第169部 剣の鍛錬……私には……
あれからマイケルは私に優しくしてくれる。きっと家族や友人が私を置いて帰国したからだと、可愛そうだと考えているのだろうか。それはそれでとても悲しいな。私には憐れんでくれる人は要らないよ。
「私、もっと強くなりたい。なって私の家族を守りたい。」
「お前、か細いのに良く言うよ。出来る訳ないだろうに。」
「マイケル。武術を教えて下さい。」
「無理だとは思うが、一応の自己護衛術は教える事ができる。やってみるか!」
「うん、やりたい。うんと練習する。」
マイケルは私を軽く押してみる。勿論私は踏ん張るのよ倒れた地面の上でね。
「無理、」
「いや、する。」
女の又に力を入れて……努力だね! 産みの事なのかしら?
1971年9月17日 ギリシア
*)剣の鍛錬
数日前から本格的に始めた剣の練習は私には務まらない。未だに骨川筋衣紋に変化がないからだ。最初はさ木刀を持つ握力も出なかったからね。それでなんかなし食べる方が先だという事にしてもらっていたんだ。
「もうフォークは持てるのによ、ナイフは持てないのかい。」
「このナイフは大きすぎます。人を切るナイフではありませんか。」
「これでも一番短い刀を探してきたんだぜ、文句言うな。」
もう私からみても立派な刀だよ。これで人を刺して切ってなんて野蛮で出来るわけがないよ。刃渡り三十センチでも大きく見えるから怖い。
「お前、優しすぎるのがいけないのか。後ろ足で砂を掛けるのではなかったか? なぁ、おい。」
「そうですね、スコップが在れば持ち替えします。」
「マテガイでも掘ろうというのか。これでは無理かもしれね~な~。」
「はい、無理でした。」
「過去形にして簡単に言うな。これだから女は好かん。」
「う~……嫌われた!」
「泣く女も好かん。」
「はい、泣きません。」
「マイケルは無手なのですか?」
「そうだな津軽で鍛えられた。あそこは寒すぎて好かん。」
「へ~そうなんだ。だったら私と組み手は出来るよね、私はこのナイフでいいから一度手合わせをお願い。」
「へん……笑わせるなよ。お前なんか足の裏で十分だ。」
「足の裏ってなによ、水虫なくせに。」
「おう言ってくれるな~、いいぜ直ぐに伸してやるよ。」
「やった~……見ててマイケル、死なないでね。」
「誰が死ぬって? お前には手抜きしてやるから死ぬなよ。倒れただけでも骨が折れそうだぜ。」
「ふん、なにさ、馬鹿マイケル。行くわよ!」
「おう掛かって来い。」
「エアー・ショット!」
「うわ~~~~~!!」
私は短剣を突き出すと同時に巫女の魔法を発動させる。何時もは右腕を伸ばして手のひらに魔力を込めて放つ空気弾のようなものだ。それが発動してマイケルの耳の横を通り過ぎた。
「おい、今のはなんだ。」
「あれ? お空に飛んで行ったわ。」
「切っ先がブレていたんだろう。だから真っ直ぐに刃先が俺に向いていればいいのかと思うぜ……おいおい俺に向けるな、死んでしまう。」
「だって今、向けろと言った。」
「言ったが……もう勘弁してくれ。あそこの岩に向けて放ってみろ。」
「エアー・ショット……。」
「ドッカーン!」
大きな音を立てて岩が弾き飛ぶ。こんな威力だとは思いもしていなかった私。ホテルから試し打ち、いや憂さ晴らしで放った魔法はこんな威力は無かったよね。プラスチックの看板が割れた程度だったかな。(大きく破裂して落下していた。)
「これでは俺も手も足も出ない。免許皆伝にしたる。」
「やった~。」
「別なメニューを考える。」
「……ご飯食べに行こう?」
「இஇஇ……。」
「え~何時ものランチでいいよ。他は高いし。」
「お前の頭も練習が必要らしいな。何を学習させればいいのか俺には分らん。」
マイケルは私に短剣の振り方を考えると言って昼から酒を飲みだした。
「酔拳でもイメージしているの?」
「俺の生還祝いだ。殺されなくて良かったよ。」
「う~ごめんなさい。」
どうも本当に怖かったらしいのよね。だから今はお酒の力を借りて忘れたいのだと。ということは意外と臆病なのかもねこの男は。
「お前……いや、ありす。ありすの魔法を全部俺に見せろ。それから考える。あんなありすには驚いたぜ。」
「魔法は初めてではありませんよ。島に渡る前に二度は使いました。」
「俺に?……か。」
「はい、確かに五十メートルは飛ばしています。」
「俺は知らないぞ。グラサンの男の事だろう?」
「いいえ、変態親父に使った記憶があります。」
「ありすの夢の世界だろう。」
「そうでしょうか……。」
それから夜になっていつもの巫女の魔法を披露したが、暗くてマイケルには見えなかった。あ~ぁつまらないの。でもマイケルにはしっかりと見えている。見えていてもただ私にウソを言っただけだが、どうしてかしらね。
エアー・ショット。私は右腕を伸ばして叫ぶと、空気弾のような攻撃だ。
エアー・インパクト。私は左腕を前に向けて叫んだ。突風の攻撃か。
エアー・スプラッシュ。私は両手を前に向けた。渦巻く空気の刃だ。
エアー・ドライヴ。私は両手を上に挙げた。最大の風魔法、強い風が渦巻くバリアの魔法。これで大きな物まで保護出来るのだ。
「今晩は眠れそうもないな。強烈すぎるぜこの娘はよ。」
「眠れないなら、Hしよう?」
「やだよ、小娘は嫌いだ。直ぐに逝っちまう。」
逝っちまうとは穏やかではないが、マイケルが普通の女の人を抱けば壊れるという意味なのだろうか。
「ふ~ん嫌いなんだ、お嫁さん。」
「いや、嫁は好きだよ。」
「それって矛盾してないかな。」
「していない。」
ホテルに帰ったマイケルは何だか、心ここにあらず? の様子。どうしてなの?
翌朝になってマイケルは私に話しかける。
「ここは観光客が多い。だから剣の鍛錬はもっと広くて人目の無い国で行う。明日にはラフィーネに発つ。」
「ラフィーネ?」
「いや間違えたラフィーナだった。気にするな。」
何を気にすればいいのか私には分らない。でも気にするなと言われれば気になっても訊くことは出来ない。それからはルーマニアまでの道を説明してくれるのだが、
「簡単にお願いよ。文章書くのが大変だって、あの人が言うのよね。」
「あ~そういう訳ね。いいぜ簡単にな。ギリシアから北上してトルコを過ぎてブルガリアも過ぎてルーマニアに行く。車はここに置いていくが、向こうでバイクを調達する。バイクが小回りが効いていいだろう。」
「モトクロスとか、私にも乗れるかな。」
「……無理だ。ありすは尻に乗せていく。」
「すてき~……うっとり。」
「இஇஇ……。」
マイケルの今回二度目のほにゃらかマークが点灯した。どうも私を相手にするのが大変なようだ。
翌日、二日酔いでベッドに寝ているマイケルに私は飛び乗った。おはようを身体で表現してみたのよ。
「うわっ……、なんだありすか、驚かすな。」
「起きてよ、もうお昼なんだからさ。今日にもこのミコノス島を出て行くんじゃなかったの?」
「う~頭が痛い。明日にする。」
「え~ヤダ、早くこの島から出て行こうよ。」
「もう一泊分の金を払っていた、さっき思い出した。」
「そうなんだ、だったらしょうが無いよ。きっと夢で払ったんでしょうが、ね。」
「あぁ損したくはない。இ……。」
起きて遅い朝食に出る時にマイケルはフロントに寄ってお金を払った様子。
「んも~……嘘つき!」
「この車を売るのを忘れていた。俺の宿だったから臭くて売れないかな。」
「だったら私が撃ってみます。いいかしら。」
「いいだろう、何処に行きたい?」
「人がいなければいいのよ山の方がいい。きっと見晴らしもいいよ。」
という事でこの車は私の魔法の的にされた。直ぐに大破させてマイケルを驚かせて私は喜んだんだよ。でもね、直ぐに叱られたんだなこれが。
「おいありすさん、ここで車が壊れました。」
「え~いいじゃん。面白かったわ。」
「で、」
「はい、」
「で?」
「はい?」
「俺は二日酔いで苦しんでいるのに、この山からどうやって帰ればいいのかな。はい、ありす、答えなさい。」
「う~綺麗な景色を見てマイケルと歩いて帰りたいです!」
「ドヤ、ドヤ、バッコ~ン。」
私はマイケルからこっぴどくド突かれて叩かれた。マイケルも車を的にするのを賛成してくれたのに……酷いよ!
「この子は~本当に考え無しのアンポンタンが~、」
「いいでしょう? これでマイケルに釣り合うのだからさ、マイケルは幸せものだよね?」
「何処がお似合いなのかね、教えてもらいたいものだよ、ホンと。」
「これで剣の鍛錬は終わりだよね?」
「そうしてくれ俺からも頼みたいよ。だがな走り込みは毎日だぜ。」
「ギャボ……追加の鍛錬!」
「先ずは此処から走って帰る。」
「マイケルはその辺で隠れていてよ。」
私は道路の真ん中に立って右手を挙げて親指を突き出しのだった。
「ヘ~イ……、」
「இஇஇ……。」
私は偶然にも通りかかった車を止めてヒッチハイクを頼んだ。嫌だと言う車の男の前にマイケルが出て来て「うん。」と言わせるあたり、様になっているかも。
「すまね~な~、こいつが車を大破させてしまったから助かったよ。礼を言う。」
「いえ、それはお気の毒に……。」
気の毒なのはこの車の運転手だろうか、助手席には美人さんがいるから虚勢を張るのがなんとも可笑しく見えた。




