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人狼と少女 垣根の上を翔ぶ女 亜依音  作者: 冬忍 金銀花
第十二章 ニセ亜衣音事件

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第163部 阿部元教授の訪問……


 1972年5月20日 東京



*)無計画なお産……おっさんの闖入者?


 それから私と母が臨月を迎えた。それにもう一人も臨月だという澪お姉さまだ。三人とも五月の下旬が出産日だと言う事で、これはこれでおめでたいと言うべきか悲惨な家庭と言うべきか。


 ホロお婆さま、桜子お婆さま、明子さん、お父さんが家庭を守る事になるのよね。これってどうなるのかな。可愛いチビが六人もいるのよね。はいはいしてどこかに脱走する、二階への階段をよじ登る、庭には落ちる、玄関にも落ちるわで大変だよね。


 実家のお婆ちゃん、智治お爺ちゃん、それにカムイコロさんをギリシアに行かせたからこの三人は居ない。それに徹さんは競馬で外遊中ときた、地方出張で留守だ。


 で、お産で入院は、私と母に澪お姉さまの三人だよ。面倒だから三人揃って産むと決まったらしいのよね。



 我が眷属の娘たちは大学だから日中はあてに出来ない。だから授業をサボってお手伝いしますから、という申し出もお断りとなった。だから夜だけは子供たちの世話にと、大地、藍、海斗、夕霧、碧、翠の六人が揃って集まる。一人に一人という配分はいいとしても、いったい誰が夕食や翌日の朝や昼の食事の分まで用意するのか、学校のお弁当だって……これは大地が一人で請け負う。


 対する敵陣は、泉美いずみ水琴みこと小百合さゆり水脈みお綾香あやか彩香さやかの六人だ。そうそうたるメンバーだよね。子供の設定を多すぎたと嘆いても遅いよ。


 休日には美保、未来の二人が手伝いに来てくれる。序でのお見舞いもね。豪華なキャストが揃った処でストーリーを考える、分らん、いっちょん浮かばん。



「遅れてすまなんだ、今赴任してきた……が……忙しいのか?」

「おじさんは誰?」

「君が亜衣音くんだね、阿部だよ。」

「知りません……が?」

「おいおい、俺の事は聞いているよな。他に娘は居ないはずよな。」

「いえ……家の人に聞いてきます、お待ち下さい。」


 夕霧だ。この夕霧さんは人見知りはあるが温和なはず。だが見知らぬ人には少しも優しくはな~い!


 夕霧さんは桜子お婆さまを探しに奥の家に行く、だから時間も掛かる。この間にもう一人の娘が玄関に入ってきた。


「只今~……? いらっしゃいませ、御用は?」

「君が亜衣音くんかな、」

「いえ、藍と言いますが、亜衣音ちゃんは今入院していて留守ですよ。」

「もう入院したのか。夏くらいだと聞いたと思うが。で、さっき娘さんに会ったんだが、君たちは誰かな。」


 私のお産が近いのを知っているならば、娘たちの腹を見れば判別が出来るだろうに、年食ってもなおもこんなにドジだとは思いませんでした。多分、若い娘が出入りしているから思考が乱れたものだろうか。



「おじさんこそ誰でしょうか……?……あ、あの北海道の阿部先生!」

「そうだ遅れて赴任してきた。今日は挨拶に寄ったが留守かな。」

「はい、ここのお母さんもお産で入院されてあります。今は桜子お婆さまがメインで活躍されてありますね。」

「桜ちゃんが、か! それは頼もしい。あれは家事が有能だから安心だろう。」

「いえ、それがですねお子さんが六人も居りまして、今では私たちもお手伝いに来ている始末ですよ。本当にてんてこ舞いしております。」


「六人も? 俺は聞いてはいないが、なんでそんなに多いのかい。」

「はい沙霧さんと澪霧さん、それに明子さんが揃って双子なものでして、」

「うわ~桜ちゃんも双子だったが、娘らも双子か~そりゃ難儀するかな。あ、あ明子さんって、あの麻美の娘か。」

「はい、そうですね、あ、桜子お婆さまです。」


 ここで女妖怪が参上する。


「あらあらすみません、お出迎えもしませんで……誰?」

「いや、阿部だが顔も忘れたのか。」

「いえ、覚えてもいますが……その、当時のままのようでしたから、てっきり他人かと思いました。」

「さくらちゃん、それはあんまりだろう。俺が歳を取らないのが悪いかもしれないがな。その所為で気持ち悪く思われるから退職してさ退屈していたんだよ。ここに呼ばれて嬉しいよ。」

「沙霧とは会っていましたよね、」

「いや穣くんだけだな。身重と聞いたいたから札幌まで来なかったと思っていたがな。」

「お婆さま、上がって頂きましょうよ立ち話では失礼です。」

「あ、そうね、藍ちゃん、お座敷に案内をお願いね。」

「あ~大地くんは病院経由だそうですよ。」

「はい、買い物もしてきますから。」

「え、分りました。」


 お座敷の襖は修理されずに穴が空いている。恥ずかしげも無くここに通されるという事はそういう事だろうと推測される。そこには紛れもなく見分ける事が出来ない六つ子が遊んでいた。そこには明子さんが手を焼いている姿が? あった。


「お、ここは何時から保育園になったんだい。久しぶりだね、明子くん。」

「ま~教授、お久しぶりです。お元気そうでなによりです。」

「あぁ気分がふさいでいたからさ、呼ばれて生き返ったよ。」

「でも時期にこの家も地獄になりますわ。あと五人もの赤ちゃんが増えるのですからね、戦々恐々……もうお嫁にも行けません。」

「あ~あの男ね、もう忘れただろう。次は居ないのか残念だよね。」

「そうでもありませんわ、智治さんがいらっしゃいますから、帰国されたら赤ん坊を頂きたいです。ウフフフ……。」


「バカ言うな、智治に会えなくて残念だよ。」


 この智治と阿部元教授は大学の師弟の関係にあたる、オカ研の方の師弟だ。マスコットが霧ちゃんで、桜子お婆さまはお邪魔虫だったとか。麻美お義母さんもオカ研に通っていたが何が目的だったかは、本人が固く口を閉ざしている。



 阿部寛……霧お婆ちゃんの育ての親だ。その霧お婆ちゃんから産まれたのが沙霧お母さんと澪霧お姉さまの二人は謂わば孫に当る。その二人の孫は桜子さんと智治さんが結婚したので杉田家の子供になった。とは少し変な紹介だけれども。


 あれからは大変な事件が連続だったから、阿部教授も歳をとる暇が無かったらしいのよね、あり得ない位に若く見えるのだから。


 面食らう元教授と妖怪ババァの口汚いやり取りが笑える。


「教授、どうです、私の孫たちですよ。」

「さくらちゃんも元気で子供を産むとか、凄いな。」

「孫だと言いました。名前を、明子さんには申し訳なかったのですが、綾香と彩香とつけさせて頂きました。」

「おいおい、麻美くんは了承したのかい。俺は詳しくは聞かない主義でな。」

「だったら聞かないでください、その主義で……。」

「そうするか、色々と訊きたい事があるのだが、いいかな。」

「嫌ですよ、訊かない約束ですから。」

「そんな約束はした覚えがないが、いつ何処で何時何分にしたかな。」


「はいお茶です。飲んで落ち着いて下さい。外は暑かったでしょう?」

「東京だからな、向こうは涼しくて良かったよ。」


 藍ちゃんが持ってきたお茶を、さも自分が用意したようにして阿部元教授に差し出すあたり……流石だと思わされたと報告してくれた藍ちゃん。


 藍ちゃんの耳は桜子お婆さまと阿部元教授の会話を漏らさず録音していて、眼と手は子供たちの相手をするという、なんとも素晴らしいスーパーガールだ。


 ここで六つ子たちがはいはいして阿部教授に近づいて行く。


「うっきゃ~……。」

「おう可愛いな、誰の子かな。」

「明子さん、誰でしょうか。」

「小百合ちゃんですよ。六人がチョロチョロしたら直ぐに名前も呼べません。これが凄く難しくて、何か咄嗟の時が判断を鈍らせてくれるから困っています。」

「それは大変だ、怪我した時は誰に報告したらいいのか判断が出来ない。これならば前と後ろに大きな名札が必要だな。」

「はい、正しくそうなんですよね。でも怪我はないのですが……泣き止む事が無い時もありますしね。」


「教授、二階の部屋が丁度空いておりますよ?」

「……いや、俺は寮に入る。その方が落ち着きそうだよ。」


「桜子お婆さま……是非に!」

「う~~~捕まえておきます。もう逃がしません。荷物はこの家に転送をメールでお願いしておきました。」

「黒猫メール……?」


 こうやって一人の老人が犠牲になった。外見からの歳を考えたらそうねまだ五十歳位に若く見える。これが十年も続けば世間では不可思議・不老、妖怪だと噂されるのは間違いない。この家では普通なのだからってこの家も不可思議のイレギュラーだよね。


 子供が全員成長して学校へ行けば帰宅は……、


「ただいま11人」だよね。いやいや、お父さんらも含めると何人になるのよ、も~こうなると受け入れる学校は大変だろうな。


 ただいま11人の……再来?




*)桜子お婆さまと教授


 1971年1月28日~31日開催のさっぽろ雪祭りが当然議題にあがる。この雪祭りを利用して阿部家にも訪問する予定であったらしい。私たちは高校授業の一環だからホテルに待機する予定だったのよね。


「さくらちゃん、あの時は会えるのを楽しみにしていたんだがな、ドタキャンを急に言ってきてどうしたんだい。」

「あ、あれですか、亜衣音がお腹を壊したのですよ、バカだから雪にゼンザイを掛けて餡蜜にして食べましたから。」

「おいおいそれはないだろう。あの子はそこまで雪は好きではなかったと思うがな。さ、言いたまえ。」

「阿部……教授、それは本当みたいですよ、私も聞いたのですから。それで散々バカにしてなじったのですから。でもお腹は……、」

「私も聞きましたわ、バカじゃろかと思いました。」

「こら! 藍ちゃん夕霧さん……余計です。」

「あ、すみません、つい余計な口を出しました。」x2


 証人を得たり……にたりとする阿部教授なのだな。これをすぐさま察知出来る超能力保持者が桜子お婆さまだな、直ぐに防衛戦が張られた。


「大地くん……まだかな~、」

「ぬるい! それで本当は何ですか、それにアメリカにも大勢で行かれた噂を耳にしましたが?」

「あ、それはですね、う~~~もう若くはありません、脱毛老タヌキには敵いませんですわ。何からお話しましょうか。」

「私たちは家事のお手伝いに行きます。お風呂を先に……用意しますね……桜子お婆さま!」


 桜子お婆さまが冷や汗ものだと判断した夕霧、そうやって暗に応援を送るのかしら。しかし夕霧さんは直ぐに呼び戻されてしまい明子さんと交代だそうだ。


 それは二人だけの宴会をさせるからだとか。私の家には無尽蔵にお酒が在るように思えてきたよ、藍ちゃん。


 藍ちゃんは二人の口がまめるようにと、直ぐにお銚子とおつまみを出したそうだ、ナイスだね藍!


 明子さんと藍ちゃんの会話だよ。


「こんな時にホロお婆さまがいらしたら便利なんだけれどもね。」

「そうですね、私は付き合いが短いので何とも言えないですが、ホロお婆さまは聡明で皆さんの潤滑油のようなお方だと思います。」

「そ、そうなのよね、本人はボケた振りをしてガードしているし、ここぞという時には本領発揮して皆を助けるのですよ。」


「もう病院から帰宅されますよ、それまで六つ子は夕霧さんに任せましょう?」


 夕霧さんは六つ子の相手で手を焼いている。動き回れるのが嬉しい年頃なのだからしょうがないと言えばそれまでだ。口に入れられる物は全て排除、だから今では夕霧さんのスカートを口にする子が居たりする。


 で、出される料理は大きなテーブルの中央に纏めて置いてある。ここならばやんちゃにも手が届かない。だが、喚いて口で寄越せとうるさい。



 藍は小鉢や煮物をささっと用意して明子さんはシシャモとさきイカを焼く。これらは家での名物料理にまで? 昇華している、主に大地の所為でだよね。


「パパンと叩いて時間掛けずにお酢掛けて!」


 ラッキョウ酢を適当に切ったお野菜に掛けるだけだという藍の手抜き料理だ。真っ赤な唐辛子は忘れずに添加している。パンパンと叩くのは野菜を柔らかくする為だとか、私なんかはそのまま出せばいいのにと常々そう思う。



「これならば六つ子が食べても安心だね。」

「どうしてよ、こんな酸っぱいものを口に入れたら……もう手出しは無しか!」

「はい!」


「唐辛子はね、食べ過ぎると酒飲みは死ぬから適量に入れるのよ。」

「うそ、……唐辛子殺人事件は勘弁してね。」

「酔いが早く回るから必定品だよ?」


 そういった会話が思い出された。あ、これは翌日の藍からの報告でだよ。だったらうどんに七味はどういう意味かしら。


 藍の作戦は功を奏した。お酒が潤滑油だなんてウソとばかり信じていたのにな。それで桜子お婆さまの口が滑る滑るわで、教授が酒を口に運ばずに胸やズボンを濡らす。こんなにお酒臭い部屋からは子供たちもすぐさま避難させられるのは何時もの風景だよね。今は季節がいいので障子は全開、爽やかな風が……吹かない、だって夕方になったもんね。


 私から逃げるような感じで病院から帰宅した二人、大地とホロお婆さまが教授と再会する。あ、大地はどうだろうか初めてではなかったかな。奇々怪々な二人が顔を会わせるあたり顔が強ばっていたそうだ。


「ありゃ~ひろし……よく来たね。」

「久しぶりですねホロさん。もう何年ぶりかと言う質問は無しですよ。」

「当たり前じゃ、ワシにも分らん。この子が亜衣音の夫じゃが……多分初めてじゃろかな。」

「はい写真でしか見かけてはおりません。……初めまして大地くん。」

「あ、はい、亜衣音の夫の大地です。」

「大地くん先ほどから去年のさっぽろ雪祭りの事件を聞かせてもらったが、あれは 悲惨だったね。お悔やみいたします。」

「いえ、取り敢えずは生きていますから。」

「冴えない返事だね。俺には何の説明も無くて再会を楽しみにしていたというのにさ、直前にドタキャンされてしまったよ。」


 この阿部教授はさっぽろ雪祭りの事件はニュースで知っているはず。なのに詳しく聞きたいのは何でだろう。残念ながら私が同席出来ないのは不運だと言えるかな。


「はいそうらしいですね。僕だって知りませんでしたし、それに僕は死んだも同然で鬼籍に入れられていたとか、もうあり得ませんよ。」

「ははは……そうらしいね、おっと笑ってすまない。ここの家庭はそういう不可思議な事件が多くてな、俺だって困惑しているよ。」


「何を抜かすかこの張本人めが!……あらやだ!」


 事の始まりがこの阿部教授の洋行が原因だと言えるあたり、本人も多少は気にしていてもよさそうなのだが、桜子お婆さまが下卑た批難を口走っても一向に気にしてはいないようだ。あ、これも藍からの情報だよ。


「どの口がそう言うのかな、君たちだって関係者だったんだからね。」

「教授の意地悪です! それに馬面うまづら教授も今にして見れば一番の諸悪の根源だったりしますから。」


 馬面うまづら教授とは麻美お義母さんをロシアから連れて来た、あの三浦教授の事だ。そう言えば阿部元教授には奥さまが戻られたとか、やや太ったのでしょうか? と桜子お婆さまが口に出すあたり、しあわせ太りで若返ったのかとも思えてきた。



「あ、そうそう、霧ちゃんのお墓参りには来ないのかな。」

「はい、色々と事情がありまして家から出られないと言うのが実情ですよ。霧ちゃんも生きておれば良かったのにな~……。」


 阿部教授は霧の話題を出して後悔したらしい。二人とも少ししょげた感じを受けたと藍ちゃんが言っていたな。


 私の出産予定日が5月の28日になっている。大体がどうやって決めるのかが私には分らないのよね、あと一週間も入院を我慢しなければならない。事件は起きないのにね、と、そんな事は言えないのがもどかしいわね。母娘で、しかも澪お姉さまを入れて三人が相部屋とは私の試練は入院と共に始まっているのよね。


 ボロを出さない様に頑張ります。


 そんな女が三人で集まって話す議題は、


「お母さん、子供の名前ですがどうしてらいいでしょうか。」

「大丈夫ですよ、きっと素晴らしい名前が降ってきますから!」

「そうよ亜衣音ちゃん、家宝は寝て待ちましょう。」

「澪お姉さま、果報……じゃなかったかしら!」

「ギャバ!」



「大地くんすまなかったね。話題が逸れてしまったよ。」

「いいですよそのまま逸れてくれたら良かったんですが。今からでも間に合いますよ。」

「随分な皮肉だね。それで大学はどうだい。」

「それが亜衣音の世話で大変ですよ。えっと、話題を変えましょうか。」

「そうだね、農学部だったよな、で、どうだい。」

「இஇஇ……。」


「教授、お酒が過ぎましたかね?」

ひろし、今度は俺が相手になるから……こら大地、台所でご飯食べておいで。」

「あ、はい、お婆ちゃん。あとお願いします。」


 桜子お婆さまとホロお婆さまが大地を助けてくれたと、夕霧さんから聞いたよ。大地は何も言わないのだからね、少し怒ったら翌日と翌々日は見舞いに来てくれないんだからね、べ~だ。


 藍ちゃんの作戦が成功したのか、酔い潰れた妖怪の三人だった。これで少しは平和が訪れるものかな。


「うっきゃきゃ、きゃ~~!!」x6


 もういい、次に行けってか!


 そんな訳で、新たに5人分の名前を考える事になった。こんなに子供を増やして

しまったら、家庭破綻・小説崩壊に繋がりそうだよね。もう独身女性が多く誕生し

てくる時代だから、ぜ~んぶ……独身女性にしましょう。

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