第175部 不思議な馬鹿のありす
1972年1月2日 アテネ
*)残念な焼き鳥屋……この人たちも巫女なの?
前章の最後が悪い、という事で私はマイケルのヘルメットを後ろからバンバンと叩いてやった。優しいマイケルは肩叩き程度にしか思っていないようで、ご丁寧にも無視して下さる。
いや、そうではないようだ。今のマイケルは何の反応もしていないのかとも考えてみたら答えがでた。
「脇の下、コチョコチョチョ~……。」
「……。」
「あらら、オートモードの運転になっている。大変! 居眠り運転だわ。」
「バコ~ン、起きて、ねぇ起きてよ、バコ~ン、」
「マイケル?」
「おうなんだ、」
「今宵も流星雨が綺麗だよ。」
「……。」
薄暗い夜でも不思議と綺麗に見えるようになっている。流星雨が綺麗だなんて今はロマンチックでどうするのよ。どうもマイケルの様子が変になっている、どうしたのかしら。
「マイケル。休憩よ休憩。先のラブホに行きたい。」
「キキキ……ッ!」
「キャッ……急に止まらないでよ、驚いたではありませんか。」
「タヌキを轢いてしまった!」
「うそ!」
「休憩ならばここが良いだろう。もう少しは流星雨を見られるか。」
「ねぇ、タヌキ。」
「逃げた、今頃は巣穴でいちゃついているさ。」
「だったら私も!……マイケル。」
「スッコ~ン!」x2 と、ヘルメットを二つ外して放り投げる。
・・・♥・・・
私はマイケルの膝の上に跨がって暗くてよく見えない目を覗き込む。私は巫女の力が戻ってからだと思うが気がつけば視力がとても良くなっていた。それに動体視力も気がつけば横を通り過ぎる景色もよく見えていた。で、気がつけば何時もとは違うマイケルの目に輝きが無くなっていてに悲しくなった。ギャボ!……マイケルの精気が無くなっている、どうしてなの? で、気がついたらマイケルを押し倒していて、
「どうかしたの?……マイケル。」
「いや、ありすの巫女の力が凄いのだと、頭から離れない。俺は無力だぜ、あんなに粋がって臨んだというのにな。」
「ううん違うわよ、マイケルはとても強くてステキだったわ。」
「……。ところでだ、あのな、ここひと月は毎日攻めてきていが、月一度の休みはどうした。」
「なんのことかしら? (体重ならば三グラムほど増えたかしら?)」
「俺の爆弾が明後日の処で破裂した。(こいつは天然だったかな?)」
そういえば言われてみたらそうだよ、爆発の順序はマイケルのリモコンからだけれども、投げていたのは私。投げる番号がメチャクチャだったからかな。
「言われた通りに投げたわよ。」
「だが半分は意味なく終わった……。(ありすを投げて遊べなくなったのか!)」
と、しょんぼりとするマイケル。以外と尻の穴が小さいかも! 今度スリコギをぶち込んでみたいと考えてみた。うん、面白いかもしれないね、シリコギ?? 電動こけしは……作ればいいのよね?
「もう俺のプライドはズタズタさ、また修行に出る。」
「またまた冗談を言うのだから、面白いマイケルだこと。」
うわ~もしかしたら、私が巫女の魔法を使った事でマイケルが意気消沈したのかしら。もしそうだとしたら、どうすれば良いのよ。ここは妻として夫を蔑むのよ、一度私が優位に立ってマイケルを使うのよ。いや逆だよね。
「マイケル、私のマイケル。面白かったから、また花火を打ち上げようよ。あんなマイケルの楽しそうな顔を見たのは初めてよ、また笑顔を見せてよ。」
「……。」
「もしかしてマイケルは、私にも楽しみ方を教えたくて爆弾を披露してくれたのよね、だったら目的は果たせたわよ。それにお礼参りのマフィアの撲滅、飲酒運転の撲滅よりも簡単でしたし、」
「そうかな、目的は……俺は何をしたかったんだろう。」
「私を楽しませる夜のドライブで、序でに花火を上げるのがサブの目的だったわよね。どちらも成功したんだからさ、もうすねてないで元気出しんしゃい!」
「ほらほらピザ屋さんでも私、楽しくて燥いでいたわよ。今朝の新聞には「謎の怪盗、現る!」だよね?」
「今朝の新聞には間に合わない。明日の朝刊にありすの指名手配が載っていなければいいのだがな。」
「一躍の有名人じゃないかしら、ね?」
私はふと思ってしまった。今夜の行動で何かしらのマイケルのトラウマが再現されていたとしたらどうなんだろうか。
(考えるのよありす、私がマイケルの指示ミスをおかした? いいえ違うわ。では私の行動に問題があった、そうね、それしかないのよ。では何処が問題かな。)
「えぇ~い、このおたんこなす。こうしちゃうんだからね!」
「ブチュ~ッ、ペロペロ……。」
私は思いっきり抱きついてマイケルにキスをした。そしてマイケルのお口に私の可愛い舌を滑り込ませる。
「チロチロ……。」
ほらほらもう観念しなさいよマイケル。私の甘い口づけにトロトロと、とっととなりなさい。
「ガバッ!」「ウキャ!」「フン!」「痛いよマイケル。」
「ふん、知るか!」
「いや~ん……、」
私はマイケルの強い力によって押し倒される。それからジャンパーのファスナーを勢いよく下げられて、下の服は勢いよく捲り上げられ白い乳房に赤ん坊が抱きついてきた。
「ミカエル、好きです!」
「う……ありす、俺も好きだよ!」
冷え切った身体が一瞬にして熱くなった。
「バコ~ン、」
「イテ!」
「加熱しすぎよ、バカ! 人に見られてしまうじゃないのよ。」
「誰もいないぜ?」
「うん、続きしよう!」
「……?」
「どうしたの?」
「お前、もう無茶ぶりは止めてくれよな。」
「そうね、今後はマイケルに従います。で、これからどうすのかしら? ラブホ?」
「よし、行くぞ~~~!!」
「やった~!」
「ガバッ!」x2
私は転がるヘルメットをマイケルの頭に勢いよくはめ込む。勿論、私も同じく勢いよく被っている。マイケルの背中に抱きついてウキウキとしていたらよ、
で、行き着いた先は、何と!……ジャパニーズ・焼き鳥!? だった。太っちょの女将が出迎えてくれる。そう言えばお父さんは博多転勤の時に良く通っていたとか。あの串焼きのような料理、お皿に盛られた焼き鳥は一度しか行ったことがなかったが、あの時と同じだよ、お父さん。
マイケルはお店に入るなり注文している。
「ビール、ワイン、適当に出してくれ。肉もお任せでいいが十人前は出してくれ。」
「フンなによ、期待していたのにな。」
「誰だい、ヘルメットを外してから言いな。」
「そうだったな、指名手配犯だったら食い逃げするだろうから、ありす。」
「え~もしかして私に言っているの? ま、本当だけどもね。」
「なんだい……久しぶりだね。」
ヘルメットを取るマイケル。もう以前のマイケルに戻っていた。私もニコリと微笑ながらヘルメットを脱いでテーブルの椅子に置いた。さらりとした赤い髪がなびいていてマイケルが驚いた様子なの。
そう言えば朧気ながらも私の幼少期は髪が赤かったと聞いている。あの時は良く覚えてはいないが、儀式が行われて母や家族の巫女らが死んだ時に黒くなったと覚えている。それがまた赤くなったと、はどうしてかしら。
「あれ……? 私、髪の色が変わったかな。」
「いいや、ありすと同じだよ。」
「そ、いいわね。」
「ほれ、十人分。早くだせ。」
「あいよ、お客さん気前がいいね、好きだよ。」
「好かれたくはないが、これ、美味いな、癖になりそうだぜ。」
「ありがとうね、ハンサム坊や!」
「こんな甘い焼き鳥が美味しいって、マイケルはコロナで味が判らないのかしら?」
「いや、胡椒も効いていて実に美味い。」
「へ~可笑しなマイケルだこと。」
そう言えば女将さん、私たちが入るなり肉を焼きだしていたらしい。串に刺されたなにか細いものが直ぐに出されたのだった。もしかして自分が食べるつもりだったとか? ぼんじりが美味しいのよね!? 今の私と同じでシッポ振って男の人に付いて行く。
それから二人別々のお皿にドンドンと置かれる串焼き。目の前で見て判ったんだ。日本みたいにしてコンロがカウンター側には置いてなくて、壁側に焼く台が据えてある。だからせわしなく前と後ろに向き直って調理している。これでは大変だろうと同情してみるも、目立つのよね……。
う~ん、実に大きな身体だこと。これがマイケルの好みだったら私はどうしようか。私もビールをあおりながら女将さんを観察していた。マイケルは食うわ飲むわで私の相手をしてくれないのよ、思いっきり叩いてやりたい気分。
「お母さんって、人を見る目が鋭いのですね。」
「ありがとうよ嬢ちゃん。それぞれ別の味付けさ。気に入ったかい?」
「はい、とても!」
「そりゃ~良かった。でも儂はあんたの母親じゃないよ。」
客の顔を見て客の好みを考えて調理するとか、並の人間には出来ない相談だよね。それを簡単にこなすこの女将は伊達ではないよ。
「あんた、どう考えてもマイケルの娘には見えないが、」
「……?」
「あぁ、俺の嫁さんだ、ありすだよ。」
「アホ抜かせ、似てはいるのだが……あれは生きていないよな?」
それからだいぶん時間も過ぎたようだ。料理もこれで打ち止めらしい。
「髪の色を見て思い出したから作ってみたよ。ありすと同じ髪の色だね~。」
「え~? 私は黒ですよ。」
思わず口をついて出た言葉。昨日までは黒髪だったからそう言ったまでだ。でも今日は赤髪になっている、どうしてかしら。
「女将。言わなくていい、今はな!」
「へいへい、もう昔の事は忘れました。」
この女将が最後に作ってくれた、真っ赤な骨付きチキン。漫画肉みたいにして手で持って食べる肉、見るからに辛そう……。
「おぉぉ、これはイケる! ビールくれ。」
「自慢料理さ、色んな物を混ぜたソースに浸けて焼くからね。ヨーグルトも混ぜているから子供でも食べられるよ。」
「え~私も食べていいですか?」
「もちろんさ、思いっきり囓っておくれ!」
「はい……!」
「おいありす、やめろ!」
「……?……うぎゃ~……!」
「ほれ、いわんこっちゃない。これ、香辛料の利き過ぎでありすには無理だろう。ここの女将の何時ものからかいの落ちというものさ。」
「女将さ~ん、私に恨みでもあるのかな~。」
「いいえ、ありませんよ、女の嫉妬以外はね!」
この店は昔から客をからかって楽しむのだとか、今日はこの私が獲物らしい。だったらマイケルは……意に介しない大物だったのかと邪推する。でも、オチは朝の目覚めに起きる、いや起きたのだ。
女将が手を休めて何やらグラスを呷って、マイケルの顔にグラスを差し出す。
「おいマイク。何年ぶりに来たんだよ、もう死んでいるのかと思ったよ。」
マイケルはそのグラスに私の飲みかけのボトルワインを注いでいる。実に自然とした動作に気を取られた自分がいた。
「なんだ名前、覚えていたのかよ。痩せた女だからくたばっていたと思ったが?」
「生憎とこの様さ~ね。長生きしているよ。」
フンと笑うようにしてワインを一気飲み……だよ。それからマイケルが昔の女将の娘時代の事を話してくれたが、昔娘の人はグラスを差し出してはワインをせがんでいる。
私はこの女将が少しマイケルに馴れ馴れしいのが気にくわないので、食わない串焼きを一つその差し出されたグラスに放り込んでやった。
「んまぁ……、」
この女将さんは、昔は細身で可愛くて綺麗だったらしい。でも今は太っちょで全然可愛らしさのかの字も無いのだというマイケルの感想である。自分でも自嘲気味なので判っているのだろう。下っ腹が大きくはみ出してもいる。何時もいつも残った肉を焼いて食べるのだから、こんなに成長したとか笑えない。
「ありす……なるなよ。」
「え?……なにがよ。」
出っ腹をパンパンと叩きながらマイケルに声をかける。
「もういいかい。」
「もう身体も暖まった。」
「……? 親しかったの?」
「あぁ昔な、良く通った店さ、ありすとな。」
「おや、ややや、あの子の娘じゃないのかい。良く似ていたからさ、つい、」
「よく似ているが別人。最近見つけて一目惚れして捕まえた。」
「はい、運悪く捕まりました。」
「そうかいそうかい、ありすは死んだんだね。」
「女将さん、不躾ですよ!」
「いいよ。このデブは知っていて言うのだから、たちが悪い。」
「いいよ奥の部屋、使いな!」
「ありがとう。」
「ウキャ~~連れ込み部屋!」
もう三時は過ぎたころだろうか、残ったのは私たちだけだった。これがマイケルが言う処のラブホ! なの?
「この女、俺の事を好きだったらしい。それで何時もなんやらとからかわれていた。お袋はどうした隠居か!」
「あれは儂を置いて男と出て行った。もうくたばったらしいがね。」
「そうか残念だよ。」
「ねぇマイケル。よく通っていたの?」
「ほんの数回、都度に奥の部屋を借りて騒いでいたよ。」
「ふ~ん、そうなんだ。早くお部屋に行こう?」
「一眠りするか!」
「そうだよ二人で騒いだら追い出すからね。」
「どういうお部屋ですか!」
「もう子供がいるんだよ、マイケルの子がね!?」
「ギャボ! マイケル嘘よね。」
「だから言ったろう? この女は俺を好きでよくからかうとね。」
「あ、そうなんだ、僻んだ人なんだね。」
私は腹いせに騒いで朝を迎える。マイケルは精も根も尽き果てた。
「マイケル。起きてよ、朝だよ。」
「ムニャ~……。」
と、起こしても起きないのよね。どうしてかしら。
「あ、そうなんだ。マイケルは私に精気を奪われていたのね!」
「……?」
暫くは眠っていたらしいのよ、記憶がないよ……3P!
「で、毛布をはぐればこの娘は何かしら、裸でマイケルに抱きついているわね?」
「ありす……好きだよ!」
「ギャボ! マイケル、誰に抱きついているのよ!」
「お姉ちゃん、おはよう……。」
「あらあら、あんたが騒ぐうち家の娘も参戦したではないかい。だからさ、騒ぐなと言っただろう?」
「なんだ、昔の若女将と同じだな。」
「そうだね、なんだか懐かしいよ。こら、ソフィア、ま~た他人様の男を盗むつもりじゃないだろうね!」
「……ママ、おはよう……。」
「女将さん、台所を貸して頂けますか?」
「え?……無い無い無い、家では包丁を使わないんだよ。」
「ふ~ん、とても残念ですわ!」
「マイク、今度はどうするんだい、……を!」
「そうだな、ありすがいるから楽勝かもしれね~が、こいつを巻き込みたくはないな。」
「優しいね……。こんなに可愛いんだ、一生大事にしてやれよ?」
女将さんが私を慈しみのまなざしで見てくれているのかな。
「あぁ……判っている。俺も生き返った気分にさせられた。」
「すまないね~このソフィアがブスでよ。ほれ、下調べの情報。」
「何よ、何を話しているのよ、ソフィアってマイケルとどういう関係よ!」
「パパ、今度は何時帰ってくるの?」
「もう戻らない、」
「パパって何よ、マイクって呼ばれる関係はなに!?」
私はソフィアの事を忘れてマイケルに問いただした。最初は無口でいるマイケル。でも私は納得できないのよね、最後まで聞くのだから。
「あ、その前にこの泥棒ネコを港に捨ててきます。」
「あ、お姉さま……許して下さい、ありすさま! ……ぅえ~んパパ助けて!」
「おいありす、お前……ソフィアの事は忘れたんじゃないのか!」
「身体が勝手に反応しているだけだよ、こんなメス猫なんて知らないモン!」
「せめて服くらいは着せて追い出せよ。」
「うん、そうする。」
「……ぅえ~ん……。」
若いのに女の武器を備えているから、これも母親似なのかしらね。
「情が移らないように後ろを向いて放り込め。」
「そうだね、お母さんはいつもそうやって子猫を川に投げ込んでいました。」
「……ぅえ~ん……。」
*)私をのけ者にしないで!
一騒動を起こしては又してもマイケルに顰蹙を買った私に、女将さんが朝風呂を勧めてきた。
「ハイ!」
私は大きな声で返事をした。乙女にはお風呂は大事だもんね。
「風呂の料金は払えよ、マイク。」
「二人分、勿論払うさ。狭いのに高すぎだろうが。」
「儂の為にとても大きいバスタブを据えた。なに文句はないだろう、二人ででも
いいぞ?」
「……。」
「どうだいその情報はよ、これも高く買ってもらいたよ。」
そう言いながら女将が何やら紙をマイケルに渡している。それを一瞥して、
「フン、ありす行くぞ。」
「うん、直ぐに行きます。」
「ほんと、仲がいいね~、羨ましいよ。」
「ママも色んな人とお風呂入っていたわよね?」
「お前、誰の子だろうね~。」
「ママの子だよ、性格が似ていると良く言われるからさ。」
「男漁りが似てもしょうもないんだよ、金稼ぎな!」
「うん、お財布お財布ランラララン!」
「バコ~ン、」
男の風呂時間は女から見たらとても短く思える。女は肌を磨いてなんぼよ。
先に上がったマイケルがさっきの紙を手に取り読んでいる様子。そう言えば何かの調査の報告書だと言っていたよね、なんだろう。
「マイケル、それはなによ。」
「これか? ありすを殺した組織の報告書だな。気にするな。」
「仇討ちに行くとか、私も行きます。」
「こんな紙切れに意味はない。夕方まで寝る。」
「見せて……。ふ~ん、本当にこれは意味が無いようね、これが有料とは笑わせてくれるわ。」
この報告書は女の字で書かれてあるが、その……日付が十五年も前?
「そういう事だ。」
マイケルの声が大きかったようで、直ぐに女将が部屋に入ってきた。
「どうだい、行く気になったかい?」
「私も一緒に!」
マイケルは私が邪魔なようで女将に引き渡してくれている。なにすんのよ、馬鹿マイケル。
「ありすも掃除婦に雇え、この部屋には入れるな!」
私をお店の掃除婦として売ってくれるのよね、もう最低だわ。
「あいよ、もしも儂が殺されたら娘を娘にしておくれ。」
「小娘は好かん、売り飛ばす。もう一人で十分だ。」
「そうだったよねマイクは、」
「ほら行くよ。」
「痛い、イテテ……。マイケル。お昼ご飯作っておくから。」
「要らん、起こすな。」
私は後ろ髪を引かれる思い? いや、本当に女将に髪を引かれてお店に連れて行かれた。
マイケルは今から腹の中の肉を消化させて気力を蓄えるのだとか。そうすると私は退屈で仕方が無いからソフィアで遊びだす。
いや~マイケルは怒っているのよね、なによこれ! あの紙切れを読んだからかマイケルは急に不機嫌になったのよね? 決して私の所為じゃないよね。
「女将さ~ん、あの紙に書かれた事を教えて下さい。お金払いますから…… ね!? いいでしょう?」
「そうさね、教えてやらん事もないが……その娘を解放してくれると嬉しいの。」
「こんな子猫なんて知りません、エアードライブ……」
「ウッキャ~……、」
「それの何処が解放かいな、後で介抱するのが大変だよ儂の事も考えておくれ。」
開け放たれた窓から飛んでいく残念なソフィア。上手く海に落ちていれば生きて戻ってくるだろう。でも冬だから無理かもしれないね。
「やれやれ、性格も似たもんかね~。」
重たい腹を揺すりながら椅子に座る女将。横に上に波打つ姿に惚れ惚れとするのは何故なのよ。この女将の冗談は腹だけのようで顔は真剣だったから、一瞬だが私は驚いたわ。
「話す前に一つ聞きたいのだが、答えてくれるかい?」
「はい、お母さん。」
「だから儂は母親じゃないよ。んでね、もし、もしもお前さんの旦那が殺されたと仮定しようじゃないか。」
「そうですね、前の旦那は何度も殺されてきました。三回は……、」
「訊いた儂が悪いかえ……இ……。」
「いえ、続けて下さい。」
「もうええ、実話に切り替える。」
「うん、はい、それで、」
目がランランと輝き出す私がいる。もしかしてマイケルの過去とか!
「お前さん、不謹慎だろう。もうバカとしか言い様がないよ。」
「続けて下さい。」
「アホで、間抜けで、バカで、人の気持ちをこれっぽちも考えないノータリン!」
「ギャボ!……否定しませんが少し多すぎます。続けると処はそこではありませんマイケルの事ですよ。」
「でな、マイクの嫁が殺されてよ、組織に殺されたありすだがな、マイク一人ではどうしても太刀打ちができなんだ。あの頃はマイクも若かったんじゃろ、自分が殺されたらありすの敵が討てないと泣きながら帰って来たよ。」
「マイケルの過去が……そんな、あんまりです。私だったら怒りにまかせて全員を殺してしまいます。」
「見たところお前さんは強いじゃろが、でも非力だった頃もあるじゃろ。その時に旦那が殺されたらどうするよ。」
「うっ……泣いて帰って泣いて過ごすのだろうと思います。自分で死ぬかもです。出来るのなら協力者を探して敵を討ちたいです。」
「マイクがそうじゃったんだよ、泣いてここに戻ってきたね。数日ここに滞在していたがふらっと出て行きおった、なにも出来ない自分を悔やんだ事だろう。それでうんと力をつけたいと考えただろうね。」
「マイケルは強いです。」
「今はそうだろうね、筋骨隆々と見えるから。もしかしたらさマイクは仇討ちに舞い戻ってきたんじゃないなね。」
「えぇ判りませんが、お墓参りだと言っていました。もしかして、ミコノス島にお墓を作っていたとか。」
「ありすを見初めた島じゃからそうだろうね。他には何か言っていたかい。」
へ~マイケルはあの島で奥さんを見つけたのか、知らなかったよ。
「はい、自分はクオーターで嫁は日本人だとも言っていましたが、少し矛盾していたかと思いながら聞いていました。」
「日本人……? そうかもしれないね。日本人の両親が住んでいたのかもと考えたら、そう違和感はないよ。」
「そうですね、きっとそうかもしれません。ですがマイケルは本当に仇討ちに舞い戻って来たでしょうか?」
私は理解出来ない。マイケルの説明があやふやな所為だろうとは思うが、女将の説明でも理解出来ないのよ。きっと私の反応を読み取りながら話す内容を吟味しているのね。
「ファ~……よく寝たな。」
奥から残念な程に間の抜けた声が聞こえてきた。マイケルだ。
「あ、起きたみたい。」
「なに、まだ部屋からは出て来ないだろう。話を続けるよ。」
「お願いします。」
「先に訊くがマイクは今は何をしている。」
「泥棒さんです。主に車上荒らしですね、情けないですが今は私も。」
「真面目に働けっつうの。出来ない事は無いだろうに。」
「いえ、働いてそれで色んな知識を得たと言ってました。……爆弾を作れるのはその所為かなと思いましたが。」
「それから、」
「はい、私を妻にしてくれて喜んでいます。」
「馬鹿か、それはお前さんの事だろう。」
「? そうです、デヘヘヘ・・・。私がルーマニアのドラキュラさんとこに行きたいと言いましたら連れて行ってやるからと。」
「それから、」
「それから……車上荒らしで私がマフィアの車からお金を沢山頂きました。」
「それならもっと金をここに置いていきな。」
「タダでは置いていきません。今晩もおご馳走とお酒を飲ませて下さい。」
「お前、もう飲まないがいいよ。昨晩の料理で判ったんだからね。」
「え~何がですか、全部美味しかったですよ?」
「シトラスを絞って掛けていた肉を好んで食べていたよ。まだ早いのかとも思ったが……出来たんだろうよ。」
「……………………………………………………………………・・フワァィ?」
「お前、異常に性欲が強かったんだろう? それって強い男を見つけて、強い男の子供を産みたいと、そう身体が判断した、ただそれだけだよ。」
「私、マイケルこ子を宿した……、う~ん幸せだよ。」
「時期に儂と同じ体型になるね、どうじゃい、この出っ腹は……ポンポン!」
「あ~それでマイケルは女将さんのこと見ていたんだ。」
「お前さん、生理はどうなった。」
「あ……すっかり忘れていました。もう二ヶ月は無いような……?」
「確証はないがマイクもお前さんの違いが判ってきたんだろう……おめでとう。」
「はい!」
私は満面の笑顔で、大きな声で返事をした。私がマイケルの子を宿したなんてステキではありませんか。どうか大地や海斗の子供ではありませんように……。
「おやおや、とんだ阿婆擦れだよこの子は。心当たりが多すぎるとかバチあたりというもんさね。」
「いえ、間違いなくマイケルの子です。」
そう言えばマイケルは言っていたよね。
「ねぇママ、マイケルが私を巻き込みたくはないとも言っていたよね。」
「そういう事だろう。他にもなにか出来事は? ママとちゃうがな。」
「あ、マフィアの続きです。それから私たちの愛の巣が襲撃されて燃やされ追い出されてしまいました。昨晩はのそ報復に行って壊滅させたかと思います。」
「あ~それな、それがマイクに火をつけたんだろうて。」
「私が悪いのですね、面白がってマイケルが怖がっているマフィアに手を出したこの私が、」
「そうだとは言えないが、気にする事はまた別だよ。マイクをまた襲撃に行かせるつもりかい? まだまだマフィアは存命だよ。兵隊が捕まっても本部は痛くも痒くも無い、だから逃げるしかないだろう。」
「そうですよね、逃げたがいいに決まっています。私もお腹の子が大きくなれば私の魔法はこの子に移譲されてしまいますから、私は非力な娘に戻ります。」
「だが母は強いよ。子の為ならばマフィアだって潰してしまうさ。」
「んな訳ありません。殺されてしまいますからね。」
「アハハ……そうだろう、早く逃げておしまい。」
「四度目……これが最後かもしれないね巫女の魔法はね。」
「でも、もしもという事が起きたら後悔しても遅いよ。マイクが殺されたどうするよ、仇討ちが出来ても男は生き返らないよ?」
「そうですね、マイケルは素敵な私の王子さま、手放せません。ぅわぁ!」
「女将、暫く世話になりたいがいいかい。」
いきなり私の後ろから大きな声がしたので、恥ずかしげも無く大きく驚いてしまった。マイケルが出て来たのだ。
「金さえ貰えば構わないが、この子を置いて行くのかい?」
「元々が俺の願望、それを考えながら過ごしてきたんだ今更忘れろと言われてもな出来やしないよ。やはり後悔したくはない。」
「そうかい。でもな、この嬢ちゃんも付いて行くに決まっているよ、どうする。」
「ここでメイドをさせておくさ、嫌でも置いて行く。」
「私をのけ者にしないで!」
「おい、ありす。俺はありすをここに預けていく。これからは俺の喧嘩だ。」
「いいえ、夫婦で喧嘩するのです。これが私の最後になります。」
「最後って、死ぬ気じゃないよな!」
「死にません。でも巫女の力は最後になりそう、そう言いたかったんです! 判れ馬鹿!」
「そうか、この婆さんにはありすを止めることは出来ないよな。おいババァ、」
「なんだい、もうすっかりのジジイの年齢だろうに若い娘を引っかけて、みっともないよ。」
「余計なお世話だ、」
「ならば出てゆけ、二度と来るな!」
「あ、そうかい。俺は何を言いたかったのか忘れてしまったぞ。」
「そのまま忘れておけ、儂は知らん。フン!」
二日酔いで起き抜けのマイケルの頭が冴えない。いやいや私がマイケルの精力を抜いてしまったんだわ、ごめんなさい。
(私が妊娠しているなんて言えない、黙っておこう。)
「ありす、昼飯!」
「バコ~ン、」
「要らないと言ったのは誰ですか!」
「知らん。」
私の堕天使さま、ミカエルさま。もうすっかり普通の親父に墜ちているよ。
「なにさ、フン!」
「さ、家のお犬さまに飯を用意するか。夫婦喧嘩では腹の足しにはなるまいて。」
「え~犬を飼っているのですか?……あ、マイケル?」
さ、これからは夫婦の時間よ、戦争よ!
「と言うわけで、もう話してよ。」
「と、言われても俺はしらん。一人で行くから帰って来たら治療してくれよ。我が妻、巫女さまよ。」
「死んだら帰って来られないから私も行く! 行くと言ったら絶対に行くのだからね。置いて行ったら私がマイケルを絞ってやりますから。」
「う~……ありすは頑固だから困るよ。いいぜ、付いてこいよ。」
「わ~い嬉しい。いっぱい応援するからね!」
1972年1月4日 アテネ
*)妊娠の報告と?
一月三日を休養日にして二人でダラダラと過ごすと決めた。もうの三日も夕方になろうかとしている。だってそう決めたのが昼過ぎだモン。
「もうお前らはダメダメだね。今晩の報復は止めておきな、怪我してしまいそうな予感しかしないね。」
だから今宵も酒と串焼き時々ステーキ!
「酒は半分、肉も半分。スパゲッティを食らって寝なさい。ソフィア、二人を奥に追い立てなさい。」
「私も!」
「いいよ頑張ってHを貰っておいで。」
「うん!」
私は潔くこの泥棒猫を窓から捨てて丁寧に水までもぶっかける。マイケルを奪うにはこの私を倒してからにしなさいよね。
「けっ! 泥棒猫めが蛇味線にしてやるから!」
蛇味線とは三味線の姉妹品、沖縄の楽器であるが猫の皮ではない。だが不思議に沖縄では普通に三味線と呼ばれている。三線もしゃみせん、とか呼ばれてもいるがさんしんと読む。ようは本土では沖縄の三味線を区別するために蛇味線と呼称をつけているにすぎない。
「ブ~だ、馬鹿姉、知らず後家!」
「なによ、その知らず後家とは!」
「馬鹿の大馬鹿という意味よ、なによ文句あっか!」
「ウキャ~~……エアードラ***?」
「もうやめておけ、上の女が下を苛めてどうするよ。」
「だってソフィアにはシコタマ馬鹿にされるばかりだから悔しいのよ。」
「少しは成長したらどうだい、下賤な者を相手に高貴がどうする。」
「高貴……そうね、ありがとうマイケル。」
「ありすは巫女の中の巫女、高貴な部類に入るはずさ。」
でもマイケルは巫女の存在を知っている様子ではあるが、その巫女にもなんと言ったらいいのかな、眷属とは言い過ぎだと考えてもいる、その巫女に仕える巫女もいる。巫女の階級ともいえる事はマイケルは知らないはずよね。
「私、そんな高貴な巫女だとは思っていません。」
「馬鹿を言うなよ、普通の巫女は魔法さえも使えないのだ。その巫女の魔法を強く自由に使えるのは、高貴な巫女の家系だけだそうだ。」
「あ……だったらお母さんたちも沢山の魔法を使って遊んでいたそうですよ?」
「遊んで……そりゃ~なんだ、あれだな。試験のカンニングとかに便利だよな。」
「へ~カンニングね~、いったいどうやったら使えるのかしら。」
「帰国して訊いてみろ、きっと答えは返ってこないから、ま、そういう使い方もあったとだけ理解しておけばいい。」
「そうだね、国にいたらもうすぐ卒業だよ。」
「すまない俺の為に。」
「ううん、いいのよ私が好んで決めた事なのよ。マイケルには関係は、」
「なんだい、途中でとめるなよ。で、関係は?」
「うん、夫だからさ、お父さんだよ。」
「おっと、お父さんか……!……?」
「だよ、今度からは私を大事にしてよね。」
「そうか、そうなのか。薄々は感じてはいたがあのババァがゆうたのかい。」
「ゆうた? そうね、私よりも早く気づいていたのよ、どうしてかしら。私ね、家族の妊娠も当ててきたと言うのにね、どこがどうしてこうなったのよ。」
「わかんな~い!」
「あ、それ! 私の口癖よ、まねないで。」
マイケルは私には黙っているが、きっとあれだろう。巫女の力は一子相伝だという事を知っているのよ。だから私には妊娠なんて気がつかないのよね。自分の魔力はお腹の娘に移っても同じ体内だもの、何ら変わらないのよ。
(バカ言え、この二ヶ月は休み無く迫ってきたくせに。月の休みが無いのはどうしてなんだぁ~?)
「私、マイケルのお手伝いが出来るのは今度が最後だと思うの。だからお願いよ私にマイケルを守らせて欲しいのよ、最後なのよ?」
「ありすは家族に巫女がいるのか、母親はそうだろうがそれ以外にだが。」
「うん沢山いるよ。私の眷属も十人からいるのだと思う。家族にはお母さん、お姉ちゃん、お婆ちゃん、ヒヒお婆さま、亡くなった姉妹も二人もいたのよ。いや、まだ麻美さんにヒヒヒお婆さまかな」
「うっ……よくもそれだの家族が揃ったものだ。人は何人だい。」
「人ってなによ、全員が人です。」
「ヒヒとかヒヒヒは、マントヒヒと考えてしまった。で、人狼は何人だ。」
「曽祖母のヒですよ。それはお爺ちゃんだけだと思う。」
「そうか他は死んだか。未婚で巫女は死んだか、はたまた人狼にはなれずに普通の男として生きられたのか、色々ありすぎて困るな。」
「バカ! 私の家族にイチャモンもつけないで欲しいな。」
「あ、すまない、図に乗りすぎたようだ。謝る。」
巫女は魔力が強すぎて普通の男の人とは結婚しても子は出来ないらしい。なので色気で誘惑して攫ってくるとか村ごと悪事を働いていたらしい。澪お姉さんや麻美ママは途中から人になったというので、普通に子供を産んでいる。
だったら私は魔力持ちの巫女。普通の男の子とは結婚しても子は授かれない。これが呪われた運命というやつだよ。子を産みたいと考えたら男の人を人狼に改造しなければならないらしの。そう大地のように死ぬ目に遭わせて巫女の血を注ぎ入れて人狼にしてしまう。強引だけれども人狼そのもは自然に産まれないのだから。でも大地とはどうしてか子は出来なかった、何かが足りていなかったらしいとしか考えられない。
「ありす、お前は特別な巫女だ。だから命は大事にしろよ。」
「うんありがとう。でも、何度も何度も狙撃されたりしてね死線も潜ってきたから今後も注意します。」
「何度も狙撃って……、普通にか。」
「はい、普通に撃たれてきました。全身の血だって抜かれるところでしたわよ。
私には死に神さえも憑いているのよね。」
もうあきれ果てたようなマイケルの顔だよ。
「それは何処の組織が狙っていたのかは不明だろう?」
「はい、友人のお父さんという事までは分りました。ですが、それ以上が未だに判りません。」
「ロシアの富国強兵策にそういう動きがあったらしい。でもな、一応は壊滅させられたらしい。」
「あ、それは私の家族たちのお陰なのです。それとヨーロッパにも巫女さんたちが大勢いて協力も頂いていたとか。」
(おっかね~女だよ、死に神かよ!)
「死に神で悪かったわね、なによ、フン!」
「おいおい付き合いは短いというのに、なんで俺の考えが判るんだい。」
「とっくにお見通しよ、だって私はマイケルの妻ですものね。」
明日の決行が順次先延ばしにされて、その都度マイケルは準備に余念が無いの。それで私が退屈するものだからソフィアちゃんをおもちゃにしたらさ、ソフィアちゃんは逃げ出してしまったの。家出ともいうのかしら。私、知~らないっと!
私は明日の決戦に向けてお風呂に入り、入念に肌を磨いておくもよ。だってこの街は埃っぽくて、路駐の車なんか埃をいっぱい積んでいるんだもの。
アテネに限らず何処でも降水量は日本を基準にしたら少な過ぎるわよ。つい先日の雨がアテネのひと月分とか、こんなに少ないと打ち水程度にしかならないのだと考えてしまう。マイケルが心配して声を掛けてきた。
「おいどうした、溺れてはいないよな。」
「うん、もう少しね。だって寒いんだもの。」
「そうか、風邪引くなよ。」
私の湯は長湯な方だ。寒いからとね、石けんの泡を沢山作ってから、身体が冷えないようにと全身に、とにかくその泡立てた泡を塗りたくるのよ。泡で全身をコーティングして保温に努めるのよ。泡が在るだけで随分と違うんだからね。
1972年1月7日 アテネ
*)Corrector・ありす!……赤と黒の殴り込み
「マイケル、女将の調査資料を信じるてどうするのよ。」
「あ、これな、1996年とと書く処を間違えて、1969年と書いただけだ。約二年前の調査だから間違いない。」
「へ~随分とママを買っていますね。とが多いよ?」
「買ったことはないぞ、俺はありす一筋だったさ。」
「இஇஇ……。」
「おうそうだった、若い時は美人の美人局で諜報には長けていたんだよ。なんだ、その疑いの目つきは、」
「いいえ、ただ呆れていただけでございました、もうバカは言わないで!」
「で、美人局の相手の男役は誰なのよ。」
「勿論、俺で、」
「バコ~ン、」
「おいおいなんで叩く。俺では無いと言いかける前に手を出すなよ、あいつの親父だよ多分な。」
「強面のや~さんとか?」
「だろうな、方々に手を広げていて消されたんだろう。恐らくは婆さんもかな。」
「でも女将さんは生きている。」
「俺がマフィアを殺して助けた、それの仕返しにありすが殺された……。」
「え” そんな、だったら女将さんはもっとマイケルを労ってもいいのにね。」
「お前もチョロいな直ぐに騙される。ありすの死は内緒だと言わなかったか?
だったらこんなに簡単には言う訳ないだろう。」
「ママに訊いてきます。」
「いいぜ、この仕事が終わってからな。しくじるなよ。」
「マイケルが? でしょう。私は至って真面目です。冗談は名前でけにしなさいよ城南って、本当に名字なの?」
「俺の親父がそうだったんだ、仕方が無い。ありすも諦めろ。」
「まだ届けていないから変わっていません。良かったわ……。」
「お~い、ありすさ~ん。」
「大丈夫よ子も出来たし、早く何処かの役所へ届けに行きましょう?」
「日本でしか受け付けない。子供には出所証明書を出して貰えるだけだ。」
「あんた、もしかして警察に捕まっていたの?」
「いいや、なんでだ。」
「だって、出生証明書と言うんじゃなかったかしら?」
「う~……間違えた、在所証明書だったか!」
良く晴れた午後のティータイムの時間に、私たちはいよいよ仇討ちに出発した。
「緊張が取れたのならば行くわよ。」
「おう、任せろ。待ちにまった殴り込みだな。マフィアの組長は生きていないが
殺した奴は生きているからな。」
「まさか、近藤静*ではないでしょうね。」
「違うさ、確か名前はどうでもいい。見れば判る。」
「留守だったら居場所を聞くのに判らないとしたらどうなのよ。」
「落ち着けありす。何を言っているのかが判らない、もうどうでもいい。」
「うぐぅ~……、お腹空いた!」
これって緊張がなさ過ぎかしら?
「このレストランが組みの事務所だ。腹ごしらえに行くぞ!」
「え……ウソ!」
一階が普通のレストランで、二階がカモに酒を飲ませる場所らしい。んでね、三階が博打と組事務所があるという。
「こんな処で落ち着いて食事は出来ないわよ。どうしたと言うのよね。」
「大金を使ってエサになる。」
「ふ~ん良い考えだとは思うわよ。でもね一度は自宅も襲撃されたんでしょうが、だから私たちの面は割れているのよ。」
「へ~それならばそれでもいい。行くぜ。」
「しょうが無いな~付き合うわよ。」
意気込んで入ったものの組とは何の関係もない、ここのレストランは至ってふつ~のお店であった。
「マイケルの馬鹿。あの調査資料を鵜呑みにするからよ。どうする気?」
「普通に飯食ってありすの妊娠を祝う、ただそれだけの作戦さ。」
ニコニコとしたソフィアが現れた。これを見たら私も騙されたんだと理解が出来たのよ。白くて可愛らしいドレスを着た女の子のソフィア&出腹のババア。
「お姉さま、お祝いの準備が出来ております。奥の部屋に行きますよ。」
奥の部屋……三面が開放された、いや天井も無いから四面になるのかな。五面目がお店側だよ。寒くて堪らない……吹きさらし。でも客はいるのよね。
「ソフィア、家出したんじゃなかったのね。」
「家出しても行く処はありませんよ。まだ若いから男にも拾って貰えない歳です。お姉さまならばそれも直ぐに引く手あまた……、」
「バコ~ン、」
「キャッ!」
お腹の大きいママがソフィアの頭を叩く。
「こらソフィア。ありすをからかうからだよ。お前も早く大きくなりなさい。」
「ここでご飯をいっぱい食べて……、」
「バコ~ン、」
「キャッ!」
「ここでは遠慮しておきなさい!」
そういう母娘漫才を見ながら笑うのも楽しい。で、テーブルのメニューに目を落としてみた。料理の内容は考えることはできないが、料金だけは少しの時間でちくいち単価の計算をしてみたら、おや、お安いのね!
「ふ~ん、いつも自分では喫茶店のパフェを食べるのにお小遣いを出すだけだからかな、安いと思える。」
「俺が全部の金を払うとなると、べらぼ~に高くなるのはどうしてだ?」
「マイケルが十人分を食べるからでしょうが。お酒はザルだよね。」
「俺は飲み食いはザルだがよ、」
「会計もザルだよね、これでは奥さんが大変だと思うよ。」
「ありす……お前が言う台詞じゃないね。」
「あ、そうかしら。もっと言ってもいいのならばね、勘定しましょうね!?」
「言わなくていい、そのメニューを寄越せ。」
「はい、いっぱい頼んで頂戴ね。」
「おう任せろ!」
夫婦でザルというのは最悪だろう。注文の端末に食い入る女房に、悔いる旦那。沢山注文してくれ! と言った手前、もういいとは言いにくい。今日の昼は高くついてしまう。今では店員の顔も見る事無く入っては出ていくシステム。これの何処が良いのか理解が出来ない。可愛い店員さんも居るのに残念だよ、これだと男女の出会いの場がますます少なくなって、少子化が止まらないよね。私?……一人しか産めないのよね、あ~残念だわ!
「お待ちどおさま!」
「なんだソフィアちゃん。」
「うん、今日はいっぱい頼んでくれてありがとう。」
「いいわよこれ位。……ありがとう。」
お皿に盛られたイカの姿煮のはず。ゲソが無い! それでソフィアの口元に視線を送ると急いで振り返ってしまう。それにしても色彩のない料理が多いこと。殆どが茶色いという印象を受けた。
「これ……全部同じ味がするとか!」
「当たり前だろう、違いは素材の味のみ。合理的で、「外国~!」という感慨が出て面白いだろう?」
「はいはい、美味しく頂きます。」
そう言えばママの串焼きにもこんな色の無さは言えているよ。こんな事を考えていたら今にも「儂はママではない!」と、声が聞こえてきそうな予感。
「はいお姉さま、次はね、」
「いいわよ言わなくて。」
「え~どうしてよ、これママのお料理なのよ?」
「そうね……頂きます!」
あの赤い唐辛子のスパイスが掛けられた料理が出て来た。この前食べて酷い目に遭ったあの料理が早々と出て来た。
「ビールを飲んで食べると美味しいって、ママが言っていたよ。」
「マイケル、これ全部食べて。」
「いいけど、いいのか?」
「いいわよ、いいのよね?」
「ダメです、お姉さまに作ったお料理だそうです。食べないと私が怒られます。」
「だったら一口だけね。……ギュワ~……、」
「チョロいお姉さま! 次を運んできます。」
「こら、逃げるな!」
「ウキャ~~、」
「ありす、この料理はソフィアの反撃だろう。だって見えないようにしてタバスコを沢山振りかけられているぞ。」
私から見えない処で立ち止まるソフィア。
「இஇஇ……。こっち見てベ~していやがる。」
「また苛めるだけだよ、覚悟し~ぃや!」
因みに通されたテーブルは屋外のテラス。日本の一月を思えば暖かいのだが、現地の人からしたら寒いに決まっている。という事を連想してみると導き出された答えは一つ。
「ねぇマイケル。このテーブルはマイケルが頼んだのかな。」
「いや違う。これもソフィアの反撃の一つさ。可愛いから許してやれよ。」
「そうね大人だものね、これ位では音を上げない。」
「いい心がけだ。ありすはこの椅子に座り直せ。時期に料理が飛んで来るだろう。逃げる準備も必要かもしれないぜ。」
「え~何が飛んでくると言うのよ。」
「パイ!」
パイが飛んでくるなんてあり得ないわよ、テレビの番組でもあるまいに。
「はいお姉さま!」
「う……、」
匙は投げられたのだ。私の頭にパイを落として逃げて行くソフィア。私はすかさず反撃にでてパイをソフィアに投げ返していた。
「ありすがパイを投げてどうするよ。」
「う~……だぁって~……、」
「おう、頑張れや!」
そうこうしている内にテーブルが転がり出していた。逃げるソフィアの反撃はテーブルをひっくり返すことのみ。対して私はと言うと、……同じだ。
他の客は面白がるも急いで避難している。外ではマイケルもテーブルを持って振り回していた。
「も~マイケルまでもが!」
「ピュン、」
「あれ?……なによ今の音は。」
「ありす、戦闘開始の合図になった。作戦オメガで行く。」
マイケルの持つテーブルには幾つもの銃弾の跡が出来ていた。
「マイケル、作戦オメガってなによ!」
「おめ~が……決めろ……!」
「そうなの、私に一任というのね?……おめ~が!……オメガ?」
「ソフィアは逃がせよ。」
「うん、魔法で自宅まで送ってあげるわよ。」
「ウキャ~~、」
どうしてマイケルがこの店を選んだのかが判らない。お店の通りの奥と言えばいいのか、とにかく突き当たりの遠くから銃を乱射されているのよ私たち。
「エアー・ドライヴ!」
と叫んでまずはマイケルを風の魔法で助ける。次はこちらからの攻撃で、
「エアー・ショット!」
私には拳銃を持たされていない、だから魔法の銃弾を多数撃ち込んでやるのよ。もう戦争よ!
「ありす、すまないがエアー・インパクトでこの爆弾を飛ばしてくらないか。」
「いいわよ、幾つでも投げてあげるから寄越しなさい。」
「一つずつで頼むよ。さもないと順番に爆発させる事が出来ない。」
「あ、そうだったわね、最初は何処からにしますか?」
「このビルの三階。ここが本部だからさ、先に頭脳を潰しておきたい。」
「壊れてしまうけど、いいのかしら?」
「これはそんなに強くはない爆弾……だよ、……だよな?」
「手加減は出来ないわね、自分で投げなさいよ。」
「い……、」
「いいわ、寄越しなさいよ。で、どの窓に投げればいいのかしら?」
「右端、あのマフィアたちが見ている窓だね。」
「あ、そういう訳ね。りょ~かい!」
窓ガラスを割って爆弾が部屋の中に転がる。直ぐに「ボム!」という音共に屋根までが飛び上がる。
「あらあら、ほら、言ったでしょう?」
「壊れるという程度ではないぞ。これではマフィアたちのボスは生きてはいないだろう。」
「いいえ、私、人殺しは致しません。生きていますからマイケルはボスを縛っておいて下さいな。」
「儂が縛っておこうか、マイクはありすを守ってやるんだよ。」
「あぁ、そうするよ。三階は頼んだよ。」
荒縄を肩に担いで上る女将さん。三階の部屋では頭の禿げた人が伸びていた。
三階を爆破された所為か、マフィアたちからの銃弾が止まる。降伏して逃げるかと思いきや黒の車がこちらに向けて走ってくるようだ。遠くから見える砂塵がその車の台数を物語るかのように、反対に向けて走る車ではない。
「マイケル、あれをどうするん?」
「あれは昨晩仕込んでおいた爆弾で、ボム!」
「うん、見てみたい。早く!」
「ま~まて、引きつけてから爆破する。」
「私、避難した方がいいかな。」
「エアードライブで俺もろとも保護してくれないか。」
「そうね、それが一番かもしれないね。」
「エアー・ドライヴ!」
続けてマイケルが私の真似? だよね、叫んだのよ。
「ボム・インパクト!」……x?
次々と爆発を伴って車が宙に舞う。大きい通りではない道路は埃をいっぱいに舞い上げてしまう。被害は……お店も含めて甚大だろうか。これって私に被害請求とか来ませんように。
「ありす、車を上手に切ってくれないかな。」
「オーケー……エアー・スプラッシュ!」x?
「次は男たちを一カ所に集めてくれ、出来るよな。」
「はい、勿論よ、エアー・インパクト!」x?
次々と舞い上がっては一カ所に降り積もるマフィアたち、道路に落ちては頭を打つから当然に伸びている。
「もういいか、俺も荒縄を持って縛ってくるからここに居てくれよ。」
「うん、しっかりね! でも、もう逃げた方がいいかもよ?」
遠くでパトカーのサイレンが聞こえ出したようだよ、逃げるよね。
「なに、直ぐに済む。俺のフーガで待っててくれ。」
「早くよ、さもないと私はバイクに乗って逃げるからね。」
「それでいいよ、横に五〇センチほど逃げるだけだろう?」
「そうね、横に倒れて私は下敷き、お腹の赤ん坊は即死だよ。」
「うわ~……それはいかん、直ぐに退避、逃げるよ。」
「エアー・ドライヴ。」
私は両手を上に挙げた。最大の風魔法、強い風が渦巻くバリアで私たちは守られながら逃げてゆく、何処まででも……。
「ねぇマイケル、このままギリシアともお別れをしようよ。」
「勿論さ、ラフィーナに寄ってラフィーネに報告してからだが、いいかな。」
「いいわよ、私にもラフィーネを紹介してよ。お墓……在るのよね?」
「俺からもお願いしたい、元妻に会ってくれないか!」
これがマイケルの仇討ちだとは思えない、まだ奥がありそうだと巫女の予感。私はマイケルのリュックサックになった気分……最高に幸せ……!
幾本もの大きな松の木がある土地に白くて小さな教会、ここがそのお墓だという。芝生が綺麗で広い庭? そこには子供用の玩具、主に女児用のおもちゃが置かれてあった。これが私の涙を誘う。
「マイケル、子供が居たの?」
「そうさな、……これもまだ秘密にしておきたい。」
「うん、いいわよ、聞かないでおくね。」
この教会から奥に進んでいくと、ここはまるで妖精の国のような雰囲気を漂わせるオブジェが多数据えてある。
「わ~とても綺麗だね、不思議の国のアリス……あれ? 涙が零れてきて止まらないや、可笑しいな。どうしてかな。」
やがて月桂樹が見えてきた。ダプネとはギリシア神話の女性の事だとマイケルは説明してくれた。その月桂樹の根元に立つ石がそうなのだろうか。
ぅわ~前のありすさんって、どんだけマイケルに愛されていたのよ、今の妻としても嫉妬しちゃうわね。
「mobilis、今のありすの巫女を表すローレル、月桂樹さ。高貴と言う意味で使われる。」
「ノブレスという言葉は知っていました、ローレルがそういう意味だったとは、知りませんね。」
「この下に、下に赤い髪だけが眠っているよ。着いたよ。」
「うん、先に二人だけにさせて欲しい、お願いできる?」
「あ? いいよ。俺は離れて見ている。」
「ありがとう。うんとヤキモチやいてやるんだからさ、恥ずかしいモン。」
「アハハ……ヤキモチやいてどうする。」
「女はヤキモチ焼かせて這い上がる生き物なのよ。はやくありす……さんに追いつきたいのよね。」
「そんな……立派な女じゃないよ、亜衣音の方が立派に見えるよ。」
「うん嬉しい、マイケル。」
この石がお墓だなんて誰も気づいてはいないだろう。この石の前で跪き頭を垂れて、まるで石像のように凝り固まっている私。両手を合わせているだけでも心が癒やされる思いがこみ上げてきた。
「ありすさんって、修道女とかだったのかな。子供が好きでよく面倒を見ていたマリアさん的……な。」
私の目は良く見えるよになっている。だからだろうか、石の横にほんの僅かな髪の毛が見えてきた。
「これ、もしかしてありすさんの髪の毛?」
私はおもむろに摘まみあげてみた。その短い髪の毛は赤くにも見える。日の当る所為でもあるようだ、もう夕日が沈みかけていた。もうすぐ夜になるのね。
私は両手で包んで天に向けて捧げる。それから何を言っていたのか自分でも理解出来なかった。降ろした両手を広げてみると髪の毛は無かった。
「あ、しくじった。風で飛ばしちゃいましたか、残念、記念に持っていたかったのにな。」
私の髪が更に紅くなっていた。
「私、どうしたのだろう、紅い髪の毛になっちゃいましたよ。」
後ろを振り向くとニコリとマイケルが笑ってくれる。う~ん幸せだよ。マイケルの後ろの方には小さな動物や女の子の人形があって、その周りは多数のバスケットや鳥かご? お部屋のような物も沢山見えている。
「そうなんだ、ここが『不思議の国のアリス……、』なんだね。」
ありすという人がどんな人、女性だったのかと改めて興味が湧いてきた。
「これは、のっぴきならない問題だわ!」
人狼と少女 亜衣音の不思議な国のアリス……β世界線(仮)にようやくたどり着いく。




