第174部 夜明けまで……
1972年1月2日 アテネ
*)今夜は暖かいから、夜明けまで……
「タバスコ、掛けちゃうぞ!」
と言うとマイケルは私が持つタバコの小瓶を取り上げしまった。それから蓋を取り除きすぐにも私のピザに目がけて……、
「あ、だめ! 私は辛いのは苦手なのよ。も~許して。」
「へっへっへ~、ダメだな。降参してもこのように、ぺっぺっぺ!」
「ウキャ~~、これはもう交換しかないね。だったらもっと掛けなきゃ。」
「へ~、そのピザ、持って帰るとか?」
「言ったでしょう? 交換とね。だからマイケルの分と交換するのよ。」
「いやだね、」
問答無用とばかりに私のピザをマイケルのピザの上に被せてしまう。意表を突いて私がモーションを起こしたのでマイケルは動けなかった。
「……え゜」
「ねぇ~お代わり頂戴!」
「毎度~、」
「えげつな~いな~もう~。」
「マイケルは香辛料が好きだよね、いつもたっぷりと掛けているから。」
「いやこれは流石に食えない。唇がタラコになってしまう。」
食べる前から顔の汗を腕の袖で拭いているし、顔もほんわかと赤くなるマイケル。だがしか~しだ、マイケルは美味そうに食べ出してしまう。
「コーラの特大はまだか!」
「だって頼んでないもん。三杯は頼むのかな。」
「それでいい、至急!」
「これはありすの手料理だろう、美味いぞ。」
「それはどうも……。」
そう言えば私の手料理なんて出した事はない。石造りの新居でも私の体力が無いばかりに免除されていたから。たまに作ったようなサンドイッチ、絵にもなっていなかった。だってさ、私の鍛錬だ~と言いながら各地のレストラン巡りしていたからね。他はま~ホテル住まいだったから。
「いいぜ無理に作ることはないさ。」
「うんも~私、憂鬱だわ。」
「嬢ちゃん、お待たせ。これを載せて食べたらいいよ。」
「ありがとう。こっちが美味しそうよマイケル。」
「あ、こら!」
「先ずは味見を、う~ん美味い。」
「タバスコ、掛けちゃうぞ!」「チーズ!」
振り出しに戻る。こんな楽しい夜もいいものだ。日付が変わる。
「もうマイケル。こんだけ遅いとホテルには入れて貰えないよ。」
「押しかける。玄関を叩けばいいだろう。」
「それでは私たちが叩き出されてしまいます。」
「そんなものか?」
「もう三枚も食べたよ十分だからな、夜明けまでドライブするか。」
「うん、今日は暖かいよ?」
「ちょっと準備したい物があるから待ってくれないか。」
「うん、見ていてもいかな。」
「手伝え、袋を入れ替えるだけだからな。」
「変なの、」
マイケルは手際よく色んな部品をくっつけて行く。丸い鉄のような玉はなんだろうか。疑問は直ぐに解消した。
「わっ、それに触るな爆発する!」
「いや、なんでこんなものを持っているのよ。バイクで転けたら二人とも天国とか嫌だからね。」
「今組み立てているところだ、部品だけならば破裂しない。俺だけの芸術品で花火ともいうがな。」
「なんだ花火か。」
単純な私は花火という一言で納得した。チョロいとも言う。
「出来た。これを俺の前のリュックに入れてありすが使う。なに簡単さ。準備が出来たからアテネまでドライブするか。夜景が綺麗に見える処さ。」
「うん行きたい!」
マイケルのバイクには両サイドに据え付けたバックが二つある。この中の物を詰め替えて、今度はマイケルの胸に下げるリュックに入れて私が適宜取り出して使うのだそうだ。簡単だというから安請け合いをした。
アテネの市内に入る。マイケルは大きな通りを爆走するのだから、この前のマフィアが出て来ないのかと心配してみた。
「それが目当てだよ、またこの前の続きをやりたくてな。適当に花火を上げるから面白いぞ。」
「え~私が弾よけよね、本当に大丈夫よね?」
「任せろ、俺はその道のプロだからな。」
「泥棒が?」
「まぁな、こうやって通りを走るだけで物件をみ~~、いやつまらない事を言ったか忘れろ。」
「は~い、……忘れたよ。」
「早いな、では本拠地に向かう。」
「ピヒャラピイヒャララ・・・」
と言う暴走族の独特の警笛を鳴らすマイケルは実に楽しそう。きっと若い時は名を轟かせた有名な族長! かもしれないし、下っ端?
「ゴッドファーザーのテーマ曲もあるが、聞きたいか。」
「そうね一度しか聞いていないかな、お願いね。」
それから悪乗りして爆音で曲を鳴らしていく。こいつは根っからのバカなのだと初めて気がついた。ただ、通りの気さくな人だろか、手を振って……何かを投げてきたよ。
「マイケル~~。」
「投げ銭だ、受けておけ!」
「いや無理無理、当ったら痛そう、」
黒塗りのベンツとパトカーがチラホラと見えてきた。マイケルは上手いこと路地を回って交わしていくが、ベンツの方は躱せないようだった。
「ねぇ、撃ってこないのかな。」
「警察を呼んだから無理だろう。焦れたら知らないがな。」
「怖いわよ、マフィアを巻けないの?」
「目的がマフィアの壊滅、これからドンドンと集めていく。見ていろ。」
「うぎゃ~……殺される。」
「なに、新居破壊のお礼をしたいだけだ。」
メインストリートの交通規制が入る。一般車両が弾き出されるので少々の事では市民への被害はない。ただし人的被害がないと言い直すマイケル。
ピラポピラポ言わせながら縦横無尽に広い道路を爆走している。
こんなに騒いでいてもマイケルは真剣に逃げ道を確認していたのだ。細い路地よりも更に細い人しか通らない道を探していた。
「よし逃げ道確保。いくぞ!」
「ホニャ!」
「ピヒャラピイヒャララ・・・」「ピヒャラピイヒャララ・・・」
この音に誘われてベンツとパトカーが湧くわ湧くわ。沸くという漢字を当てたい程に多くの車両が集まった。
「ピヒャラピイヒャララ・・・」「ピヒャラピイヒャララ・・・」
「わ! 挟み打ちにされたわよ。」
「いいぞ、後ろにさっきの花火を道路に落としてくれないか。」
「いいわよ、それからどうするの?」
「次は俺の合図で前に投げる。次々に前・後ろ・右・左と指示を出す。」
「オーケーよミカエル。私の堕天使さま!」
「その名前で呼ぶな、死んでしまう。」
「そうだよね天国には行って欲しくないな。」
「だろう? 後ろ、」
「はい、」
「左、」
「ほいきた、」
「前の遠く、」
「いいわよ、」
「右、左、前、後ろ。」
「うぎゃ~……もう判らないよ~、」
「直ぐに止まるから俺らを魔法で守ってくれ、出来るよな。止まる。」
「うん、エアー・ドライヴ!」
私は両手を上に挙げた。最大の風魔法、強い風が渦巻くバリアの魔法で私たちを包んだ。
「ファイヤー!」 「ドッカ~ン!」
マイケルのかけ声と同時に無線で点火のスイッチを入れた。直ぐに轟音と花火が上がり車が宙に舞いだした。都合七個の爆弾が任意に爆破されていく。
「ファイヤー!」 「ドッカ~ン!」
「ファイヤー!」 「ドッカ~ン!」
「ファイヤー!」 「ドッカ~ン!」
「ファイヤー!」 「ドッカ~ン!」
「ファイヤー!」 「ドッカ~ン!」
「ファイヤー!」 「ドッカ~ン!」
もうあり得ないよ~。私は次々に大破していく車を見ていたが……もどかしく感じてきた。まだまだ車が湧いてくるからだ。
「焦れったい……もうダメ、エアー・スプラッシュ!」
私は両手を前に向けた。渦巻く空気の刃で黒塗りを切り裂く。直ぐに転倒事故で私の視界から消えて、車に乗る強面の男たちは道路に投げ出されていく。
「おいおい俺の十八番を奪うなよ。」
「エアー・スプラッシュ!」「バァ~ン!」
「俺の獲物が……。」
「エアー・スプラッシュ!」「バァ~ン!」
「わ~それは黒覆面パト……あちゃ~、」
「そんなこと知らないわ、憂さ晴らしよ!」
「エアー・スプラッシュ!」「バァ~ン!」
「もう修羅場……逃げるしかなか!」
「え~もうお終いなの? 面白いからまだ続けよう?」
「いや、俺は気が小さい。お漏らしする前に退散する。」
「だったら最後よ、エアー・インパクト!」「バコ~ン……ドーン!」
私は左腕を前に向けて叫んだ。突風の攻撃が右側面へ伸びて行く。
「もう一度よ、エアー・インパクト!」「バコ~ン……ドーン!」
今度は全面の車両が吹き飛ぶ。
「快感!」
「良かったな、俺はもうダメだ、帰る。」
「え~これからだよ、全面戦争……。」「パンパン!」「パンパン!」
「発砲……いやもういい。勘弁してくれないか。」
「うん、良いわよ。でね、追撃はどうするの?」「バババ~ン!」
「適宜でいい、適当でいい。俺はもう逃げたい。」
「意気地無し!」「パンパン!」「パンパン!」「バババ~ン!」
「ブルブルルル……ブ~~~。」
「パンパン!」「パンパン!」「バババ~ン!」
「エアー・ドライヴ!」「バァ~ン!」
「パンパン!」「パンパン!」「バババ~ン!」
こんな擬音で文字数を稼ぐ卑怯な方法は好まない。野次馬が拍手して私は喝采を受けるから一躍大スターだよ。
「明日のテレビで写真公開されたいのか、スターも善し悪しだよ。」
「うわ~、わ、わ、わ、それもそうね。今度から覆面する。」
「もう今度はない指名手配は懲り懲りだよ。ヘルメットで十分だ。」
「マイケル。」
「おうなんだ、」
「今宵も流星雨が綺麗だよ。」
「そうだな、帰って特大を打ち上げるか!」
「うん、うんと高く昇らせて!!」
「意味……違うと思うが、ま、いっか!」
殆どのマフィアの兵隊たちが御用となった。道路の損壊は目を瞑って頂くとしますか。
私の堕天使さまが私を天国まで昇天させてくれる。とても幸せだよミカエル。




