第18部 父による母の思い出話
長い買い物から帰った私は大声で、
「ただいま~、」
私は玄関を開けて大きく叫んだ。勿論奥から返事は返ってこないのは分っているのよ。これからは誰も待っていなくても大声で言うのだからね。
「おいおい亜衣音、お隣から返事がきたらどうするよ。」
「挨拶するだけだよ。ほら、今から行こうよ。」
「なに~~??」
東京に越して来た時は祖父母も一緒だったし、それに長旅で疲れていたし、何もかもが祖母の一言で決まっていた。引っ越しとか無縁の私だったから引っ越しの挨拶があるという事は、父から言われるまで思いもしなかった。
父の酒の肴をほんのちょいと横に流すだけだ。父の流し目を無視して小ぎれいに包み紙の皺を伸ばした。これは田舎の常識でお中元やお歳暮は宛名の付いたのし紙を外してご近所に、これまたお中元・お歳暮として持っていく。もし包装紙の中にのし紙があって尚且つ名前を書いてあったら、万事休すだがお互い様のご愛嬌だ!
「おい、そのような事を何処で覚えたんだ。それはお母さんが良くしていたよ。」
「お父さん、いつもおつまみを没収されていたんだ。」
「う、……まぁな。いつも泣かされていたよ。」
「今日はおビールも買ってきたから早く飲みたいでしょう。だからね?」
「五分だ、五分で帰るぞ。」
「はいはい、では両隣に行きますよ。」
「可愛い娘が言う言葉ではないな。」
買い物中に多めに買い込まれていく酒の肴を父は喜んで見ていたと言う。それらがどうして引っ越しの粗品に変わるのだ、クレームはこなかったよ、これって母の偉業だと考える。
それから私は母の洋服に着替えた。自分としても北海道の田舎では中学の制服と乗馬用の服を着ている方が多かったから、私服はとても少なかった。麻美お母さんにおねだりは出来ないし、そりゃ~父からの養育費は支払われているのだとしても、である。在るのはお姉ちゃんたちのお古を貰って着ていたのだから。
だからという意味ではなかったが、母の服はとても新鮮に思えたのは事実。この服を着て父を喜ばせようという気は微塵も考えていない。
無事に両隣への引っ越しの挨拶を終えた私は、急いで二階へ上がり母の服を着て台所に立つ。
「お父さん、またお風呂をお願いね。私、急いで夕飯の支度をするから。」
「それ位お安いご用だ。」
私の服装を一瞥だけして風呂の用意をしに行くのはきっと見てみたかったのだよ。それから父は昨日の新聞を読み始めた。……お湯が溢れている。
「あらあら……もうもう……。」
そんな私の声は無視していた父だ。
父の行動はどことなくぎこちなく、私の後ろ姿は見たくせに、今では私に視線を向けないのだ。
「お父さん呼びましたよ、お風呂です。」
「分ったすぐ入る。」
「これは私の所為かな。でもいいんだ、なんだかお母さんに包まれているような感じがして……素敵。」
長湯を感じさせない父が台所のテーブルに着いた。
「はい、おビール。」
「おうありがとう。」
父はひとこと言ってビールを煽った。それを見た私は父と向かい合わせに座る。それでも父は私を少しも見ようとはしなかった。
「随分と意地悪に成長したのだな。」
「あら、そうかしら。この親にしてこの子ありだよ。」
「言うようじゃないか、それで何を聞きたい。」
「お父さんが泣かない範囲でいいのよ、お願いできるかな。」
「お前な、沙霧そっくりでいる娘に……沙霧に向かって話すようなものだ、そんな事が出来るか!」
「ん~そうなんだ、だんだんと似てきたのね。」
「あぁそうだとも。買い物袋を被っていやがれ!」
「んまぁ、……はい、ビール。」
「お、おう、すまないな。」
「いいのよお父さん。だから、話してくれるまでお酌するね。」
穣は酔いに任せて沙霧の思い出話を語り始めるのだった。勿論二人だけの楽しいひとときだけだ。ニューヨークの戦いや東北の戦いなどは最初から除外されているのは勿論のこと。
亜衣音が産まれる日の前後の一年間が、二人で暮らしたひとときだと語ってくれた。
「沙霧も働いていたし、あのクソ上司は簡単には休みを出さないのだからな。それから……少し待ってくれ。」
「うんうん、」
私はふと母の上司を考えてみたのだ。
「あ~お母さんの上司って、お爺ちゃんじゃないのかな。」
「そうだがな、」
奥から返事が返ってきて私は可笑しくて笑い出していた。父は自室へ行って一枚の写真を持って来ていた。それから父が席に着いて三人で写る写真を見せてくれた。
「すまなかった失念していた、唯一の家族写真が在ったのを思い出したよ。」
「ムフフ……これってまさかの?」
そこには結婚式の記念写真に三人が写っていて、当時としては本当に珍しい結婚式だったと思う。婚前交渉……じゃないよアメリカ遠征やらで式が遅れただけだからと言うが、私から見れば……同じじゃんか。聞いたらアメリカの協会で挙式とか……あ~素敵だわ~。
「まぁお母さま……とても綺麗だわ。それに引き替え不細工な私。」
「俺は若くてハンサムだろう?」
「うん、私……お父さんに惚れたわ。」
「よせやい、気持ち悪い。」
「お嫁に行かないで一生お父さんの横にいますからね。」
「大学で旦那を探して学生結婚をすればいい!」
「十八歳でもいいかな、」
「相手はいないだろうが、やりたければすればいい。」
「うん、ありがとうございます。」
「探さんでいい、一生ここにいてもいいぞ。」
「うん、ありがとう。」
穣は亜衣音が産まれた時の日々を思い出すが、とても正直には言えないような事ばかりであった。そんな赤ん坊が元気で黒い髪を靡かせる綺麗な女性に成長していた。あんな巫女の力を使う娘の事は話せる訳がない。しかし幸いな事に私は当時の戦争みたいな事は一切覚えていなかった。バンバンと魔法をぶっ放していたというのにね、おっかしい。このことを誰から聞いたのかな~それは未来の私かも。
「ニューヨークで結婚式を挙げてな………………、」
無理に口を開くお父さん。しかし開いた口も段々と重くなるのも事実で、とうとう父は、
「もうダメだ、もう涙が出てくるから勘弁して貰いたい。」
ギブアップ宣言がなされたのだった。
「では、お父さんが博多に転勤した時はどうだったの?」
「あれは沙霧が居なくなってからだ、酒ばかり飲むようになった。だから却下。」
あ~お父さんはここでお酒を覚えてしまったのね~可哀想だな。何故父が明太子を好きになった意味が急に閃いた。
「明太子……ママとキスした口とそっくりなんだ。」
「バッコ~ン!」
「ゥキャ~、」
「わ~本当なんだ、素敵~。」
「バコバッコ~ン!」
「ゥキャキャ~~……、」
「その次は何処だったのかしら。」
「それは~大阪だな。飲み過ぎてお巡りさんの世話になったよ。所謂介抱強盗に遭ってな金品を全部すられた。」
「お父さんのドジ。」
「うるさい、もういいだろう。もしやまだ文字数が足りません、とか言うのか。」
「この写真をもう一枚作って、出来るよね。」
「写真を写真機で写せばいいのだから簡単だろう。」
「お願いね、それに仏壇に飾る写真もこれがいい。」
「そうだね、この笑顔はお父さんも好きだからね。亜衣音の分もどうだ。」
「私は死んでいません。お父さんの方が早いのだから、でもこれは若すぎ。」
「ばぁろう!」
もっともっと話したいはずの父と、もっともっと聞きたいはずの娘の親子は願いが叶っているはずなのに無口になってその日は終わった。
「明日がきつくなるからもう飲めないよ。」
「そうだね、……お父さんありがとう。」
穣は飲み残しの苦いビールを飲んでしまう。気がつけば多くのお皿が手つかずで残っていて、フリーザー付きの冷凍冷蔵庫の扉が開いた。これは一般の家庭よりも早い白川家である。
「お父さん。文字数が足りないと苦情がきたんだよ、だから二会戦……。」
「ギャボ……もう無理。」
「ダメだよ、サブタイトルが『父による母の思い出話』で、未だにママの事を聞かされてはいないんだよ、分る?」
「これから二千文字も追加させるのかよ、俺は酔ったからも~無理。亜衣音……寝て夢見てろ!」
「いいもん、人狼 Zweiの第80部 Creep巫女の危機②で産まれて第81部 亜依音の奇跡 と CIAの陰謀と白日夢! で活躍したんだよ。今からそこを読むから。」
「あ~それはダメだ、亜衣音の悪がバレてしまうぞ。」
「え~いいもん、読んじゃえ。」
6月21日、沙霧と白川課長は結婚した。子供は6月8日に生まれた。
「写真のこれって私……産まれたてのホヤホヤじゃんか。」
「そうだね、みんなから祝福されて沙霧はとても喜んでいたんぞ。亜衣音が可愛い可愛いと何度も言っていたよ、思い出すな~。」
「それで私が芽吹いたのが、まぁ……ニューヨーク市で大規模の停電だなんて。あの停電から十ヶ月後は大変なベビーがこの世に生を受けたんだよね~パッパ。」
「煩い、黙れ。」
「ゴッドアイ? ダイヤ?……これは何よ。」
「すまない、」
エストニアの戦いから帰った沙霧には立派な御殿が用意されていた。4LDKの普通の家だが白川の父が退職金の前借で建てた家だった。
「ねぇパパ、御殿って何処に建てたの?」
「……言えない。」
「家……無いの?」
「そうだ、絶対に言えない処に今でも建っている。」
「え~……何処かな~。4LDKか~広い家だよね~。今も建っているんだ……今も?……建っているの? 4LDKね~……あ~~~!!」
「亜衣音、もう考えるな、よ、よせ~。」
「クソ爺め~よくもよくのママの家を取上げたな~。」
二人の挙式は沙霧の仕事の都合で延期・延期でとうとう赤ん坊が先に生まれた。沙霧が退院して普通に動けるようになったからこの日に挙式となった。
「ママ……幸せだったかな、ねぇパパ。」
「あ~特に亜衣音が産まれたらな。俺を放りやがって可愛がっていたんだぞ。」
「そっか~ママに会いたいな。」
「もう眠らせてくれないか。明日から仕事で……、」
「うん、パパお休みなさい。」
爺め~殺したるわ~、新婚の寄宿舎……? もしかして……両親は祖父母から逃げて愛の巣を作ったとか。二人だけの生活を送りたかったんだ。ジジババと同居とか況してやジジイは上官だし、そりゃ~同居もしたくはないよね~。
「明日は実家に寄らせて頂きます。」
次章……怒った私です。どうぞ期待して下さい。
ここまで一気に書き上げました。頭の中が空にならないようにと思いまして。
各章は短いので読むには早いですが、後日追加するかもしれません。
もう一年以上も放置していましたから、重要な部分は忘れてもおります。
この物語の前には二つの長編が存在しますが私は、読み返すには難儀ですね。
先日ラノベを購入したのですが、小さな文字が見えませんでした。また
書店の隣のめがね屋さん行くのでしょうね。本屋さんには数年も行っていません。




