と少女 亜衣音……β世界線

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第186部 帰国と……一抹の不安と


 1972年8月28日 ラフィーナ


*)帰国に向けて


 渋々今日の宿泊費を払うのだけれども、これは納得はとてもではないが出来はしない。だから私はマイケルの後ろに隠れて文句を言う。


「おいこら! ババァに払う金は無い、出て行け!」

「おや~? この売買契約書は昨日の日付じゃ。ならばこの家は昨日からがワシの所有物になっておる。退去の日付は……無いの~、さてどうする。」

「う~マイケル、私には敵わないよ、追い出してよ。」

「なんなら警察を呼べばいい、幾らでも相手になってやるわい。」


「ありす、俺は警察には弱い。だから、二十ドル払おうか。」

「そんな~二十ドルものお金……勿体ない。」


 私が二十ドルものお金を払おうとしたらさ、ソフィアが窓をしれ~っと開けていたのよね、私は気づいていなかったけれどもね。


「少ない、まだ出せ。」

「でもさっきは二十ドルだと言いましたよね。」

「言うたが、一人が二十ドルだろう。ホテルでは一人が幾らだて、同じよ。」

「ウキョ~……エアードライブ……!」

「なに馬鹿な呪文を唱えておる。ワシには効かぬ。」


「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。(ババァ飛んで行け~。)」x2

「ウキョ~……!」


 ディスマスとリサのコンビネーション魔法が発動して、お婆さんは窓から遙か彼方へと飛ばされた。


「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。(もう戻らないよ。)」x2

「ディスマス、リサ~ありがとう~……、とても助かったわ~。」


 産婆さんにソックリだったのよね、でもでも、何処かしら違和感があって気持ちが悪いのなんの、耐えられなかったんだ。


「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2


「マイケル、ソフィア、早く荷物を纏めて出て行くわよ。」

「そうだね、ありす。」



 出ていく時、アテネ空港の異様な警備には驚いた。ここかしこで見かける警察や民間警備の人…人……人…………たち。まさか私を捕縛に……あり得ない。


 こんなにごった返す中、東京までのキップが取れたのが不思議だと考えてマイケルに質問してみたんだよ。するとどうだろう、


「1972年ミュンヘンオリンピックがあるから、只今、集客中で各国へお迎えの飛行機を飛ばしているからだろう。こちらはそのお迎え便の飛行機に乗るのだから、空席が多いのだよ。」

「え~ミュンヘンオリンピックなんて聞いてない。誰も教えてくれないのね。」

「あったぼうよ、ありすも色々と忙しかったからね無理もない。」


 マイケルが言いたいのは、ドイツに訪問する客をより多く集めるには、それだけの下りの便を多くしなければならない、そういうことらしいのよね。すると機長さんなんて、東南アジアから金で引っ張って来たのかな? CAの人なんかその辺のご婦人~・・・という、お尻の大きい年配の人ばかりなのよ。若い女性が居ないのは、日本との文化の温度差なんだろうね。若いCAが直ぐに芸能人に口説かれて結婚してしまうのには、航空会社には堪ったものではない。


 このドイツのCAに手を出しても、大きな尻がそれを許さないのよね、うん、戦略的にも理にかなったものだね。



 いよいよこのギリシアから出て行く、お別れである。アテネの国際空港にて搭乗手続きを行い、順調に騙す事が出来た。いや、誰かの差し金が働いていたのかもしれないとは、この時は思いもしていない。


 飛行機に搭乗して離陸してからシートベルトのサインが消えた。それからだよ一人のCAが私の横に来て言うのよね、双子を抱えているのも条件だったらしいのよね、姉妹の双子だという触れ込みだったんだから。


「え”?……私は、ありす・城南ですよ。白川亜衣音ではありません。」

「それでお子さんは双子でしょうか?」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。(姉弟です!)」

「はい……それはそうですが、こちらの子はリサと言います。夫はディスマスと言う長男ですよ。」

「(夫で長男)?……はい、失礼致しました。」

「はい、……いえ。」

「あと、後方にはキッズルームもございますので、用事の時はご案内致しますが、その時はお呼び下さいませ。」

「はい、ありがとうございます。」

 


 私は不意を突かれたようで、背筋が伸びて瞳孔は大きく開いていたはず。緊張のあまりに顔や手のひらには冷や汗が滲んでいたはずよね。「夫はディスマスと言う長男」……なんて、意味不明の説明でCAさんも首を捻っていたわ。


 後になってマイケルが言うのよね、でもね……、


「だって、もう帰れるのだからさ、心ウキウキでソワソワのしっぱなしだったからね。こんなのに気がつくなんて不可能なのよ。」

「それはそうだろうが、俺もこんな事の想定は考えもしなかったよ。ありす……ゴメン!」

「いいわよ、リサが助けてくれたから良かったけれども、……リサ、ありがとうを言わせて貰うわ。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」

「そ、良かったわ。」


 どうも白川亜衣音の写真が手配されていたらしくて、飛行機では必ず照会をしているのだろう。だけれど私はミコノス島の教会でやや成人女性の風貌を得ていた為に、少し似ている……? で済ませられた。


「ディスマスが男の子で良かったわ、ありがとうディスマス。」


 双子の女児というのも重大なキーワードだったらしい。それと、キッズルームへ案内とは、これいかに。


「あ、それな、ディスマスが男の子というのを確認したいだけだろうから気にするな。呼んでオムツを交換させたらいい。」

「やよ、大事なディスマスを他人には渡せないわね、叩くわよ。」

「うひゃ……もう言いません。」


 ソフィアも同行者だとは思われていないようで、ノーマークだった。でも何処かで見られているとしたら、帰国までは他人の関係がいいかな。


「マイケル、ソフィアとは無関係で通すわよ。」

「OK,そうソフィアに合図を送った処だ。なに大丈夫だろう。」

 

 こんな煽りを受けて退屈してしまうソフィア、ごめんなさいだよ。

 

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2……。

「この子たち、飛行機なんて怖くもないのね。」

「俺の子だ、そんな弱虫ではなかろうて、どれ、交換するか。」

「オムツはまだ大丈夫みたいだよ。」

「違うよ、二人の入れ替え、交換だよ。」

「リサ、パパに膝に行きたい?」

「……。」

「ですって、ディスマス……私に来たい?」

「あ~う、きゃ・・。」

「……お乳の時間だわ。マイケル、周りをガードして。」

「いいぜ、俺が立って毛布を広げているよ。」

「うん、よろしくね!」


 私たち家族とソフィアは他人の関係でやり過ごすという打ち合わせだ。


「そこのお嬢さん、通路は俺でいいのですが、その窓側の方は……。」

「横の人は寝ていますから起こさない限りは大丈夫ですよ。パパさんも大変ですね。」

「すみません、私の夫が余計な言葉をお掛けしました。」

「いいですわよ、私も赤ちゃんは好きですから。」


 私の横に座るのは勿論ソフィアです。私たちは通路を挟んで夫婦で座り、私の横にはソフィアが座っている。ソフィアの横には眠ってはいるが男性が居る。三人同時に横並びの席ではなかったのだ。


 私は率先してソフィアに話しかける事はしなかった。何事も用心だよね。しかし、私をミッシング……お尋ね者にしたのは誰だろう。



 この飛行機は途中サウジアラビアに寄って、次は東に向かう。次に停まるのはインド、それからタイ、シンガポール、香港、台湾と続く。最後は東京となるから待ち遠しい。


 なんでも、ベトナム戦争の所為でバンコクからそのまま東には向かえないという事で、シンガポールに寄るのだとか。商魂が逞しいのかそれとも?


「確かに直行便なみの高い料金を払ったというのにね。」

「あぁ、多分燃料補給かもしれないな。だってそれだけ遠回りの飛行ルートだからね。」

「マイケルのドジ、アホ!」

「なんで俺がなじられなければならない、理不尽だ。」

「フン! マイケルがしっかりとしないからでしょ! パパが悪いのよね~リサ!」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2

「そう……ディスマスもそう思うのよね~!?」

「……。」


 ルフトハンザ・ドイツ航空の飛行機だったらしくて、私たちが乗る前には既に半分の席が埋まっていたようだった。東京までの鈍行らしくてキップの代金が激安……? あのババァが手間賃を持って行ったに違いなかった。


 香港では機内の一斉検問が施されていて、搭乗者の全員が、数人がかりでお国と行き先を詳しく訊ねられていた。それも必ず二人ひと組のスタンスは崩れる事はなかった。一人が尋問して一人が身振りや顔の表情を見て読み取るような? そんな感じかな。


「マイケル、通り過ぎる人に尋問って、どういう意図があるのかな。」

「さぁな、俺にも判らん。」

「ふん、なにさ。もうすぐ私たちだよね。」

「ありすは日本語で通せ。俺はギリシア語で通すからな。」

「あいよ、」


 ただソフィアはやや不安らしくて、呟くように独り言を言っている。


「え~私はどうしよう、ギリシア語だよね。」

「ですよね。」


 ついうっかりと相づちを打つ。まずったかな? 私は誤魔化す為にディスマスのオモチャをソフィの足下に落としてみせる。


「すみません、お願いします。」

「あ、はい、これですね。綺麗に拭きませんとね。」

「いえ、もう交換致します。」


 二人の手を洗ってあげたいのだと、理由も申し添えてだ。こんなに長時間もの間この子らを不潔にしたことは無い。お腹を壊さなければいいのだけれどもね、心配だわ。


「ほら母の心配をよそに、この子たちは直ぐに指を咥えるのだから……。」


「でしたらハンカチを水で濡らして来ましょうか。」

「あ、そうですね、お願い出来ますか?」

「はい、とても退屈ですので散歩がてらに行きます。」


 そこで思い立ったら吉日なのか、ソフィアは席を立った。


「おい、そこの、何処へ行く。」

「はい、ちょっとお手洗いですよ。付いて来ますか?」

「いや、もう少しで順番だから待って貰いたい。」

「え~……では早くお願いしますから、もう漏れそうです。」


 うわ~この子、ワザとだよね、こうやって尋問の時間を短くさせようという試みは凄いと思ったよね、でも実際は変わらなかったようだよ、ソフィア。


「私はギリシア人、日本へ語学入学いたします。」

「それだけですか? 渡航の目的は。」

「はい、少し……バイトして帰りのキップ代を稼ぎますが?」

「いいでしょう、良い旅を。」

「で、今度は若いお母さんですか、渡航の目的は?」

「はい、日本への帰国ですよ。結婚してしまってそれでこんな子も作ったものですから、親に見せたくて帰る処です。」

「貴女もギリシア人と結婚を?」

「いえ、そこの日本人と旅先で電撃結婚しましてね、マイケルです。」

「あぁ私が夫です。これは長男ですよ。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。(兄妹です。)」

「ほほう……双子ですか、兄妹とは素晴らしいですね。」

「はい、とても幸せです!」

「いいでしょう、良い旅を。」


 実に容易い質問で終わった。これがどのような意味があるのか、気にするだけでも無駄だろう。

 だが、蛇の道は蛇、一人がパスポートに違和感を持ってしまった。確かに横並びで同じような、真新しいパスポートとは可笑しいのだと因縁を付けてくるからマイケルは、


「これの何処が可笑しいのですか。結婚して新しくなっただけですよ。それに向こうのお嬢さんは初めての渡航でしょうが、おかしくは無い!」


 大きな声で喚くものだから気になりながらも憲兵さんは許してくれた。どちらかと言うと、憲兵さんが周りに不信感をも持たせたくはないのだろう。


「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」

「お嬢ちゃんはいいのですよ……。」


 きっとこの憲兵さんは子持ちなのだろう。優しい顔でリサに声を掛けてくれたが、ディスマスはどうだろうか、巫女の魔法を使ったりはしないだろうかと、冷や汗ものだったよ。


 この子たち、どちらが上なのか争っているようだよ。リサは自分が姉だと言うし、ディスマスは自分が兄だと言い張るのよね、やっぱり双子なんだね?


「今度からはわざと授乳をして尋問を短くさせてやるのだからね。」

「ありす、俺は嫌だな。可愛い妻の胸を見せるなんて出来ない。」

「これは生きる為に必要な処置、例え電車の中でお腹を空かせれば構わずにお乳はあげるわよ。」

「うん、そうだね、ありす。」


 事実、私鉄電車で真正面の方が授乳させていた。今では付近の人たちが協力し

てバリケードを作ったとか、ニュースに出ていたな。


 その他、搭乗中に変わった事と言えばマイケルの横が着陸する度に男と女が入れ替わって乗ってきた位かな。当然、この香港では……お爺ちゃんが乗って来たよ。一瞬だが祖父だと思ったら汗掻いたな! 私の横はソフィアだから替わる事はないが、ソフィアの横はやはりマイケルと同じく、入れ替わり立ち替わり

していたよね。どうしてなのよ。


「あと少し……離陸すればあと四時間で東京だよ。」

「いいや、この飛行機はのろいから五時間だろう。大阪に降りるならば更に一時間も遅れるな。」

「う~嫌だ、早く着いて欲しいよ、もうお尻が大きく腫れて割れてしまいそう。マイケルは何ともないのかな。」

「俺だってもう痛くて堪らないよ、こうも長く乗るのは初めてだからね。」

「……? もしかして飛行機そのものが初めてとは言わないでね。」

「そんなことは言わないよ。座席がこんなに狭いとは思わなかったよ。」

「やっぱりそうなんだ、大体が座席なんてボーイング社が造るのだからみんな同じなんだよ。」


 マイケルはやや大型の人種らしく、体躯は立派な大男という感じがする。私は横に並べば大人と小学生のように見えるらしいのよね。人種と言ったらマイケルは怒るだろうな。


「このルフトハンザもか!」

「多分……ね、中古を買ったとか!」

「ダイムラーですよ、聞いたこと位はあるでしょうか。」

「あ~……あれね、」

「そうです、あれですよ。」

「知~らない!」

「んまぁ、この奥さまは物知りだとばかり思っておりましたが、」

「おあいにく様、な~んも知りません。」


 もうすぐ着くという油断から私はソフィアと会話を始めた。別段何も起きることはなくて、お尻をさすりながらの到着となった。


「キャッホ~! 憧れの高校だ~! 東京だー~!」

「違うだろうが、何が高校だ!」

「うっ……つい昔を思い出しただけですよ。べ~だ!」


「う~……う~……、」


 と、唸るはソフィア。もう耐えられないらしいのよね。


「トイレなら着く前に済ませないとね。」

「いえ、痛いだけです。こんなに長く乗るのはもう勘弁して欲しいですよ。奥さま。」


 マイケルは大好きなお酒を飲まずに機内食を食べていたけれども、私はというとね、ワイングラスを一つ頂いちゃった! これで困ったのが睡魔だよ、子供を抱いて眠る訳にはいかない。これは予定になかった事だよ、マイケル。


 するとどうだろうか、マイケルだって寝て過ごせばいいと思っていたらしいのよね、タコは寝てはダメなのだからね……タコだけは。


「東京着いたら、速攻でホテルへ行こうな。こうも眠れないのは流石に俺も堪えたよ。」

「私だってそうよ、でも三人で眠れるのかな。この子たちはどうだろうね。」

「親孝行ものだから大丈夫さ、お乳をたんまりとあげておいてくれ。」

「う~私にお守りを任せるつもりね、マイケルも寝かせません。」

「いや~……俺はもうダメだよ。ホテルに行くタクシーで眠ってしまいそう、許してくれ。」


 成田ではスルーされたように順調にゲートを通る事が出来てしまった。逆を言えば、出国に対する警備強化という事かな、この日本からドイツに渡航する人が多いのだろう。オリンピックだって役員や国の人たちも訪問するのだから。もしかしたら、日本観光経由でヨーロッパへ向かう人もいるかもね。


「随分と邏卒らそつが多いのだな。」

「……?」

「あっと、もう邏卒らそつとは言わないのか。そ、そうだ、確か巡査! そうだった警邏の巡査だよ。」

「マイケル。明治から生きているのは本当のようだね。もう死後? 死語になっていますよ。」

「なんだい、ありすも知っているとは~こりゃ驚きだわい。当時は木刀と丸い金属の盾を持ってだな、いや、もうよそう。」

「何を言っているのよ、ば~か。」


  明治初期の警察官の名称である、邏卒。こりゃ~本格的に事情を訊く必要がありそうだわ……マイケル?

 あ、マイケルが逃げたわね、どうしても話したくはないようだよ。しかし疲れてしんどいから、もうどうでもいいわ……。



 空港に降りても直ぐには解放されない。通関で時間を取られ、荷物の順番ででも時間を取られて、最後はタクシーの移動で取られて……?


 私は疲れたマイケルやソフィアの意向は無視して、兎に角早く東京に行きたくてタクシーに乗った。海外旅行とはこんなにも疲れるものとは知らなかった。そりゃ~アメリカに行った時は、女子会とお昼寝が出来て面白かったとは思うわよ、あれはね……。


「東京まで、」

「お客さん……。」


 私たちの様子を見て、タクシーの運転手さんが心配になったようで質問が返ってきた。


「ここは成田空港ですよ、本当に東京まで行きますか?」

「あ……はい、寝ていて起きない時は何処かに置いて行って下さい。」

「全然……眠れませんですよね、お子さんが二人でしたらさぞかしお疲れでございましたでしょうか。何処か近くに変更されますか?」

「はい。いいえ、東京の赤坂プリンスホテルまでお願いします。」

「あの、旧お屋敷は格式の高い洋館で有名ですよ。」

「えぇ知っております。」

「それで予約は済んでおりますでしょうな。」

「いえ、まだですが、止れないのでしょうか?」

「止まることはできますが、ホテルには?」

「……、」


 私のような考えをする人がちらほらと居るらしい。タクシーで高級ホテル前で止まってから場末ばすえの飲み屋に移動してっていう見栄っ張りが!


「見栄張って隣のホテルに宿泊ですね……、多いのですよね。」

「バレていましたか、何処か格安のホテルまでお願いします。」

「はい、承知しました。」


 止まったのはそのお隣のホテルニューオータニだった。高くそびえ立つビルには圧倒されてしまう。札幌のホテルは旅館っていう感じだったし、大地と行った国体のホテルも旅館だったかな。この運転手はホテルから幾ばくかの紹介料を貰っているのではなかろうか。


 空港に通じる道路沿いの土産店では、お客を連れてくればタクシーの運転手さんへ握らせるというから、あながち、あり得るかもしれない。だが今はコロナで土産店も時短や一時休業というありさまだ。



 ホテルのエントランス……。

 私たち三人はオートモードで歩いて、二人の子供はぐったりとして抱かれていた。荷物持ちのソフィアに至っては、かなりの苦痛を味わったものかと、心配は少しも起きないほどだった。


「今日いや明日まで滞在します。大人が三人と二人は乳幼児です。」

「はいかしこまりました。一部屋でよろしいでしょうか?」

「はい、床で寝ますから充分です。」

「……、では一泊で三千ドル。」

「う~……おつりは要りません。」

「そのう……もう少し足りません。再度数えますが、あと一千ドルは出して下さい。それとも更にお高い、お向かいのホテルに連絡致しますか?」

「いえ、出します……はい、一千ドル。」

「はい確かに……頂きました。」


 ニコニコ顔のボーイさんは、直ぐに荷物持ちを呼んでお金を渡していた。それからなにやらポケットにねじ込む素振りも見られたよ。


 五人はグッタリとして夕食抜きで眠ってしまう。子供がベッドから落とされたら大変だと、私と子供が本当に床で寝てしまった。それから真夜中あたりか、


「ドスン、ドスン。」


 と、ベッドからは二人も落ちてくるから最終的には全員で床に寝ていた事に笑いあった始末。


「私は二人の泣き声で起こされたのよね。なのにあんたらは落ちても起きないとはどういう事よ。マイケル! あんたは蹴っても起きなかったわね。二人を抱き上げるのにどんだけ苦労したと思っているのよ。」

「いや~すまん。今度からは起きるから起こしてくれ。」

「ブツブツ・・・・。」


 寝ながらでもお乳を飲むのよね・・・可愛い。早く両親に見せてあげたくなったじゃないのよ、この~・・・。ほっぺたツンツン! はしたくても二人同時に抱いていては出来ないのよね~、あ~ぁ残念。


 きっとオムツは濡れているだろうが、この子らはそれで泣くことはなかった。だから私もズルをしてまた眠ってしまう。今度はマイケルかソフィアがお守りをしてくれるのよね。


「すや~・・・。」


 次に私が起きた時は室内がめちゃくちゃになっていた。マイケルとソフィアはもう放心状態になっていて、私を必死になって揺り起こそうとしていた。


「キャッ、・・・これは何の騒ぎかしらね、マイケル。」

「いや、ディスマスが魔法を使って部屋を無茶クチャにしてくれて……、」

「マイケル、この子らの守はしないで放置したわね、だから私を起こそうとして魔法を使ったのかしらね……どうなのよマイケル。」

「はい、返す言葉もございません。」


 ワンワンと泣く二人を抱き寄せて胸に当てた。直ぐに二人は服に齧り付いてお乳を催促してくる。


「はいはい、少し待ってね。今ね、お乳を拭いて殺菌しますからね~、お~よしよし、直ぐにお乳は出るからね~。」


 これでやっと二人は泣き止む。しかし……である、この後フロントからの電話を受けて私が泣き出した。


「おいありす、どうしたんだい。」

「延長よ、もう一泊の代金を払って下さいとね、もうお金は残りが僅かなのに~マイケル、払ってよね。」

「お、おう今から払ってくる。」


 もう翌日の夕方近くになっているから、チェックインしてから二四時間は過ぎたのだった。「今日いや明日まで滞在します。大人が三人と二人……、」と言いながら覚えてもいなかった。完全なる私の落ち度である。



「お財布バックを見たら、確かに四千ドルが無くなっているわ。それと、あのフロントマン、ワザと起こさなかったわね、後でみてなさいよ~。」


 私の周りからは紫色の、凄い負のオーラが出っぱなしだから、 


「う~怖い!」


 そう言いながらソフィアはお風呂場に逃げ込む。ソフィアはロングで背中まで伸ばすキュートな女性だ。このソフィアがシャワーを浴びる光景がまた格別。漫画特有の……お尻の下まで髪の毛が伸びるのよね。だから絶対にお尻は見えないんだな。


 どうしてだろうね、背中までの髪がお尻の下まで伸びるのが不思議だよね。



 マイケルが沢山の食料を抱えて部屋に戻ってきた。それからの大人三人の行動が凄まじいのなんの、それを見て子供が二人とも泣きだしてしまった。兎に角私たちの行動が赤ん坊へ大きな不安を持たせたのは事実だろう。


「わ、私の分は残しておくのよ、いいわね!」

「もちろんさ、ちゃ~んと残しておくから。」


「イヤ、それは私が食べたい。ソフィア、食べないで!!」


「ウワ~~ン、んぎゃ~んぎゃ~……、」

「あ~らごめんなさい、貴方たちに言ったのでないのよ、そうやって泣かないでくれないかな~、お~よしよし。」


 こんな事で私も泣きたくなるとは、マイケルとソフィア……あんたたちが悪い。結局の殆どが私の口には入らないのだよね、あ~ぁ女ってつくづく損な生き物だと思うよ。


 マイケルに一人を抱かせて私も食べる事は出来たのよね、でもマイケルと連れのソフィアは何も言わないのよね、あ~私のドジ!


 食べ物の恨みは恐ろしいのよ、私は怒り心頭に発す……?


「そうよね~三人で美味しい物を食べに行きましょうね~……。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2


 マイケルの制止を振り切って本当に三人でホテルのレストランへと赴いた。




「いらっしゃいませ、」

「メニューは見る事が出来ないので、お任せでいいかしら。」

「はい、当店のお勧めでよろしいでしょうか。」

「そうね、それを二人分……お願いしたいわね。」


「かしこまりました、二人のお子様にも二人をご用意いたします。」


 で、何を言うのよ、と思ったら本当に子守のために二人の人が出て来た。一人はこのレストランの支配人で、もう一人は女性のチーフらしかったのよね、こんなサービスは聞いた事も無い、ありがたや~……。


「ごゆるりとお召し上がり下さいませ!」

「は、はい、ありがとうございます。とてもお腹が空いていまして助かります。」


 親孝行ものの二人は泣く事もなく大人しく抱かれていた。私が食い意地を張っていたら、支配人さんが気を利かせて少し離れた処から、二人に外の景色を見せていたそうだ。大通りには沢山の自動車が通るので、二人は退屈もせずにいたと報告を受けた。ありがたや~……。



 満腹になって退席する時、不安顔なホテルの二人からそれぞれを受け取り器用に抱いてしまう。それでもチーフさんの心配顔は収まらない、やはり女性だからだろうか。


「この子たちは抱っこちゃんだから、絶対に落ちたりはしません。」


 恐らくだがディスマスの魔法によって浮くように抱かれてる。だから落とす心配はしていないのだが、これはあくまででも二人が起きて居る時にだけだと考えている。その証拠に寝ている時の子供がとても重たく感じるのよね、ホントだよ?



 頂いた請求書は見もしないでマイケルに渡してやったわね、マイケルは目を丸くしていたようだけれども、私は無視を決め込む。いや、涼しい顔をして数年ぶりみたいな感じで新聞に目を通していた。


「ありす、このバカ高いサービス料金ってなんだ、何を食らった!」

「さ~ね、知らないわ。満腹になれて幸せなんだから、そう大きな声を出さないで欲しいな。」

「うぐぅ~……、ステーキが二人分に他……追加が、、、、、」



 この部屋には涼しい顔をしたもう一人が居る。


「私は窓から異国の夜景を見ていま~す、」


 とは、夫婦喧嘩には混じれないソフィアのひと言だよ。


「奥さま、一万文字を超えますよ。次にいきましょうか!」


 ソフィアのひと言を無視して新聞記事を声に出して読む。もう活字に飢えた人種のようで、懐かしい日本の活字をすらすらとは読めないのだと認識させられる。第一に新聞の文字は小さいし、半分に折れば段落の記事も半分になって読まれはしないのだから。


「将来は老人が増えて活字も大きくなるわね、それと記事のマスの配分も変わっていくだろうな。」


「奥さま~……!」


「なになに、パレスチナのテロリスト組織「黒い九月」がオリンピックをテロの標的にしたぁ~・・・? もう九月になるのね。早く帰りたいよ~。」


「ありす、明日は自宅に向かうが先に連絡しないで、……いいのかい?」


「自宅に私にそっくりさんが居たらどうしよう、ねぇディスマス、リサ。」

「あ~い、う、きゃ、きゃ・・。」x2


 連絡もそうだが、両親を驚かせたいし……。でもそれ以前にひかるが陣取っていたらどうしよかと、その方が心配で堪らないのよね。何処からか自宅の様子を伺い知れたらいいのにな。


「先にお役所に行って、婚姻届けと出生届けに、それから子供たちの日本国籍の取得が先よ。」

「それだって、もう一日や二日は先に延ばせるだろう。」

「この子たちを無国籍の住居不定にさせたくはありません。それに……、」

「なんだい?」

「城南 亜衣音……とは、名前の響きがよろしくない。ついてはマイケル、あんたが白川 マイケルに名前を変えなさいよね。」

「あ~・・・それが出来るならばそうするよ。マイケル城南はも九十歳にはなるだろうし、このなりや顔だちでは新しく国籍を作った方がいいのではないかと考えてもいるしな。それを考えて書類も用意している。」


「マイケル。えぇ~と青森だったかしらね。向こうの国籍はどうなのよ。」

「も~百二十歳過ぎで、職員が鬼籍にすり替えているだろう。死亡していると判断されて当然さ、住んでいる実績も無かったからね。」


 これは便宜上の死亡扱いになる。戸籍を抜くには死亡診断書は必須なのだから行方不明者の死亡の判断は、捜索願いを出してそれから十年とかの長い年数を経てから死亡扱いにされる。なのだから今の日本人には百二十歳を超える人は沢山いるらしいのよね。



「何を暢気な。戸籍照会されたら一発でアウトじゃない。」

「ギリシアの偽国籍でありす……いや亜衣音さまに婿養子にさせて下さい、お願いします!」

「え~どうしようかな~、マイケルの仕事はまだ何も考えていないのよね。ちゃんと私を養ってくれたら許してあげる。」

「はい~喜んで~……光采陸離こうさいりくりさま~!」

「そう……おだてなくてもいいわよ。私こそマイケルにゾッコンなのだからね。」

「ウヒョ~嬉しい事を言ってくれるよ。今晩こそ!」

「ダ~メ、二人のエネルゲンはもう渡さないわ。昔のように我慢なさいな。」

 

 私は……二人の子供から左右の乳房を吸われるから、もうHしたいなんていう気は起きないのよね。これが所謂旦那が浮気に走る原因でもあるのよね。だったらソフィアに頼んで……いやダメよ。


「コンコンコン!」

「マイケル。誰が来たのかしら。出て頂戴な。」

「いいぜ、これは俺の仕事だからな。」


「夜分……失礼いたします。」

「あ、?……支配人さんでしたか。なにか会計に不都合でも?」

「はい、……すみません、申し訳ありませんでした。受付のボーイがボッタk いえ、大変な会計ミスを犯しておりました。こちらのスィートルームは一泊が三百ドルでございます。それを間違えて三人分を請求していたようです。誠に申し訳ありません。」


 この部屋が三百ドル。一人が百ドルな訳ね。それが一千ドルの請求だったから優に三倍な訳か!


「こら、入って詫びを入れろ。」

「指……一本でいいわ。これ位で済むのなら東京湾は要らないかしら!」

「ヒェ~!……!!」

「おい、あり……、」

「マイクは黙っていて、……私も可笑しいと考えていた処なのよね。」

「はい、先ほどのお料理の会計内容とお部屋の番号で判明いたしました。どうかお許しのほどをお願いします。」

「いいわ、私も疲れが取れた頃だったから憂さ晴らしに参上しようかと、考えていましたわよね? ソフィア。」

「はい、それは恐ろしい程に顔が変わりました奥さまを、お引き留めするのが難しいほどでございました。」

「この子、怖がってお風呂場に逃げていた位ですよ。支配人さん!」


「(ぞ~~~っと)は、はい、奥さま。」

「そこ人は置いていって下さるかしら。朝まで耳元で囁いて根性を直して差し上げましてよ?」

「いえ、教育は私どもの務め、お客様にはとてもではありませんが、」

「任せられないのね、いいわ、マイク。二人とも部屋に入れて下さいな。」

「ヒェ~!・・・・?」


「おい、ありす、逃げて行ったがこの後はどうするんだい。」

「ソフィアを置いて行きます。そうね……十日ばから無銭飲食と宿泊をさせましょうか。明日は四人で実家に行きます。」

「なんだ、随分と優しいのだな。」

「だってソフィアには私たちの家族とは関係ありませんもの。それにこの先ですがどう転ぶのかも分りません。」


「だろうな、作者の代弁とか言うのかね~?」

「いいのです、ソフィア……あんた、思いっきり贅沢していいわよ。ケツは拭いてあげますから。」

「はい、奥さま……喜んで~。」


 私はこの高い位置にある窓から夜景を眺める。大きく光るのが東京の中心地なのだろう。だったら暗くて光らない街が私の住んでいた街かな。


「あれは皇居だよ、暗くて当然さ!」

「……バカ! ロマンチック乙女が台無しになったじゃないの。」

「ハハ、それは悪かった。この部屋から西、壁の方になるから見えないよ。」

「私、もう寝ます!」


「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」

「わ~ごめんなさい。とても不安にさせてしまったわね、ごめんなさい。」

「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」

「う~……・わ~~ん、」

「ありす、俺が悪かった。三人で泣くのはやめておくれ。」

「うん、……グスン。ソフィア……これでお酒を飲んできて!」

「?……はい奥さま。今宵はごゆるりと……!」


 ソフィアは意味深な言葉を残して部屋を出て行く。それに対して私は、


「三時間でいいからね!?」

「ウヒョ~……ありす!」


 クスクスと笑いながらソフィアはドアを閉めていた。この夜、久しぶりにマイケルに抱かれた私。どことなく不安が募っていたのだろう。子供たちも優秀なのよね、寝ているわよ、寝たふりも上手になったんだわ。やはいすいた漢の身体は温かい。


 これで私は勇気百倍になったのも同然よ。明日はひかるとの決戦よね!


 翌日に変わり、ソフィアは静かにベットに潜り込んでいた。



*)黒服……


 ロビーで黒服の女性と夫のマイケルがお話をしていた処に出くわした。


「誰、この人は?」


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