第184部 家族が増えたよ!
1972年8月9日 ラフィーナ
*)家族が増えた!
「お帰り、ありす。」
入院から帰ってからの暖かいマイケルのひと言だった。長いようでもあり短いようでもあったかな、そんな入院生活だった。
「うん、只今帰りました。男の子については今度……ゆっくりと、ね?」
「少し軽くなったと考えたが、事実は逆だったか!」
「ギャボ!」
まさか、二人の子供の体重以上に私は重くはならないよ! トラックから家に運び込まれた時に言われた。そりゃ~昔の私の体重と比べたら増えてるし……異論はございません、私の王様! 私の王子様が誕生したからマイケルは王様に昇格させてみた。
「あぁ分っているよ。だが本当に男の子だったとは嬉しいやら複雑やら。これで 俺の役目は俺の跡継ぎに仕上げることだけになった。」
「跡継ぎっても、泥棒にはさせません。」
「当たり前だろう。俺にみたいに長生きしていると世の中について行けなくなるんだよ。」
「で?……。」
「知るか、戸籍はない。」
「アジュ……。」
私は呆れるのよね。戸籍はあるが本当はあり得ない程の年齢だったら、それこそあり得ないわね。
「亜衣音ちゃん、亜衣音ちゃん。」
「は~い……産湯が済んだわよマイケル。go・ゴー!」
「良く聴こえるな。……キャイ~ン!」
どうしてか一階のお風呂場からの声が私には聞こえるのよ。それでマイケルをお風呂まで受子に追い出した。マイケルには一階の声なんて聞こえないと言うんだよ。ま、叫んでいるから私にだけは聞こえるのかな。でもね、マイケルとその子分がヒソヒソのお話なんかは、二階だったら聞こえるが三階までは聞こえないからね、だからさ不便ながらも三階に寝室をこさえたんだよ。
これから私は産褥に耐えなければならない。そう産婆さんが教えてくれた。他には熱が出たり、おりものだとか伸びた腹の皮だとか早く元に戻ればいい。
「もう私の身体についてはね、御法度よ、禁句よ禁句。」
「ありす、ディスマスがあがったよ。」
「うん、ふきふきしているからリサも早く。」
「俺たち東洋系だから……サルだな。」
「ダメよ、自分の息子でしょうが、次よ次、」
「リ~サ~……、」
「もう~ダメパパですね、ディスマス。」
「うきゃ~……、」
「うんうん、可愛いわよ。少し鼻が高いかしら!」
親ばかだと子供のあらゆる処が気に入るらしい。男親は知らないよ、だって種付けだけであとは女に全部を丸投げだもの。でも大地の子でもなくてマイケルに似ているからマイケル・ジュニア! で、リサは勿論のこと私にソックリよ!
産着を着せてベッドに寝かせる。鼻高はお産に邪魔なだけだから成長しながら鼻は高くなる。産まれたては低いはずだがね!
「あ、一人分しか無いのよね、うわ~直ぐに買いに行かせなくては。どうしよ~服だって今は一着ずつよね。」
「お~い、リサだよ。」
「は~い、リサ。気持ち良かったね。こんなに手のひらを結んでいるもの。」
「分るのかよ、こんな異星人の事が。」
「異星人とは失礼だよ、パパはお買い物に行きますよ。」
「え~何でだ、服は……燃えてしまったかな。」
「行けば御用ですからソフィアを連れて行ってくださいな。夕飯もまだですからえ~と……パパが一でババァが二、ちびが一、子分が……何人よ。」
「五人だな。だが今は三人だよ、だから七人かな。」
「私、今晩は我慢する。マイケルの残り物でいいわ。」
「あ~そう言えばババァが用意している物も在るようだ。適当に買ってくる。」
「うん、任せる。私は二人にミルクをあげているからね。」
「白湯でいいのだよね?」
「そ、そうだったかしら。産婆さんを呼んできて。」
「出がけに呼ぶよ。ソフィアはいいのかよ連れていってよ。」
「いいわよ、まだ若いし。」
ソフィアの使い方に二人の齟齬が生じている。マイケルは私が不自由するから連れて行きたくはないのだろうが、私は二人のデートみたな感じでいる。ま、自分と置き換えて考えるのが女なの性だろう。つまらない性だよ。
「あ、焼き鳥の婆さんが冷蔵庫を掃除してくれたからお礼を頼む。」
「それってマイケルが悪いのよね、全部残したままにしていたからよね。」
「い、いや~違うと思うぞ。」
「却下、マイケルが言いなさい。」
「分ったよ、行ってくる。(言ってくる。)」
「いってら~。」
異星人だってちゃんと愛情を注げば日本人になりますよ。
「白湯、白湯と……? あ、哺乳瓶が必要だわ失敗したな~、母乳でいいのよね。昔は哺乳瓶なんて無いもの。」
「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「そうね、今はしわくちゃの王子さまとお姫さま。可愛いわ~。」
「そう言えば、日本では「命名」があるのよね。後で紙に書いて貰おう。マイケルでは書けなかったりしてね。」
「うんぎゃ~うんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「はいはい、仲良く飲んでね。」
「あう、」x2
「こうやってみると、お母さんも双子で大変だったんだね。私、あんまりいい子じゃなかったな、お手伝いなんてしなかったし。」
私は命を狙われて入院ばかりしていたし、それで家族も私には遠慮していたのかと今になって気がついた。若いという事はそれだけ未熟者だよね。
「う~……ミルクと一緒に私の魔力も吸われているみたい。頭がクラクラしてきわ。ゴメンね、今日はお乳はこれだけで我慢するのよ。」
「ディスマス、リサ。」
「あ~ん、きゃっきゃ……。」x2
「あら、ありがとう。少し休ませてね……。」
「うんぎゃ~、」
二人を急いで横にして寝かせる……二人を同時に抱いたらそれが出来ない。これは困ったよね、慌てて大声を上げる。
「誰か~お願い~……誰か~来て~~……。」
「う~・・・もう声も出ない。本当に一人では何も出来ないのが良く分った、これだけでもみっけもんかしら。」
「あいよ、おや、それじゃ~寝かせる事も出来ないね。お乳も大きくて立派じゃよ。」
「うん、もう起きていられません。私も横にさせて眠らせて下さい。」
「いいよ、あれが帰って来るまで付き添いは任せな。」
「はい、お願いします。」
殆ど同時に三人が眠ってしまう。子供は母の心臓の音を聴いておれば眠れるのは本当だと思った。
真夜中になる前にマイケルとソフィアは帰ってきた。沢山の荷物で余計に疲れたソフィアは、途中でつまみ食いしたからと言って寝てしまう。それがマイケルのベッドだったりするからして、怖い思いをマイケルはしたと話してくれた。ちゃんと話してくれたから苛めないでおくよ、マイケルだけはね!
「付き添いのベッドが足りない。これも買うのか。」
「暫くだからさ、マイケルは両手に花して寝ていいよ。」
「嫌だよ、俺が襲われそうだ。」
「誰によ、いいなさい。」
「言えるか……ばか、」
と言う事は私から襲われる=叱られるという意味にとれた。私には新しい添い寝のパートナーが出来たから、マイケルは適当でいいわよ。
(俺の相手はババァとガキかよ!)
当然、マイケルの酒量が増えていく。
「長男が夕陽のディスマスで、長女が真珠のリサです。よろしく!」
夢のお告げがあった。
帰国して役所に出生届を出すのだが、受付の若い男性は融通をきかせてくれないのよね。漢字に……どうしよう。
「ディスマス?……日本語で書いて下さい。」
「え~……マイケル、ディスマスを漢字に変換したらどうなるのよ。」
「ディスマス……無理だな、どうしてもカタカナになってしまう。だったら夕陽でいいだろう。」
「あ、そうよね、意味は同じだもの。」
「リサはどうするんだい。」
「うん、お母さんから一文字頂いてね、李沙……どうかしら?」
「いいよ、可愛すぎないか?」
「私と一緒だからいいのよ。」
と、まぁこれ位はいいとしても、本当に帰国出来るのかが心配の元となってしまった。
「ジャルパックは高いし、キュウリパックで保湿しなければ!」
私の二千ドルは産婆さんが取り返してくれたが、産婆さんがネコババして帰ってしまった。でもいいんだよ、ニセの出産証明書を用意してくれたからね。このお婆さんも裏社会で生きてきたのかもしれないな、と初めて感じた。裏の世界は……なんでも高額なんだね。それと焼き鳥屋の母娘も帰ってしまう。
*)男の子に……面食らう
「はい、喜んで~~!」
「マイケル、なに言ってるのかしら。」
「だってディスマスがママを呼んでこいと言うからさ、それで呼びに行こうとしていた。」
「もう~バッカじゃないの?」
「おんぎゃ~……。」
「இஇஇ……。マイケルが泣いてどうしたいのよ。ママに教えなさい。」
産後の暫くは用心の為にと仕事を休んでくれた。でも、それが出来ないらしくてね、私たちが寝た後に出かける日が多くなった。仕事の内容の詮索は後回しにして、私の手が回らなくなった。どうしたらいいのか……。
「マイケル、今晩も出かけるのよね。」
「そうだな、俺が顔を出さないと拙いらしくてさ、すまない、この通り。」
「もうあの通りになさい、いいわね。」
「はは~っ、」
お手伝いの串焼き母娘は居ないし、産婆さんだって私の出生証明書を用意してくれたらおさらばだって。次の妊婦さんが控えていたらしょうが無いしね、もっと助言が欲しかったのよね。
マイケルに押しつける、あの通りとは朝食の準備なのよ。私の為に作りなさいと押しつけているわけで、今の処は順調かな。ぎこちない動作ででも家事をこなさないとこの子たちにも不自由を押しつけてしまう。
「困ったな~何処かお手伝いさんが居ないかな。」
こんな時は大家族は有利だったと理解出来た。
「お母さんの気持ちが良く分ります、早く孫を連れて帰りたい。きっと驚いて孫を落とすかもしれないな。」
ここで問題が起きた。産後の健診先がない、ないのだ。だって私が潰したようなものだからさ、私も行きにくいし、相手だってお断りだそうだよ、どうしてくれようか。また喧嘩売るにしても身体が動かないよ。
どのみち三階のベッドで寝ているだけだからね。
庭にある荷物を三階まで運び上げるのに苦労した。ここ三階の部屋は見晴らしがとてもいいので二階へ下りる気は起きない。こんな時こそ貴方がいれば、
「マイゲル……早ぐがえっでぎで~……。」
こんな事を帰宅したマイケルに話したらさ、簡単に……、
「ねぇ、この子が物を窓から庭に飛ばしてしまうのですよ、その度に拾いに行くのがとても大変なんですから。」
「庭の警備のお兄ちゃんを家に引き入れたら良かったのに。」
帰って来たマイケルが笑いながら言うのよね、タコが! あの時は考える事が出来なかったのよ。でも他の男は嫌いヨ……、私は浮気してもいいのかしら?
それにさ、ネグリジェ姿で窓から上半身を晒して叫べとでも? んな事、恥ずかしくて出来ないわね。笑いを押し殺してタコが言うのよね、でもね、何が飛んで行くのかは言えないかな。だってマイケルのお金が子分さんの元に飛んで行くのよね、これって秘密にするべきかな。
「俺が帰るまで我慢してろよ。」
「うん、何にもしないでおくからよろしくね。」
数日後、身体も動くようになったし、二人も落ち着いて寝てくれるようにもなってくれたんだ。だから、一階のリビングで落ち着く時間の方が長くなった。でも窓からは庭と植木が見えるだけで面白くない。あ、白いオムツが揺れているのは見えるかな。たまに物が飛ぶ……イタズラ好きな困ったちゃん。
マイケルが帰ってきた。家に入る前に庭の点検しているみたい。ここからは良く見えるのよね、藪の茂みをかき分けて子分を見つけている。
「家の庭はこんなに大きくて広かったかな。」
「お帰り~マイケル。」
「ありす、あいつらに聞いても何も飛んで来なかったってよ。」
「あ、だったらタダの紙切れかしら!」
「十ドル札ならいいけどよ、ありすから借りた金が無いな。」
「ちゃんと返してよね、大切な帰国の路銀なんだから。」
「今日も俺のシャツまでありがとうな。」
たまにマイケルのティーシャツも並んで干す。これを見てマイケルは喜ぶの。でもね、本当は……オムツに使っていたんだ。最初は鈍感だから気づいていないのよ、でも段々と着てもいないシャツが干されているので、とうとうバレてしまったな、ごめんなさい。
産婆さんや焼き鳥店の母娘が帰って久しい。子供が二人、泣いて騒ぐのだから寂しいという事はないが、やはり大人の話し相手の人が居ないは寂しいかも!




