第165部 決戦前夜……三人の女たち! そして誕生……
1972年5月22日 東京
*)私が……どうしてなの?
「亜衣音が帰って来ません。」
「沙霧……もしかしてかな。」
「あの子が攫われる意味は無いはずです。どうしてかしら直ぐにでも調べて貰います。」
慌てる必要は無いとは思いつつも、もしかして本当の娘だったらと思わずにはいられないような、お母さんと澪お姉さま。
「澪! 直ぐにナースコールを!」
「え~沙霧の方が近いよ、あんたの娘でしょうが。」
「そうだけれども違うと思うのよね……どうしよう、もし本当の娘だとしたら攫われても不思議ではないから。」
「コンコンコン!」
「はい、どうぞ。」
「夕食ですよ、今日はお刺身が……?」
「娘が、娘が帰って来ません。直ぐに探して下さい。」
「まだ……お風呂とか?」
「もうかれこれ一時間は過ぎています。見てきて下さい。」
「はい、ではお食事を食べながら待ってて下さい。きっと夕涼みか最愛の大地くんが来ていて話し込んでいるのですよ。」
「あ、そうだわね、きっとそうよ澪!」
「慌てたのは沙霧の方だからね、……う~ん鯛のお刺身か~美味しそ。」
「違うよヒラメだよこれは韓国からの輸入品だね。だから味はイマイチよ。」
「ブッブー……これはとても美味しいマコガレイのお刺身ですよ。別名があの城下カレイというのですよ。」
「うっ、」
「そ!」
「当たり前ですわ。あんな高級魚は私がすり替えておきますから。メンタイのお刺身です。これはこれでとても美味しいですよ。」
メンタイ、ヒゲダラのお刺身はやはり美味しい魚に分類されている。
大きい個体は……。母のお尻のような? 少し締まりの無い刺身だが最近はとんと見かけなくなっている。
「締まりの無い……ウソです!」
この看護婦、私たちがグ~タラしているので締まらない身体になっているのだと、暗にほのめかしての事だろうか。日々疲れる看護婦さんの娯楽は少ないのだから、患者をいたぶって憂さ晴らしをするのだろう。患者さんへの筋肉注射は好んで我先に行いたいらしい。これを知った私は……、
「オシッコ!」
と、可愛いいなにを摘まわれて用を足す。なに、今からまな板の鯉になるのだから何でも出来るものさ……? 脱線してもうた。
「ビールを一本つけておきました。」
「どうせ中身はお茶でしょうが、それよりも早く娘を呼んできて下さい。澪が食べてしまいますから。」
「うわ~なんで私が亜衣音ちゃんのお刺身を取って食べるのですか、煮付けと交換ですよ。」
「இஇஇ……。」x2
直ぐに警察も動き出して病院中が夜半に掛けて騒がしくなり、警察の見張りというか警護は掻い潜られてしまっていたらしい。
直ぐに家族や私の眷属たちにも招集が掛かり全員が病室に集まり、以後は会議室へと場所が替えられた。
「穣さんは来られないのでしょうか?」
「はいそれが……まだ連絡が付きません。これまでだと真夜中に帰宅される事が多いので明日の朝になろうかと思いますが。」
「明子さん、いつも穣がお世話を掛けていまして。」
「いえ何でもありませんよ。いつもご自由にされてありますから。」
「あ~そうですか、穣さんも自由が出来てよろしいのでしょうね。」
「沙霧くん、それはないだろう。」
「だ~って阿部教授、あんまりですわ。」
明子さんは決して穣さんがノンビリと過ごしていないと弁護はするが、当の奥さまは信用しない。やはり娘の心配が先なのだろう。いや旦那の事なぞ気にも掛けてはいないと表現すべきか。
警察により病院の四方が捜索されたが、真夜中過ぎても手がかりは無いとしか連絡や報告が入らない。このまま捜査は難航した。
「もうお産だと言うのに、亜衣音にとってこれがトラウマにならなければいいのだけれども。」
「そうよね、二人とも攫われてお産は酷い目に遭ったものですよね。」
穣が息せき切って入ってきた。しかし……名前を呼ぶ順番が逆では?
「澪~!」
「沙霧~!」
「ウェ~ン!」x2
「おい、どうして亜衣音が攫われるのだい。」
「穣さん……判りませ……いったいいつも何処にいるのですか! あぁ~た!!」
「いや、親父の手伝いで役所に詰めている。内容は話せんが信じて欲しい。」
「いいですわ事後報告で構いませんが、お産の時は居ますよね?」
「もちろんさ、沙霧~、」
「穣~……。」
「う、う、うん!」
「あ、すみません。恥ずかしい処をお見せしましたわ。」
朝になると学業優先という事で我が眷属たちは大学へ行かされた。全員が徹夜の寝不足だから学校では寝るだけだろうに、ね!?
一方攫われた私の方はと言えばやはり、似合わない白衣の親父殿に文句を言っていた。
「お父さん、どうして私を攫ったのよ。」
「ホ~ッホッホ、なに余興じゃよ。少しはお前が本物の亜衣音だと信じ込ませる為の芝居じゃな。これで少しは本物だと思うはずじゃ。」
「そこまでする必要はありません。今上手に騙しているんですからね、邪魔しないで下さるかしら。」
「いいじゃろて、少しはあいつらも緊張して貰わんと面白くないわい。」
「少しも面白くはありませんが、では、どうやって開放されるのでしょうか?」
「あ~それは~……考えてはおらなんだ。何時帰りたい?」
「私に聞いてどうするのよ。何処か、途次(=道すがら)にでも放置して下さい。さすれば発見されるでしょうから。」
「それはいいのう……衣服は剥いておくかい!」
「ぎゃ変態。いやよ恥ずかしい。腕くらいは注射痕があってもいいわよ。でも歯形は足がつくからダメよ。」
「なして歯形と言うぞな。この出っ歯は見事であろうが、ホ~ッホッホ。」
「気味悪い。さぞかし顔の改造は痛かったでしょうね。」
「いや~これが趣味だから何ともないわ、ホ~ッホッホ。」
「はい、左手。こちらにしてよね。顔は泥でも付けていいわよ。」
「ホ~ッホッホ。それだけではウソもつけまい、」
「ゴチン!」x5
私は五発もの殴打を頭に受けて気絶した。
病院の内部の手引きがあったはずだという認識で捜査は進むが、めぼしい情報も何もありはしない。もう両親と眷属の間ではウソの誘拐事件だと認識され始める頃に、私はコロッと発見された。
「う~……なんでこんなに臭い箱に押し込められなければならないのよ。」
そうです、そうだったんですよ、シーツ等の洗濯を委託するリネンサービスの通い箱に入れられていました。
トラックに載せる時点で異様に重いので覗いて見てみたら、私が猿ぐつわをされて手足も縛られた状態で見つけられたのよね、も~最悪。
「はいお風呂でいきなり殴られて、それからは記憶も何もありません。」
以後、病室の前には二人の婦警さんが常駐となった。頭を冷やしながら食べる夕食は煮物が三人分も在ったのが理解出来なかった。朝食は……配膳無しだよ。
「良かったわね亜衣音ちゃん、」
「はい、とても痛い思いはしましたが無事に助けられて感謝しています。もう攫われるのはゴメンです。」
「なに! 皿割れた……?」
「パキーン!」
「あ、しまった、……驚いてお皿を落としてしまった!」
「இஇஇ……。」x?
病院の食器はメラミンで作られている。落としても割れないのだ。それにスプーンはお年寄りが持つには重たい物は使われない、持てないと言われている。だから最低のランクのスプーンが配膳に載る。お箸は各自のマイお箸。これは事実なのだ。
偶には冷や奴にお醤油の袋が付いてくるが、これが破れないので文句を言って…はいない。黙って残しておいた。
----閑話終了----。
1972年5月24日 東京
*)名前が決まった!
「大地、分ってるわよね!」
「あぁ勿論さ、ヨーグルトは半分残しているよ。それでもな~飲んだ分量を牛乳で薄めたら翌日にはヨーグルトになるって、本当かよ。」
「そうよお手軽でお安いヨーグルトが飲めるのよね、今度からは全部飲んだら買出しに行かせるからね。」
これは病室に備えてある冷蔵庫の中身を争う夫婦間の問答だ。つまらないとは言わないでもらいたいな~。
「喜んで行ってやるよ。それで……今日の大事な用件とはなんだい。」
「えっへん!……お母さん、もう言ってもいいかな。お父さんや徹お兄さんがまだ来ていませんよ。」
「いいわよ先に報告しておけばいいのよ。私たちの事は気にしなくていいからね。」
「はい、……大地、私たちの娘の名前が決まったのよ。どぉ? 驚いた?」
「いいや全然。俺が色々と名前の案を言っても聞かないからな。で、花子か?」
「ブッブー、、、しばくぞ!」
「ははゴメン。で、なに?」
「あ~り~さ。亜利沙と決めたわ。どう綺麗な名前でしょう。」
「今晩の飯はアサリのお味噌汁にするか。チャイナ産は姿を消したから北海道産を買って帰るかな。」
「まぁ~穣さんは大好きよ!」
「バコバッコ~ン!!!」
「大地の意地悪。大地が喜ぶようにと必死で考えたんだからね。」
「う~……ゴメンチャイナ。きっと可愛い子が産まれるって楽しみにしているよ。」
「もう帰るの?」
「だな、買い物に寄るからね。もう弁当のおかずが品切れになったよ。」
「うん、明日も来てくれるよね。」
「弁当が要るなら持ってくる。」
「うん、絶対にだよ。久しぶりに大地の手料理が食べたい!」
「あいよ、任せな。」
大地と入れ替えにお父さんと徹お兄さんがやってきた。もしかして大地は鉢合わせが嫌だったとか……それはないよね。
「藍ちゃんにお願いして産着を持ってきたよ。もう直ぐだよな。」
「はい明日か明後日でしょうか。今度は落ち着いて産めるので二人喜んでいます。澪、力むわよ!」
「はい、沙霧。今年は三人で競争よ!」
「え~私は一人だから楽勝かな。一番は私だからね、お父さん。」
「それは大地くんに言えよ。そう言えばさっきすれ違ったが帰ったのかな。」
「うん御弁当のおかずを買いに行くとか。大地の唯一の存在の証明だから頑張っているのよ。」
「お陰で助かってもいるよ。」
「で、穣さんはいつもどちらへ?」
つい先日にも訊いたのだが穣さんは答えてはくれなかった。だからお母さんはまた口にしたのだろうか。対してお父さんから聞かれる答えは同じだったな。私に秘匿しているのは間違いないようだ。
「あ、そうだったな親父の仕事でね。いつも親父が留守するから今は代理で仕事をしているよ。存外暇すぎて難儀している。それにお産が気になって仕事は……、」
「ぞんざい……なのですね、だから暇だと?」
「う~沙霧さんには敵わないな~。」
「徹さんはお休みが取れたのですね、良かったわ~。」
「大入り袋が手に入らないぞ、良くはないが澪が大事だからね。馬は誰が乗ってでも走るからいいだろう。」
「そ、そんな事では騎士は務まりませんわ。隠居して牧場で働けばいいとも? そうはいきません。瀬戸さんにはお世話にもなれませんよ。」
「ハハハ……仕事は沢山あるから大丈夫だろう。それで入り口に警備が張り付くとは何かあったのかな。」
「えぇ亜衣音ちゃんがね、少しの間行方不明になってね、それで警備が付けられたのよね。」
「亜衣音ちゃんはそれで何処に行ったのさ。」
「え~……ちょう~っとその辺までよ。何でもありませんわ。」
それから与太話のでたらめな話でその場はしのいだ。それにしても一向に子供の名前を挙げない両親たちだった。久しぶりに会えた喜びで忘れてしまったかのようにだよ、何が大人だよ、フン! こんなつまらん大人にはなりたくはないよね。あ~……違う、二日前に会っていたはずよね私が攫われた日にだよ。
「亜衣音ちゃん、もう大地くんには伝えたのかい?」
「え? あ! はい。今日伝えました。」
「どおりで喜んでいただね。ピュンコピョンコして帰っていたもんな、なぁ徹くん。」
「はい、本当に喜んでいましたよ。」
「え~そうなんだ良かった。元気な赤ん坊を産むんだからね。」
「小百合たちのお下がりですまないが、産着を持ってきたからね、亜衣音も使うといい。」
「はい、頼りない夫ですみません。」
「亜衣音ちゃん、男は得てして不器用で頼りないものよ。ね~徹さん。」
「じゃかましい、何時、俺がヘマしたんだい。」
「だって何も持って来ていない、でしょう?」
「まだ家に帰っていない、無理言うな……。」
「あ、ごめんなさい。でね、名前がね……。」
都合が悪くなってさそくさと話題を変える澪お姉さんは、本当に活き活きとしているよね。
産まれ来る子供の名前が披露された。私が「亜利沙」 母が「霧香と霧」で、澪お姉さんが「心心と望」私としては亜利沙だけれどもね、心心という名前が一番ステキだと思った。両親は霧お婆ちゃんから一文字を貰ったと考えられるからどんな意味があるのか聞きたいな。
*)う~産まれる?
翌日にはしっかりと産着に名前が書かれていた。まだ早いのにね。
「うっ、陣痛……。」
「え? 私もよ。澪はどうかしら。」
「う~産まれる~……。」
病院に特別配備のお巡りさんが増えている。何だか看護婦さんの数も増えたような気もしてきたな。
「ねぇお母さん。もしかしたら三人並んで産むのかな。」
「そうでしょうね、だって先生は一人ですのも。」
「え~やだな。取り違えが起きたら大変だよ。」
お母さんは澪お姉さんに向かってね、
「いいじゃないのよ。産まれたら、ま~たなりすましなのでしょう? 澪は。」
「もうしません。私にも見分けがつかなくなりました。」
「えぇ……ホントよね~!」x2
夜中から陣痛とはこれでは我が子の誕生が日の出時刻なりそうだわ。大地は寝ないで付き添って……くれないよね?
お産の直前になれば妊婦さんは産まれると判断出来るという。男には分らない性の事だよね。
私だけが難産で……五番目に産まれてしまった。母や澪お姉さんは二度目だし、それにまだ若いし気力も充実していたのよね、きっとそうだよね、大地。
「は~い、とても元気な女の子ですよ~!」x4
双子の家系には双子が産まれるそうだ。女系もそうらしいね、どうしてかしら。
「今度は貴女の番よ、ほら頑張って!」
苦しいのを我慢しているのにさらに頑張れとは無責任極まりない、もう又が裂けそうよ。う~痛くて……恥ずかしいという乙女の心は何処のゴミ箱に入っているのやら。後で大地に探させようかしら。
「頭が出た、吸引の準備は出来ているか。」
「はい、とっくに出来ます。」
「よし!……きゅ~ぅ~イン……!」
この先生も私で遊んでいるのか、でもこれで保険が使えるから費用がお安くなるってもんよ。それに引き換え安産だった母ら姉妹は、普通分娩で出産費用は三十万は請求されるだろう。一人産んで二十万らしいから、もう一人追加でその半分の十万円は加算されるでしょうね。
私の夫は無職の学生だから三万六千円位で済む計算の出産費用だよ。これならば大地のバイト代でどうにか出来るはずよ。でも現実には一つの家庭の合計が十万を超えればだったかな、今はいいのよね。だけど未来は悲惨らしいよ? 一つの病気ででも、入院と通院の二つに分けるのだとか。これでは月に七万や八万円もの支出では高額医療費には該当しない。月初めを選んで入院しないとね、これも入院が二ヵ月に跨がれば高額医療費には該当しないのよね。あ、未来日記で読んだんだから間違いないよ。
だからという訳で私は年末に直ぐに入院出来ますと言われながらも、年明けの五日に再受診して月がまたぐのを頑なに阻止した。事実です、とても落ち着かないお正月を家で過ごしていました、紅茶にお砂糖を入れてがぶ飲みしてました。これが功を奏したのか、急転直下……入院は回避、回復へと向かいます。先生は、
「どうしたら急に良くなったんですか!」
「はい、紅茶を飲んでいました。」
「う~んどうしたらこうも良くなったのでしょうな、これでは入院は不要です。」
と、ドクターに言って貰えた。やったね!
「紅茶を砂糖入れてがぶ飲みしました。」と言った。紅茶が良かったのか砂糖が良かったのかは不明。誰が好んで頭に穴を開けるものか、既に開けているから不要なのだが。最悪の再手術はこうやって回避された。閑話終了!
「亜衣音さん、もう少しですよ、ほら力んで!」
「おんぎゃ~おんぎゃ~……。」
「おめでとうござ~ます、大きな女の子ですよ。」
三千六百グラム……難産になる訳だ。これならば母の子供と間違える事が無いよね、大地。
「ほら、亜衣音ちゃん、」
「うん、しわくちゃで可愛い!」
亜利沙は白い布にくるまれて直ぐ私の顔の前に寝かされた。私は横向きになりたかったが、次の胎盤の排出でそれが出来なかった。
直ぐにへその緒を切るのだが、赤ん坊は痛くはないのだろうか……疑問だよ。
生命の神秘が……今、体験できた。十五キロ増えた体重が一気に元には戻らないのだとも実感出来て少し恐怖を抱いた。この事実を大地に話したらいとも簡単にバカにされて笑われるのよね。増えた十五キロから子供の体重を引いてみると残りは、十キログラムとなるのだが、……考えるだけで恐ろしい。
「鼻の頭に白いツブツブがあるのだな。鼻ぺっちゃんは亜衣音に似たんだ。」
亜利沙は産湯が済んで気持ち良さそうに寝ている。私は全身汗の臭いがしているのだと気が気では無い。そこは鈍感な大地で良かったよね!
この子が私のお腹にいて、時々内蔵を蹴飛ばしていたとは思えない。黄疸が酷いからと直ぐに母娘を引き裂く看護婦さんは、
「入院ですのよ、」
「こら! 薄情者!?」
「ダメです、暫くは別居してもらいます。」
産まれた赤ん坊には特大の蒙古斑が出ていたという。これは後で確認は出来るのだが、私の元に帰ってきた亜利沙のお尻には無かった。確認が出来なかったのだ。直ぐに消えたのも気になるかな。
アジアに多いのよね、これもあのジンギス・カンの遺伝が残っているのよ、きっとそうだわ。蒼きオオカミの末裔……なのかな。
外国で日本人が出産したら、この蒙古斑が体罰だの苛めの痕だのと騒がれているらしいのよね。取上げた時にはもう青アザは出来ていたはずよね? なぜに気づかないのかね~。主に西のヨーロッパ圏だね、そちらまでの侵攻が無かったからだよ。西ヨーロッパ圏にはね……。
そんなこんなじゃれごとを考えながら過ごすしかない病室。一方、亜利沙は珍獣扱いにされていたという。鬼の知らない間に我が眷属たちが見学……そうよこれは檻に入っている動物を見るのと同じだわ。
特別室に寝かされる亜利沙と妹たちは、見学用? の窓から覗かれている。五人もの新生巫女たち……不憫だわ! 我が眷属たちは雁首を並べて食い入るようにして見ていたらしいのよね。
「どの子が亜衣音ちゃんの子よ。」
「右端でしょう? 似ているもの。」
「私……五人とも同じ顔にしか見えないのだけれども、藍ちゃんには区別が出来るのが不思議よ。」
「えへへ……私には出来るのよ。」
何の事はない、ただ単に自分が父親たちに渡した産着を見て判断している。こうなるともう……お屋敷のベテラン女中さんだね!?
「右横の二人が妹ね、名前はまだ聞いていないからね。左の二人が澪霧さんの子供だよ。」
「へ~そうなん……。」
お乳の時間になれば退院してくる我が娘は、目が見えないので口の感触で乳首を探している。もうお腹が空けば必死になって探し出す。この感じは母親だけの大切なもの、男には永遠に分らないものよ。
で、授乳の時間に合わせて皆が病室に集まるのよ、もううるさくてお母さん姉妹にはどれだけ迷惑を掛ければいいのかな。
産まれた五人には巫女の力は宿ってはいなかった。それで私に対して家族は、
「亜衣音ちゃん、巫女の力なんて直ぐには分らないのだし、無いなら無い方がどれだけ幸せなのかが理解出来るでしょう?」
「はいそうだと思います。でも亜利沙には巫女の神がかりはないのは良いことでしょうか判りません。」
「当たり前です。亜衣音が産まれた時は何も無かったわよ、ね~澪。」
「そうだね、二歳過ぎからだったわよ。」
これはウソなのだが、この偽亜衣音にしてみればどのように判断したらいいのかなんて考えられない。実際には巫女vs人造人狼との戦いで魔法を使っている。
この事実は誰からも聞かされてはいないのだから、これは私の芝居も……終わったのかな。勿論、亜衣音が魔法を使っていたのはみんなが知っている事実。
私は遠回しに嵌められているのだわ。これからどうしたらいいのかな、また出っ歯の父がどうにかするのかな。
事実は産まれて直ぐに採血されていたらしい。私にははっきりとした巫女の因子が遺伝していないとか、出っ歯が言うのよね、出っ歯が!
それで以前採取されていた亜衣音オリジナルの血液を注入して様子見。それでも変化は出ないので他の四人から採血して注入……。
私自体が長い年月を掛けて輸血されて改造されたようなもの。だったら亜利沙も長い年月を費やす事になるのだろうか。
眠れない夜になった。お母さん姉妹は寝ているというのに、亜衣音オリジナルの亡霊が出て来て何やら叫んでいたようだった。
「う~聞こえない~……早く地獄に帰れ……。」
これって丁度ギリシアで亜衣音オリジナルに、妖精さんが悪戯をしていた時期と重なる。それが退院するまで極僅かな時間ながらも毎日続いていた。
……眠れない。
亜利沙が五人の中で最後に退院して私の手元で過ごすようになった。眠れないのは産後の子宮収縮により私は眠れないのだと、お母さんにはいい訳をしておいた。これは事実でもある、痛いのよね~。
すやすやと眠るお母さんが羨ましくて、そ~っと鼻を摘まんでみたのだけれども面白くもなかったな。
「亜利沙、退院したら何処か遠くへ行こうね!」
私が自由に動けるまでは一ヶ月を待たなくてはならない。それから徐々に運動量を増やして身体を慣らす必要があるのだとか。子供だって直ぐには動かせないのは当然だろう。産まれたら亜利沙を北海道の麻美さんに預けると言っていたのだけれども、もう可愛いから出来ない。
「これからどうしよう、亜利沙を産んだのが悪かったかな。眠れない……。」
新しい家族の名前だよ!
白川 亜利沙
白川 霧香 霧
黒川 心々 望
です!
1972年6月26日が五人の誕生日。
1972年8月9日がディスマスとリサの誕生日。




