第168部 助けられたくはない男に助けられた……私は
1971年9月13日
夜に不吉な夢を見た。私はひかるから寝込みを襲われてボコボコにされた夢。それからまたしても簀巻きにされて、男たちに担がれて船に乗せられる夢だ。その後、私は死んだようだった。
「う~とても嫌な夢を見てしまったわ。」
朝、目が覚めると腕は自由に動かせる。やはり夢だったのね良かった。ひかるはとっくに起きている。
「おはよう……ひかるちゃん。」
「ん?……教祖さま!」
ひかるが私を見て驚いている様子。私もひかるを見て驚いた。様子が変である。すると、昨晩とは違う処に寝ていた事に気がつく。
「あ……ここは祭壇!」
「驚いたわ。どうして死んでいなかったのよ。夜にあんだけ叩いていたのに。」
「なに言っているのよ、ひかるちゃん。」
「うん、ごめんなさい。亜衣音ちゃんの力は頂いたわよ。もうこの島には誰も近づく事はないからさ、ゴメン、死んで!」
私には意味不明で何を言っていいのかも頭に浮かばない。やや不機嫌そうな顔のひかるはコメカミを押えて頭痛に耐えているようす。ひかるだって何を言っているのかは分らないようでもあった。巫女の力の移動による副作用だとは二人とも分らないのだから。私はひかるに歩み寄ろうとして、
「だってひかるちゃんが、……あ、足に枷が、」
「うん、亜衣音ちゃん。もうここからは出られないよ、代わりに私が巫女になるのよ。クラスメイトたちにはよろしく言っておくからいいわよね。」
「それでなんと言うの?」
「そうね、私を助けてからね、亜衣音ちゃんは逃避行を続けるのだと言うわ。」
「そ、それならば皆は信じるわ。おめでとう、ひかる。」
「うん、ご飯……無いけれども、これでお別れよ。」
「船は無いよ。」
「迎えが来ているわ。昨日海でモーターボートを見ているよね、あれだよ。」
「そっか、あれがひかるのボスなわけね。」
「それから、ごめんなさいね大地は頂きます。」
「いいよ、うん大地を大切にしてね。これだけはお願いしたいの。出来るよね。」
「はい、任されました。もう子供もいるしこの身体ならば大地くんだって歓迎してくれるわ。」
そう言うなりにひかるはまたしても服を捲り上げて見せる。そこには綺麗で色白の肌があった。昨日の痣や傷跡は何も無いのだから驚く。
「そんな……。ひかるは綺麗になったから大地も嬉しいに決まって……。」
急に自分が惨めに思われたから嗚咽が口を突いた。顔は歪み涙が出て来た。
「亜衣音ちゃん泣かないで、お願いよ。大地くんは私が守ってあげるから心配しなくていい。ではご機嫌よう……。」
暗い地下の教会にはまだ日の光は差し込んでこない。なのにひかるは明るい顔をして出て行く。それも振り向く事さえも無く……だが転けた。
「キャッ……痛~い!」
フラフラしながら歩いていくひかる。私はひかるの背中を見送る事しか出来ないのだから。ほんの少しの時間で交わした会話では何も理解できなかった。
「う~寂しい。なんでひかる、正気に戻っていなくて、いや元々がスパイだったんだね。騙されたけれども大地が幸せになるならいいや。」
右脚の足枷、この鎖を持って巫女の魔法を試みる。やはり何も起きない。身体が異様に疲れた気分であったから期待はしていなかったが、大きな声で叫ぶ。
「エアー・スプラッシュ。」
ここの魔方陣が一瞬だが光った。いや島全体が光ったのだ。
「え!。、。なんだろう、……何も起きないのね。少し期待して損したかも。」
確かに巫女の魔法はひかるに持って行かれたかな。やっと以前のように元気なれたのに残念だよ。この脚だってようやく治ったのに。
私の右手、いや両手にはなにも奇跡は起こらない。いや奇跡は確かに起きていたが私には分らないだけだったのだ。世界線が飛んだなんて。
黙って手のひらを眺めて、それからもう一度足に目をやる。足首には細いながらも金属のチェーンが付けられていて両手で引っ張ってみる。この鎖は切れそうもない程に大きいく見えてきた。
ひかるが出て行って最初の夜を迎える。独りで暗い教会の岩の上、気分は怖いというよりも諦めの心境が強かった。冷たい岩の上で身体が冷えてしょうが無い。
「う~困るよ……、我慢はいつまで続くのかな。とりあえずは向こうの方で、誰も居ないからいいや。」
私が自力で動けたのはこれだけで、その後はもう動く気力も無くなった。
「ふん。いいわ、死んでやる。死ぬまで寝てやるのだから。」
そう言いながら気休めにチェーンをガチャガチャと振ってみる。こんな自分が情けなく思えてきて、
「もう自棄のヤンパチよね、大地、海斗、藍、美保ホ、未来……もうお別れね。お母さん、お父さん……お元気で。クロ助けて!」
「ブヒ!」
「クロ! なんだ幻聴か、いや……お尻から聞こえた。」
巫女の力を抜かれたのか、酷い脱力感で直ぐにでも眠ってしまいそう。次に起きたら天国だよね。ねむ~……。いやいや、なむ~……。そうしてぼんやりとしていたら意識もなくなってきた。
「もう終わりだよね。何だか温かくなってきた。」
翌日の朝早くなのだろうか、一人の男が私を抱きかかえてくれて目が覚める。
(温かいな……、人の温もりがこんなにもありがたいとは……。)
でも未だに夢から覚めてはいない。夜に見た夢はなんだったかな……。それからも意識は遠のいていくだけだ。
「そんな事はさせないぜ。」
う~夢にあの男が出てくる。どうしよう、私は犯されるのだわ。今日は約束の夜になるなかな。もう……ダメ、動けない、また意識が飛んだ。
私は自分の足になんだか刺激を受けて目を覚ました。それから下半身が、いやだよ、スッスッスッ……だった。どうして、自分でパンツも脱いでいたのかしら。そんなに暑いことはないし寧ろ寒い位よ。でも岩の地面が温かい。毛布があるよどうして?
「う、う~~ん、私、どうしてかしら、誰か居るのね。」
「嬢ちゃん、起きたか。」
「あ、いや、私を犯したのね。」
「ション便臭い女は要らない。という事で脱がして洗濯しておいた。着るか!」
「あ、はい。でもこれ……片方が切られているわよ。」
「仕方ないだろう。だってさ、せっかく脱がせたがこの鎖で持ち出す事が出来なかった。」
「あ、そ、そうよね。で、私に意地悪な事はじでいないよね。」
「じで?……あぁじていない。断じてな。拝んだだけだ。」
「う~変態ジジイ。」
「もう少し待っていろ。あと少しでこの鎖も切れるからさ。」
「あ”、え、ホンと!」
「見てみろ足枷、な?」
「うん、ありがとう。」
この男は足枷の一番重要な処を必死になって切ろうとしてくれている。この鎖が切れれば足枷は解ける。でもでも足首を握られていて気持ちが悪いよ。
私は恥ずかしいと思う反面、この場、という何とも言えない気持ちが、そう気持ちが悪い。黙って鎖を切ってくれている男に何を言えばいいのか悩む。それを察してくれたのだろうか、声を掛けてくれた。
「なぁ嬢ちゃん。良かったらでいいからこの現状を説明してくれないかな。」
「説明してもいいですが、ウソついて同情を引くのかもしれませんが、それでも聞きますか?」
「そのバーガーとジュースを飲んでからでいいよ、気が落ち着いたらさ、BGMの代わりに話してくれないか。」
多分自分用の食事のバーガーだろうが、今思いついたと解釈してもいいのかもしれない。この男のバッグが中々に大きいのだからもっと他にも何か入っているはず。普通にこんな金切り鋸は持ち合わせないよね、私だって初めて見たんだから。
「有り難く頂きます。ですがお礼は出来ません。」
「それでいいよ、気まぐれな人助けだとでも考えろや。」
「ありがとうございます、食べてからお話いたします。」
これまでの経緯を簡単に話しておいた。大人しく聞いているジョーダンだった。
一度手を止めて言ってくれた言葉がある。
「お前、愛する夫の幸福を願ったのか、……偉いと思うぞ。」
「え?……普通ではないでしょうか、違いますか?」
「俺はな……、」
私の話を聞いて手を止めたまま、休憩なのだろうか。何か含む事を思い出したとかしたのかな。
暫くしてから携行のガス器具でスープを温めると言ってくれた。それからは急に明るくなって話し相手になってくれる。それがとてもありがたいのだと感じたんだ。
「お前は無事にホテルに連れて帰る。だから、な?」
「私の身体は……、死ぬよりもマシかな。うん、いいよ。約束だったよね。」
私の方は死にたいような恨み辛みを口にしそうになる。それを打ち消すような男の笑顔が私を現実に引き戻してくれた。たぶんだけど後に続く言葉、「死ぬな」と言いたかったのかとも考えた。
「ほれ、夕飯の温かいスープだ。……約束? なんの事だい。」
「はい、頂きます。命の恩人さんですね。でも、お嫁にはなりません。」
「いいぜ妾でよ。俺にも嫁は居るよ。天国に逝っちまったがな。」
「それも嫌です、……殺したん?」
「そうだな俺が殺したようなもんさ。ま、気にするな。お前は殺したりはしないよ。それよか……もう俺を蹴飛ばしたりするなよ。」
そう言えば下半身に脅威を感じて、大きく何かを蹴ったような夢のような?
「思い出したか。大して痛くは無かったがな、お礼に洗っておいた。」
「あ、あれね。夢では無かったんだ。もう出来ないから大丈夫。でも、もう一日
ここに残ってあそこの穴蔵に籠もりたい。」
「何処に在る、その穴は。」
「そこの教会の上の方に在ります。女のホニャラカの形をしたのが。」
「そうか、これが切れたら連れてってやるよ。動けるか?」
「多分……。」
うわ~・・・私の身体は前日よりも遙かにか細くなっている。私の身体の全エネルギーもこの魔方陣に吸われてしまったらしい。あと数日もここに居たら骨皮筋衣紋になっていたかも!
「そうだ、私をこの円形の外に出して下さい。そうすれば少しは力が出るかもしれません。」
「まだ無理だ。円形の中心に鎖が繋がれているから届かない。まぁ待て。」
「そうでした、はい。」……シュン!
「クシュン!」
「あの、そこのスカートも返して下さい。」
「あ、これはお前の上から抜いたからちゃんと着られるぜ。乾いたかな~。」
「うん、ありがとう。洗濯して頂いて、」
どうして早く返してくれなかったのよ恨むわよ、エアードライブ……。やはり何も起きない。
「もう丸三日だ。」
「え”?……あれから三日も過ぎたのですか?」
「そうだよ、お前が島に渡ったのを見かけたいたが、俺もこの岬で野宿をしていたからな。待っていた訳ではないのだが、お前は島から出て来ないから今朝になって見に来た。すたらよ、干からびていたね。ふやけるように水、塩水を掛けておいた。」
「すたら?……おっかしい。何処の出身よ。」
「知らね~……どこだかな。」
「ふ~ん、そうなんだ。」
洗濯の水は海水だよ、だから少し服の生地がごわついている。あれ? ブラが少しズレているような気もするのだが、ここは黙っていようかな。汗の臭いがしないから……ね。それにさ、私に海水を掛けるとは何よ。
ここは人命救助という事で私の裸体もノーカンよ! 海水? あ~そうなんだオシッコを漏らしていたから海水で流してくれていたんだね、感謝です。
「うわ~恥ずかしい・・・。」
「お前を見ながら頑張った。もう少しで切れるから。」
「何処を見ていたのですか……うぎゃ~……、変態。」
「お、元気が出て来たな、良かったよ。」
必死になって小さな金切り鋸で切断しようとしている、その手袋に赤い血が沁みているのはなぜ?
「どうして……私を助けるのですか? 身体が目当てでしたら寝ていても犯せるのに、なぜ?」
「人助けだが違うか。それと小娘は俺の好みではない。」(作者はどうだかな?)
「そうですか、私ならば人助けなんてしませんよ。後ろ足で砂かけてその場からおさらばしますが。(作者は好きなようですよ?)」
「随分と寂しい人生を送ってきたのか、おい。」
「そうですね、何度も死線を潜ってきましたから、あまり生には関心がありません。あ、他人の生き死にですよ。自分は可愛いので死にたくはありませんが、これではダメでしょうか?」
「いいや、人は自由だ。どう思おうとも自由だよ。でもな、口にするには少しは言葉を考えろや。軽薄では人生が惨めだ。なんなら……俺もお前に賛同してもいいのだが?」
「はい、すみません。私のわがままでした。砂を掛けられてもいいですが去らないで下さい。」
この人、私を見ないで話してくれている。これならばあまり恥ずかしい事はないかな、うん。今では斜め左後ろ側が見えている。
「お前がその辺の男を殺ったのか?」
「いいえ、友人のひかるが自分だと言うのですが、信憑性はありません。他にも協力者が居るのですから。」
「こんなに人を殺すのはなぜだかな。」
「きっと、ひかるの身体を作る生け贄、捧げ物だったと思います。だからこの私も供物なのです。貴方も供物でしょうか?」
「俺は嫌だよ。」
「私の体力が少し向上しましたから、もしかして?」
「だったらいいな、俺はもうクタクタだよ。」
「ありがとうございます。」
「俺の右手、介抱してくれよ……よし切れた。」
「はい、この下着でよろしければ右手に巻いてあげますが?」
「いや、贅沢過ぎるから遠慮する。ほれ、行くか。」
「引きずって下さい。軽いから楽勝ですよ。」
「それが速いか、抱き上げるが早いか。速いの漢字はどっちだろうね。」
「時間の経過でしたら、早いですが。」
「抱いてやるよ。騒ぐなよ。」
「はい、騒ぎません。」
「よっこら……せ。」
「あの~……左手が胸に届いています。叩いてもいいでしょうか。」
「落とす……。」
「はい、従います。」
身体の大きさが違い過ぎる。私は東洋系だから小さいが、この男は西洋の産まれなので体つきは大きい。腕だって長い。当然に私の脇の下からは胸にも届いてしまうよ。しかしだよ、どことなく東洋の面影が垣間見られる。
「鼻の穴、日本人みたい。」
「鼻毛が伸びているだろう。」
「いいえ、違います。」
女のホニャラカの穴に着いた。マイケルは私を丁寧に置いてくれる。嫌な感じがしないかな。大凡一千年前にキリスト教から迫害された土着信仰、自由に性も謳歌出来ていたのがキリスト教によって禁止されたのだ。それえの反抗なのか、教会の高い処にね、変なポーズをした女の人が股を開いて性Oを両手で開いて見せている。
イギリスかな、歴史が一千年もある教会の極一部だが、今でも壊される事無くそれが残っているのだ。このポーズはキリストさまに「あっかんべ~……!」をしている様に思える。
「この穴は小さくて通れないな……俺の尻で遊ぶなよ。」
「遊びません、なんなら押してあげますよ?」
「う~、胸が支えた~……。」
「叩きますよ。お尻、」
男には無理そうな狭い入り口を身体を捻って入っていく。所詮は女の子が通られるように造られた穴の大きさなのだろう。でもこの男は器用に入っていく。
こいつの職業を聞いて納得したのは後日だ。
「ほら、両手を差し伸べろ!」
「バンザ~イ……。」
「இஇஇ……。」
「胸が支える~!」
「ほ~れ!」
「スッポ~ン!!」
女のホニャラカの形をした入り口からは、当然のごとく引きずられて穴蔵に運ばれた。
「そこに横たえて下さい。後は寝ておればいいだけですから。」
「そうか?……毛布はここでいいのか。」
「はい、あとは身を捩るので構いません。序でにHして行きますか?」
「いいやガキは好かん。女の前だからな。」
「missing……ですか。」
「なんだい、それは。」
「あ、いいえこちらの事でございました。」
「飲み物とバーガーを置いていく。また迎えに来るからな逃げるなよ。」
「逃げません。明日の夕方には回復いたします。」
「今晩、俺も付き合いたいのだが大事な仕事があってな、大丈夫かな嬢ちゃんよ。それれと番犬用に買ったソーセージだがこれを食べていろ。ローソクとマッチを置いていくが……尻には使うなよ。」
「そんなの使いません。」
「また持ってくる。」
「はい、食べ物……待っていますから。」
「俺の事は待たないのだな。」
「え、あ、いいえ、お待ちしておりますわ。」
「何か買ってくる。」
「はい!」
「バケツ……置いて行くぜ。」(ニタリ……)
「……(恥ずかしいでしょうが、バカ!)。」
寝る前にバケツを探してみたが無い、外にも置いてはなかった。
「もう私をバカにしてから、冗談でもこれは乙女にきついよ。」
ろうそくの火で暖を取るなんて、どうなのよ。マッチ売りの少女になった気分。私がマッチ売りの少女だったら近くの家に火をつけるよ。
それから翌日の日が当るまで、思考回路は働かない。さっきでもHしませんか、なんてはずい事を言うし、真面ではないよ私は。お日様は正午過ぎから当る。毛布だけでは凌げないけれども、あの男には大丈夫と言った手前やせ我慢している。朝食は……もう無いよね、早くお日様出て来い。
「あ、お日様が!」
ようやくお日様の小さな光線が届きだす。
「これで元に戻ればいいな。後は寝て待て、だよ。」
直ぐに睡魔は襲ってくるから楽に眠れた。うん、夢見も良いようだわ。それから夕方になったのだろうか寒くなってきた。
「お日様が沈んだのね。するとここは暗くなるから出た方が良いのかな。」
「よっこら……せ、ん?」
「お、出て来たな。待っていたよ。」
「はい、お待たせしました。」
「お前、細いままだが大丈夫か!」
「えぇもう力が戻りました。ありがとうございます。」
「お、おう、それは良かった。冷めたがスープとバーガーだ。食え。」
「バーガーばかり。やはり男なのですね。」
「仕方ないだろう。俺にはこのバーガーが在れば十分なのだから。」
「う……これ、何か入れましたね。……何かな。」
「エビに辛しに味噌に……それから俺の愛情。」
「う……プっ、笑ってしまいそう。」
「そんなに上手いか。」
「はい、旨いです、このバーガーは。(冗談はヘタですが、)」
「お名前が、ジョーダンでしたわよね。顔だけかと考えていました。」
「ふん、笑っていろ。俺はマイケル・城南。ヨーロッパの父を持つハーフさ。」
「え”……本当に……日本人ですか?」
「クオーター……。だからこんなに身体が大きいのよ。ハーフは少しだけ大きいだけだろう。」
この男……意外と優しいかも!
「貴方のお母さんは日本人なの?」
「そうだな日本人だよ。前々の嫁も同じくな。でもな……聞かんでくれないか。胸くそが悪くなる。」
「はい、務めます。」
「服、俺の趣味で買ってきた。今後は自分で買いやがれ。もう俺は知らん。」
「へ~……顔が紅くなっていますよ?」
「お、大人をからかうな。このまま置いていくぞ、いいのか。」
「はい色々聞きたいです。でもお名前を教えて頂きましたので、これだけで十分でございます。」
「そうか、これだけで十分か、良かった。」
「……? え、いや、ホテルもお願いしたいです。」
両親は日本に帰化した西洋人というところかしら。でもこの男が何処で産まれたのかはまた別なのだろう。
「あ……お前は何と言う。」
「はい、白川 亜衣音、と申します。」
「いいぜ、暫くは面倒見てやるよ。感謝しろよ、な。」
「はい、お嫁にはなりませんがよろしくお願いします。」
「では暗くなるからホテルへ行くか。風呂……必要だろう?」
「ハイ!」
私は大きな声で返事をした。乙女にはお風呂は大事だもんね。
「その前に……海水浴していくか。」
「え~……嫌ですよ~。来るときに泳ぎました。」
「アハハ、ボートが在るから……冗談だよ。」
「本気しました。からかわないでください。」
ボートに揺られれば直ぐにミコノス島の木造の船着き場に着いた。先には車が止めてあって、わ~これは懐かしい日本車だよ。
「あ、この車、知っています。」
「おい、どうして盗んだ車だと分った。」
「あ?……さぁどうしてでしょうか。」
何の事はない、家の近所に止まっている車と同じという意味だよ。盗んだなんて知らないよ。マイケルが勝手に思ってなさい。車内で緊張して乗っていたが野郎の右手は伸びて来なくて良かった。
「右手、伸ばさないのですね。」
「ん? なんの事だい?」
このマイケル・城南は以前の男と同じなのだが、私の記憶する事は何も知らないらしいのよどうしてかな。意識がなくなった、寝落ちしたらしい。それからペシペシと何度もほっぺを軽く叩かれて起こされた。胸を揉めば直ぐに起きたのに、と冗談を? 言ったら直ぐに揉まれた。
「何もないぜ……?」
「ギャボ!」
*)ホテル……鬼瓦にも化粧
マイケルは夜景の見えるホテルに部屋を予約していた。最上階……とは、三階だけなのだが、ホテル自体が高台に造られているから夕闇に光る港が綺麗に見えるのだった。ロビー……観光客が多く徘徊していた。
「観光客が多いのに空室が在るなんてウソよ。ここの客を海に沈めて来たとかないでしょうね?」
「え~文句を言うのか。空室だったから借りたんだ。これもお前の為にだな……感謝しろ。」
「はい、感謝感謝、シェーシェー!」
夜の仕事とここの予約は別だよね。今日は私に服を買ってくれた、嬉しい。でも意地悪なのか手提げの袋に持ったままだった。今も薄汚れた服を着ているから恥ずかしいよ。
この部屋は立派だった。このホテルのスイートで一番高いので予約が無かったなんていう事かしら。または方々のホテルを探して回ったとか、あり得るよね。私の為にありがとうございます、マイケルさん。ま~落ちを聞いて落胆はしたんだがね、城南くんには。
「わ~……ここは綺麗に見えます!」
「そうだろうさ、お前の為に予約しておいた。俺のホテルは屋根無しだからな。」
「車で宿泊とか?」
「ま、そうだな。男ならそれでもいい、とにかく自由だし飯は、」
「バーガーですよね?」
「まぁな。お陰で腹に肉が付いた、ダイエットを敢行する必要も出て来たな。」
私はマイケルの腹に視線を送る。デップリとした腹が……ない。バーガーは肉も多いしアメリカ牛は、ホルモンも多く含まれるから食べるにはふさわしくない。
「それ位は許容範囲ですよ、まだ若いみたいだし。」
「お前、幾つになった。十六か。」
「いいえ、……十八です。」
「マイケルはどうなのですか?」
「俺は、もう三十だという事で、」
「もっと上?」
「……。」
マイケルの服……ダサい、ダサ過ぎる。このホテルには似合わない。私は……もっと悲惨な汚れた服を着ている。これでこのホテルに入れなんてあり得ないよ。
「はは~ん、きっとフロントに身代わりを送り込んだのね。」
「それでいいだろう、誰も迷惑は受けていないぜ。」
身代わりの人物とはベンジャミン・フランクリンという意味だ。百ドル札の顔という事だよ。
「お前、家族はどうした。」
「家族は沢山居ますが、追っ手から逃げるように出て来ました。暫くは帰れません。」
「家族は心配しているだろうな、電話するか。」
「いいえ暫くは隠遁いたします。ところでマイケルさんは今後はどうなさるのでしょうか?」
「俺だって組織から追われているから逃げるに決まっている。あのサングラスの男たちもやばいとは思うが、俺を狙う組織とは違うだろう。同じだったら良かったな。」
「どうしてですか? 違う方がいいのでは?」
「良くはない。二つの組織から追われる方が大変だろう。一つの方が逃げやすい。繋がりがあればそれはもう同じ組織と言ってもいいだろうがな。」
「はい理解しました。私、頑張って逃げます。」
「金はあの死体から抜いて頂いておいた。今日はその金で済ませている。」
「そうですか逃げるにもお金は必要でしょう。節約しませんとなりません。」
(ね? これを聞いたらガッカリしますよね、お財布を抜いた……なんて! 私と同じことしていたなんて笑えない。)
「女房みたいな事を言うのだな、なるか?」
「イヤです。お断りいたします。」
「それでいい、殺されるかもしれないからな。俺の事はイザとなれは放置して逃げ失せろ。」
「えぇ、そうさせて頂きます。……で、ご飯。」
「あ、忘れていた。ホテルのレストランには行けないので、場末の小さなレストランでいいだろう、行くか。」
「ハイ!」
私は大きな声で返事をした。
「コピペするなよ。」
「え~だって同じ返事ですもの、コピペで十分ですよ~。」
「そっか、シャワー浴びてこい。これは着替えで……待っているからさ。」
「ハイ!」
私は大きな声で返事をした。乙女にはお風呂は大事だもんね。
「またか……。」
私のシャワーは長かった……。
「あいつ、長過ぎだろう。ま、仕方ないか、あんなに痩せ細っていたら鏡を見て 涙……流しているだろうなぁ。あいつの喜ぶ料理はどれがいいのか考える必要がありそうだ。日本の料理は無いだろうな~。」
私は姿見ほどには大きくはない浴室の鏡に向かっている。これは夢だと思いたい、まるで別人の姿になっている。
「これ……ウソよね、そうよどうしてこんな醜いのかしら。胸にはブタのヒレカツが付いているようだわ。」
顔は誰の顔だかは薄々理解出来た。もっと肉付きが良くなれば、ひかるそのもののようなるのだと思える。垂れているのに絶えられない、可愛そうな胸だよ。
「嫌いよ、ひかる。どうして私から容姿までも盗んでいくのよ。聞かせてくれても良かっただろう……う~グシュン・・・。」
お腹には横に伸びる痣のような傷が残されている。これだってひかるが私に見せてくれた、あの傷にソックリだ。手で擦っても取れないし痛くもない。と言うことは一生この傷は治らない。でもどうしてかしら銃弾の痕がないのよ。
「あんまりだわ、ひかるちゃん。私がどんな悪い事をしたと言うのよ。 これでは家族にも会いに行けなく……うわ~……お母さん、大地……もう死んでもいいのかな、私、巫女の呪いで殺されるのかな、お母さん教えてよ、……海斗、これでは会えない……私は一生逃げる事しか出来ないのかな……。」
シャワーを水に切り替えて熱くなった身体を冷やしてみる。でもそれ位では私の痛み、心の叫びは止まらなかった。う~寒い。今度はお湯で身体を温め直してみる。身体を流れるお湯が熱い。もっと熱く……、今度は皮膚がヒリヒリとした感じになって湯温を下げる。
「お水の熱い冷たいが分らないなんて、あり得ないよ。」
「もうだいぶん時間が過ぎたかな。こんな身体では誰も私を抱いてもくれないのは当たり前だよ。マイケルはきっと服を脱がせる時にこの傷を見ているよね、だからマイケルだってイヤだと言っていたんだ。」
「コンコンコン! おい生きているか。」
「あ、はい、直ぐに出ます。後ろを向いていて下さいよ。」
「いいよ、部屋のドア前で待っている。」
「あ……ありがとうございます。お願いします。」
「いいってよ、気にするな。」
「え?……私の身体の事かしら?」
「バタン、」
マイケルが部屋を出た。これならば私の身体を見られる事はないだろうが、もしベッドの影にでも隠れて見ていたら……考えすぎよね。
「いいわ、気にしない。……気にしたら私の負けを宣言したに等しいのよ。あんな女には絶対に負けないんだからね、覚えていなさい、ひかる。」
身が軽くなった気分。さて、マイケルの趣味とは……、お粗末すぎる。
「んまぁ、ヶろんぱのパンツ!」
「で、このブラ、サイズ違い。大きすぎよ……、いやこれでいいのよね。」
「今日はお腹いっぱい食べて胸にも脂を充填するのよ!」
「お化粧は……気が利かない男だから許してやるか。ノーメイクでOKよ!」
「スカートは……ベルト付き。これは正解よ!」
「でも高そうな服だわ。」
「うん、出来た。」
私はドアノブをそ~っと回して外を窺う。内開きのドアを細めに開けると人の背中が在るように見える。なんだここに居たのか。
「お待たせマイケル。……じゃないみたい。」
マイケルも立派な服を着て待っていてくれた。私の服と一緒にあのお金で買ったんだね。この男……さいて~い。でもあのお金で助かったのは事実よね。
「お、綺麗になったじゃないか。垢が落とせて良かったな。」
「ハイ!……鬼瓦にも化粧です!」
私は大きな声で返事をした。同時に私の右手を掴む男の手が温かい。いや私の掌が冷たいのだと悟った。お風呂から出てまだ湯冷めはしていないはずなのに掌が冷たい。これは相当緊張しているのだと理解出来た。そう、階段を下りてしまってから気がついたんだよ。
ホテルのロビー観光客でいっぱいだった。さっきと違って何だかまぶしく見える景色に私の緊張の糸が切れた。私はマイケルの手を払って右腕に抱きついた。
私がマイケルに堕ちた瞬間だった。落ちるよりももっと悪い堕ち?
「お、いいね~……良かったな。」
「うん、ありがとうございます。」
「なんだ、小さい声に変えるのか。」
「だって、女の子ですもの、ね?」
「ふん、ガキがいっちょ前に言うか!」
「ガキでもいいわよ、」
「そうだな、何と呼ぼうか……。」
「好きに呼んで下さい。新しい名前、下さい。」
「冗談じゃないよな?」
「はい真剣ですよ。」
「お前、弱いだろう。明日から剣術を教えてやる。どうだ練習してみないか。自分の身くらいは守れるようになりたいだろう。」
「はい、お願いします。」
「ありす……、ありす・城南、でいいか。」
「ありす、あの不思議の国のアリス? ですか?」
「そ~だとも言う。イヤならば次を考える。ホースとかシュバインとかもいいかもな。」
(馬とか豚とか、失礼しちゃう!)
私が別な名前を欲した理由だが、恐らく、ひかるちゃんが私と入れ替わってて私の名前の「亜衣音」を名乗っていると考えたからだ。
この世に白川亜衣音は一人だけでいいのよ、今はひかりに私の名前を預けておくわ。
「はい、ありす、がいいです。私はありす・城南です。妹ですか?」
「嫁だ、気に入っている、お前の事はな。」
「う、嬉しいです。こんな傷だらけの女ですよ? 良いのですか?」
「いいよ、お前を好きになった。それだけだ。」
「うん……。」
私はいとも簡単に落ちてしまった。非常時の出会いは恋に落ちるというのが事実だと思い知った。このマイケルも拾った女の子に恋するなんて変人さん!
「貴方、私にふさわしくありません。」
「お前は俺にふさわしい。そうだろう? ありす。」
「はい!」
私は大きな声で返事をした。そうすることがとても嬉しく思えたのだから。とにかく大きな声で返事した。これ、恋落ちかな……。
この後、小さなレストランでお腹いっぱいに食べるのだから、夜はHも出来ないくらいだった。マイケルは酔いすぎだよ。その後もマイケルは私の身体を求めて来ない。本当にション便臭い娘は嫌いなのだろうか……。それとも身体の傷がイヤなのだろうか……。
憂さ晴らしにホテルの窓から巫女の魔法を放つ。
「エアー・ショット!」
「ガチャ~~ン。」
「あ、いけな~いホテルの看板を落としてしまったわ。」
誰も見てはいない~っと、よかった巫女の魔法は戻っている。
それから数日後に私とマイケルは、以前私が泊まっていたホテルを訪ねた。
「このホテルです。」
車を路駐出来るってなんだかいいな。外国の映画みたいでカッコイイ。車は~おんぼろでかっこ悪いけれどもね。
「一人で行けるな。」
「はい、顔が違いますし大丈夫ですよ。」
フロントに向かって履き慣れない靴を、音を出しながら歩いた。カツカツと。今までは運動靴ばかりだったから、このハイヒールは本当に歩きにくいよ。またこの靴は……チッチャイナ。別の靴を買うとするかなチャイナ製を。
「カツカツ・・・コンコン。」
ハイヒールの踵の音をわざと出して歩いてから、フロントの前に着けば机を叩いてボーイさんを呼ぶ。流石は私だ、カッコイイかしら。呼びベルには気がつかないってまるで田舎人じゃないか。
「あの~、ここに日本人客が滞在しているはずですが、」
「えぇ~と、もう皆さま帰国されてあります。何でも娘さんが遺体で見付かったらしくて、悲痛な面持ちで帰国されたのを覚えております。」
「え?……誰が死んだのでしょうか。」
「そこまでは存じません、すみません。」
「いえ、ありがとうございます。」
マイケルは私の後方に立っているからこの事実はとっくに知っていたんだね。だから私にフロントに行かせたのだと直ぐに理解出来た。
「私、死んだんだ。でも遺体は誰だろう、ひかるちゃんではないよね。」
私は悪夢を思い出してマイケルを見て涙を流す。もし私だったら嫌だよ。
「マイケル、誰が死んだの? 知っているのでしょう?」
「あぁ知っているよ。お前に化けた女だろう、確かに似ていたと思うよ。」
と、二言三言を言ってマイケルは私の右手を掴んで歩き出す。車に戻るのだという。こんな場所でお話をする内容ではない、きっと泣き出す私を隔離したいのかと考えてみる。すたら……泣けないよね、でも車でマイケルに顔を埋めて泣いたんだよ。
「ヒク、ヒク……、」
「もう大丈夫になったか。」
「そうなんだ、ひかる、殺されたのね。」
「多分、身代わりという意味ではないだろう。組織を裏切って何かをしでかした俺と同じさ。」
「ふ~ん、早く教えてくれても良かったのにな。」
「お前が飛び出したら……困る。すたら、この俺が困る。」
(すたら……とは、マイケルの方言らしい。いつの間にかまねをしていた。)
「そっか、すたらその組織を残らず潰してやるわよ。」
「俺はゴメンだぜ、殺されたくはない。」
「私がマイケルを守る。だから手伝って、」
「多分、お前も無理だろう。新たなお前が数人も居たらどうするよ。」
「戦う……かしら。もう私のような悲劇のヒロインは創らせない。」
「で、どうする。」
「うん、ルーマニアのドラキュラさんを訪ねてみます。答えがあるのかもしれませんから。この旅の目的でもあったようです。」
「ドラキュラさん……。あれは俺も嫌いだよ。」
「え?……知っていますの?」
「知らない、聞いただけだよ。ま、暇つぶしに行ってもよかろう。」
「はい、お願いよ。」
マイケルが言うドラキュラさんって、何だろう。自分のそっくりさんがあと二人も存在しているなんて、想像も出来なかった。ひかるは生きて日本で私と入れ替わっている事さえも想像出来なかった。
思いもしなかったよ、私もマイケルも何処に行けばいいのかを知らないのだよ。私はマイケルがドラキュラさんと聞いて、知っている風だったから当然知っているものだと思い込む。マイケルはマイケルで私が行き先を知っているとばかりに勘違いをしていた。ルーマニアに入るまではそれ良かったんだね、ドジのマイケル。
私とマイケルの二人旅が始まる。無口になった処でホテルに着いた。部屋に上がるまで無口で通した。で、訊きたい事を開口一番に、
「ねぇマイケル。マイケルは私の味方だよね?」
「嫁だからな、当然さ。」
「ふ~ん、そうなんだ。バツイチだけれども……いいのかな。」
「十八でバツを受けたとか、早すぎだろう。俺はもっとバツニ、いや三かもしれないぜ?」
「ふ~ん、そうなんだ。でもいいよ、四でもね。」
「おいおい、数を増やさんでくれ。」
「だって私が死んだら、そうなりますよ?」
「お前が増えればいいだけだ。」
「うん、ありがとう。でもマイケルが死んだら私、誰とも結婚はしません。だから増えません。」
「随分とおかしな事を言うな、俺が死ねばお前は自動的にバツ二になるんだぜ。な、分るだろう?」
「いいえ、マイケルは……多分ですが、私よりも長生きするはずです。そう私の巫女の力が教えてくれています。」
「俺がお前をあの世に見送る?……イヤだよ。俺が先に逝きたい。」
「残った方が……寂しいですよね。」
「だろう? 俺は一人、二人と見送ってきた。もうイヤだよ。」
「そうなんだ、私、絶対に死なないからね……。だって三番目の旦那さんが出来て初めてバツ二になるのよ、知らないのね。」
「ねぇマイケル。どうして私に構うのかしら。」
「さぁな…………。」
「バツの一二三四って可笑しいよ。もう私はマイケルのお嫁さんみたいだね。」
「もうなっている。届が出せないがそれでもいいだろう。」
「はい、嬉しいです。」
その夜。それぞれのベッドに寝てからマイケルに訊いてみたが、はぐらかさられる。
「ねぇマイケル。いつから私を追いかけていたのかな。」
「一目惚れだよ、前の姿だがな。早く元に戻っておくれ。」
「それウソよ、絶対に信じないんだからね。」
「それでいい。おやすみ。」




